第1章:ルーキー、躍動。
2章:支柱、砕けて。
・1節
meshiochislashという著者娘は、とにかく量を書き投稿する。同期のstengan娘などには流石に及ばないが、速筆即投稿が彼女の強みの一つだった。
けれど。いや、だからこそというべきか。たまにこういうことも起こる。
「そぉい!」
著者学の隅、低評価作品が貼られる「嘆きの壁」に併設された焼却炉。そこに思いっきり記事をぶん投げているのは、自らの担当著者娘。
その姿は一見元気そうに見えるが、ルーキーコンテスト以降少し空回りしている印象も受ける。
A.大丈夫か?
B.無理してないか?
「へ?」
思わず、そう声をかけてしまった。meshi娘はこちらを振り返って、困惑する。
「ああ……いや、大丈夫大丈夫、私はいつも通りだよ」
……一人称がブレている。やはり不安だ。
A.ちゃんと寝れてるか?
「いや?寝る必要を感じてなくてさー。なんか、ね。寝れないんじゃなくて寝る必要がないっていうか?」
流石に、わかる。それは明らかな強がりだった。そして俺の目線でそのことに気がついたのだろう。meshi娘はため息をついて、床に寄りかかる。
「実際、今のままじゃ勝てないなら休んでる暇ないし、もっと書かないと」
A.焦ってない?
「そりゃ焦るよ!」
壁を左手で殴りつけて、叫ぶ。
「あんだけ見栄張って、入賞も出来なかったんだよ!?編集者にも、誰にも、申し訳が立たないよ」
どういうことか、と聞く。meshi娘は呆れた目を向けてくる。
「おれ、最初に言ったよね。『最強の著者娘』だって。それに賭けてくれた君に、申し訳ないじゃんか……」
黙る自分に、meshi娘は言葉を続ける。
「5位だって実績だっていう人もいる。でもそんなの嘘だ。デスコンの5位を言える人がどれだけいる?3000コンは?掌編は?」
「── 表彰台以降の順位に価値なんてねえよ。それより先は、サクッと忘れられて消えていく」
……相当、気に病んでいたらしい。でも、いや、だからこそ。今かけるべき言葉は。きっと慰めではない。
A.じゃあその思いの丈を書けばいい
「……へ?」
A.meshiochislashはそれができる著者娘だ
唖然、といった感じだった。そんなに長い付き合いでもないが、彼女の目が何を言っているのかはわかった。
『まだ、信じてるってことでいいんだよね?』
『もちろん』
「……編集者には敵わないな」
ニヤ、とmeshi娘は笑った。そして、彼女は焼却炉に背を向ける。向かう先はきっと自室だ。
「いいよ、やってみる。ただ……責任は、そっちがとってね」
彼女はその時、個人コンテストが掲載される掲示板を見ていた。
・2節
そうして、この作品は投稿されたのだ。自分ごと貫く剥き身のナイフ、平等にぶっ殺すコン参加作、『SCP-7308-1』は。
当然というかなんというか、評価は芳しくなかった。meshi娘の思想をある種ただ押し付けるようなそれは、面白さという面で欠けていたかもしれない。
でも、多分。吐き出したことに意味があったのだろう。そう思って、meshi娘の部屋の扉を開く。
「あ、やっほー編集者。ちょっと手貸してくんねえ?個人ジャムコンやるから」
……流石にいきなり回復しすぎではなかろうか。吹っ切れて本来のペースを取り戻したらしいmeshi娘に、どういうことかと質問する。
「いやね、3日後に筐体造りが64日だから、記念に個人コンやろうと思って」
64日。筐体造りというカノンでは終わりを意味する日にちだ。なるほど悪くない。手伝うよ、と渡されたmeshi娘の下書きの査読を始める……ことは出来なかった。まだ書き終えていなかったので、ブレスト段階からじっくりやった。
しかし、72時間とは早いもので。あたふたと運営準備をしているうちにあっという間に締め切りが迫る。
「やべえ間に合うかなこrよし間に合った!」
タァン、と叩かれるエンターキー。がっちゃがっちゃと豪快に動くマウス。がむしゃらに、ひたむきに書き連ね、投稿した。
そう、他人の投稿作を見る余裕もなく──
・3節
meshiochislash主催個人コンテスト「COUNTOVERコンテスト」は、ある一人の著者娘が圧倒的大差をつけ、優勝した。
それは「ルーキーコンテスト」で暴れたばかりの怪物。まさかの筐体造りハブページパロディで、元のハブページを抜き去る大技、裏技。
著者娘の名はstengan774、作品の名は「シチュー造り ハブ」。
さて、そんな作品に完敗を喫したmeshi娘は……笑っていた。
「やー、さすがすてさん。めちゃくちゃ面白いわ」
ここまでやられるといっそ清々しいと、敗者はそう笑っていた。
「でも──」
A.次は勝とう?
B.次は勝てる?
「わかってんじゃん」
取り急ぎ、また彼女と戦える個人コンテストを探しにいくことに。掲示板まで、今回の改善点を話しながら歩く。
「stengan774娘の新作見た?」
「シチュー?見た見た、すごかったよね」
廊下はそんな話で持ちきりで、いつも通り、いやいつも以上に騒がしかった。
……だから。
「もう『筐体造り』もすて娘のものでいいんじゃないの?」
「同感。というかこのカノンシチューで初めて知ったし」
そんな声も、騒音に紛れて聞こえない。他人の立ち話を聞き流すのが趣味の、変わった著者娘でもなければ。
編集者は、彼女が立ち止まった理由に気が付けない。meshi娘はまたすぐに歩き出して、いつものように書き始めるから。
数日後に開かれた『無差別スシブレードコンテスト』で、またしてもstengan娘に負けた時も、彼女は少し立ち止まるだけで、また書き始めるから。
──支柱が折れて、立っていられないだけだと。彼女自身含め、この時は誰も気が付けない。
第三章:嘘吐き、散るへ続く。
