第一回:980字文体シャッフル
テーマ: 1998年カノン!
企画主旨: 1998年カノンをテーマとする文体を書いて頂きます!面白いカノンなので、98に関心がある人もない人も是非挑戦してみてください!
Q:1998年カノンって何?
A: カノン「1998年」は、その名に冠する1998年に発生したヴェール崩壊をきっかけに、変貌していく世界を描く作品群です。記事の読み方などはハブ上部の「新しい読者さんですね!ニュービーガイドはここをクリック!」や私の書いたエッセイもどき(http://pseudo-scp-jp.wikidot.com/sorede-kekkyoku-98tte-nani-yomeba-iinndesuka)を見て頂ければと思います!また、もし「こういうことを書いてみたいんだけど、これに関する記事ある?」のようなことを私(santou)のTwitterのDMに送って頂ければ答えられる範囲でお答えします。
投稿期間: 公開されてから ~ 7月24日21時59分
予想期間: 7月24日に作品が公開されてから ~ 7月30日21時59分
参加方法: 以下のグーグルフォームに必要事項を入力して送信してください
受付は終了しました。
レギュレーション: ①980文字以内 ②今まで世に出していない ③1作まで ④短歌でない ⑤社会性がある ⑥AI作でない ⑦読解可能な文章である ⑧過去SCP財団に一作以上taleを投稿しているor単著が3作以上ある
※ レギュレーション違反の作品は公開されないか、公開後に気づいた場合は非公開になります。事前連絡は基本できません。暴れるときは空気を読んで自分の責任で!
注意: 作品は提出頂いた時点でCC BY-SA 3.0ライセンスを適用することに同意していると見なします。
主催からのお願い: 1998年カノンはその性質上複雑怪奇なものなので、設定に齟齬が生じている作品が提出されると思います。しかし、批評も受けていないために仕方のないことなので、過度に設定の齟齬について言及することは控えて頂けると嬉しいです。
Q and A
Q.文体シャッフルって?
A.みんなで匿名で文書いて、それを誰が書いたか当てる企画です!だから何書いたかいうなよ!
Q.過去作は?
A.下記リンクから文体シャッフルハブに飛べます!
Q.構文は?
A.by ukwhatn。偉大なる御大に感謝。
Q. 結果発表前に文体の著者予想をフォーム以外の場所に書いていいの?
A. 競技性を確保するため、人が見えるところに書くのはダメです。
A グループ
- No.1
- No.2
- No.3
- No.4
- No.5
- No.6
- No.7
- No.8
- No.9
- No.10
- No.11
- No.12
- No.13
- No.14
- No.15
- No.16
- No.17
- No.18
- No.19
- No.20
- No.21
- No.22
- No.23
- No.24
- No.25
- No.26
この作品の作者は roneatosuさんでした!
予想結果: roneatosu×2, EianSakashiba, carbon13, watazakana, Fireflyer, Ryu JP
階層都市を上るのは難しい。一度真っ逆さまに落ちてしまえば、元に戻るなんて考えられない程の絶望的な差が全てを潰してしまう。フォーリングダウンあるいは大暴落、いずれも私に起こった出来事と相違ない。
2ヵ月前公文書を持っていた手で、今は薄汚れたハンドルを握っている。バカみたいなサイズのトラックの積み荷はSciアンドロイドに戦闘用義体、それと無数の電球。下の世界の仕事に就いてから自分がいかにものを知らないか思い知らされた。太陽も月も欠けたオーサカに光と熱の加護をもたらしてくれる電球が街のインフラであるのは誰もが知っている……だが、それはどこから来ているのか?当然、 アスファルトから生えてくるわけではない。生産しそれを運ぶ者がいるということだ。私が今しているのは後者だ。
「ニューロ、手慣れてきましたね。……素晴らしい出来だ」
「"運転なら出来る" たぁ嘘じゃなかったんだな。この短期間で俺お手製の怪物級を乗り回すとは」
同僚たちが呼ぶ私の通称は前職に基づいている。もはや神経官僚ニューロジェントの無味乾燥な仕事に未練こそないが、自分を地位の面でも物理の面でも蹴落とした連中には腹が立った。奴らの仕事を肩代わりし、荷物を運び、高い酒を用意していたのが自分であるという事実には憎悪すら覚える。
「官僚に留めるには惜しい人材ですね。やはり代表殿は人を見る目がある」
「だろうな。こいつを議会から追い出した奴は相当のあほうだ」
下の世界で彼らに出会えたのは、祝福されたことだったように思う。何の神がもたらしてくれたものかは知るはずもないが、今の同僚が官僚時代の拝金主義者らよりも明確に仲間と言える関係なのが嬉しかった、幸福だった。
「お二人とも、もうすぐです」
トラックは薄暗い地下道へと入っていく。欲しいものがあるなら、街のどこであろうとそれを運ぶ。実に分かりやすい、シンプルだ。
上るのが難しいなら、どこまでも下ってやる。最後には真下であの欲深い摩天楼を根元から切り倒してやるさ。
この作品の作者は Misharyさんでした!
予想結果: Mishary×2, sanks269, seafield13, Tark_IOL×3
序幕: 日本国
1998年7月13日は単なる新たな週の始まりではなく、新たな時代の始まりだった。前日に開票された参議院選挙における自民党の惨敗と橋本首相の退陣に対する衝撃は、更に大きな動揺の前座に過ぎなかった。
オカルトブームを楽しんでいた人々のどれだけが、本当に怪異の実在を信じていただろう?東欧に現れた怪獣とその破砕は、世紀の終わりを思わせるには十分だった。世界の陰に潜む巨大組織の存在と、日本政府との関係は重要な政治問題となるだろう。
日本経済はバブル崩壊の余波を脱しきれず、緊縮財政と増税により沈んでいる。失業率は4%を超え、戦後最悪の不景気による停滞感が日本を包んでいる。橋本政権の敗北は変化の兆しとなるかもしれないが、世界が「拡張」したことの影響は予測し難い。
東アジアは昨年の通貨危機により不安定だ。韓国では知日派の金大中が大統領に就き、日韓関係は一層緩和しつつある。経済的結びつきを深めつつある中国からは江沢民国家主席が訪日する計画も立てられているが、政治的対立の煙は燻り続けている。拉致の有無を巡り対立が続く北朝鮮は、密かに弾道ミサイルの開発を進めているという情報もある。一方日米関係は経済対立の落ち着きにより緊密さを増しつつある。
与党自由民主党は新たな連立相手を模索している。その相手は6月まで協力していた社会民主党や新党さきがけか、それとも第三勢力の公明党や自由党か、或いは奇想天外の一手が飛び出すのか。参議院で大きく勢力を伸ばした民主党や日本共産党では、政権の責任を問って不信任案を提出する動きもある。参議院選挙の投票率は60%に迫り、国民の政治意識は回復しつつある。 厳しい社会の目線の前に、リーダーシップが求められている。55年体制崩壊後の混乱期を経て、日本の政界に新たな秩序がもたらされる日は来るのだろうか?
東の海から陽は昇る
日本の新たな舵取りは一体、誰になるんでしょうか。
永田町の政治家の皆さん、どうかしっかりと次のリーダーを選んでください。
厳しく見つめていきます、私たちも。
明るい未来が、切り開かれる日が、必ず来ると信じております。
- 福留功男
この作品の作者は EianSakashibaさんでした!
予想結果: roneatosu, EianSakashiba×3, Come_Dream, carbon13, morelike
「ねえ顔を上げて。呻いてばかりじゃ『聖油浴み』も出来ないわ。」
浄化の光が如く西日が室内に射す。その審判の矢エンジェリング=アロー に射抜かれた男は跪き、枯れ木と見紛う両腕は目前の修道女の腰あたりを掴む。涙の代わりに嗚咽を漏らすその声はどんな言葉よりも雄弁な懺悔であった。
「人を殺したんだ。」
「珍しいことじゃないわ。」
「大勢殺したんだ。」
「仕方ないことだったんでしょう。」
「苦しませながら殺したんだ。」
「その分貴方が苦しみから逃れればいいわ。」
ここは警察でも病院でもない。罪びとに放つ言葉は立って戦えでも罪を償えでもない。「お前は何1つとして悪くない」だ。
「マンハッタンで俺はサイト-28の襲撃役だった。火と悪魔を放って、救いが一切無いと嘆くあいつらの顔を見て、俺は、ああ、俺はざまあみろって。」
「悪夢を見て娑婆で暮らすのは限界なんだ。シスター、俺の魂をどうか天国に。頼む…」
縋る女の顔を見る。全てを許す微笑みがあった。
「よく言えました。」
女は修道服を、ブラジャーとパンティーを、十字の耳飾りを脱ぎ捨てた。青白い顔をして男も脱いだ。俯いて見えなかった男の顔や四肢には修道女より賜った焼印スティグマがこんがりと付いており、彼の涙腺を不浄として燃やしていた。
「私ね、神様よりも痛みが好き。皆平等になれるから。」
女に手を引かれる。教会の最奥にあるバスタブには少し紅がかった水が張っていた。
「そして、快楽はもっと好き。」
肩まで浸かる。快楽が体を蝕む。呂律すら回らない。
「か、神よ…ど、どう、か」
「違う。貴方が魂を捧げたのは私でしょ?」
桶を男の頭上でひっくり返す。悔恨の行方セブンス=ヘブンの隠語で伝わるクスリの原液に全身を包まれ、男は脳ミソから直接昇天したように狂い、笑い、溶けて消えた。
「クスリを信じて人助け出来るなんて、最高にいい時代。貴方達のテロのおかげね。」
オルタナティブ・コロンビアのとある教会にて。そこには等しく罪を赦すシスターがいるらしい。
この作品の作者は aster_shionさんでした!
予想結果: aster_shion×2, sanks269, Come_Dream, tateito, watazakana, Kuronohanahana
魔法でも、ファンタジーでも。願いをかなえてくれるのが、そういうものしかないとわかったとき。それを捨てて現実と向き合うのが、ちゃんとしてるってことだと思う。
でも、一番の願いをあきらめて、二番目の願いもダメになって、その面影を追いかける自分自身の虚しさに気づいても、それ以外にほんとうに欲しいものがないってわかっちゃったんだから、どうしようもない。
初めて彼に会ったのは小学一年生のころ。上級生と一緒に、図書室とか職員室とか、とにかく学校内を回ってどこにどんな教室があるのかの紹介を受けたとき。
話すことはなかった。高く並んだ顔のなかで、唯一印象に残ったというだけで、その後再開するまで、彼のことを考えた日はなかった。
四年生になって再会したとき、あの時の、と感じた。それでも自分の感情に気づいていたわけではなかった。
五年生になって、なんとなくピアノを始めた。母親の友達がピアノ教室を始めることになって、たまたま通っていた習字教室がつぶれることになったから。
中学二年生になって、やっとあれが初恋だったと気づいた。ちょっとでも近づいた気になりたくて、彼の曲ばかり練習した。
それで、高校に入って周りが今まで以上に色恋に湧き始めたころ、ようやく自分が変だって気がついた。ちょっと変わってるって言われることは多かったし、そのくらいの自覚はあったけど、友達に見えてる世界と私の見てる現実は、ひどく乖離していた。
そう認識してはじめて、気づいてしまった。今やってることもただの埋め合わせだって。このままこれをやり続けて、満足できるところまで行っても、私は幸せになれないって。
だから、まあありきたりだけど。最後に傷心旅行。私とは決して同じ気持ちじゃないけど、私と同じ人を好きな人たちが集まる場所に行くことにした。
言葉の勉強はしてなかった。こんなに好きでも、話すつもりはなかったみたいだ。私らしいといえば私らしい。
旅行会社のパンフレットと会話帳を片手に飛行機を降りる。スーツケースを選ぶのも初めてで、思っていたより物が入らなかった。
宿についてすぐ、寝てしまったのは疲れがたたっていたからだろう。
聞きなじみのある音楽に起こされる。廊下と外があわただしい。
窓を開けると、そこに初恋の人の顔があった。
うん、ずっと見てられる。見ていたい。──死ぬまで。
この作品の作者は sanks269さんでした!
予想結果: Mishary, EianSakashiba, seafield13, Hoojiro_san, santou, kyougoku08, Dr_Kasugai
「だから、もう会えない」
「待て、ログアウトするな」
彼の細腕を掴んだ瞬間、俺はベッドの上に激しく嘔吐した。視界に入り切らない情報が、逃げ場を失って口から噴き出したからだ。うなじの皮下でD2(DayDream)器官が凄まじい熱を放つ。そこで初めて念話越しに彼の拡張夢と同期した事に気づいた。
「見ないで」
目を見開く。少年然とした、怖いくらい美しいアバター。涙を流す横顔を写した俺の瞳孔は、後ろに光る幾億の悪夢を見た。
「なん、だ、これ」
「4398046511104」
「は?」
「229個、約5億人分。それだけの"脳"が集まって、キミとの時間を夢見てた」
そう言って、へにゃと笑う表情だけは、紛れもなくいつも通りで。彼の柔らかな唇が動くのを黙って見ていた。
「"思考開発"企業ノゥズが開発した、人工並列脳演算素子。認知現実論のゲームチェンジャー。培養槽の脳みそたち。でも、壊れてる。それが、形而下のボクなんだ」
騙して、ごめんなさい。弱々しく呟くものだから、俺は、腸が煮え繰り返って、
「原因はバグか? 寿命か?」
「NO。…キミじゃ、もう」
「答えろ。攻撃か?」
「…YES」
じゃあ。言葉と共に臭い汁を吐き捨てて、俺は彼の全部を見た。
「俺も連れてけ。お前の敵をぶっ潰す」
一瞬全てが凪いだ、気がしただけ。変わらぬ情報流の中「ぷっ」と噴き出す音が響いた。
「どうせ止めても聞かないもんね。いいよ、見せる。でも多分、想像と違うよ」
途端に辺りが分解されて光の粒になる。極彩色の点が重なり合いレンダリングされていく。やがて景色は、4億の頭脳に害成す恐ろしい敵の居城に姿を変え
『第1回! 概念オリンピックはこちらが会場でーす!』
ることは無く、デフォルメされた空飛ぶ巨大ウサギの黄色い声に置換された。呆れるほど高解像度の青空と緑平原の上は、サーカスみたいなカラフルなテントでごった返し、種族を問わないシャドウの群れでひしめき合っていた。
『続いての選手は地下東京ブロックの地場概念! デンシャオンナ! コミケ亡衛軍!』
女の裸が先端に生えた、肉と鉄の混合した龍。何十万の統率されたチェックシャツの半透明男たち。それらが平原の上で勝手に闘っていた。
「…これがお前の脳内?」
コクンと、控えめに頷く頭が横目に見えた。
この作品の作者は k-calさんでした!
予想結果: sanks269, k-cal×2, meshiochislash×2, watazakana, Ryu JP
「ったく、ほんとひでえ有様だ……よく生きてたっすねぇ、ダンジさん」
「ああ。今日ばっかりは、爺さん譲りの腰痛に感謝しねェとな」
腰を擦る初老の男の目前には、崩落して塞がった洞穴。腰痛さえなければ、突如降り注いだ巨大な構造物から逃れるためにそこへ逃げ込み、そして今頃押し潰されていただろう。中層は最悪の状況だった。降り注いだ岩と揺れによって粗末な住居の悉くは潰え、希望のために張り巡らされた網も全て無惨に散っていた。
「やっぱ豪運っすねえ」
「運、ねェ……」
ダンジはかつて聞いた話を思い出す。祖父が若い頃、巨大な何かが降り、中層全体が酷く揺れた。そのときたまたま腰を痛めていた祖父は、今のダンジと同じように洞穴へ逃げ遅れ、そしてそのおかげで生き延びたという。祖父の姿が、今の自分の姿に重なった。これは偶然か、それとも繰り返される運命なのか。ダンジは頭を小さく振り、地面に落ちていた網を拾った。
「まァ、とりあえず網、張りなおそうや」
やけに広い空を見上げながら、網を引っ張って強度を確認する。そんな彼を、青年はあり得ないという目つきで眺めている。
「まだやめときましょうよ。そこら中、穴から這い出たバケモノだらけなんすよ。デンシャやワニだけじゃない。セージローチを見たっていうやつも──」
「だからこそだよ。大ウツロを飛んでるやつはいつか落ちてくる。壁に張り付いてるやつもだ。それを絡め取って、流通網が終わって混乱してる上層に売りつけるんだよ」
「何言ってんすか。上層の連中があんなの喰うわけないっすよ」
黙って手伝え、とダンジは青年に網を渡す。青年はせめてもの抵抗に大きなため息を吐いてから、受け取った網の点検を始めた。ダンジの脳裏に、祖父が遺した言葉が蘇る。それは、地下の暗さに希望を捨て落ちていくばかりだった自分をギリギリで受け止めた、決して破れぬ網だった。
「喰うよ」
「え?」
「本当にどうしようもなくなったらよ、人でもワニでも喰うもんだよ。人って生き物は、なにを喰ってでも前に進むって狂気を持てる生き物なんだ」
偶然だろうと繰り返しだろうと関係はない。ただ前を見て、進み、繋いでいけばいいのだ。はぁ、と気の抜けた返事をした青年の背中を平手で打って、ダンジは別の網を探す。
崩壊を逃れた人々が、がれきの中から次々に立ち上がる。中層へ差し込んだ光に、いくつもの希望が芽生え始めていた。
この作品の作者は stengan774さんでした!
予想結果: tateito, Hoojiro_san, Fireflyer×2, 1NAR1, kyougoku08, Tark_IOL
やあどうも、編集部の川辺です。今日はよろしく。いやあ、今時持ち込みなんて珍しいね。しかも小説家志望でしょ?よっぽど自信があるのかな。まあでも、うちの雑誌はジャンル問わず面白さが正義だからね。君のような飛び入りでも面白ければ載せるし、当然面白くなければ容赦なく弾く。今日君が持ってきた原稿も忌憚なく見ていくからそのつもりでね。
じゃ、見せてもらおうか。
…ふむふむ、ありがとう。では単刀直入に言うと、ちょっとネタが古い気がするかな。『人類のため国際的に活躍する秘密組織の話』ってのは、20年くらい前ならよかったんだけど今は少し題材にしづらいとこがあるね。ほら、SCPなんちゃらって連中が出てきたから…。ああ、君あそこの出身だったの?じゃあドキュメンタリーなのか。でもそれにしてはこのここ、「何かが暴れた跡でもこの薬をばらまけば全世界的にアンニュイな気分になってみんな『ああ今日も空が青い』で納得する」っていう下りは流石に創作かな。リアリティがないよ。
え、もっといいアイデアがある?一応聞かせてもらおうか。
…うーん。『AFCが差別を受けてリンチされる話』かあ……。ちょっと露悪的すぎやしないかい?もっと言えば、君のアイデアだと黒人差別や同性愛者差別にそのまま置き換えても成立しちゃうんじゃないかな。重いネタを扱う割に安易なドラマを作ろうとしているような印象だよ。それに、どちらかと言うと君にはもっと明るい話が向いてるような気がするんだよね。
……なるほど、『大規模テロに対して人々が協力し合う話』ね。良いとは思うけど、やっぱりよくある感じは否めないね。それにそのテロ組織、邪教の神を解き放って暴れさせるんだろう?ちょっとやり方がありがちかな。もっと奇想天外な感じのやつ、例えば、時間の流れが逆戻りになるとかどうだろう。お、何かそういうアイデアがあるの?
ちょ、ちょっとまってくれ、いっぺんにそんな言われても困るって。ええと『蝉の聖杯』『伝説のマフィアの復活』『四国まるごとドッグラン』『時空を彷徨う博士』『コロンビアが浮き上がる』『エミューによる人類支配』『太陽が消灯する液晶の空、そびえったタワー』『世界の外にある大阪』…。うーんどれもこれも、陳腐、じゃないかな?
この作品の作者は Come_Dreamさんでした!
予想結果: roneatosu, Come_Dream×4, Ryu JP, kyougoku08
「私がアイドルに…ですか…?」
耳を疑った、白く細い耳を
「そうだ、さっきからそう言ってるだろう」
身の毛がよだつ、全身の毛が逆立っていた
「もう一度説明しないとだめか?」
冷や汗をかく、手のひら以外に
「いや…でも私…」
目を逸らす、地面と平行しているその瞳を
「アニマリー…なんですよ?」
彼女は動物特徴保持者、通称AFC、アニマリーなどと呼ばれるパラヒューマンである
法律が改正された今も、未だ差別の対象となっている
そんな彼女が何故
「そんな私になんで、声をかけたのですか?」
そう、何故なのか
「んー理由ね。まぁ、大義名分で言うと保護団体がAFCの差別廃止に躍起でね」
彼はやれやれと気怠げに語る
「だから俺みたいな局のコネを使って、"いい意味"でのAFCの象徴となり得るような偶像(アイドル)を作ろう!と、いうことでね」
「私には荷が重過ぎます。まず顔が」
すかさず彼の言葉が遮る
「まぁさっきのは建前さ。」
ニィっと笑う
「キミ、最高にかわいいからさ。ホント」
「なっアナタは異常性愛者ですか?こんな羊人間にかわいいだなんて」
白い毛がピンクに見えてしまっている
そのまま流れで引き受けてしまった
何をしているんだ私…
ただ、満更でもない気持ちもある
しかしアニマリーが酷い扱いを受けているのも事実
恐怖が心をよぎる
幾多の練習を繰り返してきた
1番の笑顔を見せるため前歯を削った
ダンスするのに邪魔なのでツノを折った
衣装と身体のラインを合わせるので毛を刈った
歌ったことなかったので凄く頑張った
いよいよ本番…
ステージに立つ
怖くて目が開けられない
フリークショーを観るような好奇の眼差しか、あるいは蔑み排斥する為の暴力が待っているのか
ライトがつき目を開く
意外にも人数が多く報道関係者もそれなりに見受けられる
緊張を隠し、息を吸い…口を開ける
「最高だったよ初ライブ。やっぱ俺の目に狂いはなかったね」
まだ信じられないでいる
アニマリーが、羊人間が、私が…
本当に本当の意味でアイドルになったなんて
罵倒の嵐の予想を拍手喝采が打ち消し、私の心を綺麗に砕いた
「これからも頼む、アニマリーの輝く星として」
今の私なら自信を持てる気がする
「はいっ」
この作品の作者は seafield13さんでした!
予想結果: Mishary, stengan774, seafield13×2, Hoojiro_san, Tark_IOL, morelike
[マドリード・12月10日]
〈伝承部族自治政府「人身御供の復活を」〉
欧州連合脱退を控えたスペイン・エステベス政権が、窮地に立たされている。12月1日、スペイン国家連合定例首脳会議後の会見で伝承部族自治政府のページマ首相は「今後、人身御供に関する法改正を進めていく」と表明した。イベリア半島に在住する伝承部族の多くを占めるクエレブレ(ドラゴン)族は、伝統的にヒトの村落共同体から人身御供を得てきた、と主張している。
スペインは1978年に死刑制度を廃止しており、国内で死刑囚等の「人的資源」を調達するハードルは高い。公式に打診を受けた直後、スペイン政府のエンナシエル法相は「同盟国や正常性維持機関へ協力を求めていく」としていた。
ところが今月7日に入り、クエレブレ族指導者・ゲオルク首長の「クエレブレへの御供に適切なのは健康なヒトの少女」という発言が議論を巻き起こした。事実上、スペイン政府が有力案として検討している「死刑囚供与案」が拒否された形となったためだ。
従来よりヒト以外の知的種族を包摂した社会の建設を謳ってきたエステベス政権は、国内最大の非ヒト種族勢力である伝承部族自治政府との関係を重視してきた。今回の「人身御供」問題は、両政府の関係に深刻な影響を及ぼす可能性がある。一方で、伝承部族側の要求を丸呑みすれば、現状でも険悪な欧米諸国との外交関係は一段と冷え込むだろう。
〈割れるスペイン世論〉
また、スペイン国内世論も多様だ。国民の圧倒的大多数を占めるヌートリア人種の間でも、生きたヒトの少女を生贄に捧げる行為への抵抗感は根強い。「ヒト系スペイン人評議会」のルエバノ代表はこの騒動を「政府のヒュマノ軽視が招いた自縄自縛」としつつ、「ヒトの命を軽く見る種族によって人権が脅かされることはあってはならない」と反対運動を展開する構えだ。
少数派ながら、国会議員の一部には人身御供に賛成する派閥も存在する。与党・ヌートリアニスモ運動内部の民族主義派として知られる「毛皮主義者(ファリスト)グループ」のタムード議員はそのひとりだ。彼を含む複数の議員たちは「ニッソが過去にもたらした人造人間技術を用いることを検討すべきだ」と主張している。
人造人間技術──。スペイン社会に衝撃をもたらした過去の…
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この作品の作者は meshiochislash does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: k-cal, seafield13, meshiochislash×3, Ryu JP, Dr_Kasugai
改札を出ると、玄関先に蝉が転がっていた。一時は音楽家の顔で世界をぶち壊すように変えてしまった虫も、今やずいぶんと無様なものだ。
ああ、もちろんそれはポーランドに限った話であり、ここに転がっているお前たちは1998年からずっと変わらないのだろう。わかっている。知らない街で最初に目にするのが知っている虫であるのが嫌で、少し大袈裟な問題にしただけ。
その蝉が生きているのか死んでいるのかはわからない。けれど俺は予定があって電車に乗ったわけだから、くだらないシュレディンガーに構いたくはない。今の所は動かない彼を素通りして、俺は駅へと向かう。道に沿って植えられた木々のどこかで、詰るように叫ぶ蝉たち。それら全て無視するために、イヤフォンで耳に音楽を滑らせる。音は遠くなり、今が夏であるのを夏を示すのは、蝉ではなく暑さだけになる。
うんざりだ。
少しズレたリュックサックを背負い直し、横断歩道を待つ間に、心底思う。蝉は世界を壊すように変えた──けれど、壊しはしなかった。律儀に夏の終わりに消えて、また次の夏にやってくる。
皆さん、こんばんは。そして初めまして。私たちは財団と呼ばれています。古くより、あなた方を守り続けた組織です。
あの日、人類の影から突然現れた組織の宣言。世の中には未知が溢れていて、異常が溢れようとしているのだというスピーチに、最初は不安と期待があった。でも実際は? そう、何も変わらない。異常が溢れたら大変だし、未知との遭遇は危険だから。蝉が壊したのは檻を覆っていたヴェールであり、檻そのものではないのだから。
隔壁は未だ健在だ。俺たち一般市民は希釈され、もはや異常と呼べるかも怪しい異常、いわゆるパラテクノロジーだけを享受し続ける。それは残酷なほど退屈すぎて、俺は、そう、耐えるのをやめた。
異質なほど白い、「財団」の保有施設。その入口で俺は足を止める。かの組織の「一次面接」のため、俺は今日、ここにいる。
隔壁は未だ健在だ。けれど張ってあったヴェールの分だけ、その厚みは減っている。
この作品の作者は O-92_Malletさんでした!
予想結果: roneatosu, seafield13, O-92_Mallet×4, Tark_IOL
お前もこの絵を見るのは初めてだな?ビックリだろう、ただ駅の床を青く塗っただけだ。だがそれは今の話で、ちゃんと前置きがある。
あの時のペン駅は遭難者でごった返して、卵臭い煙に巻かれてた。動かない電車が横になってたのをバリケードにして、フォークを背負った悪魔の群れが、外の線路から車体によじ登ってくるのを見ないようにしてた。ジリ貧だ、俺らはこのまま一人ずつ悪魔に串刺しにされるに決まってる。
だが俺が絶望したのはその運命にじゃねえ、サタンが見せた圧倒的な芸術センスの無さに対してだ。お前もテレビで見てるだろう。仮にもストリートアーティストを名乗る俺が最期に見る景色が、赤と黒の2色でただ塗りつぶしただけでいいハズない。そう直観したらすぐ、俺は避難袋に突っ込んできた塗料スプレーを引っ掴んだんだ。
灰だらけのホームのタイルに手持ちの塗料をザーッて吹き付けた。死ぬ時は晴れた空を眺めながら死にたかった、だからまず最初に描いたのはそれだ。そのとき俺は見た。チェルシーを照らしていた地獄の紅い光にお構いなく、床のキャンバスは鮮やかに蒼かった。絵を描いて何年にもなってたが、あの感覚は生まれて初めてだ。すると俺の周りにいた連中がワッと走り出して、向こうから悪魔が雪崩れ込んできた。奇跡の蒼を、踏み躙ろうと迫ってきた。
ジーザス・クライスト!俺がそう叫び声を上げた時には俺の腕がひとりでにスプレーを持ち替えて、足元の蒼空にゴールドの十字を描いていた。意識を戻すとグワっと跳ね上がった何かに頭をぶつけて俺は仰向けにひっくり返っていた。顔を起こすと、そこにはだな、建ってたんだよ。黄金に輝く十字架が。
あとは破れかぶれだ。十字架を掴んで振り回して殴ったら悪魔はいとも簡単に弾け飛んだ。ペン駅が初めて得た武器だ。攻撃は他の避難者に任せて、俺はひたすら蒼の上に追加の黄金線を書き殴り、それをホームに建ち並ばせたのさ。そうやって俺たちは地獄から生還したわけだ。
どういう成り行きで俺が神の奇跡にまみえることができたのかはわからないさ。朝日が出たら十字架は全部消え失せて、再現も不可能だった。それでもあの時、この駅で大勢の生命を繋いだ青いスプレー痕は残ってた。アートによって人を救った貴重な証明として、こうやって飾らせてもらってる。
もちろん記念撮影OKだぜ?チェルシーの青空とまとめて映すのが定番だ。
この作品の作者は tateitoさんでした!
予想結果: sanks269, stengan774, tateito×2, Hoojiro_san, watazakana, Dr_Kasugai
地下東京、新宿駅にある巨大な縦穴オオウツロは極めて貴重な太陽と空に繋がる場所だ。オオウツロの周囲には巨大な集落が形成されており、上層部ほど社会的地位の高い人物が住み、どれほどの深さかも知れぬ最下層の住民はヒトですらないという。
無論、この場合の上層下層と言うのは地下東京における人間の領域を言っているのであって、オオウツロに真の意味での最下層、底は存在するのかも不明だし、穴の縁と言う意味での最上層と人間の住む最上層ではあまりにも大きな隔たりがある。
そしてオオウツロを初めて見た人々、いや初めて知った人々ほぼ全員の第一声はこのようなものだろう。
「この穴から地上に出られるんじゃないか?」
結論としては不可能である。しかし何故不可能かというと、時空間異常だとかなんだとか、イマイチ判然としない。わからないからこそ、俺達ならば出来ると言う輩は後をたたない。
「予備も含めて8機の気球を用意して、もし全て壊れたとしても外壁にフックを射出する用意がある!」
傲慢な若者達を乗せて馬鹿でかい気球の塊が居住区の最上層から飛び立った。熱気球である。最初はゆったりと、そしてしばらくすると速やかと言っていいスピードで上昇する。
「光が届いているんだ、つまりは物理的にも繋がっているはずなんだ」
そんな事を言って飛んで行った気球群はもう地下の人間からは殆どケシ粒のようにしか見えなくなった。
そして、音。
気球群は炎にまみれながら猛然と落下した。カケアミの足場や網にも引っ掛からず、そのまま計り知れない底にまで消えていった。
何故オオウツロから地上に出られないのか。その理由と関係があるのか無いのかすらわからないが、ともかく気球は失われた。
気球の上では何があったのだろうか?何らかの異常によるものだろうか?危険な生物の仕業だろうか?それとももっと凡庸な機械的な理由やヒューマンエラーの類だろうか?射出フックはどうなったのだろうか?
何一つの進展はなく、謎だけが少し増えた。
翌月、今度はロッククライミングの要領で外に出てみせると言う愚か者が現れた。
今度は謎すら増えなかった。10メートルほど登ったところで苔で滑って落ちたのだ。
せめて死んで悲劇になればまだ少しは良かったものの、腰の骨にヒビが入っただけで終わったらしい。
この作品の作者は carbon13さんでした!
予想結果: k-cal×2, Come_Dream, carbon13×3, Ryu JP
馬見の自宅は常に片付いていた。床に物が転がっていると、今年で3歳になる馬見の息子の亮総が転ぶ。
馬見はテーブルチェストの中から、新都心の病院で昨日もらってきた薬を取り出す。薬は合わせて7袋あった。馬見は一回分の量だけを取り出して、ジップロックにまとめる。吸入薬だけはまとめず机の上に置いておいた。偶にしか使わないからだ。
馬見の息子の亮総はジクノヘイアだ。ジクノヘイアの症状は、平熱と微熱を繰り返し、肌が焼ける。比喩ではなくて、本当に肌が熱を持つ。そのせいで亮総は火傷していて、塗り薬を常備することになる。
「ママ。トンボロ見た? リビングのケージにいないよ」
トンボロは家で飼っている犬のことだ。亮総の兄の総宗の我儘で今年から飼うことになった。
酷く吠えるので別室に入れた。トンボロが吠えると馬見はいつも割を食う。家が山の中にあるのであれば、いくらでもいつでも吠えさせてやるが馬見が住んでいるのは新都心の新興住宅街だった。近所の松原夫妻は皮肉屋で、ことあるごとに犬の昔飼っていた犬の話をする。松原夫妻が若い頃に飼っていた犬は、雑種だったが立派で、遠吠えをすることもほとんどなかったのだと言う。
「亮総、コレを飲むのよ」
亮総に七種類の薬を出す。
「コジータ苦いから飲みたくない」
コジータは粉薬だ。これを飲ませる時間が大半を占める。
「また痛い痛いなるよ」
そうしてる間に冷蔵庫からゼリーを取り出してきて、粉薬を適当に混ぜる。小包に入った十グラムがゼリーの上に入る。
飲めよ。
燃え盛る家の姿が目に焼き付いている。それは亮総がまだ一才になるかといった時だった。当時住んでいたアパートは事変期に建設された古めかしい木造のアパートだった。古式で逆にデザインが良かったし、夫もそれに同意したのだった。
一度コジータを飲まなかったことがあった。苦くて嫌だと言うので、半分だけ飲ませて吐いて、そこから先に何も手をつけずいた。
そして亮総を抱きかかえた時、おむつが妙な薫香を放っていることに気づいた。うんこが燃えているのだと知ったとき、馬見は息子を放り投げた。
その瞬間、火は不自然に燃え広がり火事になった。
亮総がジクノヘイアであることを知ったのは、それから数日先のことである。
この作品の作者は GermanesOnoさんでした!
予想結果: Mishary, carbon13×2, GermanesOno×4
『伝承作物学』序文に換えて
近代的育種学の端緒を開いたグレゴール神父の死没150年を経て、遺伝学と奇蹟論との論理体系との連続性が認められた現在、農学でもパラダイムシフトの過程で数々の学問領域が創造されつつある。さて、彼は著名なえんどう豆の仕事以外に、葡萄の品種改良にも取り組んでいた。大正初期に植物学者が持ち帰った葡萄、その挿し穂を維持していた小石川植物園は灰燼の奔流のうちに消えたが、幸いにも分譲された枝から育成された樹が全国に残っている。この「メンデルの葡萄」は彼の業績に基づく微弱なアキヴァ放射が認められる。祝宴用ワイン醸造の主要品種であるデュオニュソス系統の葡萄、その臭気は集団的狂乱と陶酔を誘引する。食中毒による狂女の列が悲惨な事故を引き起こしたことは記憶に新しいが、その欠点を克服すべくメンデル系統を用いた品種改良が試みられ、見事な成果を収めた。この件については農学と史学、民俗学、図像学などが分かち難く連絡した新学問領域、「伝承作物学」の華々しい活躍の一つとして識する方も多いだろう。
伝承育種学は、従来顧みられなかった作物の形而上学方面からの分析が理論的支柱の一つとなっている。ウェルギリウスは『農耕詩』で類稀なる詩才を農業という営みに捧げたが、素朴な日々の糧への信仰が化学肥料に優越する効果すら発揮するとは誰が予想したであろうか。数百年単位で鍬や鋤を振い続けた者たちの質素な意識のあり方は、決して無益ではなかったのであった。我が国での植物の利用や祭礼に関する研究は、冷遇による資金難によって数十年に渡る長い冬の最中にあった。しかし欧米では、アキヴァ単位の導入による神学の近代化が放つ眩い光が氷雪を融解させ、今や麦穂は再びデルメルの手に握られんとしている。日本においても科学的根拠に基づく豊穣祈願の予祝対象として好適な奨励品種が開発されつつある。田植えの季節になると、道沿いに簡素な神棚が見受けられることも増えた。柳田らの祖霊信仰の分析の蔓に、思わぬ開花結実があった例であろう。
本書では豊富な実例を交え、基礎的な方法論から形而上での品種改良を解説していく。しかし、理論の核となるのはある種の思想信条、そして信仰である。手に取ってくださった方々には、本書の核となる「精神の手で耕す試み」を読み取っていただければ幸いである。
令和16年吉日
鹿沼直人
この作品の作者は hitsujikaipさんでした!
予想結果: hitsujikaip×7
リーマン球面上の複素経済と不動点財
ワルラスが経済における一般均衡を取り上げて以来、一般均衡の理論は経済学で重要な地位を占めている。1944年、ノイマンとモルゲンシュテルンはゲーム理論を提唱し、1951年、ナッシュは論文『Non-Cooperative Games』で、非ゼロ和ゲームの解としてナッシュ均衡を定義した。また、ゲールと二階堂は独立に財空間$\mathbb{R}^n$における競争均衡の存在を示した。その後、アローとドブリューは、ゲール・二階堂の補題を用いて一般均衡の存在を示した。このようなモデルにおける重要な数学的基礎に、不動点定理がある。
さて、角谷の不動点定理ではその適用条件として「空でないコンパクト凸部分集合からそのべき集合への写像」というものが挙げられている。一方、1998年以降の社会の変革により、非有界な財・信用・時間を持つとみなせる経済主体が無視できなくなった。それまでの実経済学が前提としていた状況が大きく変わったのである。
例として、我々一般消費者はすでに汎用改良機を実質的に限りなく適用できる。ここに投入する財を$X$とし、Fineの一回適用を$f(X)$とする。ではこれを繰り返し適用したとき、どのように振る舞うのか?ご存じの通り、これは財$X$またはその複素価による。収束することもあれば、そうでないこともある。汎用改良機自身に汎用改良機を再帰的に適用した場合なども、すでに現実の問題である。このような現象の説明が必要になったことや、ヴェール体制崩壊以前では考えられない多要素共生社会の実現もあって、新たな経済システムとそのモデルが要請された。
複素化された現代の経済においては、かつて「異常」と呼ばれ経済から除外されていたものを排除しない包括的な経済のモデルが求められている。その一方で、できるだけ位相等の構造、つまり我々にとっての「意味」を保ち、良い性質を持っている必要もある。そのため、現在リーマン球面$\hat{\mathbb{C}}$の値の通貨を用いるシステムが急速な発展を遂げているのである。
この作品の作者は Hoojiro_sanさんでした!
予想結果: k-cal, O-92_Mallet, tateito, Hoojiro_san×2, Ryu JP, Dr_Kasugai
世界の舞台裏から魔法や宇宙人が飛び出て国や社会が根底からひっくり変わろうとも電車に体を預ける心地よさは変わらない。
小学生の頃は盲導犬すら珍しかった車内に空間投影広告が瞬き、少女のペットらしき妖精が飼い主と仲よく外の様子を眺めている。
世紀末も、天災、戦争も乗り切った人類に恐れる物は無かった。あの時まで。
『緊急災害が発生しました、この電車は運転をー
車内に響くアナウンスが伝わるよりも先に異変が訪れる。
肉が溶け、臓器が爛れ、服から抜ける。そんな地獄絵図に叫喚が巻き起こる前に、快速列車には精肉列車と化していた。
この作品の作者は watazakanaさんでした!
予想結果: roneatosu, sanks269×2, stengan774, watazakana, santou, Fireflyer
茹るような夏の熱気が、去年と変わりなく私たちを蒸している。からん、と、氷が鳴る。コップには水滴がびっしりとついていて、中の麦茶に宝石のようなハイライトが飾り立てられていた。縁側は日陰で、扇風機から送られる粘った空気に涼みながら、これから西日が肌を焼くだろう憂鬱に浸っている。私は、夏の暑さが嫌いだ。強すぎる日差し、茹る湿気、ねばつく空気……私のやる気も思考も何もかもが邪魔される。蝉や蛙の声など苛つくことこの上ない。
私にとっての夏は憂鬱や倦怠の象徴だ。逆に「アイスが食える」と元気になる妹の気持ちはわからない。
「姉ちゃんは進路どうすんの」
「私?家業継ぐつもり」
家業。即ち、神主。最近はポーランドのあれこれで宗教辺りがにわかに色めき立っている。科学が覇権を取るこの世界で、突然理外のものが科学を脅かした。国の偉いところは別として、科学の通じない存在と対峙できるのは、宗教家連中だと皆は思っているらしい。神職がこれからの社会を守る戦士になってくれるのだと。そんなことはないというのに。だが、そんな偏見に満ちた職業でも、父の見せる神職の姿は、私の理想となっていたのだ。今更、理想を裏切るなど、考えられなかった。
「ふーん……将来のことがちゃんと見据えられてるのは羨ましいですなあ」
「その口ぶり、平凡な高校生という感じだ。ずっと変わらないな」
「悪かったですね平凡で」
双子の妹は私と違い、将来図は漠然としている。神職には興味がなく、私が家業を継ぐので、妹には何の責務もないのだ。自由に絵を描けと言われても何も浮かばないのと同様に、やりたいことがないのだ。
「どうしよ、怪異ハンターとかになろっかな」
「馬鹿」
「嘘嘘、冗談」
「……先生はなんて?」
「家族と話し合ったりしろって」
「フツー極まりないな」
ころん。氷の音。空は深く青く、雲は高く聳えている。
「何でもいいから、何か決めておいた方が良い。漠然と受験勉強したって仕方ない」
「わかっとるわいそんなこと!アンタはかーちゃんか!」
「ねーちゃんだコノヤロー」
「ぐう……こんな暑い中で空腹じゃ何も決められない。あーあ、エアコンの効いた中で考えたいなぁ」
こうなれば、決まってどこかへ食べに行く。先月にできた鉄板の流れだ。きっと決まらないだろう。
毎日このような調子なのだから、超常の気配は遠いはずだ。私は、飲みかけの麦茶を豆粒ほどの氷ごと飲みきった。
この作品の作者は santouさんでした!
予想結果: sanks269, meshiochislash, watazakana, santou×2, 1NAR1, Kuronohanahana
ソーホー、残暑の中。マンハッタン・クライシスから2週間後、私たち悪魔はニューヨークの復興活動に勤しんでいた。
「お疲れ」
同僚の人間の男が冷たい缶コーヒーを首元に押し当てる。日々やけに馴れ馴れしくしてくるおかしな奴だ。
「ありがとう。だが私は悪魔だ。脱水を起こすことはない」
「でも、美味いだろ 」
「……美味い」
それを聞いて人間は楽しそうにする。他者に見返りを求めずに施すなど、つくづく人間はお優しいことだ。
「私が怖くないのか?お前も神の子だろう」
「まぁまぁ、悪魔の友達がいるなんてクールだし!」
「私は貴様と友人になったつもりはない。人間と悪魔が仲良くなれるはずがないだろう。結局のところ、契約関係しか築けない。つまりは、マンハッタンの復興が終わるまでの関係だ」
「そう? じゃあ今回の契約が終わったら、ウチの会社に来いよ。新しく契約結んでやる。お前の下級悪魔の使役術には目を見張るものがあるんでな! 」
想定外の誘いに動揺する。しかし考えてもみろ。相手は悪魔のことを全く知らないずぶの素人だ。これは人間の弱みに付け入るチャンスではなかろうか。
「いいだろう。だが覚悟しておけ。お前みたいな人間を誑かすのが俺たち悪魔の本来の生業だからな! 」
「というのが、俺たちの馴れ初めだったわけ」
人間は友人に私のことを紹介する。その友人は苦笑しながら、隣に佇む私に目を向けた。私は極めて紳士的に挨拶を行う……この男の夫として恥ずかしくないように。
「さぁさぁ、楽しいパーティはこっからだぜ? 俺たちがまず踊ってダンスパーティは始まるんだ」
「なっ! 人前で踊りだと? 」
「何今更恥ずかしがってんだよ、さっきキスまで済ませたのによ」
「くっ」
私は目の前の男に手を差し出す。相手は即座に力強く握り返してきて、ニヤけた顔を私に見せつける。
「へへ、誑かしたのは俺の方だった訳だな」
「ふん、抜かしおる。契約に基づいてこのダンスですら貴様への愛を表現してやる」
「契約は絶対だもんな? 」
「減らず口が! 」
せめて、ダンスの主導権は私が握ろうじゃないか。会場に流れ出した曲に合わせ、私は人間をこちらに引っ張る。しかしこの男はひらりと右足を軸に回転し、私の背後に回り込み、後ろから私に腕を回す。そうして、背伸びしてから他の誰にも聞こえないように私の耳元で囁いた。
「愛してる」
この作品の作者は Fireflyerさんでした!
予想結果: Mishary, GermanesOno×2, santou, Fireflyer, Dr_Kasugai, Tark_IOL
「こちらが、グロークラントに存在する疑存海最大の遺物、<丁球T-Ball>です!直径は45mと、非常に巨大なのですが……さてここでツアーにご参加の皆様へ問題です!この丁球に存在する2つの特性とは……」
丁球の下からは今日も若干名の観光客が訪れているのだろう。ガイドのやけに張った声は上方の観察隊にまで届く。
「こんな疑存海の中でも辺境の島にまで観光客が来るなんて、数十年前までは考えられなかったっすよね」
「この島も昔は観光客嫌いで有名だったんだがなあ。今じゃあ、同盟内でも有数の避暑地だ。随分立派になったよ」
基底世界におけるヴェールの崩壊。この大規模な時代の潮流に影響を受けたのは無論、実存諸国だけでは無かった。
流入したパラテックの導入により、同盟国内の各地で発生していた虫喰の被害はこの3年間だけで92%減少。艦隊からの攻撃も大きく減っている。
そして何より、基底世界からの観光客だ。
財団が<門>を一般人にも解放すると、いくつものツアーが疑存海の住民によって計画され、そのルートは今では3桁以上。幾つかの島では実存世界の人間に永住権を与えたりもしている。この3年間の時間の流れは、幻島の300年の変革に匹敵するかもしれないと言われることもあった。
「正解!この丁球は各地の様子を一目で見ることができるんです!あなたもここにいるだけで疑存海の事を知り尽くせちゃうかも!」
「無理っすよね。先輩。何年ここで居座っててもわからんことだらけですから」
「最近はさらにわからないことだらけになっちまったからな」
夏の針葉樹林からは少し酸っぱい、森の香りが吹き寄せる。この島にはうんざりするほどよくある光景だ。
「しかし!実はもう1つ特性があるんですね。皆さんご存知ですか?」
「先輩!南部諸島で新たな輪を確認しました」
「ちょっと見せてみろ」
確かに、丁球には今まで存在しなかった場所に <輪>が存在している。実存世界で言えばオーストラリアの辺りであろうか。
「この場所は南部諸島の管轄か。コチミのホットラインに繋いでくれ。」
「それはですね……幻島同盟の加盟国が増えると、膨張するという特性なんです!」
「あと君は下の観光客に避難を誘導すると共に上の人員を全員下ろしてくれ。――丁球の膨張が始まるぞ」
この作品の作者は Ryu JPさんでした!
予想結果: stengan774×2, tateito, GermanesOno, Hoojiro_san, santou, Ryu JP
王室御用達。格付け星五。開業からは五十年。だが蝉の神が死んでからは一年足らずの大ホテル。ここではプロフェッショナルが各々の美学を掲げ、お客様の為に殴りあっている。
文字通りに。エントランスで。自己修復性形状記憶シャンデリアをぶち壊して。にも関わらず物音一つ起こりはしない。それも当然、今日のマッチは料理長とフロントチーフの好カード。つまりお互いにプロ中のプロであり、不要な物音を立てる事など有り得なかった。
幕が開き、白米すら随分と様変わりした。まず色が変わって青色になった為、今では青米と言われている。そんな青い粒の群体がフロントチーフの目の前で、馬鹿みたいな強火と共に赤い卵と蛍光色の調味液で纏われている。つまりこれは炒飯だ。
その炒飯は全応性食材で出来ていた。犬も猫も人も虫も、果ては神すら食える安心安全安定安寧な完全物質ではあるが、味の改良はお世辞にも進んでいない。一口運べば間違いなく全身に鳥肌が立つ劇物。この生ゴミをどう調理し、お客様に対して満足いただける料理へと昇華するのかが近年の調理師で最も熱いトレンドだ。
そんなトレンドの最前線を走るこのホテルのレストランにおいて、その炒飯は米も卵も油も何もかもが落第な中で最高の味である。五十年のノウハウが詰め込まれた結果、お客様も満足できる米の塊となった。そんな炒飯は今、豪速球でフロントチーフの眼前に投げられる。
そして次はフロントチーフ。天に散った米の一粒一粒を潰さず零さず皿に盛る神業。空を含めより味を高める気遣い。無論盛り付けも偏りなく美しい。そして配膳台に載せ、返し、料理長を殴る。殴る。殴る。
もはや演舞にも近い殴り合い。これは人々の闘いを好む神々や悪魔、そんな人外も等しくお客様とする総支配人の奉仕精神の方針であり、一切の異常では無い。
これらは互いへの信頼と競争心によって成り立つという点では、本質は幕が開く前と一切において変わりはない。サービスにおける発露の形がいくら変質したとして、誰かを喜ばせようとする意思は絶対に揺らがない。
つまり人類は、前に進むのである。
この作品の作者は 1NAR1さんでした!
予想結果: seafield13, Hoojiro_san, 1NAR1×5
垢の匂いがする、段ボールと布で出来た覆いが並んだ「寝床」の並ぶ通路。その最中、剥き出しのタイルにそのまま座る、黒のジャージを着た初老の男。その前に小奇麗なバックパックが置かれる。黒ジャージが視線を上げると、この場にはあまりに不釣り合いな英国調のスーツを着た男が立っていた。
「九段下駅、三日後までに。やれるか」
顔を腫らせた女が泣き喚きながら脇を通り過ぎていく。天井から反吐のように垂れる地下水を、荒れ果てた線路がびたびたと音を立てて飲み、排水機能が失われつつあることを主張していた。地上への道が閉ざされた東京の地下鉄の跡地には、汚濁と、異臭と、無秩序だけが残っていた。
スーツの男が懐から箱を取り出す。
「何発だ」
「皇居に近いほど報酬上乗せだ。12発は頂きたいね」
英国紳士の模倣者は舌打ちという、英国紳士らしくない、あるいは最も英国紳士じみた仕草で不快感を表明し、箱から拳銃弾を取り出した。
「せめて報酬の弾薬を9ミリにしてくれ。トカレフ弾の在庫が底をつきそうだ。」
しゃがんで拳銃弾を初老の男の目の前に並べるスーツの男の顔に、親しみか、あるいは疲労感のような表情がようやく表れる。スーツはよく見るとあちこちが毛羽立ち、汚泥で染まっていた。
「この黒星は親父の形見だ。死ぬ時はこれを敵に撃ちながら死ぬか、あるいはこれで自分を撃って死ぬ」
トカレフ弾が横一列に並んだ頃、ブリティッシュスーツが立ち上がる。
「献上品だ。丁重に扱ってくれよ。報酬に見合った仕事をしてくれ、配達人さん」
黒ジャージが立ち上がり、50リットルモデルのミステリーランチ製バックパックを背負った。
「皇居近傍への配達が高額なのは、何も足元を見てる訳じゃない。」
初老の男はトカレフ拳銃の薬室を確認し、ショルダーホルスターに相棒を格納した。
「皇居に近づくにつれ、地下は『正常』になっていくんだ。肉電車すら居なくなる。線路があるところには必ず現れるあいつらが、だ」
「だったら」
スーツの男の反駁を背に聞きながらジャージの男は線路へ降りる。
「危険が無くなれば、余裕ができた人間は悪を成すのさ。地下東京で最も価値のある物資が銃弾なの、何でか知ってるかい」
ライトも点けずに歩む黒いジャージが、トンネルの漆黒に溶けていく。男の鳴らすエコーロケーションのコツ、コツ、という舌打ちだけが、ずいぶん長い間ホームに響いていた。
この作品の作者は kyougoku08さんでした!
予想結果: meshiochislash, Hoojiro_san, kyougoku08×4, Kuronohanahana
どこまでも、どこまでも地平線が続く。
私は一人、その原野を歩く。ユーラシア大陸、私たちの魂に続くその場所を歩く。
十数年前、世界に新しい秩序が訪れた。ポーランドに端を発する正常の崩壊。
神の実存に証明も必要としない世界で、ヒトは、世界は、前へ前へと運航する。
私を降ろした父が、何のためにそうしたのかは分からない。この理不尽な世界においても、明らかに悪徳とされるその所業の中私は落とされた。幼児のような私に向けられたのは欲望と膨大なデータ。そして、そのデータの中に含まれていた前例たる一つの名前に、私の魂は囚われた。きっと、私は、そのために降りてきたのだと確信した。
ここに来るまでに、様々なことがあった。差別も、偏見も、不条理も。傷には慣れている、痛みには慣れている、罵倒にも、侮辱にも、冷笑にも。だが、魂は飢えている。
たった一回の栄光、私の魂はそのために生きていた。私の魂はそのために生かされていた。
苦痛を超え、辿り着いたその栄光の舞台、そこで私の魂は掴んだのだ、掴んだはずなのだ。
しかし、私の魂はその舞台の主役ではなかったのだ。
私の魂は、苦難を超えて掴んだ栄光は。
たった一つの悲劇の前に霞んでしまったのだ。
四つ目の角を超え、遥か彼方に沈んでいった残光。静寂の先に消えていった曳光。
ああ! 私の魂は、その最後の煌きの前に! これほどまでに脆く! これほどまでに酷く! 私の魂は勝ったのだ、死神にも、不治の病にも、勝ったのだぞ、だが、皆お前を見ている、お前を見ているのだ!!!
たった一回死んだだけのお前を!!! 私の魂はまるで道化ではないか!!!
ああ、お前の背中が見える。ずっと先を行く、ずっと前を行く、その背中が。
私は飢えている、魂の嘶きに飢えている。だから私は降り立ったのだ、この世界に。神がおわしめすこの世界の奇跡に。
もう一度、ずっと背中に置いてきたお前に勝つために。
気づき、振り向いたお前は少し驚いた顔をして。そして、太陽の方に走り出す。
お前の顔が、笑顔を浮かべているように見えて仕方がない。
「サイレンス、スズカァ!!!」
叫び、そして私は走り出した。魂が飢えるままに、魂が嘶くままに。もう、置いていかせはしない。
今度こそお前を抜き去る。反則だと罵るか、卑怯だと蔑むか。
結構、お前は私の魂を、いいや、私の名を知っているだろう。
私の、名は。
この作品の作者は Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: aster_shion, sanks269, carbon13, Fireflyer, Ryu JP, Kuronohanahana×2
1998年の7月……12日だか、13日だかそのあたり。ポーランドで起こった大事件をきっかけに、世界はまるきり変わってしまった。
当時まだ子供だった俺は、ニュースとか新聞とか、そういうのはあまり見ていなかったもんだから詳しいことは知らない。けれど、あの日。とにかく、俺たちのような一般人の常識では測りえない異常なことが起きて、しかもそれは氷山の一角でしかなかったのだった。
あの日を境に俺たちを取り巻く環境は目まぐるしく変わっていった。常識が常識ではなくなり、異常は日常になった。ファンタジーは現実になり、魔法は絵空事ではなくなった。
そう。魔法は絵空事ではなくなった。
あの事件が起こる前。子供の頃の俺が大好きだったファンタジー小説があった。主人公は11歳の少年。魔法使いの学校に通って、仲間たちと様々な冒険をして、強大な敵に立ち向かう話。子供向けの小説にしては異様な長さのその小説。でも俺はそれが好きで、よく読んでいた。幾度も利用したことのあるキングス・クロスが特別に見えて、何か用事があってあの駅に行くたびに、ちょっぴりワクワクしたものだった。
ふと考えた。今、あの小説はどうなってしまったのだろう。1998年7月の頭に第二巻が出て、それ以降。それ以降、あの本は一体どうなってしまったのだろう。俺は、第二巻はまだ買っていなかった。
調べてみれば、あのシリーズはどうやら第二巻で打ち切られたらしい。それもそうか。あの日以来、魔法もファンタジーも、物語の中だけのものではなくなってしまった。現実のほうがよっぽど異常で、不可思議で、奇天烈になってしまった。あの話は、もう続けられなかったんだろう。
今日のイギリスの空は珍しく晴れていて、ロンドンの街はいつもより明度が高い。俺はキングス・クロスに立っていた。キングス・クロスは、まるでいつも通りだった。人間と、そうでないものと、色々居るが。それがいつも通りの光景になってしまった。
世界が変わったあの日、ファンタジーが生きて現実に現れた日。
それは、物語の中のファンタジーが殺された日だった。
この作品の作者は Dr_Kasugai does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: EianSakashiba×2, sanks269, k-cal, O-92_Mallet, Dr_Kasugai×2
ステンドグラスの如き翅の天蓋を通して、鮮やかながらも朧げな光が世界を映し出す。暖かな陽射しではなく、月光のように白くもなく。偽りの聖霊が光を真似して降り注ぐ。
かつてマンハッタンから追放された蛹はこの場所で死産し、世界を歪に再構築したという。開闢しきれなかった天地の間には、無数のキチンの柱が建ち並び、今にも落ちようとする天蓋を支える。柱には聖六角形が押し並び、その隙間に押し込まれた紫の幼虫たちが細々と呪いを囁いて、遠き完成の日を待ちわびるのだ。
足場はまともに存在せず、柱の間を行き交う細長い枝だけが往来の頼りである。下方を覗けば酷く明るいケミカルグリーンの乳海からポコポコと泡が浮かび、人魚姫の如く爆ぜていた。
歩道橋程度の幅しかない枝の上を、二つの非対称な影が歩いていく。一つはボロ布を纏った男。かつてはトレンチコートだったであろうそれは、今や乱雑に絡み合う繊維の束としてしか認識できず、毒霧の流れを受けて静かにはためいている。顔は酷い髭面で、浮浪者か死にかけの吟遊詩人といった出で立ちだ。
もう一つの影は、大方この場には似つかわしくないドス黒のゴシック・ロリータ。黒い日傘を差して、退屈そうな眼差しで。二つの尖塔のような結髪を、左右両方に揺らしている。しかし、それを人と呼んでいいのかは疑問だった。女の頭には斜め60度近い角度でカップケーキがめり込み、継目は青色に着色されたプラリネで縫合されていたのだ。
両者の眼前、60 ft先の柱。その少し下を覗くと、とぐろを巻いて登る巨大な蟲の尻が見えた。巨体に寄り添いもぞもぞと蠢く脚は、どれも成人男性の胴回りほどある人間の指だった。
「ああいうの、ウチでは『頭隠して尻隠さず』って言うぞ」
カップケーキの呟きに、横の男は下品な呟きで返す。
「ならケツ穴かっぴらいてくれりゃいいんだがな。“ケーキ”を一つねじ込んでやれ」
やがて柱の横から、怪物の頭が覗く。1ダースはゆうに超える男女の頭が蜂の巣めいて並び、ぐりぐりと歯車のように回転していた。彼らの口は紫の小さな何かを咀嚼し続けている。
「どうやら見つめ合いながらしたいらしいが?」
「趣味の顔じゃない」男は銃を。
「そりゃ驚きだ」女はケーキを。
お互い獲物を握りしめ、前方へと突きつける。
「「そこをどいてもらおうか」」
遥か彼方の異界、あの日死んだはずの二人。彼らの旅路は続いている。
この作品の作者は Tark_IOLさんでした!
予想結果: stengan774, O-92_Mallet, watazakana, santou, Fireflyer, Kuronohanahana, Tark_IOL
あなたの名前は渡会(わたらい)守(まもる)。
27才、男性。新瑞公立大学社会学部卒。貴重な学生時代を傍迷惑な環境保護・左派系の学生運動に費やし、不法侵入先で何かに感づいたあなたは、逃げるようにキャンパスと故郷を離れた。気づけば今の肩書きはフリージャーナリスト。所謂リベラル系のニュース・ブログサイトへの寄稿者の1人であり、執筆活動と編集部員の手伝いのような仕事をして、日銭を稼いでいる。
政令指定都市には似合いの、巨大な中央図書館からほど近いマンションの一室で、もう一つの「職場」から貸与された青海製のタブレットPCを開いて、あなたは大手ポータルサイト運営会社が運営していたブログサービスのバックアップを閲覧していた。これは、知り合いの通報以外に件の職場から依頼されているれっきとした業務の1つだ。
Webクローラーが作成したリストを上からしらみつぶしに閲覧、メタデータを採取、ページの要約・主題を作成し、アノマリーに関連するような事例があれば報告する。単調な作業だが、こうしたデータベースの作成が研究のために役立つことを、あなたは気まぐれで取った図書館情報学の講義から思い出してもいいだろう。
そうして貴重でもなんでもない日曜の午前を費やして要約文を用意する最中、あなたはディスプレイ上に違和感を感じた。最初に読んだときには無かったはずの一文。
「O/Oを知ってるか?」
不審に思ったあなたは、すぐさまスマートフォンでディスプレイを撮影し、連絡員に送信する。
「もしもし、こちらフィールドエージェントの渡会守です。現在、メタデータ採取中ですが、その最中、"オーオーを知っているか"という一文が現れました。以前通告があった事例に酷似しているので、報告します」
しかし、報告が終わって再びディスプレイを見ると、あの一文は何処にもなくなっていた。
まもなくして、電気屋に偽装した男たちがあなたの部屋にやってきて、辺りを捜索しはじめた。簡単な事情聴取を受けながら、自分のテリトリーであるはずの部屋のソファの上であなたは縮こまる。やがて彼らは特に何も得ることもなく帰っていくだろう。
そうしてあなたは最後に「再度遭遇した場合は目を離さずに連絡すること」と命令される。しかし渡会は、自分の目の前に二度と「O/O」の文字が現れることはない、とそう感じた。
この作品の作者は Morelike さんでした!
予想結果: aster_shion×2, tateito, morelike×4
美咲を愛している。
夫譲りの青空に灰を撒いたような瞳が綺麗で、本当に可愛らしい。
普通の子よりも口が小さいから、食べ物をよくこぼしてしまう。
美咲はそれが嫌で、丁寧にゆっくり時間をかけて咀嚼する。本人には悪いけど、一生懸命に頬張る姿も愛くるしいと思う。
だけどどのコミュニティにも人の欠点を晒して攻撃しようとする人間は居るもので、子供は特に顕著だ。
今日も美咲は泣いて帰って来た。
食べるのが遅いと、クラスの男子にからかわれたそうだ。それに瞳の色も尻尾も変だと言われたと。
泣き疲れた美咲の身体を胸に抱き寄せて、瞳の色も、尻尾も、貴方の個性の一つに過ぎないと私は教えた。
そして瞳の色も尻尾も好きだと伝えると、美咲の表情がぱっと晴れて、そのまま私の胸の中でスウスウと寝息を立てた。
美咲の小さな身体から伝わる体温があまりにも心地良くて、つい私も眠ってしまった。
私は美咲を愛している。
美咲が嫌いだ。
普通の子の半分ほどの大きさしかない頭の割に目が異様に大きく、アレに見つめられると総毛立つ。
それに美咲は食べ物をよくこぼす。
妻や私がパン屑やらトマトの欠片やらを片付けるが、直後にまたこぼすので本当に腹が立つ。
最近はこぼさないように努めているらしいが、これがまた食べるのが遅い。パン一枚、小さなサラダボウル、バナナ一本、これだけで何時間もかかる。リビングを通るたびに、頬いっぱいに物を詰めてクチャクチャと音を立てて食べる姿が目に入るので気分が悪い。
尻尾が変だ。
普通は私のように腰より少し下の位置にあるものだが、美咲のは脇腹の後あたり、それも二本ある。産毛の一本も生えていないのでエイリアンの触手のような造形でグロテスクだ。
そんな美咲を妻は溺愛している。
元々差別意識のない人だ。事実、猫のアニマリーである俺のことを受け入れてくれた。
だけどアレは、アニマリーだとか、遺伝異常による奇形だとか、そういう次元の存在じゃない。
神様が捨てた出来損ないのパーツを寄せ集めて無理に縫合したような化け物だ。
本当に気持ち悪くて。
美咲が学校でからかわれていると妻がそっと教えてくれた。
誰か美咲を虐めて殺してくれないかと。
私はそう思った。
