700字文体シャッフル: 第九回
指定フレーズ: 『辺りはもうすっかり暗い』
投稿期間: 3月16日 ~ 3月18日
予想期間: 3月19日 ~ 3月21日
参加方法: 以下のグーグルフォームに必要事項を入力して送信してください
受付は終了しました!
レギュレーション:
①700文字以内
②今まで世に出していない
③1作まで
④短歌でない
⑤社会性がある
⑥AI作でない
⑦読解可能な文章である
⑧テーマフレーズを使用している
Q and A
Q.文体シャッフルって?
A.みんなで匿名で作品を書いて、それを誰が書いたか当てる企画です! 結果発表までは自分が何を書いたか他言無用!
Q.過去作は?
A.下記リンクから文体シャッフルハブに飛べます!
Q.構文は?
A.by ukwhatn。偉大なる御大に感謝。
Q.フレーズ指定ってどういうこと? 改変はしていいの?
A.今回のテーマ、『辺りはもうすっかり暗い』を文中に必ず使用してください。多少の改変はOKとしますが、あまりにも違う、もしくは使用がされていない場合、エントリー取り消しとなります。注意してください。
eagle-yuki
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著者ページ
Kuronohanahana
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著者ページ
Matcha tiramisu
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著作
R_IIV does not match any existing user name
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著者ページ
Ruka_Naruse
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著者ページ
aster_shion
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著作
EianSakashiba
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著者ページ
hallwayman
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著作
Hoojiro_san
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著者ページ
meshiochislash does not match any existing user name
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著者ページ
MtKani_666
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著者ページ
pope3pape does not match any existing user name
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著者ページ
ShicolorkiNaN
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著者ページ
watazakana
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著者ページ
A グループ
- No.1
- No.2
- No.3
- No.4
- No.5
- No.6
- No.7
- No.8
- No.9
- No.10
- No.11
- No.12
- No.13
- No.14
- No.15
- No.16
- No.17
- No.18
- No.19
この作品の作者は v vetmanさんでした!
予想結果: v vetman×13
「暗いなァ盲ォ!」
周囲を高濃度の中性EVEに囲まれている以上VERITASも役に立たないことは明白だ。対ホワイト・スーツ戦に慣れた呪術師の常套手段である故この辺の絡め手には慣れているつもりだがそれはそれとして本当に厄介極まりない。この後に赤外線やらノーマルカメラやらマイクロレーダーやらに外界観測手段をシフトするにしても今回のカック灰グレネードは通常色スモークが仕込まれている。辺りはもうすっかり暗い。
上等だ。紅く真っ暗な霧のド真ん中でスーツの頭部ユニットから収音マイクを展開する。同時に全身の排気口から熱々の排気を噴射した。紅い煙幕が徐々に遠ざかるがまだ何も見えない。マイク感度は良好。
収音開始から8秒。感アリ。水音。左後方5m先に何かがいる。
物理にどれだけの耐性があるかは解らないが、どうせこの現実霧だ。専門の結界術師でもなければ防御呪術が意味を為さない。近接防御システムを肩部から計2発射出した。頭上で炸裂した2つの爆雷が全方位に金属片をまき散らす。ホワイト・スーツを着ていなければ使用者本人が即死する密度の大火力で周囲を制圧した。人体が崩れ落ちる音が最低2つ記録される。手ごたえ十分。想定される残存敵勢力は残り1名。相変わらず全モニタが黒く染まっている。何も見えない。唯一耳だけが最後の感覚器官として機能している。
正面から衝撃。その根元に臆することなく掴みかかって手繰り寄せた。装甲を挟んですぐの場所に人体がある。敵は9割方自爆するつもりだ。それもこの空間全てを起爆剤に。
VERITASをスタンモード最大出力で展開。一瞬の痙攣を挟んで最後の敵が胸中に眠った。
この作品の作者は 1NAR1さんでした!
予想結果: 1NAR1×9, roneatosu
照明がひりひりと肌を焼く。解凍モードの電子レンジの中でじわじわと殺されているよう。ボーカルは上滑りするようなトークで場を繋いでいるが、チューニングをし直す気にもならない。一曲目の未熟な演奏を聴いた観客は無関心を容赦なくステージ上の私たちに投げている。
ギターボーカルは曲の紹介を始めている。この曲にはこんな思いを込めました。一所懸命練習しました。その通りだ。彼女は懸命に練習したし、私は万感の思いを乗せて歌詞を書いた。それは幕間の彼女のフリートークできっと同情という形で観客たちに届くだろう。所詮私たちは新参バンド。技術ではなく熱意をお届けします。
ふざけるな。最初のコードを指板の上で描いていた左手を開放し、ピックで弦を裂く。野蛮な変形Eマイナーコードがヒステリックにモニターを鳴らす。視線が聴こえる。それにはバンドメンバーのものも含まれていた。構いやしない。ダサ過ぎて吐き気がするローファーでエフェクターを蹴飛ばす。聴け、従え、付いて来い。元よりリードギターっていうのはそういうものなんだから。
こうなれば後は全自動。私の数年間の累積は手癖とアドリブで16小節とプラスアルファで構成されたギターソロの小品を完璧に実行し、解凍モードのレンジだったハコを250度のオーブンにまでブチ上げた。ざまあみろ。照明が落ちる。バンドメンバーは折良く予定通りの曲のイントロに突入する。
イントロのトレモロを掻き鳴らす。辺りはもうすっかり暗い。
それはまるで帰りの電車から降りた住宅街のようで。
それはまるでギターを弾く押し入れの中のようで。
それはまるで校舎の階段下の日陰のようで。
私は嬉しくて、思わず目を細めた。
この作品の作者は R_IIV does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: R_IIV×2, carbon13, Fireflyer, SuamaX, rokurouru, tateito
黄昏の切ない紫の中で1人、規律ある疲れたビルの群を歩く。
急かす時間だけを見ている車のランプが作る地上の流星群を見下ろしながら、疲弊した義務で作られているビルの窓明かりを見下ろしながら、歩く。
少女は歌う。
重い都市の濁流を後ろに、1番星の見えない寒空を前に。
駆けるステップをメトロノームに、室外機を背景音にして。
凛とした、誰をも想わない歌声は風に溶けて、彼女のスカートのひらめきが月を隠す。
施錠された彼女の小さな世界で、ただ1人そこに入り込めたはずの少年のことを思う。
暗い路地裏でただ1人、自分の手を握ってくれた少年のことを。
歌声は独り言に変わり、やがて疲れきった笑いに変わる。
その笑いもいずれ枯れる。
そうして、また彼女は歩き出す。頑強な顕示欲の構造物を足蹴にしながら。
彼のくれた赤いペンダントが、排気ガスに曇った月明かりに煌めいて、ふと足を踏み外す。
落ちる。
加速度に理の安心を抱きながら、落ちる。
追い抜いた社会の色は既に遥か後方に。
辺りはもうすっかり暗い。人の欺瞞で出来た灯りから遠ざかって落ちてきた。
夜の天へ、彼女は落ちてゆく。
いないと分かりながら、待っていて欲しいと願ってしまう向こう側へ。
この作品の作者は roneatosuさんでした!
予想結果: roneatosu×3, SuamaX, Hasuma_S, tateito
主人たる老婆はガス灯に息を吹きかけた。
なぜ世界から太陽が消されるのかといえば、それが老婆が定めたルールであるからだ。無論、原始状態から都市の時代まで老婆に対して太陽を維持するための取引の試みや説得、脅迫や儀式といったものは星の数行われてきたが未だに実を結んではいない。現在の最も主要な説として老婆には特定の信念どころか意識すらなく、それは人々が単なる科学的現象に神という人格を見出しているすぎないというものがある。この説は多くの都市民衆とモダン派の学者から支持を得る一方で、辺境的前時代に分類される小規模のカルトと騎士道の戦士からの評判は芳しくない。そもそも老婆について語る人間は少数だ。毎日、夜が来る。大多数にとって結局はそういう当たり前の出来事だ。
全くもって不可思議な時間だ。血液を貪る怪物の伝説。終わりのない哲学的探索。生ける屍にウイスキーが流れ込む。性愛。古ぼけたヴェーパーウェイブのBGM。かすれた青。煤に似た感覚。最も静かな小話。一筋の煙草の煙。明日の幻想。アパートの暗い一部屋で誰かが肉団子を口に含み、滴る汁は星空の下に輝く運河に流れ込む。後悔との対面及び解放。何よりも気高い自分自身を見つけた気になる。麻雀牌の山が崩れ落ちる。そして全知のような気分になって、世俗を寝室に泣き散らす。老婆のケトルが熱でわめき出した。
その共通項こそが太陽の不在なのである。辺りはもうすっかり暗い。今日だって同じなのだろう?
この作品の作者は Ruka_Naruseさんでした!
予想結果: 1NAR1, roneatosu, Ruka_Naruse, Enho_Osho, Hasuma_S, Matcha tiramisu, eagle-yuki
「とりあえず、此処に駆け込んできたのは正解だったろう。褒めてやる」
男は山門に閂を掛け、踵を返すや否やラッキーストライクを咥えた。参道を照らすのはその火だけで、辺りはもうすっかり暗い。師走の寒気が肌を刺すが、今俺を震えさせているのは生憎とそれではない。
「前々から女運が無いとは思ってたが、ついに悪霊を引っ掛けて来るとは。いっそお前が怪異じゃないのか?」
言ってる場合かと抗議する俺の背後から、山門を力強く敲く音が重厚に鳴り響いている。それに負けず劣らずの心音を高鳴らせている、いち早く安全な場所まで逃げ遂せたいばかりの俺と対照的に、その―袈裟を掛けている以外は高校時代と何ら変わっていないように見える―男は僅かばかりも歩みを早めようとはせず、更には本堂を素通りして境内の裏手へと進んでいく。てっきり、御祓いか何かをされるものだと思っていた俺は疑問を言葉にして投げ掛ける。
「お前が毎朝毎晩の勤行を欠かさない敬虔な信者だというならそれが手っ取り早いだろうが、そうじゃないだろう。責めはしない、日本人はそう言うもんだ」
じゃあ如何する気なんだと問いを重ねようとした頃、辿り着いたのは手狭な器具庫だった。
「お前は運が良い、これが夏ならもう少しばかり準備が面倒だった」
男が持ち出してきたのは古びた竹帚と、灯油の携行缶。困惑する俺を尻目に、男は竹箒の頭に灯油を塗していった。そうして仕上がった油臭い得物を引き摺りながら来た道を引き返す。いつの間にやら山門を敲く音は止んでいた。参道のど真ん中に奴が佇んでいる。
それを見止めた男は吸い止しを箒の頭に捩じ込んだ。擡げた箒が忽ちにめらりと燃え上がる。
「祈祷開始だ」
この作品の作者は carbon13さんでした!
予想結果: carbon13, SuamaX, kskhorn, Hasuma_S
娘の生まれた日のことを決して忘れやしない。よく晴れた冬の朝だ。大学を辞めて駆け落ちした女との間の子供だった。この子には俺と妻以外頼れる者はいないのだ、そう思って覚悟を新たにする。これまで堕落続きの人生であった。あらゆることから逃げ続け、その末路が私であった。だが今私の手元には、可能性としか言いようがない彼女がいるのだ。
「この子の名前はもう決めてあるの。この日の朝みたいに、体を熱くする光、何だかわかる?」
ああ、わかるとも、わかるとも、私はその名前に賛成して、私を握る小さな手に優しく握り返す。朝の光が永遠に私たちを照らしていた。
娘は十八歳になった。決して裕福とは言えない生活だったが、私は妻と子を守るために懸命に働いた。一年に一度の誕生日を祝えるほどには豊かだった。十歳の誕生日には、郊外の少し洒落たレストランに連れて行った。フランスのフォークとナイフのマナーを家で練習して、その練習の通りに銀食器を操った。その子の拙い手つきが、なぜだか本当に嬉しかった。昼間にある太陽のような笑顔だ。
「ありがとう」
その娘が帰ってこない。会社から帰宅して直ぐにそのことを妻から伝えられると、私はたまらず家の外に出た。最近は、ずっとそうなのである。帰りが不自然に多くなってきて、嫌な風体の者との付き合いが多くなる。そこで娘が間違いを犯していたらどうだろうか。自らの体を売り、仄かな自尊心を満たしていたら、あるいは、脳を中毒する薬に手を出して、苦痛の間を紛らわしていたら。そのどれもが、勝手な想像で妄想だ。だから怖い。
夜が来た。辺りはもうすっかり暗い。
この作品の作者は Fireflyerさんでした!
予想結果: Fireflyer, kskhorn, Kuronohanahana, R-00X, Matcha tiramisu
春は出会いと別れの季節だとほざいたバカはいったいどこのどいつなのだろうか。
18時。私はがらっがらの電車の優先席に座っている。薄明が街を照らす夕焼けより少し後の時間。昼は暖かいもののまだ夜になるとうっすらと寒さが残るこの時期が心底嫌いだった——いや、嫌いになってしまいそうだった、という方が正しいのかもしれない。
女に突然振られたからだ。3/14も待ってはくれなかった。LINEで一言、ごめん別れよ、だけだった。
電車は静かにガタゴトと音を鳴らしており、より一層感傷的になっていく。
バレンタインデーに手作りのクッキーをくれた、クリスマスのあの6時間に逢瀬を交わした、紅葉狩りに遠くまで出かけた、お盆前の海水浴後の黄昏時にロマンチックな告白をしてくれた彼女に。王道で学生時代を思い出すような、甘い恋のはずだった。
私は彼女のことを本当に愛していた。それなのに、別れる理由は言ってくれなかった。悔しかった。お前に欠点は無かったのかと言われれば、有ったのかも知れないが、問題のない愛情のはずだった。何より、彼女の行動は全てわかっていたはずなのに、という感情が大きかった。
最寄り駅に到着する。辺りはもうすっかり暗い。時計を確認する。18:14。少し急いだ方が良さそうだった。
誰もいない改札を全速力で駆け抜け、車通りの多い大通りまで出る。
涙を拭きながら走った。ふと夜空を見上げると、十五夜の月は徐々に上っている。狼男のように走る。理性はとうに消し飛んでいた。もはや辛いという感情より怒りが先行している。顔も引き攣っていた。
話し合おう。家に行く。
と書いたLINEに既読は付いていなかった。私はさらに苛立ってきていた。
この作品の作者は SuamaXさんでした!
予想結果: R_IIV, roneatosu, SuamaX×2, Hasuma_S, tateito, Matcha tiramisu, eagle-yuki
午前1時、道路の向かいの居酒屋が消灯する。人通りがそこまで多くなく街灯も少ないため、辺りはもうすっかり暗く、静まり返っている。
部屋の明かりを落とし、薄手のカーテンを完全に閉め切って、僅かな音源である空気清浄機の電源を切れば、この部屋は充分に音と光から隔絶される。
1日の終わり。スマホのアラームをセットし、布団に潜り込む。手には水の入ったペットボトルと、安物のウォークマン。ペットボトルを枕元に置き、ウォークマンから垂れたイヤホンを耳に当てて目を閉じる。流れてくるのは、DLsiteで1000円程度で買った全年齢向けの音声作品。既に暗唱できる程聞いた注意喚起に、ゆったりと意識を委ねる。
暗闇は怖い。過去の失敗を、未来への不安を、否応なしに考えさせられるから。好きな音楽を聴いていたのは最初だけで、直ぐに孤独に打ち負けた。それから、寝る前のストレッチだとか食生活の改善だとかありきたりな不眠対策を一通り試し終えて、最後に辿り着いたのがこれだった。その音声は確かに自分の否定だったが、裏返せばどうしようもない自分を肯定していた。イヤホンから流れ出る言葉を聴けば、孤独に満ちたこの部屋で孤独を感じずにいられた。
別に集中して聞いているわけではなく、ただ自分を罵倒する言葉をぼんやりと受け入れているだけ。それだけで、フラッシュバックする過去のしょうもない失敗を、未来への漠然とした不安感を考えなくて済むから。暗闇と静寂に怯えずに済むから。
1日の終わり。今日もまた、真性のマゾヒストのように罵倒を享受しては、ゆっくりと眠りにつく。
この作品の作者は kihakuさんでした!
予想結果: R_IIV, kihaku×2, Enho_Osho, kskhorn, Kuronohanahana, R-00X, eagle-yuki
思えば飛ばしすぎたのだろう。
春も盛りを越して暖かくなったことだし、相棒に跨って山の夜風を切って涼もうかと、久々のツーリングに洒落込んだところまでは良かった。
あの瞬間私は何をしていたか。落ち葉や砂でも踏んだか、はたまた操作を間違えたか、何かに気を取られていたか。正直私はその瞬間をよく覚えていないが、何はともあれ私は空を飛んだ。相棒がひしゃげる甲高い鳴き声を聞きながら、この夜一番開放的に夜風を切って飛んだ。脳が理解する前に、私は束の間の開放感を肌に感じたまま落ちていった。
地面が前に迫った時、頭に浮かんだのが「相棒はどうなったか」だった自分にほとほと呆れるが、走馬灯らしきものを見なかったのは残念だった。今も生きて懐古できているし、あの時は脳が死にはしないと判断していたか、はたまた脳が鈍くさいだけか。私の体はもはや痛くない箇所が無いが、思考は今なお、やけに明晰であり続けている。
無駄に思考を回らせつつ、背の高い木々の隙間から光る星を見つめていると、ふと、濡れた鉄や土臭い匂いに紛れて、よく嗅いだガソリンの匂いが私の鼻腔をくすぐった。
おう相棒。よく私を見つけたな。生憎私は動けそうもない。私は死の間際にあっても一番に思い出すほどにはお前が大切だが、私自身はお前のように物言わぬ側になりたくはないらしい。
まぁ、痛みも徐々に引きつつあるんだ。またきっと走れるだろう。
胸元のポケットで携帯がなる。午前7時のアラームだったか。あぁもうそんなに経ったのか。少し肌寒いな。予報は曇りだっただろうか。
だんだん耳障りな音も遠ざかる。
相棒の匂いも薄れた。
辺りはもう
すっかり
暗い。
この作品の作者は rokurouruさんでした!
予想結果: carbon13, rokurouru×3, kskhorn, Hasuma_S, R-00X, ShinoguN, Matcha tiramisu
子供の頃、読み聞かせは嫌いだった。
21gが失われる前の君は、蕩けた僕の欠伸を不思議なふうに眺めていて。
『どうして僕はこんなにかなしいのだろう。』
辺りはもうすっかり暗い。君と僕、聴衆の蝉達だけが道路に浮かび上がる。相も変わらず君の間抜けな面はカーブミラーには映っていない様だった。
2ヶ月前君を飲み込んだ川へと石を投げつけてやった帰りなのに。なんて愚痴を吐いても仕様がないからって、また君は笑ってさ。萎んだ向日葵の様にずぶ濡れた君の笑顔は一見何も変わらなくて、僕はまた感情のゴミ箱をひっくり返す。漸く忘れられた筈なんだけどな。
「そうして君は違和感を覚えた様にポケットに手を」
あぁ、なんで今時切符なんて握りしめて。
『カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねぇ。』
『カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねぇ。』
『カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねぇ。』
『カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねぇ。』
『カムパネルラ、僕たち一緒に
君の手を引く。
切符を破り捨てて走り出した。
車の鍵は家にある。禄に運転もした事ない車で、色褪せた朝空の色をした車で。僕ら2人、このまま逃げてしまおう。そう言いたかったのに、僕の口は呼吸に気を取られてすっかりその事を忘れている。
僕達は読み聞かせが嫌いだった。欠伸と共に浪費された幻想に、今更飲み込まれる気なんて毛頭無い。
鉄道の汽笛が君に届いてしまう前に。
「白い鷺が、鳥捕りに捕まってしまう前に」
それでも
僕が握った君の手は、確かに暖かかったんだよ。
この作品の作者は Enho_Oshoさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, carbon13, rokurouru, Enho_Osho×3, R-00X, tateito, Matcha tiramisu, eagle-yuki
「私最後に、観覧車に乗りたいな」
少し前を歩く彼女は、こちらを振り向き言った。
水平線に沈む夕日の影に遮られ、彼女の表情が見えなくなる。
僕は彼女の手を取り歩みを進める。
この手をまだ握っていたくて、少し遠回りをした。
数組の並びを待ち観覧車へと乗り込んだ。
篭った熱気に汗ばむ。
ゆっくりと半円を描き、頂上へと達する。
辺りはもうすっかり暗い。
彼女の顔を見る。
「僕」
そう言いかけると同時に、窓から光が差し込んだ。
空に、花が咲いた。
視野に収まりきらないほどに大きな、光の花弁の集合体。
膨らみ落ちて、そして消えていく。
「あの形は枝垂れ柳といってね。枝垂れ柳自体は奈良時代に中国から入ってきた木で、昔から漢方として使われてきたんだ。日本や西洋では『垂れた枝の陰に幽霊や魔女が現れる』と言われていたんだけど、逆に中国では魔を退ける縁起の良い木なんだって。枝垂れ柳の中には枝が垂れない種類もあって、最初に『枝垂れる柳』だなんてつけてしまったもんだから枝垂れない枝垂れ柳が存在するんだ。これと小米柳という柳の葉とがすごく似てるんだけど、両方が多く生息する関東では2つの区別が付きづらくって――」
「横槍が入るとすぐ話が逸れて捲し立てるの、貴方の悪い癖よ」
「そうだね、ごめん」
息を整える。
「こんなに大きな枝垂れ柳の下で、また君といれることがとても嬉しい」
微笑む彼女と再び向き合う。
「僕は君が好きだ。ずっと昔から」
「知ってる。私もよ」
「知ってる。やっと言えた」
「この4日間、楽しかった?」
「もちろん」
もうすぐ円の始点へと帰る。
まだ夏は続く。
空には色鮮やかな花が咲き誇っている。
なんて華やかな送り火だろうか。
この作品の作者は kskhornさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, kskhorn×2, Kuronohanahana, ShinoguN, Matcha tiramisu
フロントガラスの向こうから朱色の逆光が差し込む頃、真実2割の嘘をついた。
「ちょっと遅くなるけど休んでいい?運転疲れたからさ」
いや、嘘ではない。本日の運転は朝6時から休憩を挟みつつ、締めて7時間ほど。
助手席の主は3時間の帰り道ですっかり船の漕ぎ手となっていた。
「……ん、いいよぉ。ごめん、寝ちゃってて」俺が逆の立場だったとしても同じだろうから責める謂れは無い。
人気の無い駐車場に車を停め、大きく一伸び。きゅーっと関節や筋肉が伸びていく音まで聞こえてるようだ。
「ありがとね。疲れたでしょ?」と助手席から覗き込む顔。まだ少し眠気があるのか、目つきが怪しい。
そっと頬に手を伸ばし、触れる。我慢できそうにない。唇を寄せる。それを割って舌が入ってくる。
あの言葉を嘘だと分かってくれたのだろうか。分かっていて、いいよと言ってくれたのだろうか。
はっきりと分からなくても、今この首元に回してくれた腕を一つの答えにしてもいいのだろうか。
腰を引き寄せて、浅く息をつく。シートの間にあるシフトレバーたった1本分の距離が、今心から憎たらしい。
たっぷりと時間をかけて、唇が離れていく。無理な姿勢をとった背中がキツい。
それでも、もう一度とばかりに回した手に力を込めて引き寄せる。
「ダメ。ダメだよ。」細い体が、動きにくいシートの上でじりっと離れようとする。
「遅くなっちゃうし……それに、こんなところだし。」
「ダメって言ったら、やめてくれるよね。君は優しいから。」
その『嘘』に何割の真実が含まれていたろうか。
自分の首元に回された腕が、未だに熱を伝えている。
アイドリング音と心音の中でその裡を測りかねていた。
辺りはもう、すっかり暗い。
この作品の作者は Hasuma_Sさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, carbon13, kihaku, kskhorn, Hasuma_S×3, tateito
息が切れ、その場に倒れ込む。追手は来ない。ならば、これは私のものだ。盗品を握り締め一人呟いた。気がつくと、辺りはもうすっかり暗い。ならば、無理に夜の森を抜ける必要はないだろう。
"地図にない集落の宝"。それは私の両手の上にあり、焚き火に照らされている。私はこの小箱の価値が何もない私を救ってくれると信じていた。次の行動は明朝に。私は火を消した。
突然、草むらが揺れる。咄嗟に警戒体制を取る。足音はない。ならば、動物か。私が状況を分析していると、何かが飛び出した。
私は目を疑った。それが小さな女の子の頭だったから。目が合う。それはにこりと目を細めて笑った。あなたは誰。こんな時間に何を。思い浮かんだ言葉は喉で止まる。
何故なら、それの後頭部に黒い線が突き刺さっていたから。ぐしゃ、と音が鳴り口が動き出す。しかし、意味のある言葉はなく、呻きのような、喘ぎのような声が漏れ出た。逃げろ。本能がそう叫ぶ。だけど、その虚な目は私を離さない。動け、動け私の足。動──
足、衝撃、遅れて痛み。叫ぶ。涙が溢れる。下を見るとそこにはあの黒い線が私の両足にも突き刺さっていた。それを抜こうと右手を伸ばす。しかし、右手が背の方へ吹き飛ぶ。痛い、熱い。涙に大粒の汗が混ざりぐちゃぐちゃになる。震える右手を正面に戻すと、手首から先が千切れていた。
「こ、れ一緒の」
身体のない顔が私を覗き込む。意味のない表情なのに、私はそれを歓喜と読み取った。
「印」
私は生首から伸びる無数の黒い線、いや黒い手に頭を包まれる。それは意図も容易く頭の中に沈む。溶けて、解けて、私は、わた
「これか、ら、よろしくね」
──うん、わかった。
私は身体だけ崩れ落ちた。
この作品の作者は Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: Fireflyer, kihaku, Kuronohanahana×7, eagle-yuki
辺りはもうすっかり暗いというのに、昼に照りつけた太陽の残熱は未だに主張している。僕と彼以外には誰も居ない夜の公園。半袖から伸びる白い腕の先に、色とりどりの火を咲かせて遊んでいた。
「そっちの火ぃ頂戴」
「どーぞ」
「どーも」
彼の方から火を移してもらう。火薬に点火するまでほんの数秒、ふたりでそれをじっと見た。やがて色鮮やかな炎の花が咲き乱れる。
「わっ」
「おぉ~」
ぱちぱちと弾け飛ぶ火の粉を見て、ふたりして歓声を上げる。花火なんていつ以来だろう。最後がいつか思い出せないくらい久しぶりだけど、こんなに綺麗だったろうか。
「暑ぃな」
「暑いね」
汗ばむ肌を、生ぬるい風がゆっくり撫ぜる。花火から出た煙が流れていく。
「なぁ、お前さ」
不意に彼が口を開いた。少し掠れた声にはどこか力がない。彼の花火は急激に勢いをなくし、ただの燃えカスになる。彼はそれをバケツに放った。水面が波立つ。
「俺のこと好きなの」
僕の花火はまだ元気よく燃えている。眩しいそれを見つめながら、僕は答える。
「好きだよ」
「……そうか」
しばらく沈黙が続く。僕のも燃えカスになって役目を終える。彼と同じようにバケツに放った。
「なんで」
「何が」
「なんで好きなの」
コンビニで買った、手持ち花火の詰め合わせ。最後まで残しておいた線香花火を取り出し、火をつける。小さな丸い玉ができる。
「わかんない」
「なんだそれ」
「でも好き」
「ふぅん」
ぽつりぽつりと会話しつつ、僕らは線香花火を見つめた。小さな花が幾つも咲いて、最後は呆気なく落ちた。
「キスしたいって言ったら怒るよね」
「別に怒らんけど、やだ」
彼も線香花火を取り出した。僕の火を移してやれない事が寂しかった。
この作品の作者は R-00Xさんでした!
予想結果: R-00X×3, ShinoguN
辺りはもうすっかり暗い
夕陽を呑み込む稜線は
橙色にかたどられ
闇夜を纏うまで少し
人の光にうずもれて
時の流れを忘れ去る
私の心を驚かす
窓の向こうのその闇が
夜の帷を翻し
仄かな星を仰ぎ見る
帰路を辿りし喜びも
掻き消す夜の在るが儘
垂れ込め茂る道の木々
地平を改む摩天楼
全てを己が額縁にして
只々夜は、そこに在る
この作品の作者は ShinoguNさんでした!
予想結果: 1NAR1, ShinoguN×3, tateito, eagle-yuki
【月星が円弧の頂点に差し掛かる頃合い、中央塔の一室にて】
「第3区画の辺りはもうすっかり暗いな」
「アブラがあんま行き渡ってないのですよー。行燈の作られる前かってレベルでみんな早寝早起きを心掛け始めたみたいですねー」
ハルの間延びした声と皿をテキパキとかち合わせる音がリズムの不規則な旋律を奏でる。手の速さで雇ってみたはいいが口の遅さや多さと合わさるとどうしてこう、奇妙なメロデイになるのだろう。
「子供にいくら言い聞かせても夜更かしをやめないとボヤいてた親がみんな喜んでるみたいなんですねー。口よりも神の見えざる手の方がよっぽど効果あるってことでしょうねー」
「……そうなると増給申請はしない方がいいのかもな」
「しても突っ返されるのがオチなのでー。今に第3だけの問題じゃなくなるの分かってますー?あ、用意できましたー」
ワインの支度を済ませたハルが妻を呼びに下がることで静寂が訪れた。彼女がいない時のこの静けさに対してなぜか抱いてしまう居心地の悪さは私と妻が久々に共有できたものだ。では毎晩眺めているこの皇都の眺めはどうだろう?一画が変わるだけでどうも違和感は拭えない気がするが、これも分かち合うことができるのか。答え合わせは間もなくだった。
この作品の作者は tateitoさんでした!
予想結果: roneatosu, Fireflyer, SuamaX, kihaku, rokurouru, Enho_Osho, kskhorn
「次のお便りはラジオネーム、『辺りはもうすっかり暗い』さんからの人生相談。
大学全部落ちて浪人決定しました。人生を一年無駄にしたかと思うと恥ずかしくて悔しくて涙が出ます。親からも来年受からなかったら家から出ていけと言われました。友達が新生活の準備をしているのを聞いて最悪の気分になる私はこれからどう生きればいいのでしょうか?
なるほど、ラジオネームはお先真っ暗って意味ね?いやでも浪人をネガティブに捉えすぎだよ。ただでさえ暗い世の中なんだから良いとこ見ていかないと。例えばさ、どこ狙ってたか知んないけど一年勉強すればもっと良い大学に受かるかもだし、一年浪人ってことは社会に出るまで一年猶予が増えたって話でもあるじゃん?俺も社会人の端くれだけど、社会生活なんてロクなことないしさ。それに今は大学生も単位とか大変だし、時間がある今こそ一人で自分探しの旅、とか洒落込んで見るのも面白いかもね。なんにせよ浪人生活を強いられるとか考えるんじゃなく、浪人で得られることを考えた方が有益だし気分も良くなるんじゃないかな、ってところで人生相談の答えになったでしょーか。では『辺りはもうすっかり暗い』さん、勉強頑張って下さいね」
「お疲れ様です」「お疲れ様です」
地方のラジオ局MCなどでは食ってはいけない。これから原チャで帰って4時間寝て、起きたら工場のバイトに行く。雨がタイヤを滑らし視界を妨げる。煙草を切らした事を思い出す。
「73番」
シャッター街のネオンは消えて久しい。コンビニ外の灰皿は赤錆て歪んでいる。100円ライターはカチカチというばかりで一向に火が灯らない。
辺りはもうすっかり暗い。
この作品の作者は Matcha tiramisuさんでした!
予想結果: roneatosu, Enho_Osho, kskhorn, ShinoguN, Matcha tiramisu
ごめん、今すぐ駅近のジョイフルまで来て。
今すぐ
午後5時、先輩からLINEが来た。
よそ行きの服装にバタバタ着がえながら、ざっと髪型を整える。
「LINEから8分、思ったより速いね。合格。」
「その為だけに人呼び出したんですか?」
「まっさかぁ、ちゃんと大事な話だよ」
立ち漕ぎで乱れた呼吸を烏龍茶で整えながら、先輩の前に座る。
「まぁ、結論から入るんだけどさ、」
先輩が身を乗り出す。
自分も顔を近づけ、片耳を向ける。
「今日、彼氏を殺したんだよね」
乗り出していた身をゆっくり戻す。
「……はぁ」
「はぁ、じゃないよ。もっとなんか、こう……怖くないの?人殺しを前にして。」
「まぁ、あんまり。」
先輩は分かりやすくため息を付いた。
「なんか、話しがいが無いなぁ」
「先輩から彼氏のヤバい所は散々聞かされましたし。なんか、自業自得かなぁって」
「もしかして君、オカシイ人?」
「先輩に言われたくないですよ……もう帰りますね。」
「いやいや!待って!お願い、お願いがあるの!」
ここで先輩のお願いを聴いたら駄目な気がした。
「あっはっは、これで君も同罪だねぇ」
「……」
「いや、助かったよ。女手一つじゃ死体もろくに埋められない。」
「……警察は?来るんですか?」
「分かんない。まぁ、来たら来た時でしょ。」
「はぁ……」
「君もその覚悟があって運んだんでしょ?……一緒に来なよ。アパートに1人じゃ寂しいんだ。」
辺りはもうすっかり暗い。
先輩の車には、彼氏だった臭いが充満していた。
この作品の作者は eagle-yukiさんでした!
予想結果: roneatosu, kihaku, Enho_Osho, tateito, eagle-yuki
「俺、お前には葬式来て欲しいなァ」
はあ、と我ながら随分淡白な返事が出た。
「アレやってくれよ。後輩代表スピーチみたいな」
「いや結婚式じゃないんですから。そもそも僕、先輩の親族と会ったこと無いんで。気まずいから行きません」
「んだよぅ。これから死ぬ人間に、そんな冷たいこと言うなよぅ」
そう。この人はこれから死ぬらしい。今日一日、「最期の思い出作りに」と僕を色んな所に引きずり回してきたこの人は、夕日が完全に水平線に隠れた瞬間、ついにこの崖から身を投げるんだとか。とんだ馬鹿だ。
「あ~。やっぱ良いよなあ、海に沈む夕日。幻想的で終末感ある。死ぬにはもってこいのロケーションだと思わん?」
「いえ、普通に綺麗なだけです。夕日見てそんな悲観的な感想が出てくるのは、諸々終わってる人間だけです」
「あれ?今俺のこと『終わってる人間』って言った?」
そりゃ一度の失恋程度で自殺しようと考える人間は終わってるだろう。
「しかし、今日は楽しかったな。流行りの映画見て、カラオケでデュエットして、ファミレスで吐きそうになるまで食って、砂浜で城作って。こんなに遊んだの、ガキの頃以来だ」
「そうなんですか?僕は友人と今日みたいに遊ぶことありますが」
嘘だ。一日の内にここまで色々やることはない。
「そっか。いいなぁ、楽しそうなことしてんだなお前」
「……別に。誘われれば、いつでも今回みたく付き合いますが」
そうだ。だから、どうか。
「……俺、お前と遊んでて考えてたことあんだけど」
「何です?」
「やっぱ、まだ死にたくねぇわ」
夕日はとっくに沈んで、辺りはもうすっかり暗い。
僕は。僕と先輩は。
クソッタレな黄昏を乗り越えて、海上の星を見上げていた。
B グループ
この作品の作者は Nununuさんでした!
予想結果: Nununu×3, ShicolorkiNaN, santou, nabes
最寄駅のバスターミナルに向かう足取りが重いのは、この一週間の疲れのためだけではなかった。
定時帰りを約束したのに、厄介な上司に絡まれて残業するほかなくなってしまった僕は、量だけ多い作業をなんとかこなして帰路に就いたのだった。
バスを降りると辺りはもうすっかり暗くて、雲のかかった満月が真上から僕を見下ろしていた。反抗期の彼女はともかく、まだ幼い彼はもう寝てしまっているだろう。本当に町内会が管理してるんだか分からない薄汚れた電灯の下、明日なんと申し開きをするか悩みながら、でこぼこしたアスファルトを歩いていく。周りの家はわずかな窓からカーテン越しに灯りが漏れる程で、我が家も案の定、灯りを漏らす窓は一つも無かった。
僕は鞄から鍵を取り出して、寝ている息子を起こさぬように、そっと静かに錠に挿し、回して、ドアを開けた。
「…ただいまぁ」
しん、と冷えた廊下は真っ暗で、人の気配が無い。ドアに向き直って鍵をかけようとした、その時だった。
ぱっと点く灯り、乾いた破裂音、舞い散る紙吹雪、それから
「「「お誕生日おめでとう!!」」」
笑顔が三つ、咲いていた。
この作品の作者は Ryu JPさんでした!
予想結果: Ryu JP×2, meshiochislash
「またね」の一節を脳髄で何回かリピートした。
時間が経ちすぎて、もう曖昧になっていた。鮮明と言える顔や声は何一つ無くなっていて、交わしたやり取りだけが抽象的に刻まれていた。
桜が咲いた後だった。第二ボタンを乱雑に捻り取ったもう要らない制服を着た、長々しい理事長の話やら担任の餞別すらも受け取った後だった。確かするべきとでも思い込んだ、その無謀な告白は体育館の裏だった。不釣り合いで叶うはずも無かった行為で、だけど在り来りな再会の誓いが成された。多分きっと、その時に澄み渡った瞬間は完成した。きっとそれが今までの希望であって救いだった。
真に受ける程の意味もない、単なる社会性の脊髄反射。過去の光景は今の今まで数年前から静止したまま。経った足跡を数える事はとうに辞め、気付けば世界も様変わりした。誰も彼もの価値観すら塗り替えてしまうのに、記憶が消えない訳もない。それでもきっと、諦める事ができなかった。
結局の所、覚えすらされなかった言葉をいつまでも覚えていた。見知った顔は家族すら持つだろうに、未だにあの夕焼けの三文字に固執した。果たされる事は無いと知っただろうに、どうしてそこまで縛られるのか分からなかった。とうにあの日も暮れているのに、いつまでそれを繰り返すのか怖くなった。理解も出来ぬまま、深夜の部屋に寝転んだ。
液晶の中、とっくに忘れた一つの名前が再会を求める言葉で埋め尽くしてた。途中からは読む気すら失せ、薄ら寒くて拒絶した。
辺りはもうすっかり暗いのに、置いていった君はまだ、夕焼けの一節に立ち尽くしてる。
約束を果たす事はなく、脳髄は三文字を忘れていく。
この作品の作者は ShicolorkiNaNさんでした!
予想結果: Ryu JP, ShicolorkiNaN×2, Tutu-sh
り…………
……り………
「ああ、こんな所に、人が、何で、いるんだ?」
ああ、こんな所にまで、人が、来てしまうの、ですね。
貴方みたいな、人が、迷わない、為ですよ。
「へっ、俺の名を、知っちゃ、そんな言葉、言えないだろう」
辺鄙な場所だと、思っちゃあ、いけませんよ。
りんとした、鈴の音が、来る時に、聞こえた、でしょう。
はて、と思って、あなたの様な、人が、来るんですよ。
もしかしたら、この先に、進む、つもり、でしょう。
「うだうだと、言うんじゃない。俺の強さも、何も、知らない、癖に」
すみませんが、知っていたとしても、あなたを、止めた、でしょう?
っ、ああ、ですから、刀を、収めて、下さいませ。
「からかっている、だろう。お前は、無礼者だ」
りょう、了解、致しました。貴方を、通しましょう。しかし、しかしながら。
暗くなる前に、戻って、下さいよ。
「いい加減に、しろ。まだ、日も高い。それまでに、用を、済ませて、戻れる、だろう」
ほら、だったら、貴方だって、上を、見上げは、しないの、でしょうか。
「莫迦を、言うな。まだ昼なのに。ああ、なんという事だ」
あら。
ああ。
あれ程に、言ったでは、ありませんか。
「あれは、何だ。俺は、どうなって、しまうんだ」
ああなって、しまったならば。もう、逃げられも、しないでしょう。
ああ。
「ああ、やめて、くれ。助けて、くれ」
ああ。
ああ。
あそこまで、崩されて、しまったならば。もう、戻せも、しない、でしょう。
「ああ、やめてくれ。駄目だ、死にたくは、ない」
上を、見上げてしまいなさい。
それが貴方の、最期の声に、なるでしょう。
……り…
…り………
この作品の作者は pope3pape does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: ShicolorkiNaN, TOLPO, watazakana
たとえば、”タバコ”よりも”cigarette”の方が美しいように。”ヴェネツィア”が”ベニス”よりもよほど夢見る響きを持ち合わせているように。事物には相応しい単語というものがあって、見通しの悪い夜道をとぼとぼと歩いていた私が彼に出会ったときは、ああ、「あをぎつね」が彼にはいっとう相応しい、と、そう思ったのだ。
『辺りはもうすっかり暗いのに、こんな山奥でなにをしておられますか』
当然のように人語で話しかけてきた、青い毛皮のきつねの仔。器用にも二本の脚でちょこんと立っている。
「これはこれは送り狼さん。家まで送ってくださるか?」
冗談めかしてそう尋ねると、見目に似合わぬしっかりとした口調で応える。
『あいにくですが、これでもぼくはきつねです。野蛮なやつらとちがって、ころんだ人をたべたりなんてしません。』
すべてを見ようとしているみたいに澄んだ白っぽい瞳、どこまでも深い海の底と夏の晴れ渡る空のあいのこのような藍をした毛皮、手中にしっかり握りしめるは誰のとも解らぬちいさなしゃれこうべ。メランコリイの気配を漂わせるかれの名前は「あをぎつね」だ、きっと。他の何でもなく。
『近くの、ひとの道まで送っていきましょう』
そう云ったきつねの身に纏う雰囲気はあやかしらしからぬ穏やかさで、あるいは誰かの紡いだ言葉から生まれた存在なのではないか、という思考が思いの外しっくり来た。
山中怪異見聞録 第238章 『あをぎつね』(初稿)
真っ青な毛皮をしたきつねのこども。人語を解し、低危険度。迷った人間を道路まで送って行ける程度に友好的。
特徴から鑑みるに、火野葦平の詩集「青狐」と関係か?柳 悠一郎 記
この作品の作者は izhayaさんでした!
予想結果: izhaya, nabes, aster_shion, EianSakashiba
「見えてきたわい」
友三は汗を拭って、真っ黒なお山を見上げた。
辺りはもうすっかり暗い。
友三は大事な荷を背負い直して、きつい坂道を登り始めた。
『あの山の峠には鬼が出る。』
爺様から聞かされた言葉が頭の中でわんわんと繰り返す。
だが、医者の住む街に出るにはこの道しか無い。
いつもなら街の宿で一晩明かすのだが、そういう訳にはいかないのだ。
峠道の半ばで、背後から何者かの声が友三を呼び止めた。
「友三やい」
それは友三の知っているどんな声とも違った。
友三はひゅぅと息を呑んだ。
鬼が出たのだ。
「友三やい、何を背負っておるのじゃ」
友三はがたがた震えながらも、更に歩を進めた。
返事してはならん。振り向いてはならん。
爺様はそう言っていた。
「友三やい。重そうじゃのう」
だが、峠道は本当に急なのだ。
友三はすぐにふぅふぅ息が切れ始め、とうとう友三は立ち止まってしまった。
「友三やい、代わりに背負うてやろうか」
友三は要求が思いのほか簡単だったことに安堵した。
大事な荷を渡す事は出来ないが、何かを渡せば逃げられるかもしれない。
何より、峠道を登るのは、疲れてしまった。
ならばいっそ。
「友三やい」
「ああ、こっちを頼む」
ごうと風が吹いた。
友三はまばたきして、抱えていた荷を眺めた。
「はて、なんじゃこれは。何故薬を持っておるのじゃ。わしはこの通りぴんぴんとしておるのに」
友三が振り返ると、街の明かりが暖かそうに煌いている。
「峠の向こうで待つ人も、わしにはおらんのに」
友三は踵を返し、街の宿で休むために峠を下って行った。
鳥か何かがぎゃぁぎゃぁと、藪の向こうからあざ笑うように鳴いていた。
この作品の作者は kata_menさんでした!
予想結果: Ryu JP, kata_men×3, nabes, meshiochislash
辺りはもうすっかり暗い。
最寄りの駅から自宅に帰るには、必ず線路脇の小道を通る必要がある。街灯はあるものの、日が落ちると少し不気味に感じるような小道だ。
カツカツと自分のヒールの音が耳に入る。この小道と暗さが生み出す不気味さも、今となっては慣れ親しんだ様なものになっていた。
カツカツと音が聞こえる。自分が生み出す一定のリズムを聴いていると、ふとあるタイミングで、まるでもう一人いるかのように2つの足音が聞こえた。おや?と思い後ろを振り返る。
辺りはもうすっかり暗い。
気のせいかと思い足を進める。するとその足音は私のリズムとは違う旋律を奏で始めた。それはまるで走ってるかのようで。
後ろを振り返る。
辺りはもうすっかり暗い。
横を電車が通る。同じタイミングで走り出した。
見慣れた帰り道を走り抜け、自宅であるアパートへと転がり込む。急いで鍵を閉め、その場に座り込んだ。
荒れた呼吸を落ち着かせ、部屋の電気を付ける。窓の外に広がる暗さが気持ち悪く感じる。とっととカーテンを閉めようと窓に近づいた。
辺りはもうすっかり暗い。
居た。
この作品の作者は santouさんでした!
予想結果: Ryu JP, izhaya, kata_men, santou×2, Tutu-sh, EianSakashiba, meshiochislash
汚れた雲が広がる頭上から空を切る音がする。
自身の心臓が跳ねたような音を鳴らす。
生命を消し去るための球体が地に向かって降りていく。
遠くもない所で大地が抉れて、土と肉が舞い上がる。
空を征く機体は弧を描いて戻ってくる。
対してどこからか弾が放たれ、銀色の翼は堕ちていく。
脅威は去ったが、戦場において安堵する瞬間などない。
銃身を握る腕の震えは止まらない。
連日続く雨のせいで、塹壕の中はひどい湿気を保っている。
蒸れたヘルメットから汗が垂れ、足元に零れる。
土の味が味覚を侵し、硝煙の匂いが嗅覚を奪う。
怒号はこの棺桶の中で木霊して、聴覚を忘れさせようとする。
冬の棘が身体を突き刺し、足先の感覚は既に失われた。
狭苦しい灰色の小世界も、もう見飽きた頃であった。
その時、味方が土埃の先に巨体を見たと叫ぶ。
即ち、それは自分の出番を指し示す。
弾を銃口に詰め、安全装置を外す。
重い腰を上げ、己が心を奮いたたせる。
塹壕から身を乗り出せば、死への距離が近くなる。
だがここから逃げだしてしまえば、生きる価値はなくなる。
辺りはもうすっかり暗い。
しかし轟音は鳴り止まない。
主催からのお知らせ: こちらの作品はストレージサイトを利用しており、URLを辿ることで著者を簡単に特定出来てしまうことが判明しました。公平性を期す為、ここで著者を公開するという処置を設けさせて頂きます。
author: hallwayman
追記: 本人からの要望があった為、本文を非公開とさせて頂きました。ご了承ください。
この作品の作者は Dr_Knottyさんでした!
予想結果: izhaya, Dr_Knotty×2, EianSakashiba, meshiochislash, watazakana
熱い空気が揺らいで、立ち尽くす女の煤けた服や顔を撫でる。乾ききった空気が容赦なく目の水分を奪う。じっとりと汗で濡れた髪が顔に張り付いている。それら全てに頓着する事なく、女はただ目の前の炎が勢いを落としてゆくのを微動だにせず見つめていた。
恋した男の家であった。でも、そうではなくなってしまった。だから、最後の挨拶にと抜殻に火を放った。火を放った以上は、見届ける義務がある。
炎は全てを舐め尽くして、役目を果たして消えようとしている。辺りはもうすっかり暗い。彼女はほっとした心地で微笑んだ。もう大丈夫。だれも、あのなつかしい私たちの家には踏み込めなくなったのだもの。
踊る炎の向こうに、微笑みを裏切って黒い人影。彼女は眉を顰め、少女のように首を傾げた。
悠然と現れた男が嗤う。それを目にした瞬間、全ての直感が”危険だ”と告げた。
「ククク……放火犯は現場に戻るとは言うが、こうも堂々と突っ立っているとはなァ……侮りか、従順さか。まあどうだっていいさ、結局は俺の手でお縄になるんだからよォォォォ!!!」
「この流れでこういう警察が来ることってあるんですね」
然り。犯罪者の事情などには頓着せず、態度を変えることもない。法治国家における警察の正しい在り方である。
女はたおやかに目を伏せる。視線を落とし、腰も落とす。そして、力強く踏み込み──前へと跳んだ。
別に、逮捕されてもよかったのだ。目的は果たし、愛した日常の残骸は灰燼に帰した。ただ、衝動が残っていた。警察は「それでいい」と嗤い、腰を落とし──仲間に合図して女を取り押さえた。
「この流れはバトルじゃないの?」
「決闘罪ってものがあってなァ」
法治国家の正しい姿である。
この作品の作者は Tutu-shさんでした!
予想結果: santou, Dr_Knotty, TOLPO, meshiochislash
「では最後です。貴女の家は火葬ですか、それとも土葬?」
A4の書類にペンを走らせながら眼前の男は問いかけた。冷え込んでいるというのに子どもの遊ぶ声が聞こえる。外の音がそのまま通るほど屋内は静かだった。
今どきの日本で土葬なんてそうやらない。祖父が逝ったときもそうだった。人は死ねば棺に入り、焼かれた後の灰は骨壺に詰められる。そして雨が降り、風が吹く中で、ひっそりと立つ墓石の下に無言でいる。父母だってそうだろうし、私もじきそうなるだろう。昔飼っていたレトリバーは畑の傍に埋めてあげたが。
「火葬です」
一言答えて、差し出されたコーヒーをすする。正直言って苦味は好むところではないが、なるべく味蕾に触れさせずに喉奥へ流し込む。いつしか湯気は昇らなくなっていたが、それでも温かく感じられる。ほっと息をつく。
「ふむ……」
男は黙り込んだ。銀に縁どられた腕時計が沈黙の中で針を鳴らす。
「すると他殺ですね。それも死体遺棄の可能性が高い」
「は?」
意味が分からない。脈絡が読めない。他殺?死体遺棄?問おうとする私を前に、彼は人差し指を立てて私の動きを止めた。
「ご自宅や病院だったか、あるいは警察が回収したかすれば、きっとご遺体は焼かれることでしょう。しかし貴女は寒そうだ。カップで暖は取れました?」
「いや──」
「ああ。もっと前提の部分ですか」
男は納得したように笑みを浮かべ、玄関の方へ手を伸ばす。既に夜になっていたのか、ガラスの向こうは漆黒だった。ドアを隔てて子どもたちが遊んでいる。転がるボールを追いかけて、見慣れたクリーム色の何かが動く。
「あのワンちゃん、ずっとお待ちだったんですよ」
辺りはもうすっかり暗い。
この作品の作者は nabesさんでした!
予想結果: Nununu, ShicolorkiNaN, kata_men, nabes, TOLPO, meshiochislash
吾輩は狸である。名前はポン太であるらしい。
住宅街のゴミ捨て場に夢中になっていた際、人間の子供が吾輩をそう呼んでいたのを記憶して居る。吾輩は少し前まで只の狸であった。しかし他の狸よりも多少なり向上心があった吾輩は森を離れ人間の住むこの都会にやってきたのだ。シティータヌキなのだ。ここは良い。メシがうまい。とにかくうまい。かつての吾輩の好物はミミズであった。ミミズ、なんだミミズって。もうあんなもの見かけても食ってやらんのだ。この辺のはなんか干からびてるし。まあ、一応は食うが。うん、まあ、そう、そうだ向上心。吾輩は目的があってこの都会にきたのだ。グルメは二の次だったはずなのだ。ゴホン、何を隠そう吾輩は化け狸である。名前は特に無い、まあポン太でいいのである。化け狸の本懐といえばやはり、人間を化かすこと。吾輩は過去の人間たちとの関係に憧れてここにきたのだ。何十年だか前はそりゃあ楽しく人間と化かし合いをしていたらしいが、現代じゃご存知の通りである。ずっと昔の爺様達は鉄の猪がどうとか言ってたみたいだが、今じゃ科学の発展どころかCGだAIだYouTuberだとか、なんだそれ。だから。だから変化の術だけでは駄目なのだ。化け狸なんて変な組織に捕まって終わりなのだ。そもそも誰も興味なんて持ってくれないかもしれないのだ。人間たちと同じ世界に生きなければなにも始まれないのだ。この時代の戦い方をしなければ。だから吾輩、YouTubeに登録してやったのだ。ここなら種族すら関係ない。現代の狸の本気を見せつけてやるのだ。今夜こそが†大妖怪ポン太†様の幕開けなのだ。さあ、辺りはもうすっかり暗い。配信開始なのだ。
この作品の作者は TOLPOさんでした!
予想結果: TOLPO×2, watazakana
日中、雨が続くと体は動かなくなる。気圧の話は置いておくとして、「体が動かなくなる」というのは事実だ。休日なので少々遅く起きるにしても、せいぜい午前の10時とかそこらだったのが、雨の憂鬱さにやられて、午後の2時まで寝てしまうことはザラにある。夜からずっと寝ているというわけではなく、一瞬、ほんの5分ほど起きている時間こそ存在するが、布団から出ることはない。外のじめっとした空気と、降る雨の音が、起きようとする気力すら、根こそぎ奪っていく。
さて、雨もやや弱くなり、ようやっと起きてみることにする。時計を見てみれば午後3時前。朝ご飯を食べるにしてはだいぶ遅く、昼ごはんにしてもかなり遅い時間。冷蔵庫からヤマザキの肉まんを取り出し、レンジでチンして食べる。いつもと変わらぬ皮の甘みと、肉の旨み。アツアツに温めているわけではないので、火傷はしない。食べ終わり、やや体が動くようにはなってきたものの、気分はどこか遠いところへ飛んで行っているようだった。寝すぎたせいだろうか、体のだるさが少し残っている。かと言って今更寝られるかと言えばそうではないので、何らかの時間潰しをする。
タブレットを取り出す。何か、映画でも見てみようと思ったが、少々カロリーが高い。つまるところ、気乗りしない。ゲームをしてみようとも思ったが、ログインボーナスだけ貰って終わりだ。
結局、ろくに何もしないまま時間だけは過ぎていく。時計は午後の6時を示していた。辺りはもうすっかり暗い。部屋の中など、言うまでもない。明かりを点けることすら億劫になる。弱い雨の音だけが、微かに響いていた。
この作品の作者は aster_shionさんでした!
予想結果: Nununu, santou, Dr_Knotty, nabes, aster_shion×3, Hoojiro_san
暗くなる前に帰りなさいね。
母が最期にそう言ってから、もう何年になるだろう。ああ、夢現の透きに廻らす思考はいつも疑問から始まってナイーブで、解決策に欠ける。 一体何度目?
そう、しっかり考えないといけないのだ。そろそろ、すでに手遅れでも。私はこれからどうするか。あの時一体どうするべきだったのか。おぼろげな過去に見切りをつけて、空を見上げて進まなければならない。
飛行機雲を辿るのではなく、北極星を道しるべと。
あの日、父が母を捨てたあの日。母の身体が動きをなくしてから、三年がたったあの日。
私は何も持ってなかったから。経済力も、裁量も。それに向き合うだけの心も。
父なりに悩みぬいて決めてことだったのだと、今ならそう思う。
思考が明瞭になっていく。脳みそをポピドンヨードの水槽につけたみたいに。
私がいけないのだ。家出も、5年もいろんな他人の家を渡り歩いていることも。
リモコンのスイッチを押す。
辺りはすっかりもう暗い。外では日が昇っているというのに。
ごめんね、帰れそうにないや。
この作品の作者は MtKani_666さんでした!
予想結果: Nununu, Ryu JP, ShicolorkiNaN, pope3pape, izhaya, EianSakashiba
辺りはもうすっかり暗い。とある死神の保有する、寿命のろうそくを灯しておく洞窟に扇風機を持ち込んだやつがいたからである。長いも短いもしらじらと安らかに、蝋たちは静止している。どれだけ微小なものを手繰っても、洞窟に熱の気配はない。此処に住む死神は、まだ帰らない。ゆえに、その惨状をまだ知らなかった。
辺りはもうすっかり暗い。やがて、たった一つこうこうと燃え盛る青い炎。男は、立ち並ぶ大小のろうそくたちを懸命にガスバーナーで炙っていた。か細い芯めがけて丁寧に火を与えても、蝋燭たちはびくともしない。男は、最近見つけたひみつの穴場としてこの洞窟を知っていた。ゆらめく炎たちが安らかな気持ちを誘うようで心地よく、男はたびたびこの場所を訪れていたのだ。しかしある日やって来たら、ろうそくはすべて消えていた。あろうことか男は、自らの大親友に二人だけの秘密としてこの洞窟を教えようと画策し、今晩連れてくるつもりだったのだ。下見のつもりで立ち寄った時、異変に気づく。幻想的な光たちがひとつも無いことに。男は、これじゃ約束を果たせないと慌てて家にガスバーナーを取りに戻り、ろうそくを炙っている。彼の実家は回転寿司屋である。
そうして男は死神と鉢合わせ、その怒りを買い殺された。男の走馬灯には、数時間前に別れた親友との会話が遠く煌めいている。
「人を殺すなら何がいい?」
日常のふちの、ありがちでくだらない質問にも親友は
「警察には思いつかない方法で!」
と一言答えるだけだったのだ。使ってみたい凶器という質問は「扇風機とか?」と躱されたっけ。
変わっているけど良いやつだった。
そんなことを思い、男は死んだ。
この作品の作者は EianSakashibaさんでした!
予想結果: Ryu JP, nabes, aster_shion, EianSakashiba
それは寒くも温かな光で溢れる日、一年に一度の大切な聖誕祭の前夜。サンタクロースの卵である僕と君が修行の成果を発揮すべき日。全ては最も純粋な人間、子供達に贈り物を届け悪魔を浄化しながら黒い寒空を駆けるために。
「行こう。無垢なる子のため」
「無垢なる子のため」
手分けして僕達は培った退魔の御業を駆使した。信仰深き子にはリボンの箱を、主を信じぬ者には浄化の磔を。両手が子供達の温もりと血で満たされて僕は戻り、君は片腕を欠損して戻った。
「どうして…!?」
「主よ…どうかお許しください…」
「早く治療を…!」
君は鉄の義手で過ごすことになり、純粋な体でない君は卵に相応しくないと石を投げられた。
「ごめん、本当にごめん…」
「君が病むことじゃない。僕の信心が未熟だっただけだよ。それよりも次の聖誕祭が心配だ。君1人で為せるかどうか…」
君は堕落の体でも僕の心配ばかりしてくれた。僕が泣くたび君は抱きしめてくれた。美しい胴、逞しい脚、頭を撫でる柔らかな手、その裏に隠れた鉄の、君のものではない腕。なぜ僕と同じ性で、体でありながら君だけが堕落していると言うのだ。互いにこの世に生を受けた瞬間の姿で抱き合いながら、許しを乞い懺悔する。
次の聖誕祭になり最初の町で見かけたのは人の醜い姿だった。君を罵倒する声。割れた卵からの贈り物は不要という、君の清らかな体を経験していない、餌を待つだけの腐った雛。
町に君を呼び出した。僕は寒空の下、裸で町の中央に設置された樹に飾り付けをしている。浄化した人の肉と血を枝に垂らす。辺りはもうすっかり暗い。早く見せたい。堕落し狂った僕の姿を。君と同じように孵った僕の体を。樹の天辺にまたたく僕の腕を。
この作品の作者は meshiochislash does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: pope3pape, meshiochislash
辺りはすっかり暗い帰路、花の香りに気を取られ、定めた道は遥か先。仕方がないので迷い続けて、蝶を真似して花咲く方へ。
ここは東京、狭い路地。花畑など広がる訳なく、辿った先は小さな花屋。並ぶパンジー、マリーゴールド、アザミ、カスミソウ、以下は省略。
道を聞こうと中に入るが、人っこ一人いやしない。見れば店奥暗がりに、金銭入れるちまい箱。ここはどうやら無人販売、風で揺れてる鳳仙花。
肩を落として踵を返す、その勢いで揺れる花瓶。肘が当たって転げ落ちたの、優しい青のネモフィラが。
苦笑いして拾い上げれば、静かな香りが頬を撫で。道に迷うも何かの縁かと、五百円玉小箱に入れる。
ネモフィラ片手に店を出る、辺りはまだまだ暗いまま。道に迷った事実は消えず、しかし私は暗闇を往く。
この作品の作者は watazakanaさんでした!
予想結果: Ryu JP, santou, Tutu-sh, TOLPO, watazakana×2
祈りって、どうしてあるんだと思う?見えもしない、ありもしない神様に、伝わらない言葉を心に浮かべて。それってとても虚しいことなのに。
放課後、黄昏時。辺りはもうすっかり暗い。人気者で明るい彼女の顔は、たなびく髪は、紫色の淡い空によく馴染んでいる。彼女が夕暮れを持ってきたと言われても納得してしまいそうだ。
さて、私はその問いに答えあぐねていた。許されたいのは人の本能。罪の意識を共有して、結束を高めることは、社会を作るうえで重要な行為だから──などという答えが脳裏をよぎるが、それは……なんだか、問題から逃げている気がして。
「そんなに困った顔しないでよ、ただの愚痴だよ?」
彼女は苦笑いした。夕暮れと共に流れる「主よ、憐れみたまえ」が、「蛍の光」の代わりに校舎に残る生徒を急かす。家々は、寮は、その灯りで路地を煌々と照らしている。
「そろそろ門が閉められちゃう、行こ?」
彼女は私の手を取って、走り出した。
祈り。私たちが犯した罪から逃げること。私たちの及ばない場所で、どうにか良くなってほしいと、逃げること。
彼女は私を連れて逃げている。劣等感、閉塞感、罪悪感……そして、逃げることからも。
私も逃げている。人から、信じることから、まだ尽くせるであろうことから。彼女が、これから先の私たちが、一番大事だと言い訳にして。
しかし、祈らずにはいられない。叶わないことを、見向きもしない神様に。
彼女のための黄昏が、ずっとずっと、続きますように。
きっと虚しいことだとしても、逃避行というものは、一人より二人が楽しい。きっとそういうものだから。
この作品の作者は Hoojiro_sanさんでした!
予想結果: aster_shion, Hoojiro_san×7
『ねぇ知ってる?神様も死ぬんだってさ』
アイスコーヒーの氷がからりと音を立てて動く。相手が親戚の甥でなければ逃げたくなる沈黙を、ぐっと堪えて野暮ったいスーツ姿の彼に問いかける。
「いやね、そもそも神様なんているわけないでしょ。いくら働きたくないからって…」
『人間がいつか死ぬように、神様も死んじゃうんだ。だから看取ってあげる人が必要なんだ』
俺をじっと見透かす瞳は邪神に身を窶す狂信者のようにも、白亜の塔に閉じこもった研究者にも見えた。アキバ光線やらバステファージ存在やら最近のカルトは論理武装にも拘っているらしい。
「わかったわかった、君の実績は認めよう。じゃあ君はどうして神様を看取りたいんだ?」
無意味な押し問答を強い口調で握り潰す。これで答えられなければ彼を両親に送り返して一件落着を望んでいた。あの瞬間まで。
『そりゃ…子供たちが可哀想だからとしか…』
19:34。外はもうすっかり暗い時刻なのに不思議と朝のように眩しい。
それが俺の甥であった存在から放たれるオーラと気付くのに時間は要らなかった。
目利き部門
総合優勝
Kiygr
(18pt.)
総合準優勝
SuamaX
(17pt.)
総合3位
Fireflyer
(9pt.)
Aグループ優勝
SuamaX
(11pt.)
Aグループ準優勝
Kiygr
(9pt.)
Bグループ優勝
Kiygr
(9pt.)
Bグループ準優勝
Fireflyer, SuamaX
(6pt.)
文体当てられ部門
Aグループ優勝
v vetman
(13pt.)
Bグループ優勝
Hoojiro_san
(7pt.)
主催 - Kuronohanahana
技術協力 - Dr_Kudo
原案者 - meshiochislash does not match any existing user name
