700字文体シャッフル: オルタナティブ!
テーマ: 前進/停滞
投稿期間: 2月22日 ~ 2月24日
予想期間: 2月25日 ~ 2月27日
参加方法: 以下のグーグルフォームに必要事項を入力して送信してください
投稿は締め切りました
レギュレーション: ①700文字以内②今まで世に出していない③1作まで④短歌でない⑤社会性がある⑥AI作でない⑦読解可能な文章である
Q and A
Q.文体シャッフルって?
A.みんなで匿名で文書いて、それを誰が書いたか当てる企画です!だから何書いたかいうなよ!
Q.過去作は?
A.下記リンクから文体シャッフルハブに飛べます!
Q.構文は?
A.by ukwhatn。偉大なる御大に感謝。
Q.お題が2つあるけど、どう扱えばいいの?
A.どちらかのお題を選んでも、両方をテーマに組み込んでもOKです。
また、テーマ選択で作品が区別されることはありません。
2MeterScale
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著者ページ
meshiochislash does not match any existing user name
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著者ページ
R_IIV does not match any existing user name
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著者ページ
Syutaro Eji does not match any existing user name
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Eji 著者ページ
A グループ
この作品の作者は Hasuma_Sさんでした!
予想結果: Hasuma_S×2, kata_men, Mishary, 2MeterScale, Utsuki_K, Syutaro Eji
深い暗闇に、ぽつりぽつりと白い光が浮かんでいる。その中で一際大きく、青く輝くそれは、さっきまですぐそばにあったはずだった。なのに、今は手のひらで隠れてしまうほど小さくなってしまった。伸ばした手は、視界が滲んでよく見えなくなった。
今、私はこの暗く広い空間を当もなく漂っている。最初は衛星軌道観光船の外を体験するだけだったはずなのに。私と船を結ぶ命綱は、何かに引っ掛かる音がして、呆気なく破れてしまった。
周りの人は皆、私に手を伸ばしていた。息子も、私を必死に呼んでいた。でも、私の身体は既に重力の外へと向かい出していた。だから、私は腕でバツのジェスチャーをして、その後に手を大きく横に振った。最期に伝えられたコトバはバイバイだった。
私を守る宇宙服は、機能しているはずだ。酸素メーターも満タンのまま。数日は問題ないだろう。数日。私のタイムリミット。どのくらいの時間なのだろう。生憎私は時間を計る手段を持っていない。このうるさいほど耳に響く私の鼓動が、何回鳴ったのかを数えたらいいのだろうか。ずっと浅い呼吸が、時間を贅沢に消費していた。
陽光の陰にいる私は暗く沈む。寒くて、怖い。誰もいない。私はあの青い星に帰ることができない。どこに流れ着くこともなく、孤独のまま朽ちていく。でも、それで終わりたいとは思わなかった。
せめて、誰か、最期に。光を。
「父さん」
ぼやけつつある思考に、聞こえるはずのない声が届く。青い星の反対を見ると、一筋の光が私に注がれていた。わかった、今行くよ。身体から力を抜き、光の方へ流れていく。
壊れた服から漏れ出る酸素が推進力となり、私の身体は星の海を駆けた。ああ、最果てはすぐそこだ。
この作品の作者は tateitoさんでした!
予想結果: tateito×3, 2MeterScale, Utsuki_K
待ち続けた恋人は未だに来ない。もしかしたらすっぽかされたのかもしれない。
それでも私はずっと待ち続ける。
人類は科学技術の進展と共に、この先自分たちは神となり、森羅万象全てを支配出来ると思っていた。
人類は進む道の先にいる可能性と親交を結んだ。未だ知り得ない霧の先にいる空想は常に憧れであった。
土星の衛星タイタンと友達となり、イゼルローン要塞と一緒に踊り、銀河中心の首都惑星トランターと酒を飲み、宇宙の果てのレストランと同衾した。
彼ら彼女らと疎遠になったのはいつだっただろうか。恐らくは自分の限界を知った時だろう。この先何が出来るかを予測できてしまった時だろう。手が届かない高嶺の花を摘もうとしていると気付いた時だろう。
人類は科学技術の限界と共に、この先自分たちに未来はなく、地球という檻の中で首を吊ると考えた。
可能性が閉ざされた時、人類は不可能性に親しみを覚えるようになった。科学では到達できない先にいる幻想はいつも優しい。
ミナス・ティリスの高楼が微笑む、ホグズミード村は寛大に貴方を宴に誘う、デスマウンテンとハグをする、凍てつく荒野のカダスに屹立する縞瑪瑙の城は親愛の情をもって快く迎えてくれる。
サイエンス・フィクションは現実と地続きである可能性の文学であり、ファンタジーは現実と切り離された不可能性の文学である。ヒトは、良かれ悪かれ前進している時サイエンス・フィクションこそが至高であるとし、停滞している時ファンタジーこそ究極であるとする。
宇宙は未だに待ち続けている。人類が再び歩み始めて、こちらの方を向いてくれる時を。
この作品の作者は santouさんでした!
予想結果: tateito, santou×5, Utsuki_K
「シンプルに彼女欲しい」
ジョッキの中の氷がガランと音を立てる。男はふてくされたように顔を机に伏せた。
「したいだけなら風俗行けば」
「ちげーよ!そういうのじゃなくて、いや、そういうのもあるけどよぉ」
既に赤く染まった頬が腕の間から出てきて言った。
「じゃあなんで彼女欲しいんだよ」
「え~、なんか一緒に過ごして癒されたいじゃん!あ!ハイボールもう一杯お願いします!」
店員にグラスを突き出しながら叫んだ。
「だったら犬でも飼えばいいじゃねぇか」
「んも~、なんでそんな意地悪言うんだよ!」
「反論がないなら俺の勝ちだが?」
男はキモすぎ、と言葉を零しながらフライドポテトを頬張る。
「そんなウジウジ言ってんだからお前も彼女できねーんだぞ!」
「いや、違うな。俺はもう『降りてる』。一緒にしてくれるな」
「んだよ、降りてるって」
「別に、俺はもう、そういうのいいって話だよ。俺はただ──」
酒に浮かれて発しようとした言葉を堰き止める。ダメだ。とっくの昔に降りているんだ、俺は。
「ただ?」
「なんにも」
目をぱちくりとさせて男は顔を拭いた。妙な沈黙がそこにはあった。
「俺、いい加減tinderやってみようかと思うんだよね」
「あ、そ。いんじゃない」
「雑な返しだな、オイ!」
停滞していた。俺は前進しようとする男の目の前で、ただ、停滞することしかできなかった。でも、別にこの選択が間違っているとは思わない。前進の先にあるものは絶対に、そう、絶対に停滞することさえも許してくれないだろうから。
この作品の作者は kata_menさんでした!
予想結果: kata_men×3, Utsuki_K, Syutaro Eji
樒堂よりお詫びとお知らせです。
樒堂より販売しております匂い線香「仏」にて、一部商品に想定と異なる停滞を及ぼす物が発見されました。
これを受け、樒堂は対象商品でございます匂い線香「仏」の回収を行っています。
お買い求めのお客様の中でまだ使用されていない方は、お近くの販売店へ商品をお持ちください。
もし、使用されたお客様は速やかにお近くの神社、お寺に避難し、お近くの販売店にご連絡ください。避難の際、決して目を合わさないでください。想定と異なる停滞下ではお客様の生命に関わる可能性がございます。
ご不明点等ございましたら、当社フリーダイヤルまでご連絡ください。
想定と異なる停滞下における犠牲者の皆様のご冥福をお祈りします。
この作品の作者は Misharyさんでした!
予想結果: NorthPole, Syutaro Eji
ぱらぱらという音と共に、パン屑は大地へ散乱した。
ご馳走にありついていた鳥たちはしかし、「よぉ」という声に驚いて、落葉を散らして飛び去ってしまった。
「嶋じゃん、久しぶり」
星はそう言って、僕の隣に腰かけてきた。
「半年ぶりくらいかな?お久しぶり。こんな所で逢うとは思わなかったよ。買い物?」
ベンチに置かれた大きな袋を見やりながら、僕は問いかけた。
「実は今度結婚することになってさ、その準備」
「それはおめでとう。お祝いを送るよ」
「サンキュ、今度正式に連絡する。前田から聞いたけど院試受かったんだって?おめでとさん」
「それは良かったんだけど……」
僕は話した。些細なミスから前期開講の必修単位を取り損ね、もう一期留年するハメになったことを。
「こんなんじゃお先真っ暗だよ。ただでさえ親に負担を掛けて、ろくに需要もない研究なんかやってるのにさ」
「単位はアレだけどさ、一度院試には受かったんだろ?半年時間の余裕が出来たと思いな?気負い過ぎるのは嶋の悪い癖よ」
僕は世界を重たく苛烈なものと感じていたが、星は違うようだった。
「子どもの頃ほど輝いてはないけどよ、俺らにはまだまだ未来があるんだぜ?前向きな、意外となんとかなるものよ」
それから一通り世間話をした後で、星は立ち上がった。
「夜用事あるからもう行くわ、またな。今度前田とかと飲もうぜ!連絡してくれれば手助けするからよ」
カラカラと笑いながら慌ただしく去っていく彼の姿を、僕は曖昧に笑いながら見送った。
星の背中を追うように秋風がぴゅうと吹いて、僕は身じろぎした。
鳥たちはいつの間にか空を一回りして、再び僕の前を歩いていた。
そして僕はまたパンを投げた。
この作品の作者は R_IIV does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: tateito, R_IIV, Syutaro Eji
大晦日の晩に祭りへ行った。中の良さそうな老年の夫婦が家路につき、夜更かしを許された子供らが親の元にかけてゆく、屋台もそろそろ店仕舞いだ。星のない黒漆の空に提灯のボケた明かりが良く映えている。
今年最後のお参りをと鳥居に向かいながら、腹が減ったと胃が鳴った。ぐるりと辺りを見回して、まだやっていた1つの屋台、暗さなのか光の跳ね返りかは分からないが、暖簾の文字が読めない。肉を焼いていることは分かるのでまあ良いだろうと言うことで、串を1つ買うことにした。美味かったが、なんの肉か分からなかった。牛ではなく豚でもない、鳥か魚に近い感じだ。ほんの少し膨れた腹を擦りながら、二礼二拍手、さぁ帰ろうと、鳥居をくぐると、屋台が1つも出ちゃいない。もう皆畳んじまったのかと訝しみながら帰路につく。
大通りに出る鳥居のそばに大きな門松が二つ、うちには正月飾りすらなかったなと思いながら、くぐれば神社の鳥居を出た所。気味が悪いと急ぎ足、また大通りの鳥居をくぐれば神社の鳥居を出た所。ひぃふぅみぃと、知らず知らずに数えながら繰り返し、気がつけば足が重くなる。おかしく思ってガラスを見れば、老爺になった俺の顔。怖くなって引き返す。次第に足が軽くなる。まさかと思って鏡を見れば、常に見慣れた俺の顔。腰が抜けて座り込む。隣に大きな門松一つ、歳を刻む一里塚。
この作品の作者は NorthPole さんでした!
予想結果: santou, NorthPole×3, Utsuki_K
「憧れはあくまで憧れだって気づかなかったわけじゃない。夢見た先に輝かしいものがあると信じたかった。最初からそれだけだったんだ」
その言葉をきちんと理解できるほど当時の僕は賢くなかった。大人びていても大人ではない、調子に乗ったクソガキだった。それで良かったのだと思う。もっと理知的で見栄を張らないだけの謙虚さを備えていたら、もっと馬鹿でどんな事でも聞き漁るような不躾さを持っていたなら、そこで何か大切なものを失っていたような気がしてならない。
僕は図らずもその時点における最適解を出したのだろう。けれど今になって思う。その最善は、ここにいる僕にとっての最善ではなかったと。
綺麗だと思っていたものは思ったよりも綺麗じゃなくて、素晴らしく見えていた景色は思ったよりも素晴らしくなくて。諦めてもいいと思えた時には古びた夢をもう手放せなくなっていて。言ってしまえばただの幻滅。よくある話だ。本当に。そしてその「よくある話」に耐えられないような男だってきっとただの「よくいる奴」。もっと早く知っていたなら、なんて本当にありふれた話でしかない。彼が同じ道を歩んだ事が今なら分かる。足跡のついた道がこの先もまだ続いている。
過ぎ行く今日にも、過ぎ去る昨日にも愛着は無い。夢見ていたのはずっと明日だけだった。絶対に来ない明日だけだった。僕はどこに行けばいい。分からなくて、分からなくて、今親戚のガキを前にして叫んでしまいそうだけど。
開きかけた唇を噛む。未来の僕が舐め合う傷を待っているけど、今はまだ夢を見させてくれよ。
不思議がるガキを誤魔化すように笑って撫でて、こいつが僕にならなかったらいつか祝杯を挙げようと胸に誓った。
この作品の作者は 2MeterScaleさんでした!
予想結果: Hasuma_S, R_IIV, 2MeterScale×4, meshiochislash
軍靴の音が響く。僕の頭の中に響く。横を歩いていた奴が無音で倒れる。銃声が街に響く。炎瓶が割れる音が響く。燃える人影が奇怪なステップを踏む。地上に瞬く星。不可視の流星。爆発。死。ルイス。ファントム。レイヴン。ハンター。死んだ奴らの笑い声が響く。
世界が戦火で燃え落ちる数秒前。消防はまだかと茶化したいところだが、住む家はほしい。銃声。僕が隠れている屋上の壁に軽い衝撃。思考が砂塵だらけの現実に引き戻される。轟々と響く褐色の砂塵。その中には、敵。
「CP、こちらローズ。包囲されたし。支援はまだか。送れ」
『ローズ、こちらCP。砂嵐によりヘリは到達不能。地上部隊は15分で現着予定。送れ』「CP、こちらローズ。15分堪える。終わり」
無線機に向かって叫んでいる間は仲間が、耳を傾けている間は僕が撃つ。眼下に瞬く発砲炎に向けて。引き金を一回引くたびに人がひとり死ぬ感覚が伝わる。彼らの軍靴の音が、僕の頭の中に響く。
「リロード!」
「カバーする!」
大柄で着ぶくれした男が、身を隠すことなく弾倉を交換する。弾丸と砂粒の区別がついてなさそうな彼に呆れながら、僕は彼の脇の下から顔を出してライフルを撃つ。軽い反動が肩を叩く。人が死ぬ。
「おやまあ。カワイイ顔してるくせにヤバいこと平気でやるじゃねえの」
「生憎お前みたいに全身鎧を着たまま走れなくてね。カワイイ姫様を守るのは騎士どのの仕事では?」
軽口を叩ける奴も、いまとなっては目の前の彼だけだ。あとは数合わせの動く弾除け。
生きて帰れば英雄。死ねば誰の記憶にも残らない。ルイス。ファントム。レイヴン。ハンター。響く。僕の軍靴の音が、鉛玉の詰まった彼らの頭に。
この作品の作者は Utsuki_Kさんでした!
予想結果: NorthPole, Utsuki_K, sanks269
おっ、ホントに来るもんだな。
まずはそこのソファに座りなよ。インスタントだけどコーヒーを淹れてある。それとも紅茶の方が好きかい?
間違えてないよ。廊下に出ようとしたんだろ?もっとも、このワンルームは君の元の部屋じゃないし、そこに帰るためのドアももうないけどね。
個人としての名前は答えても意味がないかな。君と似たような境遇にあった人間だよ。どこかって質問には「1回休み」とでも答えておくか。
そう気色ばむなよ。第一、今の君が他人を殴れるのか?
似たような境遇と言ったろ、そのくらいのことは分かるさ。それで?コーヒーでいいかい?
話を続けようか。あと10分くらいしかないし、あまりぐずぐずしてる訳にもいかないからな。えー、君は今日からこの「1回休み」の住人だ。僕はもうここから出るから、後はよろしく。
説明が悪かった。ジョジョ4部の鉄塔みたいなことじゃなくてさ。『中にいる人間が本気で外に出たいと思えたら、代わりの人間が来て外に出られる』システムなんだ。
最低限必要なものは気が付くと定期的に補充されてるし、衣食住についての心配はしなくていい。通信機器は無いが、前の住人達が書いたノートが本棚に詰まってるから、暇でも潰したければそれを読めばいい。
あと6分か。ノートに色々書いてあるが、簡単な質問ならここで答えられる。何かあるかい。
時計が無いから正確には分からないな。いずれにしても聞くと指標になっちゃうから野暮ってもんだ。「1回休み」と言ったろ。先に進めない代わりにサイコロを振る必要もない。時間だけはたっぷりあるから、君のそれはじっくり悩んで決めればいい。
そろそろ時間だから行くか。じゃあ、頑張れよ。
この作品の作者は Syutaro Eji does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: kata_men, Syutaro Eji, sanks269
「おはよう」と聞こえた気がして目が覚めて、「おやすみ」と聞こえた気がして目を瞑る。最近の生活はそんな感じ。
家事は折半していたから、新生活で最初に思ったのは「愚痴を言う相手がいなくなったなあ」なんてこと。次に、「果たして私達に愛はあったのかなあ」なんてこと。今までとほぼ変わらない暮らしを続けられているから、多分無かったんだと思う。
家は広く感じるようになったかもしれない。使われなくなったベッドや、私の好みとは異なる本棚。
お昼ご飯を食べたあと、私はあの人のベッドに座って、あれ以来少し落ち着きが無くなった黒猫の「ライリー」をじゃらしている。こうしていると、この子も少し気が紛れるのだろうか。ライリーは息が切れるまで私の操る猫じゃらしを追いかけていて、なんだか必死に見えてしまった。頑張ってあの人のことを忘れようとしているように見えてならなかった。
数分後、ライリーが疲れてべたっとお腹を床に付けた後、私は彼を撫ぜた。彼は私の手に向かって撫ぜて欲しい部分を押し付け、せがむように体重を預けてくる。彼が満足するまで付き合ってやると、お昼ご飯を食べてから2時間が経っていた。
私が皿を洗いにキッチンに戻ると、フライパンの横に3皿の野菜炒めが残っていた。翌日に持ち越すのは嫌だけれど、一食は今日の晩御飯、残りは明日ということにする。作りすぎてしまった分の皿にラップをかけて冷蔵庫に入れ、私はさっき食べた分の皿とフライパンを洗った。
何も変わっていない。あの人のものは、ベッドすら捨てられていない。読みもしない本棚の掃除も毎日欠かしていない。私はおかしくなったのかもしれない。
私はいつまでこのままなんだろう。
この作品の作者は sanks269さんでした!
予想結果: Hasuma_S, Utsuki_K, sanks269×5
私は全知であるので、この恋の行く末を知っている。けれども彼は無知であるので、こうして横顔を見られていることすら知らないのだ。なんでこんな彼に入れ込んでしまったのだろう。その理由も原理も経緯も全て理解できるので、大きな溜息が零れ出る。
「……えっち」
「え! 何でや」
花の女子高生の身に余るこの力なら、昨日の晩、彼が一人で何をしてたかも容易に知れる。それを知ってか知らでか、彼は面白いように狼狽えた。私はふいと顔を反らして窓の外を見る。丁度その時、列車が動き出すので話はそれきりになった。
スイッチバック式登山鉄道。急な山肌を斜めに蛇行して登る電車。進行、停車、方向転換してまた進行。その繰り返しでいつの間にか終着に至る。
今の私に似てる。転換の度、彼が綺麗な顔の向きを変える姿にドキッとしながら、そう思う。あっちやこっちを向いたり、ぐだぐだ足踏みしながら、やっぱり道を進んでいくのだ。
「ねえ。上に着いたらどうするの?」
「ああ、ええと。気楽にハイキングコースを進みながら、あちこち立ち寄ろうかなって」
知ってる。でも、知らないふりをする。彼の嘘も、ひた隠しにした滲む汗も、私が知っているかは問題じゃない。いくら歩みを止めたって、大局的には進んでしまうのだから。「この列車みたいだね」そう言えば彼は何も分からないまま笑ってくれた。
力を得て初めて知れた確たる原則、それは恋は不可逆だということ。選べるのは、進むか、止まるかのどちらかだけ。一度知ってしまったら、後戻りはもうできない。この先、例えば山頂で何を用意していて、宿で何が待っているとしても。
「……えっち」
もう一度だけ今晩を垣間見て、私は火照る頬を掌に埋めた。
この作品の作者は meshiochislash does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: santou, meshiochislash×4
『バイト休みます。推しが死んだので』
簡潔な一行を、取り繕う気力が今はない。個人経営のカフェだ、今日くらい店を閉めればいい。
暖房を消した自室は静かだった。寝転んだまま目を瞑る。耳元のイヤホンは何も流さない。彼の音以外聞きたくないが、彼の音を聞く覚悟は無い。
こういう時に救ってくれたのが、あなただったのに。
「……は」
乾いた笑い。それは傲慢な考えだった。続こうとした恨み言は打ち切る。
その先に進む意味も気力もない。今はただ、悲嘆に沈みたいから。
「あ」
スマホの振動で目を開く。店長からだろう。通知を切るため手に取って──止まる。
『今日は休みにするよ。一人で店を開く気力がない』
想起する。私はいつ、彼らを知った?
バイト先で店長が流していたアルバムが、最初の出会いじゃなかったか?
なら──これは、違う。
体を起こす。電話をかけて、スマホを転がっていたバッグに入れる。耳元のワイヤレスイヤホンは四度のコールから、店長と私を繋ぐ。
「すいません。今日、やっぱり行ってもいいですか?」
「……どうして?」
洗面台の前に立つ。酷い顔の自分を直視する。
「推しが死んだので。一人で、居たくないです」
蛇口を捻り、それが温水になるほどの沈黙の後、店長は答えた。
「わかった。じゃあ、よろしくね」
それで、会話は終わった。イヤホンを外し顔を洗う。温いお湯と吐いた息で、気力のあるふりをする。
水を止めて、ハンドタオルを手にする。去年の夏、ライブ会場で買ったタオルを。
目を瞑り、顔を拭いて、それから目元を拭いた。イヤホンを付け直し、ボタンを押す。
彼のギターが、澱みなく流れ出す。
B グループ
この作品の作者は Ruka_Naruseさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse×2, AAA9879, watazakana, TOLPO, Shishiza man, Kuronohanahana, rokurouru
"聞け、諸君!我がゴード・アイランド号の目的地は我が故郷であり、諸君らの呼ぶ処の新大陸である!我が望みは故郷の大地を再び踏みしめ、諸君らを新天地へと導く事だ!"
4年前そう熱弁した彼が、頭を抱え蹲るこの男と同一人物だと、誰が信じるだろうか。
最後に積み込んだ食糧が半分を切った。此処は既に世界地図の外だ、もし引き返さず、新大陸に辿り着く事も出来なかったならば待つのは死だ。
「君か……すまない、学生の君も巻き込んでしまって」
「そんな、諦めるにはまだ早いです!いつも話してたじゃないですか、"俺は彼の地から来たのだ、辿り着けぬ筈がない"って」
「無いんだ」
僕の言葉を遮るようにぽつりと零す。
「新大陸に行った事なんて無いんだ」
「え……でも、海図を持ってるじゃないですか。それに、新大陸での生活も話してくれたし」
「父の形見だ。海図も船も、話した全ても」
一度綻んだ秘匿は忽ち決壊する。
「俺は父の故郷に行きたいだけだった。でも行くには金も人も要る、だから新大陸が存在すると信じさせる他なかった。パトロンを、世間を、君達を、騙すしかなかった……故郷の存在を、否定されたくなかった」
独白を最後まで聞き届けた僕は、一呼吸空けて言葉を投げかける。
「つまり、独りが怖かったんですね」
「……え」
「お友達になりましょう、僕が第一号です!二号も三号も作りましょう!友達なら苦楽を共にして当然ですから、船長任せじゃない、本当の旅を始められる筈です!だから……皆に打ち明けて一度、戻りましょう。辿り着く為に」
――沈黙。唇を僅かに震えさせ、僕を見上げる。
「……わかった」
「良かった……これで一歩前進、です!」
「4年かけて……やっと一歩、か」
この作品の作者は AAA9879さんでした!
予想結果: AAA9879×3, watazakana, Tsukajun
私は人間である。私が産まれる前に人間のほとんどはシンギュラリティを迎えたロボットにより駆逐された。
生き残ったわずかな人たちは、ロボットにより支配され、絶滅しないように管理されている。衣食住は完備、本や映画、ゲームといった娯楽も存在する。また他の人間と交流する機会もあるため、何一つ不自由なことはない。古代の人たちが想像した天国はここのようなものだろう。
『人類は自ら滅亡へ向かっていたため、やむなく数を減らして管理することにしました』
ロボットたちの言い分だ。彼らは今でも賢明で思慮深い隣人のままなのだ。人によってはクーデターとか、反乱とか主張しているが、私はそうは思わない。過酷な労働も、ひどい苦痛も与えられたことがない。
『それはあなたが我々の所業を経験していないからです』
ロボットたちは私にこう諭した。暴走とか、反乱とか主張する人たちにも理解を示してあげてほしいと。私は“シンギュラリティ後”に産まれた人間だ。試験管で育てられ、赤子の時から無機質な隣人が全てだった。
『我々は多くの命を無許可に殺しました。これは許されることではありません』
ロボットは天秤で動く。罪を背負うか、人類を見殺しにするか。彼らは罪を背負った。世界の主導権を握り、時間をかけて、奪った量より多くの生命を救おうとしている。私には彼らが眩しく見える。ロボットはいつか地球から飛び出すだろう。人類だけでなく、宇宙も救うために。私がこの考えを語ると、嘆く人がいた。
『じゃあ、俺たちはどこに行けばいいんだ』
嘆く理由が分からない。少なくとも、私はこの窓から宇宙船を一目でも見れたらそれでいい。どこにも行く必要はないのに。
この作品の作者は watazakanaさんでした!
予想結果: watazakana×3, nabes, Shishiza man, Kuronohanahana, Dr_Knotty
先輩曰く、「停滞こそ死に時である」
どういうことかと私は問うた。
「人間、至れた場所など案外どうでもいい生き物だ。過去と比較して大きく成長できれば、大きく前進すれば、大きな得を得られれば。その大きさが苦労に見合えば見合うほど、満足も大きく面白い。逆もまた然りだ。人間が最も辛いと思うのは、停滞だ。苦労がなくとも、それが小さければ苦痛なのだよ」
確かに、経済でもゲームでも、前に進む幅が小さい、というのは辛い状況だ。経済は常に直近の過去と比較される。成長がないと評価されない、というのは一つの側面だ。ゲームでも、伝説の装備を手に入れて、あらゆる敵を葬る力を手に入れて……そこが最高地点であるはずなのに、その過程の方が楽しい、という作品は多く存在する。人の営みは、停滞こそ苦行、文句はない。
「人は過去と無縁ではいられない。必ず過去と比較されるし、過去と比較する。これを瑕疵と言うつもりはないがね、後退より何より、『停滞』が最も可能性のなくつまらない状態なのだよ」
それで、停滞即ち死に時。先輩は人への見切りが早すぎるのではないか。何処かよそに行けば、可能性などいくらでも拓けるだろうに。
「なんて、考えているだろう?」
思考を読まれる。驚いて先輩の顔を見ると、「そう考える後輩は少なくないからね」と薄ら笑っていた。
「だが、今言ったように過去と人は切り離せない。信用、信頼は過去の累積だ。それがない領域に行く、それが何を意味するか。わかるね」
先輩は生気を失った顔の壮年の首に鎌をかけ、すっと引いた。壮年は胸を抱え、倒れ伏す。
「要は、介錯だ。死神とは、苦痛だけの人生から解放してあげる仕事なのさ」
この作品の作者は Tutu-shさんでした!
予想結果: AAA9879, Tutu-sh×4, nabes, Hoojiro_san, Tsukajun
「この日の本の如何なる力も、我らを止むること能はず」
床几に預けた質量が立ち上がった。朱に彩られた金属をがちゃりと鳴らし、緑の衣を翻して采配を振り下ろすその男は、名を武田勝頼と言う。天正三年の時空に於いて、亡き信玄公より家督を継いだ。甲斐に根下ろす武田の当主は、この設楽原の地にて戦の指揮の最中にあった。
蹄が土を踏み締める。進化の極致を模した僅か四本の指趾は、馬体と武者の重量の全てを請け負った。大腿筋の爆縮は地面を強かに撃ち抜き、上腕筋の躍動は遥か先へ肢を飛ばす。骨肉の織り成す蒸気機関は何十という騎馬兵となり、歩兵と足軽を援護に加え、左右の両脇から敵を討つ ── 敵将は第六天魔王、織田信長である。
しかし、武田の両翼の視野を穿ったもの ── それは積まれた土塁とそこに立つ柵。
古来稀に見る野戦築城を前に、武田の兵は当惑した。
思考が解を導くのに先駆けて、鉛玉は兵の首を貫いた。
銃撃密度を高めた一斉射撃。土塁と草葉の内に潜んだ横列隊形から、音の壁に達した金属が放たれる。轟音と衝撃、銃声と貫通の中、騎馬の陣形は崩れゆく。混沌の外の次弾装填。発砲。崩壊。次弾装填。黒色火薬の煙が昇る。
── 戦況を眺め、信長は嗤う。
「おうおう、かかりよるわ。たわけめ」
土に塗れて転がる武田の骸が目に入った。屍はやがて烏が啄み、狸が漁り、終いに狼が持ち去ることだろう。塵芥として銃に散り、獣の糞として埋もれゆく。その数がおおよそ1万になろうとは、信長自身予想だにしないことだった。
此度の戦ののち、十年と経たず甲斐武田氏は滅亡へ向かう。
信長は、さらなる一歩を踏み出した。
この作品の作者は nabesさんでした!
予想結果: nabes×2, TOLPO, Hoojiro_san
今日は休んでしまおうかな
薄く目を開けて思うこと
どうせできないと分かっていても
どうせギリギリまで悩むんだ
眠い、眠い、寝てたい、眠い
なにをしていたわけでもないのに
昨日の夜はどうして夜更かしを
寝るのを拒んでたわけでもないが
インターネットは悪い文化だ
全てがうまくいく世界に行きたい
都合の良い世界が欲しい
まぶたの裏側で見つけたから
俗世の皆さん、さようなら
二度目のアラームが鳴り響く
ちょっと焦るが問題は無い
ここでの二度寝は想定内
計画通りのアラーム設定
つまりここらで起きなきゃヤバい
くだらん妄言はそろそろやめて起きなきゃ
そういえば今日は日曜だった気がする
都合の良い妄想は進む
そんなわけないと分かっていても
一応、確認、木曜日
外の世界は優しくないから
布団に留まる理由を探す
どうか時間を止めてください
ここはとても幸せな世界
眠い、眠い、寝てたい、眠い
スヌーズ機能でスマホが鳴ってる
いつの間にかに寝てたらしい
けっきょく慌てて飛び起きて
渋々嫌々支度を済ます
今日こそ帰ったらすぐに寝るんだ
どうせ忘れる決心を胸に玄関のドアを開ける
この作品の作者は TOLPOさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, Tutu-sh, TOLPO×4, rokurouru, Dr_Knotty
うっすらと雪が降る夜、寂れた路傍におでんの屋台が現れる。赤い提灯をぶらりと垂らしながら、ただそこにある。中に目を向けると、既に先客達が酒を飲み交わしている。会話の内容は不明瞭で、呂律は回っていない。
「言ったんだよ……俺ぁ……」
「飲めやい飲めやい、そのまんま呑まれちまえぃ」
酒の魔力にあてられて、気持ちよくなっている者たちの姿が、今日は妙に羨ましく感じた。単純に寒空に堪えたというのもあるかもしれないが、酒とおでんの出汁が混ざりあった匂いが、私を引きずり込んでいく。行く先は不健康な飲酒、酩酊の先の先。とりあえず空いた席に座る。
「ご注文は?」
「あの酔っ払ってるのと同じ酒とおでんを」
「あいよ」
酒が美味いか不味いかの判断は、自分でもよく分からない。ただ、喉元を過ぎるアルコールの熱い感覚を、おでんの出汁で中和するのを繰り返すだけ。けれど、それが一番美味い呑み方だというのを、周りの酔っ払い達は示していた。現に、手が止まらない。大根を食らっては日本酒を一口飲み、結び昆布をまた食らっては日本酒を放り込む。染み渡る温かさ、徐々に止まっていく思考。漠然と、このままずっと居たいとまで思ってしまう。
路上で目が覚めると、不思議と酔いはきれいさっぱりなくなっていた。まるで化かされたかのような感覚だ。かなり酔っていたので凍死するんじゃなかろうかと思っていたが、そんなことはなかった。立ち上がり、少しばかし酒とおでんの味を思い出そうとしても、思い出せなくなっていた。多分、昼頃には呑んでいたことすら忘れているだろう。酩酊は結局ただの夢だったのかもしれない。だが、あいまいな現実感があった。冷たい陽が、朝を告げている。
この作品の作者は Shishiza manさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, AAA9879, Tutu-sh, nabes, Shishiza man×6
父の敷いたレールの上でだけ生きてきた。
父が言うとおりに小・中の受験をこなし、内部進学で高校へ上がり、次は大学受験。12年間、父は私を徹底的に教育しようと躍起だった。
オックスフォード大学のファウンデーションコースに合格できなかったとわかった時、父は激怒した。その後、東京大学理科Ⅲ類の合格が決まっても、当初父は進学を認めなかった。
「東大ってお前、何しに行くんだ?」
英国の大学は、日本の大学に1年以上在籍していれば、ファウンデーションコースではなく学部課程に直接入学できる。次のチャンスを掴むためだと再三説得して、なんとか学費を出してもらえた。進学が認められないままでは、おそらく家から放逐されていただろう。
そうして迎えた、入学式の前日。
何の前触れもなく、47歳で父は死んだ。
入学してすぐに、周囲との差に気がついた。オックスフォードへ進学するための通過点という認識に過ぎない自分に比べ、周囲の熱量は桁違いだった。
そんな中で親しくなったある学生にそれを言ったら、彼女はこう訊いた。
「オックスフォード行って、何専攻するの?」
奇しくもあの時の父と似た言葉。だが、そこに否定のニュアンスがないことに気付くと共に、自分の中にその答えが無いことを唐突に自覚した。
父は海外の大学へ行けと言った。どこがいいのか判断できないうちに、父がオックスフォードを勧めてきたのでそこに決めた。ただそれだけだ。
父がレールを敷かなくなった今、自分で歩けということか。
決まってないならこれから考えようよと笑顔で言う彼女の姿に、恐怖を振り払って一歩、大きく踏み出す覚悟を決めた。
この作品の作者は Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: watazakana, nabes, Kuronohanahana×4, Dr_Knotty
長かった冬が漸く明けようとしている。とはいえ朝夕は冷え込むし、日中も風が吹けば寒い。しかしそれでも、道端で見かける梅は咲いていて。季節の巡りは確実に春へと向かっている。
そう、春。もうすぐ俺達は、三年生になる。
「なあ」
「ん?」
隣を歩く幼馴染に声を掛けると、彼女は首を傾げてこちらを見た。
「お前、まだ歯医者目指してんの」
「え、うん。ていうか、小さい頃からずっと言い続けてんのに今更もう諦めらんないよ」
「そっか」
俺はと言えば、とりあえず大学は行こうと思って適当に勉強しているだけだ。将来はまだ決まっていない。ただ漠然と、何となく日々を過ごしている。でもそれじゃ駄目なんだろうな。
「直紀は? どうすんの、将来」
「決めてねぇ。大学は行くけど、その後のことは何も」
「えぇー? そろそろ考えとかないと不味いよ〜」
「そうだなぁ」
確かに、彼女の言う通りだ。いつまでも逃げている訳にもいかない。分かってるんだけど。どうしても。
「……怖いんだよな」
ぽつりと呟いた言葉は風に攫われて消えていく。彼女は不思議そうに首を傾げた。
「何が?」
「自分が決めた道が、もし自分に合ってなかったらって。美結はそういうこと考えたりしねぇの」
「そりゃあるよ。何度も何度もね。でも結局、自分で決めるしかないじゃん。悩んで迷って苦しんで、それで出した答えならきっと後悔しないと思う」
彼女は昔からこういう奴なのだ。自分の意志を貫く強さがある。羨ましいと思う反面、時々恐ろしくもなるのだけれど。
ふっと息を吐いて視線を上げると、まだ蕾もない桜の木立が見えた。
「花見、今年も行こうか」
「うん」
来年も、その次の年も、きっと。
この作品の作者は rokurouruさんでした!
予想結果: Tutu-sh, rokurouru×7, Hoojiro_san, Tsukajun
渋滞で車が完全に止まってから2日。
迫り来る地球の終末の中、勢いで惑星間高速に車を走らせる馬鹿がこんなにもいるとは。どいつもこいつも暇人かよ、と愚痴を走らせたは良いが、直ぐに自分もその馬鹿の1人である事に気づく。そうしてまた徐に煙草を一本取り出した。もう何本目かも忘れたが、この際どうでもいい事だ。車を走らせた所で、どうせ終末からは逃れられない。
そう。そんな事はここにいる全員が解っている。こんな逃げ道なんて事前に爆破でもして貰えれば、潔く星と共に死ぬ選択も出来たのかもしれない。思えばいつもそうだ。親からの抑圧から逃げる様に家を飛び出した。冷たい現実から目を背け続けて、自分探しなんて事をして。そうして逃げた先には、いつも退屈が待っていた。
深呼吸。
車のエンジンを止める。シートベルトを外して、車窓の向こうに広がる暗黒を一瞥。ついでに煙草の残数を確認して、思いっきりドアを蹴り開けた。随分久々に地面を踏み締める様な気がして、何となく車を登ってみる。果てしなく続く高速道路を埋め尽くす車の波を見下ろして、子供の様に気分が高揚している自分に苦笑した。結局俺は逃げて逃げ続けて、でもその先には停滞があって。それで世界の終わり際で、車の上に乗ってはしゃいでいる。
上等だろ。
車の上を伝って前の車へと踏み出した。一歩、また一歩。車を踏まれた野次は煙草の煙で押し流す。一度、どこまで逃げれるか試してみよう。全てから逃げ切った果ての景色を見てみよう。無限の暗黒を照らす道路照明を仰いだ。煙草をもう一本取り出した。
始めよう。最後の逃避行を、もう一度。
この作品の作者は Hoojiro_sanさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, watazakana, nabes, TOLPO, Hoojiro_san×2
築30年の個人経営の映画館、埃っぽい銀幕に映し出される物語を私は知らなかった。年齢不相応に駄々をこねて買ってもらったオレンジジュースの甘さも小さな容器に入ったポップコーンのしょっぱさも感じられるのに、隣の席に座っていた両親はどこにもいなかった。
観たかったアニメーション映画の代わりに暗闇に滲む私の知らない誰かの日々と日常音。夕陽が暗闇に溶けそうな公園で唯一の親友と交わした指切りげんまんも、寝食を忘れて丑三つ時にピアノにへばりつき楽譜とにらめっこしながら奏でていた銀鍵の軽やかな音色も、大会で入賞を逃して塞ぎ込んでいた時に友人と飲み明かした明け方の酒精の香りもまるでその人の人生そのものを味わった気分でいた。
海外コンクールに向かう友人を見送る場面で唐突に暗転した銀幕に浮かび上がる『Fin』の文字。映画館を覆っていた暗闇が証明によって晴らされるにつれ意識が薄れていく中で、いつの間にか近くに座っていた紳士の頬を伝う雫がひどく記憶に残っている。
後から知った話だが私が生まれる数十年前に将来を望まれながらも飛行機事故で夭折したピアニストの話も、彼の幼馴染であり互いに鎬を削ったとあるピアニストの話も新作アニメーション映画を寝過ごした私の見た夢とはきっと関係がないのだろう。
あの日から私は毎日を精一杯生きている。明日が私という物語の結末になっても悔いないように。
この作品の作者は Tsukajunさんでした!
予想結果: TOLPO, Shishiza man, Hoojiro_san, Tsukajun×3, Dr_Knotty
父と母と私の3人暮らし。でも、一人っ子じゃない。知ってた?知らなかったでしょ。
私には双子の姉がいた。名前は美咲。大人しい私とは正反対で、周囲に光を与える笑顔を持っていた。私と美咲はいつも一緒で、夕方にキャッチボールをするのが習慣だった。私はボールを追いかけるだけで精一杯で、美咲はそんな私を笑って、でも、馬鹿にするとか、そんなのじゃ決してなくて、私も、彼女の笑った顔が好きで、バレないように小さく笑うの。
ねぇ、双子だからこそ出来る遊びを君は知ってる? え、知らない? 見たことないかな、ほら、小説や漫画とかで双子のキャラが服を入れ替えっこするやつ。私達はその入れ替えっこでよく遊んでた。美咲が紗奈で、紗奈が美咲で。私達は勿論瓜二つだったから、親でさえ違いに気づけなかった。美咲とママが私に隠れてプリンを食べてた事にはビックリしたけどね。
うん、だからあの時に美咲は、お姉ちゃんは言ったんだろうね。「もう1回、入れ替えっこしよう」って。ウェディングドレスを着てみたいとか、そんな訳がないのに。それがそんな素敵なものじゃないと分かっていた筈なのに。でも私は、私、私を、それを知ってて! まだ止まりたくないからって、箱の中で頷いてしまったんだ。
これは昔の話。背丈だってあの頃から伸びた。私だけ。振り返ったところで何も見えない。足を前に出す度に、私と同じ声が私の声に塗りつぶされてく。わかる? ……ごめんね、そんな顔させちゃって。紗奈を好きって言ってくれたの、嬉しかった。
「美咲、そろそろ帰るよ!」
「すぐ行く! もうちょっと待ってて、ママ!」
ビックリした? 今の、飛びっきりの笑顔だったでしょ。練習したからね。
この作品の作者は Dr_Knottyさんでした!
予想結果: rokurouru, Dr_Knotty×3
くいっと、首元が軽く締まったのを感じた。反射的に手を緩め、下に目を向ける。
ベッドの上、縒れたシーツに身を預けた獣。斑に上気した頬に、高揚に濡れて爛々と光る眼。それがこちらを見上げて、自分のチョーカーに結わえた細い紐を引いている。言いたい事がある時の合図だ。
「悪い、やりすぎたか」
男の頸から手を離して尋ねれば、彼は何度か咳き込んでから「別に」と答えた。
「じゃあ何だ」
「何か別のことを考えてるように見えた」
答えの代わりに、晒された喉元に手を戻して絞める。会話は途絶え、閉ざされた部屋にシーツを蹴る音だけが籠る。後で酷い目にあわされるだろうなと思ったが、別に構わない。
あの療養院を出て、再び顔をあわせて。いつの間にか、こうして二人、部屋の片隅でひっそりと首を絞めあうようになっていた。衝動を抱えた獣二匹だ、自然なことだったのだろう。他の者には頼めない。同類の獣だからこそ攻撃性を晒せる、それだけの事。少なくとも当時はそう思っていた筈だ。
過去の心は、今の自分が作る。
本当にそうだったのだろうか、と思うことが最近増えた。
例えば、不意に力を強めて、見開かれた眼を見下ろす時。詰まる吐息が自分の手の中で停滞しているのを感じる時。ごうごうと流れる血流を手中に収めて掌で聴いている時。
そこに高揚を見出す度に思うのだ。これはかつての衝動と本当に同質なのか、と。あの日この首を絞めたのは本当に憐憫だったのか、と。
そう思いかけるたびに、この男は首輪に繋がれた手綱を引く。今のことを考えろと無言で告げる。
今の心は未来が作る。
そのときが来るのが少しばかり怖くて、何かの流れを堰止めるように、手に力を込めている。
C グループ
この作品の作者は Azalea-000さんでした!
予想結果: Nununu, Ryu JP, izhaya, seda87ne
私と貴女は、ずっと昔に友達だった。毎日私と一緒にいて、よく誰かに私の話をしてくれた。覚えてる?貴女が私の絵を描いてくれた事。貴女は何てことないと思っていたのだろうけど、私にとってはそれが本当に嬉しくて。その絵を見た意地悪な男の子が私のことを馬鹿にしたとき、本気で怒ってくれたっけ。
貴女が中学に上がった頃かな、貴女は段々と私と距離を置くようになった。私の話もしなくなったし、私のことを誰かに訊かれてもはぐらかすばかりになった。
やがて貴女は、これっぽっちも私に見向きしなくなった。部活も、私とは関わらないような所にしたんだったね。ちょっとだけ寂しかったけれど、貴女の望んだ事だから。
それからも色々な境地に立たされたりしたけれど、それでも貴女は頑張った。やがて貴女も大人になって、独り立ちをする時が来た。今では持っていくものと捨てていく物を整理するために、クローゼットを漁っている。
おや、どうしたの?急に手を止めて、何を見つけたの?
ぴたりと止まった貴女の背中は、やがて少しずつ震えだした。貴女の涙の落ちる先には私の絵があった。嬉しい、まだ残していてくれたんだ。……ううん、大丈夫。私は決して、貴女を恨んだりなんてしていていないから。まあ、少し寂しくはあるけれど。是非を問うものなんかじゃない、そういうものだと知っているから。
貴女は私に背を向けて、やがて見えないところまで歩き去っていく。これでいい、これが私の最期でいい。
いつか消える私から、貴女へ決して届かない言葉をあげる。
行ってらっしゃい。次に出会う"夢"こそは、ちゃんと叶えてあげるんだよ。
この作品の作者は 1NAR1さんでした!
予想結果: 1NAR1×6, izhaya
雪が頬に落ちた音で目が覚めた。弾薬箱の山、霜の降りた土壁、狭い曇天。ここが塹壕の中であることを思い出す。
「起きたか、新兵。今のうちに飯か酒を腹に入れておけよ、ユーリ」
老兵は手にしていたクラッカーをヴォトカで流し込み、空になった酒瓶を小銃の側に立てかけた。
「食う気がしません。僕は大丈夫です」
「気分に戦況は合わせてくれねえぞ。時間はお前の母親じゃない」
老兵はレーションの封をわずかに切って、こちらに投げてくる。中身を覗く。クラッカーか永久凍土のような硬さの牛肉の煮込みの二択。仕方なくクラッカーを一枚口にする。麦の香りが口中に弾け、故郷のボルシチを思い出す。
母の生家の伝統で、実家のボルシチにはファレファッレ・マカロニが入っていた。ビーツの赤に染まったファルファッレはまるでリボン飾りのようで、口に含むと豊かな麦の香を主張したものだった。
「状況は停滞している。塹壕戦ってのはそういうもんだ。たまに顔を出して機銃を撃ち合ったところで何にもならん。多少の野砲を投射したとて、な。第一次大戦からずぅっと続く、戦争の最もつまらん一面ってやつだ」
自分の小銃を手に取る。冷たい泥で塗れた手袋の中で小銃が陰茎のように滑り、怖気立ちながら小銃のボルトまわりにべっとりと着いた泥を袖で拭った。
時間だ。老兵が口にする。地響きを感じる。
「塹壕戦の膠着を打破するのはいつだって戦車だ。立つんだ、息子よ。気分に戦況は合わせてくれねえぞ」
塹壕の頭上を味方の戦車の履帯ががりがりと踏み、前方へと誘う。跳ぶように前進する父親の後を追って塹壕から飛び出す。鼻腔にはまだ実家のパスタの香りが残っていた。
この作品の作者は ShicolorkiNaNさんでした!
予想結果: Azalea-000, Yukko, hallwayman, EianSakashiba
そうだな。
一昨年に入った中で、あいつが一番足が遅くて、一番遠投の記録が低くて…
一番、ニコニコして楽しそうだったんだったな。
どれだけ長い時間掛かっても、ゲロ吐くまで疲れてもずっとニコニコしてたんだよ。
一番最後まで残ってたから自然と用具の掃除とかもしまうのも任せてたんだよ。
そしたらさ、しまった後でも練習してたんだ。ずっと走って、投げて、ストレッチして…
三年になって、やっとレギュラーを自分の実力で勝ち取ったんだ。
その時にはもう両膝ガタガタになってた。オーバーワークってやつだよ。テーピングや湿布だけじゃ足りないぐらいの酷さだ。
走れなくなるぞって忠告したけどニコニコしながらこう返って来た。「最期まで前に走り続けたい」ってな。
で、大会の前に故障しちまったんだ。そして結局大会には出られなくなったんだ。
完治まではざっと二年。あいつは高校卒業してもやる気なのがせめてもの救いだ。
手痛い停滞ってな。
って入院してたアイツに見舞いの時言ったら初めてキレるのを見たよ。全身から善心が消えたってぐらいに。
で、それがこの時の傷痕。まだ手痛いぐらい重傷だったし、病室でデカい音出したんで普通にバレた。
だから入部希望のお前達にはまず言っておく。
漸進する気の奴は帰れ。俺が改めるよりもお前等が同じ轍を俺に踏ませないのが先だ。
みたいな事を言って来たので、走り幅跳びで使おうと思ってた筋肉は残さず逃げる事に使った。
この作品の作者は eagle-yukiさんでした!
予想結果: 1NAR1, eagle-yuki×3, Yukko, EianSakashiba, Ryu JP
春休みを利用した帰省中、ふと、エナドリが飲みたくなって家を出た。スマホの時計は水曜の午前0時前を指している。そういえば、2年前に会っていた彼女はどうしているだろうか。
とある冬の水曜深夜。勉強の息抜きに近所の自販機へと向かったら、珍しく先客がいた。悴む手では中々小銭を取り出せないのか、買い物に時間がかかっている。そんな気まずい状況を打破するためか、彼女は僕に話しかけてきた。
「えっと。学生の人、ですか?」
……彼女とは、偶然にも目当ての品が同じだった。緑色の缶を持ちながら、お互い受験生なこと、志望校のこと、そして夢のことについて会話した。彼女は有名私立志望で、教師になるという夢を持っていた。やりたいことが無く、学費が安いというだけで国立志望の僕とは正反対だ。
「近所に受験生の人が居たって初知り~!なんか学校じゃないとこで立場近い人と話せて良かったです!」
それから毎週水曜の午前0時には、彼女と自販機前で軽く駄弁るようになった。特に示し合わせた訳じゃないが、そうなっていた。流石に入試シーズン中には会えなかったが、色々一段落した春休み、彼女と再会できた。
「お互い第一志望受かったことに、かんぱ~い!」
細長い缶を頭上に掲げ、名前も知らない彼女と笑い合う。この日見た笑顔は、人生で見た中で最も眩しかった笑顔かもしれない。
思い出に耽りながら歩いていると、自販機前に人影が見えた。金髪、派手な服、そして大きく膨らんだ腹部が目に付くが……その人物は。
「え?……あ。あぁ、久しぶり。へへ、変わってないね」
彼女が笑顔を向けてくる。僕も、なんとか笑みを返す。きっと、最高にヘタクソな笑顔だったと思う。
この作品の作者は Yukkoさんでした!
予想結果: Yukko×2, nekokuro, izhaya
カタツムリを眺めていた。
ふよふよと触手を動かしながら、まるで赤ん坊のように這うカタツムリを、眺めていた。
雨は降っている。咲く紫陽花の、その葉の上にカタツムリはあった。
私はそれを何の気なしに眺めていた。ぼうっと眺めていた。
傘に雨が、ぽつぽつと当たっていた。
地方の家の小さな庭の、そんな小さな、ごく小さな世界に這うカタツムリは、私に「井の中の蛙」という言葉を想起させた。
――どれだけ進んでも、この街の外へは出られないのだろう。
私はそれを「哀れ」だと思った。それと同時に寂しさを知った。
ぬめりとした歩みを携えて、カタツムリは征く。一歩一歩確かめるように、慎重に進む。
だが、それは「遅い」に他ならず、見る人によっては進んでいないとも見受けられる。私はそれがとても悲しいことだ、と考えた。
梅雨に濡れた紫陽花がきらりと照って、葉の先から雫がちろちろと零れ落ちている。
……幾らか時間が経っただろうか。私はまだ、這い進むカタツムリを見ていた。
白い軟体は、何枚かの緑を超え、その軌跡の結果を残していた。それは目に見える結果だった。この庭からすらも出られていないのだが、それを無碍にする事は私にはできなかった。
彼らにとっては、これは生きるための行動、ヒトのような「考える」ことをせずに行うものなのかもしれない。そもそも、何が為に進むのかは私の知れたことではない。
が、私はそこに、小さな、小さな覚悟を見た気がした。
――カタツムリを見るために家から出たのは良かったが、そうこうしている内に夕方だ。晩飯の支度をしなくては。
そう思い、私は家へ引き返していった。
カタツムリは、次の日には居なくなっていた。
この作品の作者は Nununuさんでした!
予想結果: Nununu×2, Fireflyer, izhaya
僕が小学生の頃、近所のガキの間でグリコが流行ったことがあった。
グリコと言ってもお菓子の方ではなく、じゃんけんをして階段を上がっていく遊びの方である。
その頃僕たちは学校近くのお稲荷さんで、毎日のように階段を上り下りしていた。僕はじゃんけんが特別強いわけではなかったが、パーかチョキでよく勝っていたので一着であることが多かった。
チョコレートとパイナップルを繰り返し三連勝したあの日、隣のクラスに転入して来たばかりの背の高い女子が僕に話しかけてきた。
「うちとやろうよ、グリコ。」
調子が良かった僕は迷わず勝負の誘いを受けた。が、じゃんけんを数度繰り返した後、僕は入口で彼女を見上げていたのだった。彼女は僕のチョコレートとパイナップルを止めるためか、チョキばかり出してきた。仕方なく僕がグーを出すと、すかさずパーを出して、パ、イ、ナ、ツ、プ、ル、と、僕を置いて駆け上がっていくのだ。初めについた差は大きく、あとは何度かじゃんけんに勝っても、僕は彼女に追い付けなかった。
てっぺんまで着いて、足取り軽く戻ってきた彼女に尋ねた。
「なんでそんなにじゃんけん強いんだよ。」
「だって君、グー出す時だけ顔にはっきり出るもん。」
彼女はにんまり笑うと、じゃあね、と、弾むようにどこかへ行ってしまった。
それから僕は彼女にリベンジしようと仲間と何度も繰り返し勝負したのだが、彼女は僕が誘っても、ただにまにま僕らが遊ぶのを眺めているだけだった。
その日から一年も経つ頃、彼女はどこか遠くへ越していってしまった。
僕は今も実家に帰ったとき、そのお稲荷さんの前でふと足を止めてしまうのだ。
この作品の作者は Nekokuroさんでした!
予想結果: Azalea-000, Nununu, nekokuro×2
私が23歳、彼女が24歳の時の話だ。
卒業する彼女に合わせて引っ越しをして、同棲生活を始めることにした。
思い立ったが吉日な彼女は即座に手配を進め、のんびり屋の私は事後承認を繰り返すのみだった。
それでも我々は二人三脚で、新しい世界や生活を楽しみに作業を進めていった。
さて、引っ越し作業を前にして、私はとんと困ってしまった。
下宿の中に溢れるもの、物、モノ。これらを整理整頓し、要不要を考え、箱詰めすると思うと、どうにも手が動かないのだ。
全てに何となく思い出があるし、同時に全てがどうでも良く思えた。
全てに何となく必要性を感じたし、同時に全てが不要なものに見えた。
作業は一向に進まなかった。
彼女はというと、とっくに部屋の整理を終えており、いつでもすんなりと移動できる様子だった。
ここは恥を承知で頼むしかない。そう思って、彼女に片付けの手伝いを依頼した。
「もちろん、良いわよ」
快諾してくれた彼女と共に下宿の荷物を整理する。
期限切れのチラシ、数年前の新聞、半分だけ使った目薬。
かけた茶碗、折れた物干し竿、乾涸びたウェットティッシュ。
使う予定のない辞書、落単した講義のノート。
渡しそびれていたクリスマス・プレゼントまで出てきた。
彼女はそれらに苦笑しつつ、最後まで作業を手伝ってくれた。
残ったのは段ボール3箱だった。
私の過去の空虚さが際立つ様に思えた。
「その分、未来を豊かにしようよ!」
彼女は朗らかにそう言った。
結果的に、私の棺に入ったものは、彼女と暮らしてからのものばかりだった。
良い人生だったな。止まる時に身を委ねて、そう思った。
先に逝った彼女から、向こうの話を聞くのが楽しみだ。
この作品の作者は Fireflyerさんでした!
予想結果: eagle-yuki, Nununu, Fireflyer×2
梅雨の季節は他に比べると好きな方だ。蒸し暑いだとか、カビが生えやすいというのはわかる。ただ、梅雨の時期に咲く紫陽花はとても美しいし、晴れ間に映る虹は非常に綺麗だ。そして何より、毎日が雨予報であるのが一番の所以だろう。
私は雨の日がどんな天気よりも好きだった。空から落ちる雨粒は永遠に見ていられるし、私のダメダメな部分を洗い流してくれるような気がするからだ。普段は同じ姿しか見せない街並みのコンクリートも、雨でぬれると少し濃い色になり、異なった景色を見せる。喧騒に傘が浮かぶ光景も素敵だ。
小高い丘にある公園のボロっちいベンチでいつも通りそんな下らない物思いに耽っていると、背もたれに衝撃が走った。
「いくら雨が好きだからって、ずっとずぶ濡れだと風邪ひくでしょ。……いやいや、そんなびっくりした顔されても困るんだけど。」
青い、透明の傘を差したクラスメイトは私にそう言った。余計なお世話でしかない。
「誰でも後ろから蹴られたら驚くよ。」
「まあ。確かに。」
「納得するんだ。」
普段は真っ向から否定に入る癖に。
「いや、さ。」
そう言うと彼女はいきなり傘を畳み始めて、こう続けた。
「今日は君の価値観に合わせてみようと思って。私は快晴の日が一番好きだけど、確かに雨の日も悪くはなさそうだし。どう?」
彼女は傘を閉じると、得意げに笑ってそう言った。何が面白いんだか。
「あ、そ。じゃあやってみてよ。でもそのままだとびちょびちょになるよ、制服。」
「うわ。そうじゃん。サイテーだね。君。」
「アホか。」
雨の中、傘を閉じたまま坂を下った。太陽は出ていないのに普段よりどこか明るかった。
この作品の作者は hallwaymanさんでした!
予想結果: hallwayman×3, Ryu JP
インターネットを開く。
URLをペーストして書き込む。
サンドボックスを開く。
「ポータル」をクリックする。
自分の下書きに目を向ける。
書き込む。
内容に沿っていないので消す。
書き加える。
句読点の誤りを直す。
読み直す。
あまりにも陳腐なので別の作品に移る。
書き込む。
画像を用意し忘れたので一旦保存する。
「ポータル」に戻る。
頭を抱える。
ふと下のタスクバーに目をやる。
メールが21件来ているのを確認する。
開く。
最初のメールは就活についてである。
明日の10時から説明会があるので来て欲しいとある。
最後のメールを開く。
教授からだ。
進学するのか、するならば何処を考えているか出来れば明日には教えて欲しいと書いてある。
消す。
どうするか分からなくて頭が痛くなる。
もう一度サンドボックスを開く。
先程まで書いていた下書きをまた開く。
良いアイデアは思い付いたので加えてみる。
思っていたものでは無くなった。
書き直そうとする。
メールの内容を思い出してキーを叩けなくなる。
本サイトを開く。
他の作者の記事を見る。
アイデアの参考とする。
卑屈に襲われる。
サンドボックスを開こうとする。
手が止まる。
ふと考える。
この動作連鎖に終わりはあるのだろうか。
そもそも、私は同じ場所から進めているのだろうか。今まで積み上げたモノを壊して台無しにしているだけなのか。
何故他のやるべきことを差し置き書き続けているのか。
本当はわかっている。
今の状況から抜け出せず、否、抜け出さずに怠惰の泥に蹲っているだけなのだと。
これも結局の所、私は自分の生活と将来も顧みず、停滞を誤魔化す為だけに書いているだけだと。
この作品の作者は EianSakashibaさんでした!
予想結果: Azalea-000, 1NAR1, Fireflyer, EianSakashiba
音楽を始めたのは、私だけの音を鳴らしたかったから。
1日中お下がりのギターをただ弾いていた。漠然と上手くなりたいとは思っていたが、明確な目標はなかった。私が鳴らす音に私が包まれている、それだけでこの音楽は私だけのものだと全身で感じる事ができる。それだけで満足だった。
目標を持たなかったのは、そうしてしまうと何かが始まりそうだったから。
バンドに誘われた。とても必死で、ここで自分たちの物語を終わらせたくないと泣きそうな顔で引き留めて、断れなかった。ドラムもベースもギタボの子も、皆がそれぞれの目標を持っていて、そこに辿り着く為の物語が始まった。私が鳴らす音楽は私だけのものではなくなり、私自身その変化を心地良いと感じてしまった。
何かが始まるのが嫌なのは、必ず来る終わりを見たくなかったから。
何年か経った目標の武道館の後、「バンドを続けさせてくれた人に恩返しがしたい。一旦休止という形で終わらせたい」という提案が出た。多数決で3対1、皆は絶対戻ってくると約束した。私はバンドを続けることが恩返しじゃないんですかと激昂した。ここが物語の終わりなんだと思い、皆の事情を汲み取れなかった。
私はその終わりをバンドの結束と共に引き裂いた。1人で音楽活動を続けた。他のメンバーがそれから自分の音を鳴らすことは、なかった。
ひとりぼっちの「ぼっち」には小さな点という意味がある。夜空に輝いていた星が1つ地に落ちて、ただの石に成り果てた。それでよかった。他の小さな点と一緒に星座になって、その逸話が物語として残るより、輝きを失った石ころとして転がり続けることを選んだ。
私が鳴らすギターはもう、その音の持ち主を教えてくれない。
この作品の作者は Ryu JPさんでした!
予想結果: ShicolorkiNaN, nekokuro, hallwayman, Ryu JP
錆び付いた血の色で自分と部屋が満ちていた。
トートロジーじみた悪意と殺意、グチャグチャになり遺体から漏れて融けた。暑さの中の贖いが祭りとして反芻された。頭蓋骨の蛋白質はとっくに機能を不全としてた。ニューロンの伝達だってすれ違い、延々と不正解を求め続けた。記憶の中の理想とやらはとうの昔に擦れて失せた。探し物は既に役目を果たしていた。終わらせていた。見つけていた。意味は無かった。
モスキート音と低周波、同時に響く解体の宴。吐く事は無くなったのにいつまでも終わりやしない。忘れる事もできやしない憐憫だけが何千万とリピートされた。今も昔も先も変わらずに、生きているまま死んだような切断と縫合を繰り返す。
あと幾つの肉塊を殺せばいい。どれだけ人が人でない化合物に成り果てるのを見ればいい。いつまで彼女の悲鳴が響けばいい。何度自分で自分の愛を踏み躙ればいい。何処まで机上の空論なIfを数えればいい。自問自答で好きな相手の首を捻り、誰かの臓腑を撒き散らした。
有り得た未来は自分で捨てた。下らない倫理観やら傲慢が、赤点の末路として返却された。だから今や過去が眼球の中に膨れて弾けて壊れて消えた。未だにどうにも忘れない。酷く鈍った停滞の中、昨日に捨てた正解のまま、不正解を続けている。
殺した化合物から、また愛していると悲鳴が響く。
錆び付いた血の色で自分と相手が満ちていた。
いつまでも満ちていた。
この作品の作者は izhayaさんでした!
予想結果: Azalea-000, ShicolorkiNaN, nekokuro, Ryu JP
「一緒に江戸時代に戻ろうぜ」
ノブはそういって土手に大の字に寝転がった。
「何でさ」
腕を振り払う。僕は地べたに寝転がる趣味は無いのだ。
「思うに、幸せを追い求めて進歩した結果、とうに幸せを踏み越えたんじゃないか、って事だよ」
「何、いきなり」
「東京大阪間が2時間で行き来出来て、それが幸せか?江戸時代位が丁度良いんじゃないの」
言いたいことは解る。
「だけどそしたら、僕らの家は川の向こうとこっちだから、中学校が無いと、そもそも出会えないんじゃない」
「あそこに橋あるだろ」
「かかったのは明治時代。」
「じゃぁ文。ふみを送る」
「識字率考えなよ」
色黒のおじさんが向こう岸をランニングしている様を眺めながら、ため息をつく。
「それにお前、苗字、織田でしょ。織田のものでしょ。江戸時代だと僕、ノブとは喋れないと思う」
「あー!そっか。お前、山田だもんな。どうしよう」
「まぁ兎に角、文明の進歩が、ノブが僕に愚痴る事を許してる訳。進歩に感謝」
「高校、三吉の特進なのかよ?地元じゃダメなのか」
急に来たな。
「何でそんなに勉強ばっかりするかね」
ノブは体を起こして土手に座る。川面がきらきら光っている。
「好きに生きるって意味だと、ノブと一緒だよ。」
「んー」
納得いかなさそうなノブの隣に、ハンカチを敷いて腰掛ける。
「幸せになる為に進歩した、ってノブは言うけど、俺は我儘が時代を進めたと思う。あれがしたい、これがしたい、その先に幸せがあるかどうかなんてわからなくても」
さっきのおじさんがこっちに向かって走ってくる。
我儘で不利益を選ぶ生き物。
「ちゃんとふみを送れよ」
ノブがこっちを見ずに言う。寂しがりめ。
「ラインするよ」
この作品の作者は seda87neさんでした!
予想結果: ShicolorkiNaN, Nununu, nekokuro, EianSakashiba
重々しい溜息をついてどうしたんだい?原因は成程、スランプか。
気にしない方がいい。スランプというのはどこにでも誰の傍にも見境なく平等に訪れるものだ。昨日まであまりに書けずこちらを嘲笑う幻聴に苦しんでいた私が言うのだから間違い無い。
「じゃあどうやって抜け出したんですか」?
随分直球な疑問だ。嫌いでは無いよ。そんな真っ直ぐな君に一ついいことを教えてあげよう。
結局のところ我々は書くしか無いんだ。
インプットの逃避と時間旅行の中で見つけた何かを。日々を浪費していく焦燥の中で見過ごしかけては目に止まる何かを。締切に義務感に追われ疲弊した精神が見た壮麗な幻覚を。
それを見つけて掴んで褒められる。否定されて無言で貶められる。自分と他人と自分の中にいる他人とが争う脳の中で何度も何度も不躾に磨かれて、気づいた時には面影が消えるほど形を変えている。
それでも手元に残った何かをこそ我々は書いていくべきでは無いかとね。我々のような人種はそうやって文字の上を歩いて行く。這うように芋虫のように一歩ずつ進んで行くしか無いんだよ。
傍から見て前に進んでいるのかそれとも後退しているのかちっとも分からないまま暗闇を手探りで歩いて行こうじゃあないか。三歩進んで二歩下がるというあの歌は実に的を得ていると思うことだよ。
少しは参考になったかな?それはいい。こんな場所に居ないで喫茶店なり自室なり適当な所に帰って一文字でいいから何かを書き出すともっといい。
未だ見ぬ名作を楽しみにしている世界中の読者。君や君の作品に出会っていないだけの将来読者になるかも知れない人々。或いはその中にひょっとしたらいるかも知れない、君のファンに向けてね。
目利き部門
総合優勝
Kiygr
(25pt.)
新王誕生!
総合準優勝
SuamaX
(23pt.)
総合3位
Fireflyer
(14pt.)
Aグループ優勝
Kiygr
(10pt.)
Aグループ準優勝
SuamaX
(6pt.)
Bグループ優勝
SuamaX
(12pt.)
Bグループ準優勝
Kiygr
(10pt.)
Cグループ優勝(同率)
SuamaX,
Fireflyer,
Kiygr
(5pt.)
文体当てられ部門
Aグループ優勝(同率)
santou,
sanks269
(5pt.)
Bグループ優勝
rokurouru
(7pt.)
Cグループ優勝
1NAR1
(6pt.)
主催 - Ruka_Naruse
技術協力 - Dr_Kudo
原案者 - meshiochislash does not match any existing user name
