700字文体シャッフル: 第七回
テーマ: 流れ
投稿期間: 1月14日 ~ 1月16日
予想期間: 1月17日 ~ 1月20日
参加方法: 以下のグーグルフォームに必要事項を入力して送信してください
投稿は締め切りました。
参加資格:SCP-JPに著作がある。AIでない。
Q and A
Q.文体シャッフルって?
A.みんなで匿名で文書いて、それを誰が書いたか当てる企画です!だから何書いたかいうなよ!
Q.過去作は?
A.Twitterで「#500字文体シャッフル企画」「#700字文体シャッフル企画」を検索!
Q.構文は?
A.by ukwhatn。偉大なる御大に感謝。
GermanesOno
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著作
hallwayman
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著作
hitsujikaip
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著者ページ
Hoojiro_san
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著者ページ
Jiraku_Mogana
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著者ページ
Musibu-wakaru
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著者ページ
Ruka_Naruse
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著者ページ
stengan774
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著者ページ
aster_shion
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著作
BARIGANEsensha
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著者ページ
Dr_rrrr_2919
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著者ページ
islandsmaster
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著者ページ
Kuronohanahana
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著者ページ
kyougoku08
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著者ページ
meshiochislash does not match any existing user name
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著者ページ
Nika_Nayuki
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著者ページ
aaasaan777
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著作
eagle-yuki
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著者ページ
EianSakashiba
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著者ページ
Popepape does not match any existing user name
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著者ページ
R_IIV does not match any existing user name
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著者ページ
Syutaro Eji does not match any existing user name
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Eji 著者ページ
Touyou Funky
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著作
A グループ
author:tateito
GermanesOno×2, hallwayman×3, Hoojiro_san, santou×2, tateito×2
赤道の南からアフリカ大陸を北上し地中海に注ぐナイル川は、河川の長さとしてはこの惑星で最も長いものであるが、人類と共に歩んだ歴史もまた随一だ。
大ピラミッドが作られた時代よりもさらに昔、ヒエログリフすら存在しなかった時、あるいは言葉すら十全に整っていなかった時すら人類と共にあった。
ナイル川の氾濫防止のために作られたアスワン・ハイ・ダムの上に一体の肥満した神が立っている。ナイル川の化身、ハピである。
エジプト人は常に信心深かった。いつも神と共にあった。とはいえ信じる神は移り変わって行った。かろうじてギリシャ人がファラオであった時代までは太陽神の眷属が信仰されていたが、ローマの属州になるとヤハウェが唯一絶対の神となり、そのうちペルシアに占領され、それがイスラム帝国に打ち破られるとアッラーが彼らの神となった。
ハピはけして忘却の彼方に追いやられた訳ではないが、精々が観光資源の一つとしか見られていない。
ハピはナイル川の流れを止めようと思った。
ナイル川は止まらなかった。
ハピはナイル川を氾濫させようと思った。
ナイル川の流れはダムの影響で緩やかである。
そこでハピは、自らが人間の想像の産物である事を思い出した。
無から生まれた神は無へと還り、ナイル川に溶けて消えた。
ナイル川は人間と共に流れ続けている。ナイル川への畏敬と信心もまた同様に。
author:hitsujikaip
hitsujikaip×11, stengan774
掛けまくも畏き思兼神の大前に今奉たてまつる箱玉は、箱を大海原に千・万ち・よろず太敷き、弥遠長いやとほながに限りなく連並つらなめ、各各、或いは一つ玉込め奉りて「1え」となし、或いは玉込めず奉りて「0と」となし、此の処を「$i$」と数へ、此の時を「$t$」と数へ、此の箱玉を「$B^t_i$」と定め奉り、理ことわきて申す。
かく奉らば、西の極みゆ、箱の玉持ち出で、東に一つ移り、箱に玉無くは持ち出で来る玉込め、残りを此の例しに依りて、度々たびたび繰り返し、かく持ち移し出でなば、
(1)と時進みてむ、かく奉らば、孤立波ひとりだちたるなみ「えええ」と孤立波「ええ」とは
とえええととええとととと
ととととええととえええと
と、五百重波いほへなみに相交じり遠離るさざ波のごとく流るるを、微分方程式さざわけのたづきの超離散化さらにはなれちるかたちと併せ奉らむと称辞竟たたへごとをへ奉らくを数学者諸諸かぞへびともろもろ聞き給へと宣ふ。
author:GermanesOno
1NAR1, ashimine, GermanesOno×4, Hoojiro_san, Musibu-wakaru, stengan774×2
液滴が側溝から内耳へ響きを伝染させる。ナトリウム灯の病的な橙に満たされた円筒形に、赤白黄色が光線を描く。青色の梱包バンドを拾って、発煙筒を頭部に括り付けた。先程の退避スペースでの仮眠が、脳髄、あるいは眼底から散る火花がいつしか冠を着火し、紅色の煙に溺れるを夢を見せた。真夏、深夜の東名高速道路は酷く蒸し暑い。
「詰まりの症状は明白だ」
渋滞からの逃避。3日間、アスファルト塗装の亀裂から生じた草木で身体を維持している。降雨には頼らない。尤も、空中に五つ目の車線があるのなら話は別であるが。
「滞りないと推測されるのにどうだ。拘泥してるんだ」
大型トラックの転倒によって60kmにも及ぶ渋滞が生じた。それは天啓であった。背理法による存在証明であった。荷台が目の前で横転した、磁石に砂鉄が吸い寄せられるような、摂理の宿った動きで遮音壁に接触した。積荷の飴が散乱する様には、慈悲が感じられた。夢中で拾い集めた。東名高速道路を覆う透明な思考のガラス板の破片が、麦芽糖と一緒に煌いていた。
「赦されぬときは、お悩み相談コーナーのフリーダイアルへ」
車両の循環と一体化する方法は轢死しかないと思い込んでいる。試しに真ん中に躍り出て、衝突したボンネットが残したのは頭蓋に走る数本の亀裂。凝り固まっていて、何も漏れてこない。
「ええ、遭難です。路上で遭難して、ここ数日ずっとです」
緑色の受話器に手を掛ける。助けを求めるのは緊張した。肢体の末端へと向かう動脈が、その存在を主張し始める。再び瘡蓋から血が滲んできた。教義を見出しかけて、妥協したくなった。電話越しに嗚咽を聞かれるのはどうでも良い。変化が、流れが蘇ってきたのが悔しかった。
author:Ruka_Naruse
1NAR1, GermanesOno, Hoojiro_san, Musibu-wakaru, ocami, Ruka_Naruse, santou, stengan774, tateito×2
♪ Today is gonna be the day that they're gonna throw it back to you――
形から入る方だとは、よく言われる。別に否定はしない、ストリーミングアプリから流れる爽やかぶったブリットポップがその逃れえぬ証左だろう。いたく寒いのに窓を開けてカーテンをなびかせているのも、部屋の明かりを消して外光のみを採り込んでいるのも、あるいはPCではなく紙と鉛筆で原稿をしたためているのも、全ては雰囲気づくりだ。
一応、私は繊細な文章を売りにしてるんだ。この程度の空気作りで後ろ指をさされてはたまったものではない。そして事実、私はこうしている時見違えるほど冴えているのだ。
♪ I think I'm gonna be sad. I think it's today, yeah――
卓上の物語が第二幕を終え、佳境を迎えた時。実に耳馴染みのあるフォークロックが聞こえてきた。それに乗せられるまま筆が踊るように進む。ミックスリストは最高のタイミングで私にビートルズを届けてくれた。不意に風が止み、吹き込んでいた冷気に昼間の暖気が置き換わる。流れが完成している、万象がこの劇をまっとうさせる為に流転しているかのようだ。
紙の上で役者が、舞台が生きている。彼らが次に何を口走るのか、いつ雲が掃け陽光が注ぐのか、手に取るようにわかる。さあクライマックスだ、卓上のヒロインは静かに一つ呼吸をして、くるりと主人公の方へ振り向き……
♪ B"O"O"O"O"A"A"A"A"A"H"H"!!!――
デスメタルが鉛筆の芯をへし折った。
author:stengan774
GermanesOno, hitsujikaip, kata_men, ocami×2, Ruka_Naruse, stengan774×4, tateito
芸術とは流れ(Flow)だ。偉大な芸術家はそれを爆発だと言い、ある死した少女はそれを魔法と語った。彼らは正しい。しかしある者が称すには、さらに静かで、だけれど雄大な力動りきどうであるらしい。曰いわくに、芸術は大河の流れだ。疲れ倦うみ、霧がかった君の頭の底、一条ひとすじの水が流れていく。小川は夜の渓谷を進む、進めば流れはうねり、飛沫しぶきを逆巻き滝と叩きつけ、だんだんと勢いを増してゆく。流れに促されるままに、我らは同じ道を辿たどり、力を秘めた合流となろうとする。ああ、芸術は大いなる大河の流れだ。源みなもとは皆みなただ一条の水、音声おんじょうを鳴らして過すぐは霧がかる創造性の奔流。我らそれを流れに枕すが如く、夢に聞く。空想と現うつつの境に溢れ出す流れは轟く瀑布か、理法に仇あだなす魔性の業わざか。朝に行く雑踏の足元を浸ひたすその流れは、可能性の海原うなばらへと続いているのか。全ては流れの果てぞ知る。
author:G-ananas
ashimine×2, G-ananas×2, Jiraku_Mogana, kata_men×3, Musibu-wakaru×2, tateito
私はアマゾンプライムに入っているし、今でも好きな小説家の最新作は発売日に買う。だが、皆が話題にしたあの映画は結局見ることなく見放題期間を過ぎてしまったし、買った本は新品の本特有の頁の張り付きを残して本棚の肥やしになっている。
若い頃はそうでなかった。他人のセンスを己の血肉に変えようと必死だった。ジャンル・表現方法を問わず貪欲に吸収した。自分こそが次世代の表現者であると信じて疑わなかった。
自分は流行になれない。
そう確信したのは8度目の新人賞を落選した時でした。もう私は三十歳を越え、流行の発信者が年下というのも珍しくもありません。最近では十代の子が書いた小説が映画化されて人気になっています。芸術に年齢は関係ないというのは絶対嘘です。今の私にとって流行という物は発信者による私への攻撃です。心温まる物語であれ、心躍る冒険譚であれ、コンテンツを受け入れているときは楽しくても、全てが終わったあと残るのは画面の前で何も成しえていない中年が一人座っているだけなのですから。
だから流行に乗るのは止めてしまいました。でも新人賞には毎年投稿しています。評価シートには『最近の作品を読んで、流行を学んでみてはいかがでしょうか』という意味の言葉が数百字に渡って書かれています。
人の流れに逆らって、辛くて、ぽろぽろと自分が砕けていきます。川底の石なら丸くなって下流へ下っていくのに私は砕けるほどに角が立って、でも倒れるなんてことは絶対にできない。だって、私は今までこれしかしてこなかったから。他の生き方なんて知らない。
私はそうやって、砕け散るのを待つだけの生き物になってしまったのです。
author:hallwayman
hallwayman×5, Hoojiro_san, Musibu-wakaru, ocami, Ruka_Naruse, santou×2
「明日の仕事用のお弁当できたよー」
「ごめんねぇ美香、手間かけさせちゃって…」
「いいよ、気にしないで」
「あ、じゃそうだ、だったらさ代わりにお姉ちゃんこの人のツイート見てー」
「あれ、これ前言ってたヤツの?」
「うん、コーヒーの蓋をオシャレとか言ってたり毎回料理失敗する人なんだけど、この人の書いている作品も面白いんよ」
「いいからさ、あとで見てよとにかく見てよ面白いんだから」
「先輩、何見てるんですか?」
「ん、いや、なんでも」
「ウッソだー先輩、なんかスマホ見ながら変な顔してるじゃないすかー」
「…妹にススメられたんだけど、全く面白さがわかんないのよ…何SCPとかオブジェクトって?」
「ほーん…何か難しい話ですね、それ」
「後書いてる人が変な人だとか他にも似た人たちが書いてるとか、ほら」
「知らないっつの」
「ねえこのツイート見てよ」
「ん?これがどっかしたん?」
「先輩伝いに知ったんだけどさ、コイツめっさ面白くない?」
「眼鏡かけて踊ったり変な語尾使って、オタクみたいなのなコイツら」
「コイツらさ、ネットでイジッて流したらウケ狙えない?」
「んじゃあ暇だしダチに回すわ」
「姉ちゃん姉ちゃん、これ見て!」
「私の好きな作者の人とかがネットでバズってんの!」
「良かったじゃん。好きだったんでしょ?」
「うん、そうなんだ、でもさ」
「でもこれじゃ面白い音出すオモチャ扱いなんだ…」
このようにして名前や功績は形を変え、消えつつも、その名は他の場所に"伝播flow"するようになるのであった
author:Musibu-wakaru
G-ananas, Jiraku_Mogana, Musibu-wakaru×2, Ruka_Naruse×3, santou×2, stengan774
オフィーリアは水面に漂いながら、数十分前にいったい何が起こったかを思い出していた。ボーイフレンドに手酷くフラれたのが昼ごろ。現実が飲み込めず、呆然としたまま家事をしていてコーヒーを服に零したのが……いつだっけ。それで、汚れを落とそうと思って庭に出てきて、足を滑らせて川に落ちて……彼女は空を見上げたまま、かれこれ二十分はこうしているらしいことに気がついた。彼女の上にはたくさんの花が降り積もっていて、くすんだ心の内側とは対照的に、見た目だけは華々しくなっていた。
このまま川に流されて、海へ出てしまえればどんなに楽なのだろう。真っ青な水平線に手招きされるように流れることを考える。ずぶ濡れのドレスは重いけど、うまく波に乗ることができれば大丈夫。きっと、川を流れていく中でたくさんの人が好奇の目でこっちを見てくる。その中にはボーイフレンドもいるかもしれない。もし彼が新しい女の子を連れて歩いていたら……いいえ、きっと平気。私は爽やかな流れに乗りに乗って、きっと彼だって追い越しちゃう。
オフィーリアは、熱いコーヒーの到着を今か今かと待っているチョコレート・クッキーのことなんてすっかり忘れて流れに思いを馳せていた。
……でも、それは私なのかしら。確かに、彼を追い越してずいずいと流れていくのはこれ以上ないほど気持ちのいいことよ。でも、それで彼を追い抜いたって、私は何一つしていない。ただ流されただけ。それじゃあ勿体ないわ。私は魚じゃなくて人間なんだから、立ってこの足で歩かなくちゃ。せっかくの晴れだもの。
オフィーリアは立ち上がり、その頃になってようやくチョコレート・クッキーのことを思い出した。
author:santou
G-ananas, Hoojiro_san, Jiraku_Mogana, kata_men, ocami, Ruka_Naruse×2, santou×2, ShinoguN
この暗い世界には、人口の光しかない。
みんなは本当の太陽が見たいと言うけれど、私は星が見たかった。
「いいか、地上に太陽があることをお前は知っているな。だが常にあるわけじゃない。時に太陽は顔を隠し、星々が天井を覆い尽くすんだ」
冒険を生業としていたおじさんは、そう語った。星とは小さな光であるらしい。私は寝床に照明を飾り付け、その光景をよく想像していた。ここの光はとても眩しくて、暖かくて、便利なものだけど、星の光は私たちのために存在するものじゃない。きっとその光は何の役にもたちやしない。だからこそ、私はその在り方に惹かれた。
いつしか、地上を夢に見ていた。地上への道筋は厳しいものだ。おじさんも含めて目指した者は皆帰ってくることはなかった。ただ、私は星々を実際に目にしたいという欲に駆られ、隊に志望した。
長い旅の末に、私たちは地上に辿り着いた。しかし、そこには皆が思い浮かべるような青い空は広がっていない。太陽は笑っておらず、藍色が世界を塗り尽くしていた。
「ねぇ、みんな灯りを消して」
周りが宵闇に包まれると、段々と眼が真を写し出す。同時に、感嘆の声が漏れ出した。
手をどれだけ伸ばしても届かないほどの場所に、数多の煌きがそこにはあった。私の小さなベッドの上にはないものがそこにはあった。
気づけば、星彩が空を流れている。一瞬の瞬きの後に消えた輝きも、再度見上げれば群れをなして駆けていた。瞳の中で、その光が巡った。
おじさんも教えてくれなかったこの現象の意味を私は知らない。でも価値を見出すことはできる。私は、はやくあれになりたい。みんなの呼ぶ声を無視して、ただ流れる星を追い続けた。
author:ashimine
ashimine×2, GermanesOno×2, Hoojiro_san, kata_men×2, ocami×2, Ruka_Naruse, ShinoguN
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。
自殺を決意した頃から、私の周りでは拍手が聞こえるようになった。はじめどこからとなくまばらに鳴り出したクラップは、楽に死ねる方法を検索し出した頃からはっきりと、家族と友達に向けて遺書を書き終えた辺りから喧しく感じる程に。そして今、8階建ビルの屋上に立ってからは何百人いるのか知れない大音量の手拍子が、耳元すぐで響き渡っている。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。
拍手は最初こそ不気味だったが、人間数日経つと『そういうもの』と割り切れるもので、以降は死の色をより濃厚に意識させるようになった。正体も目的も分かった物じゃないが、私が死ぬのを待ち望んでるのだけは確かだろうから。いいだろう、ご期待に応えてやろうじゃないか。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。
フェンスの上に立ち上半身を前に乗り出す。ぐらり、と傾いた身体が自然に外へ飛び出た。見慣れた世界を逆さにした景色に、スローモーションで近付いていく。
その光景とは別で、膨大な量の風景と人々が数瞬間で頭を流れる。そうかこれが走馬灯か。いつも優しかった家族、友達になってくれた人達、数々の楽しかった思い出が……あれ?どうして私は死のうと思ったんだっけ?だってこの走馬灯の中には、私が死にたいと思ったような過去なんて、一度も。理由なんてない?ただなんとなくその場の流れで?
拍手が、全身を包み込む中で考える。
私が死のうと思ったのは、本当に私の意志だった?
その疑問に答えが出る前に、私の乱れた髪の毛の先端は、石畳みの感触を私に伝えた。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。
author:Hoojiro_san
1NAR1, Jiraku_Mogana×3, Musibu-wakaru, Ruka_Naruse, santou×2, ShinoguN×2, stengan774
人喰い兎を追い詰めたの後の仕事は中年男性を監視する役目であった。財団で常識を疑った回数など既に数えきれないが、布や糸がギッシリ詰まった段ボール箱をうず高く積んだ小部屋でミシンを走らせる中年男性はそうそう見れるものではない。SCP-3700-JP。命を削って異常から社会を護る財団には似つかわしくない平凡な男性にしか見えないが、これでもちゃんと役に立っているのだから不思議である。
『今は何を縫ってるんだ、勿体ぶらず教えてくれよ』
「何ができるか分からないから、課程を楽しめるんや」
缶コーヒー片手に中年男を問い詰めてものらりくらりと押し問答。それでも件の怪獣退治で隊長を失い燃え尽きた俺にとって久々の落ち着ける時間であったのも事実だ。
「どーれみてみぃ、ごっつええやろ」
微酔に沈んだ俺を悪魔の関西弁が覚醒させる。皴一つない純白のスーツが雑多な裁縫部屋のスターとして輝いていた。
『お前店出せるんじゃないか?』
「堅物の兄ちゃんに褒めて貰えるなんて嬉しいわぁ。兄ちゃんの死装束を見に三途の川の向こうから隊長も来てくれたで」
強烈な疑問を燃え盛る硫黄の匂いと肌を焼きそうな灼熱が打ち消す。見ては駄目だと訴える理性のアラームを無視して目を凝らせば財団支給の戦闘服に身を包んだ燃え盛る骸骨が1歩、1歩とにじり寄る。
『煉獄の炎で炙る方式を真似たらごっつええ固有兵器が出来上がったで。いっつも死体を譲ってくれてありがとな』
憎悪の炎を纏う骸骨が1人、また1人と増えていく。
author:ocami
ashimine×4, Hoojiro_san, Musibu-wakaru×2, ocami×3, tateito
新たな家族が増える。検査薬が示した可能性は、私の目を眩ませるには十分であった。浮かれたまま電話を掛けて……そして、どうしたのだったか。
県を貫く川、その真上に架かった橋の上で、ぼんやりと考える。初冬の風が部屋着のシャツを貫いた。深夜だからか、あたりに人影は無い。
「そっか……確か、堕ろせって言われて、それでも産みたくて……」
まだふわふわした頭で、彼に言われた言葉を反芻する。寒さのせいで上手く動かないが、それでも記憶は蘇ってきた。
くしゃみを1回。これは懺悔だ。
靴を脱いだ。彼が似合うと言ってくれた、赤い靴。これはきっと、彼への未練。
携帯を靴の横に。大量の写真とメッセージ履歴は、私の人生そのもの。
いつの間にか手に持っていた、空っぽのアルミ缶。ラベルに書かれたアルコール度数は、私が如何に愚かかを表している。
この子を堕ろしてしまっても、誰も責めないのではないか、と。心の中で誰かが囁くのが聞こえた。
「ううん、私の子は、この子だけ。私が愛するのも彼だけだから」
ゆるゆると首を振り、寒さと恐怖で震える身体を無理矢理動かして、飛び降りる。
この子を堕ろすくらいなら私は一緒に逝きたい。死ぬのは怖いけど、小さな命を手放すのはもっと怖い。
バシャン、という音と衝撃、そして突き刺すような冷たさが、全身を貫き満たした。
これから私は、愛しい子と共に何処かへと流れていく。ああ、惜しむらくは、彼と一緒ではないことだけだ。
author:ShinoguN
G-ananas, Hoojiro_san, Jiraku_Mogana, kata_men×2, ShinoguN×3, tateito×3
PCのブラウザと向かい合うこと2時間。その内Webブラウザでネタ探ししていた時間が90分。ハンサムな自分はすぐにアイデアを形にできるという予想はあっけなく外れ、残り30分は違和感無い単語はどれだの、一番印象に残りそうな表現はどれだのとひたすら日本語の沼の深みに沈みこんでいた。
仲間が来て助けてくれる筈もなく、孤独な創作に終わりは無く、だけど締め切りだけは有って。テレビのリモコンの一時停止ボタンを天に向けて連打したり、ベッド下から引っ張り出してきた時間停止モノの導入を読み上げたりしたところで待ってくれるわけなくて。糸と五円玉で作った振り子を指で摘まんで固定して一人涙を流した。もし自分が鉄拳なら振り子を止めようとするパラパラ漫画でウン百万人泣かせられるのに。
「時よ止まれ、お前は過ぎ去るにはあまりにも美しすぎる!」
悪魔と契約しとけば良かったと嘆いた2023年1月17日午前0時。現実は非情である。
author:1NAR1
1NAR1×7, G-ananas, Jiraku_Mogana, Ruka_Naruse
演者にとっての音楽は奔流だ。スネアが一小節目のアウフタクトの打音を鳴らした時点で音楽は誰の物でもなくなる。待ったは効かない。メンバー全員で流れに飲まれないように息を合わす。呑まれているやつがいたら手を引く。一緒に溺れてなんてやらない。
練習中だってそう。ミスったらへらへら笑いながらもう一度最初から。その練習はやがて本番になる。濁流に身を任せてしまった水死体の展示会をライブとは言わない。部分練習でもないのなら一度走り始めたら最後までやらなきゃならない。
そういうの、楽しくないな。メンバーがそう言いながらバンドを去った。私はまた、一人ぼっちのベーシストになった。
ステージのライトが暗くなり、同時に箱の空気を震わせるギターソロが、私をつまらない回想の濁流から引き揚げる。ピンスポットは私の、私たちのバンドの間違いなく花形ギタリストと呼べる彼女を煌びやかに照らしている。
また一段とヤバくなったね。猫背のリードギターを見やりながら、私はとても上機嫌になってスコアに無い筈のスラップでばちばちと音を鳴らしてしまって、ドラムが眉を片方だけ上げながらこちらを見て来る。にやりと笑い返してやった。良いじゃない。だってこんなに楽しいんだから。
演者にとっての音楽は奔流だ。スネアが一小節目のアウフタクトの打音を鳴らした時点で音楽は誰の物でもなくなる。でも私はもう怖くなかった。私が流れに呑まれてもあの子が引っ張り上げてくれる。一緒に溺れてなんてやらない、とは、たぶん彼女は言わないけれど。
author:Jiraku_Mogana
hallwayman, Hoojiro_san, Jiraku_Mogana×3, kata_men, ShinoguN×3, stengan774
次のニュースです。宮崎県の遊園地「新延岡カレントランド」で超巨大流しそうめんが行われました。設備の老朽化が原因で閉鎖された屋外プールのウォータースライダーを竹筒の代わりに使用し、放水でそうめんを流します。スライダーは事前に入念に洗浄をしており、安心してそうめんが頂けるとのことです。
今回の企画を提案した名枯 真枷(ながれ まかせ)さん(48)にお話を伺いました。
──今回のきっかけは
水荷さん:流れがあったから。それだけです。
──汚いのではという声もある中、なぜ屋外で行ったのか
水荷さん:もともとお日様の下にあるものでしたから、僕としてはそのまま出したかった。正直な話、中にしまうだけのお金が無かったのもあります。
──手ごたえは
水荷さん:良かったと思います。子供たちがキャーキャー言ってくれて嬉しかったですね。
それでは次の……只今、速報が入りました。
下半身を露出したとして48歳の男が逮捕されました。宮崎県の遊園地「新延岡カレントランド」の従業員、名枯 真枷容疑者は、公園にいた児童に対し下半身を露出したまま追いかけたということです。
逮捕直前の容疑者のインタビューがありましたのでご覧ください。
──今回のきっかけは
水荷容疑者:流れがあったから。それだけです。
──汚いのではという声もある中、なぜ屋外で行ったのか
水荷容疑者:もともとお日様の下にあるものでしたから、僕としてはそのまま出したかった。正直な話、中にしまうだけのお金が無かったのもあります。
──手ごたえは
水荷容疑者:良かったと思います。子供たちがキャーキャー言ってくれて嬉しかったですね。
author:kata_men
ashimine×2, G-ananas×3, hallwayman, Hoojiro_san, kata_men, Musibu-wakaru, ocami, ShinoguN
ダム湖に飛び降りた方の遺体が下流の橋に引っかかった状態で見つかる、なんて話を1度は聞いた事があるでしょう?その発見者ってのがどうやら釣り人が多いらしんです。川釣り中に運悪く……って話みたいで。私も川釣りを趣味としていましてね、ダムの下流で釣りをする時もあるんですけど、そういう話を知っているとどうもいやーな想像をしちゃうんですよ。そういう時は「居ないでくれよ、居ないでくれよ」と神様に祈りながら釣りをするわけです。
ある日、いつものようにダムの下流で祈りながら釣りをしていたんですよね。釣りってのは我慢比べですから水面に糸を垂らしてじっと粘るんです。ところが3時間ぐらい粘ってもなにも食いつきやしないんです。あー、今日はダメだなともう帰ろうかと思った時にふと遠くにある橋の下を見ると何か浮いてるんですよね。遠目で姿形はわかりませんでしたが、多分ご遺体だったんだろうと思います。その時私は思いましたよ。「なんで見つけてしまうんだ。きっと神様に無視されてたに違いない」と。神様からしたらいい迷惑だと思います。ですが、そう思ってすぐその浮いてた何かが、どぷん、と音を立てながらものすごい勢いで水中に沈んでいったんですよね。
多分、祈りは届いていたんだと思います。
ただ、届いた先は一体どなただったんでしょう。私は神様なんかじゃないと思うんですよ、あれは。
B グループ
author:R-00X
aster_shion, BARIGANEsensha, Dr_rrrr_2919, Fireflyer, Kuronohanahana, kyougoku08, p51, R-00X×3, roneatosu
「よう████、今暇してる?」
今、今か。なかなか難しい質問だと思った。
彼の言う『今』とは、決して会話を交わしているこの瞬間のことでは無い。彼が私と行いたいであろう何かしらの用事を済ます為に必要とされる、この後の数分と言った時間を意味する『今』だ。考えてもみれば、それは厳密には未来であって『今』では無い。
では何故それをあえて『今』と表現せねばならないのか。それはきっと、この『今』という時間が、本当にそのプランク秒ほどの時間によってのみ構成されるものでは無いからなのだろう。『今』は、過去という名の文脈の上に成り立ち、未来という名の展望の下に成り立つ。少なくとも、そう観測できる。人は己の認識する過去に合わせて『今』が何であるかを解釈し、望ましい未来へ向けて『今』がどうあるべきかを構築していく。
『今』は、きっとスカラーではなくベクトルなのだ。その瞬間だけを切り取り、手渡しても意味はない。過去から通じ、未来へ繋がる『今』という矢印、その指針。彼が欲しいと言う私の『今』はそう言う性質のものなのだ。
こう考えると、現在をcurrent(流れ)と書き表すのは、実に的確に思われた。私という流れを彼に預ける事が、果たして叶うだろうか。『今』という捉え所のない流れ。それが過去と未来を渡す流れだというなら、水源を見定め、河口を見定めたならば、あるいは、きっと。
「すまない、少し考えるので待ってくれないか」
「その返事の為にまず10分待たされたんだが?」
author:BARIGANEsensha
aster_shion, BARIGANEsensha, Dr_rrrr_2919, Fireflyer, Kuronohanahana, meshiochislash×2, NorthPole, R-00X, Tutu-sh×2
「りれき」と「ランキング」と「TOP」を順繰りにタッチされるだけのデンモクは、時々眠りに落ちそうになっている。
これは周知の事実だろうが、人間社会において「何でもいい」を額面通りに受け取ってよい状況など無い。同僚とのカラオケ二次会と言えど、ある程度TPOを汲み取った選曲をしなければならない。
しかし、俺はとにかく音楽に疎い。オタクだから話題沸騰のロックバンドのメガヒット曲なんて全く知らないが、オタクだからと言って話題アニメの大人気テーマソングに明るいわけでもない。周りに話を合わせるためにCDショップに足を運ぼうなどと思ったりもしたが、やはりどうにも食指が伸びない。
知らないロック。知らないヒップホップ。さすがに曲名ぐらいは知ってるロック。知らないロック。そもそもこの辺の曲がロックミュージックに分類されるのかも知らないが。一次会で帰っときゃよかった、って前回も思ってた気がする。そんな俺を尻目に、アルコールの加護を受けた同僚達は満面の笑みで騒ぎ立てる。
「あれ?まだ次の曲入れてないの?」
マラカスを携えた同期がJOYSOUNDに負けじと大声で言う。まあ、急かしたいんだろうな。ごめんね遅くて。
「ホント何でもいいから!今歌いたいやつ!」
何でもいいが一番困るんだって。今歌いたいやつ。今歌いたいやつ。無い。あ待って曲が終わっちゃう。今歌いたいやつ。今歌いたいやつ。後奏のギターの音が消えるのが早いか遅いか、思いをデンモクに込めた。
『蛍の光』
やっちまった。でもさ、空気なんて読まねえ、自分以外の奴なんて知らねえ、心の内をそのまま歌に込める。これぞ、正真正銘のロックだよな。
author:nemo111
0v0_0v0, BARIGANEsensha×2, Fireflyer, nemo111, Nika_Nayuki×3, p51, roneatosu, Tutu-sh
飛び乗った流氷は、いつの間にか足を伸ばして眠るスペースもないほどに小さくなっていた。
22cmの靴裏2足分と、臀部ほどしか残されていない足場の上で、少女は小さく体育座りをしていた。吹き付ける冷風が、流氷を押し流してはその体積を削っていく。
氷は暫くの間、海面を前へと滑り続けた。微弱な亀裂音が、キチキチと足裏から骨を伝わって少女の耳元へと消えていく。その振動で震えた体を、より一層彼女は強く抱きしめた。
仄暗い海中、漂っている不純物が、少女の視線の先で踊っている。もう二度と見たくはないのだと、旅人は静かに目を閉じた。今は眠っていたかった。
淡い振動で少女は目を覚ます。足を伸ばせば届きそうな距離、自分のものより、遥かに大きな白が星空と海面の間に浮かんでいた。
ずい、と片足を伸ばしかける。そっ、と片足を引っ込める。奇妙な繰り返しを数度彼女は行って、そうしてまた、体を抱きしめて動かなくなる。
塊が二つ、海に浮かぶ。風が吹けば、たちまちその距離は広く、そして遠くなっていく。塊が一つ、海に浮かんでいる。
もう沢山だった。旅人はダン、とその小さな足場を踏みつける。氷は僅かに彼女の体と表面の星空を揺さぶって止まった。
波が押し寄せる。氷が解ける。摩耗していく。前を向くことはない。先に進まない。緩やかに死んでいく。太陽が月を食む。星が消える。立ち上がる。
22cm四方しか残っていない足場の上で、少女は夜風を一身に受けていた。広げた両腕を羽に見立て、彼女は夜へと飛び込んでいく。
衝突。
額の激痛と薄氷が、少女が旅を続けなければならない理由を示していた。
実験は中断されたにも関わらず、一〇一号室は閉じられたままであった。
author:islandsmaster
BARIGANEsensha, Dr_rrrr_2919, islandsmaster×6, NorthPole, Tutu-sh×2
山景は雨に沈んでいた。
水に押し潰されるとでも形容するべき光景だった。降り注ぐ生温く重い水粒がジャングルの鼻面を叩き伏せる。つい1時間前に鼻歌交じりに飛び越えた谷底の小川が白茶の濁流となって荒れ狂い、灌木をねじ切り、岩を持ち上げる。
別の道を通ろう、とガイドの老人が言ったとき、私は頭から爪先まで濡れそぼって、カメラとノートが駄目にならないようゴミ袋に何とか押し込んでいた。彼の英語は訛りがひどく、雨音は波濤のようで、私が顔を上げたときには既に彼はこちらに背を向けていたから、私は必死に追うしかなかった。
元来た道は森の中の枯れ谷で、既に茶色の渓流になっていた。崖沿いの岩場を越えて山向こうの橋まで回るという選択は、確かに最善だったろう。しかし私は長靴を履いていたんだ。日本製のゴム長の靴底ではそんな場所は通れないと懇願したが、彼は首を横に振るだけだった。
後にも先にも、死を覚悟したのはあの時だけだ。何てことはない亜熱帯の山岳で、映画みたく派手な地形じゃない。しかし降り続くスコールの中、腕一本ほどの幅しかない岩場を、雨粒に歪んだ眼鏡を拭うこともできず数十分歩き続けるのは、相当に堪える難行だった。今でも時折夢に見る。私は二度足を滑らせて、二度とも脇に生えた灌木を掴んだが、それができたのは単なる偶然で、もしかするとあの山で死んでいただろう。
この話にオチなんてものはない。これは笑い話じゃない。
いいか、もし川を渡るとしても、長靴を履いていくべきじゃない。例え毎日靴下を濡らすとしても、君は登山靴を使うことだ。そうでなきゃ教授に頼み込んで、別の研究室に行くことだ。
水は恐ろしい。よく覚えておくんだな。
author:Tutu-sh
0v0_0v0, BARIGANEsensha, Dr_rrrr_2919, kyougoku08×2, p51, roneatosu, Tutu-sh×4
このエンリコ・プッチは考える。『運命』が『重力』ならば『運命』はまた『時空』であると。変換系列を介し、運命は空間へ、時間へ変わる。この加速する時空の波に乗り宇宙の変貌に臨むことは、運命を歩むことと同値なのである。
或る王が問う。永遠とは何秒なのか?
羊飼いは返す。ダイヤモンドの山があると。百年に一度来る『鳥』は斜面に嘴を一擦りする。『鳥』がそれを繰り返し、山が微塵も残さず消えた時、永遠の最初の一秒が過ぎるのだと。
このエンリコ・プッチは考える。そんな『鳥』がいるならば、それは何と頑固で、律儀で、狂気的なのだろうと。『鳥』は何のために天を飛び、誰がために岩を削るのか。『無償の愛』は実在しない。
このエンリコ・プッチは考える。山を削るは『鳥』でなく『水』であると。『水』は上から下へ、重力に従って流れ落つ。林冠の隙間を縫い、細胞群の上を舐め、土壌の間隙を通り抜く。泉へ、沢へ、川へ下る。巨石を避け、倒木を越え しかしそれらの寿命を待つ。
『水』は何よりも柔らかく何よりも強かである。山を穿ち、谷を削り、遍く全てへ広がってゆく。『水』は必ず克つ。劫を紡ぐ時計として、私は愚かしい『鳥』ではなく摂理たる『水』になろう。私は流水として時を下り、蒸気となって天国へ至ろう。
ボルテックスの中に、黄金の羽が見えた。
時空の渦から零れ落ちた『それ』はひらりと舞い上がり、翼で以て飛んでくる。生命のほとばしりは泥を破り、堅き意志を持つかのごとく時間の核へ食い込んでくる。闇にして光を放ち、無限にして零を想う。
「………DIO?」
否。これは『神』ではない。
「 『ゴールド・E・レクイエム』」
author:p51
0v0_0v0×2, Fireflyer×3, kyougoku08, p51, R-00X×2, roneatosu×2
「あそこいんのコイノボリだ」
「ホントだ。マジでコイちゃんじゃん」
「おはよーコイ」
グラウンドで運動着姿の女子たちが手を振っているので適当に返すと満足したのか授業へ戻っていった。私の名前はコイではない。恋でもなければ鯉でもないのだ。しかし同学年の生徒はそろって私を「コイ」と呼ぶ。珍妙なあだ名にはワケがある。
私は他人の意見にすぐさま同調できない。周りがどれだけ賛成の流れでも納得できるまで乗れないのだ。そんな態度を指して同級生「滝に逆らう鯉みたいだ」、呼び名は同学年へあっという間に広がり伝言ゲームで「コイノボリさん」と呼ばれるようになってしまった。
「おはよう」
「……何か用?」
素っ気なくなってしまったのは相手が他でもない鯉の滝登り呼ばわりの張本人だったからだ。信じられないことに彼は小さい頃からの幼馴染である。
「竜美に謝りたいことがあるんだ」
「あんたもコイって呼べば?」
「そのことなんだけどさ」
竜美とは私の本名である。今では家族以外に呼ばれることは殆ど無い。目の前で俯く男のせいで。
「すまなかった。俺、本当は竜美のこと褒めるつもりで言ったんだ」
直角に頭を下げられた。
「みんなが流されて生きようとするのに竜美はいつも逆らってるのがカッコよくて」
「そんな言葉で水に流すくらいにはお人好しだと思ってるんだね」
「その我の強さだよ!」
がっしりとした両腕に肩を掴まれる。
「竜美、お前はいつか滝を昇る。竜の器の持ち主だ」
「言葉の先の思考が見えないんだけど」
「お前が竜になるのを見届けさせてくれ」
まさか遠回しの告白?嘘でしょ。
「ごめん。今は無理」
それからは大きな魚が1匹付きまとい始め、本名を呼ばれる事が増えた。
author:NorthPole
BARIGANEsensha, Fireflyer×3, kyougoku08, nemo111, NorthPole×3, p51, R-00X
辛くなると滝壺に向かう。
そこには何も無い。文明も、喧騒も、自然の煌きすらもほとんど無い。昔からそういう場所だった。とは言え僕が知る程度の事などこの場所のスケールでは瞬きにすら満たないのかもしれないけれど。
この場所はかつて弐つの川が注ぐ巨大な湖の中心だったらしい。今はもうその湖は無いし、当時の記録も残っていない。ただ、都市開発の途切れ目の不自然さだとか、近づくにつれて際限なく柔らかくなっていく底無し沼にも似た地質の分布だとか、そういうものの真ん中を辿ると決まってその滝壺が目に入るから多分そうなんだろうと言われている。とは言えそれも今は昔。僕たちの知るその場所は、穴の中に静かに水が落ちていくだけの風景だ。
どんな辛い事があっても、どんな苦難に襲われても、滝壺には同じような量の水が落ちていく。何か不思議な力で保たれているのではないかと思うほどにその場所はいつまでも変わらなかった。初めて訪れてから何年経ったかも分からないのに懐かしさを感じる事すら無いほどに、ここはいつ来てもいつも通りだ。
だから滝壺に向かう。どうしようもなく苦しくなった時、壊れてしまいたくなった時、その場所が僕が僕である事を確かに思い出させてくれるから。そこに行けばどうにかなるのだと心がはっきり覚えている。
それはあるいは、僕が滝壺の力を借りて生きてきたのではなくて、いつの間にか自分の一部になっていた僕を滝壺が離そうとしなかっただけなのかもしれない。それでもいいか、なんて思いながら僕はやはり、滝壺への道を歩くのだ。
author:Dr_rrrr_2919
Dr_rrrr_2919×4, nemo111×3, p51, roneatosu×2, Tutu-sh
或藝術家はキャンヴァスから顔を上げてこう云った。
たとい水の流るる河を描いても、それは藝術ではない。他人の血の滴りを見て、はじめてインスピレーションを得る、その行為こそが藝術であると。私はその言葉に微塵も賛同できずに、唯絵筆を持ち、藝術家のキャンヴァスが凡そ完成する迄は、この部屋の空気を吸っていた。
何が藝術?血液の流るる様など、努々気分の好いものではない。パレットに塗り潰された紅。ゼロ円の絵画を並べてただ空想に耽っているこの私が、どうして藝術など語れようか?先刻吐いた自身の言葉でさえも呑み込めない。私は徐に硝子片を持ち上げ、長らく動いていない脚に振り翳した。ザ、と短い音がして、あたりに血が飛び散った。鼓動の早まりを感じる。キャンヴァスについた私の血液が、この藝術の完成を意味していることに気が付いた。錆びたドアノブを無理に捻って抉じ開ける。痛む脚がひとりでに動き、私は散策を誘われた。
author:aster_shion
0v0_0v0×3, aster_shion×4, BARIGANEsensha, meshiochislash×2, roneatosu
流されやすいよねって、さもよくないことのように言われて腹が立った。
流行を追いかけて、最先端にいないと気が済まないあなたのほうよっぽどだよ。
あなたの意見はいつもそう。
私の意見は時代遅れだと封殺して。あなたが自分で作った流れに乗れない私を流されやすいだなんて、見当違いもいいところだ。
自然の流れに身を任せて、何にも執着せずに生きられたらどれだけいいだろう。
でも、それがいい結果にならないことを身をもって知っている。
あなたはいつも天邪鬼だ。流れに乗ることがどれだけいいことかをよく物語っている。
ほらね。
author:Kuronohanahana
BARIGANEsensha, islandsmaster, Kuronohanahana×4, kyougoku08, nemo111×2, Nika_Nayuki, R-00X
桃を何種類か水の中に突っ込んだ。
安いものは水に浮いて、高いものは水に沈んでいった。
まあ、つまるところ、桃太郎の入っていたそれは中身がすかすかだったわけで。そりゃあ浮きもするだろうと頭の隅で考える。
水に沈んだものをひとつ拾い上げて、その表面を指の腹で撫ぜた。君の肌の感触に似ている気がする。歯を立てて、皮ごと食んだ。君をそのまま食べているような気がした。
果実から滲み出た汁が顎を流れ伝う。それを指先で拭って舌に乗せた。甘ったるい。とても、甘い。
本当の君の味はどんなだっただろう。思い出そうとしてみたけれど、記憶の中にあったはずの君は朧げで、どんな匂いをしていたのか、どんな手触りだったのか、もう思い出せないことに気が付いた。それに気付いたら酷く悲しくなってしまった。
柔らかい果実は口の中でぐずぐずになっている。噛み解いていくのに少しの力も要らない。そんな脆さが、まるで僕達の関係のようだと思った。
時間は流れていく。果汁は流れていく。僕を置いて。
水に浮いた桃は、川を下っていくのだ。
安い関係だったのだ、僕らは。
author:roneatosu
0v0_0v0, Fireflyer, islandsmaster×4, Kuronohanahana, kyougoku08, nemo111, p51, roneatosu
毎日、違う人として生きてみたい。 君は夜更けにこう呟き、それはもうあるよと私は答えた。
チェアンの建造物と住人は粘土の様な人生を生きる。ほんの刺激やつまらない争いによって街ではそれが起こる。隣同士の家がねばっこいガムのように引っ付き、一つの大きな邸宅になってしまう。家主たちは法的な所有権を巡って争うが、そうすると甘ったるいどつぼがしゃしゃり出てそれらを一人の別人にしてしまう。そんなことをしている内に周りの家は全てくっついて団地になる。そして皆諦めて一つ屋根の下で別人として残りの人生を過ごす。それが毎日起こる。
その街では生きるのが難しいんだね。そうでもないさ。
ある失業者は貧しさから盗みを働いたが徳の高い僧侶と一つになって、コンベアが備えられた教会で一晩瞑想した。起きた時には人格者の裁判官となっており、自らを裁いて牢獄に入った。守衛であると同時に農家でもあった中年とまた一つになった彼らは混ざり合い、かつての自分が少しずつ分配された人間になった。
チェアンではいつでもやり直しのチャンスがあるともいえる。一度行ってみたいよ。残念ながらそれは叶わない。
洪水があった。古本屋や議事堂の設備ででたらめになったインフラが耐えられない程大きな渦だった。それは都市を混ざり合わせながら全てを濁した。人々は水の中で知りえない知識を、家族との思い出を、職場での下劣な記憶を、全ての他人の人生を経験した。砂と同じに細分化された人々は小さな管に流れていった。最後には汚れた広い空き地が残っていた。
何だか悲しい。何事も移りゆく、というお話なのかもね。そう言う前に君はもう眠りについていた。
author:kyougoku08
BARIGANEsensha×2, Dr_rrrr_2919×3, kyougoku08, NorthPole×2, R-00X×2, roneatosu
「なんか怪談でもない?」
帰りの車内、助手席のKがコーヒーを飲みながら呟いた。真っ暗な山道、怪談ライターという俺の職業を知ってのにやけ顔。続く曲道にハンドルを切りながら、後部座席の後輩二人からも期待の視線を受け、やれやれととっておきの話を聞かせてやる。
「知り合いのIさんの話だが、その人はまさにこんな山道を運転してたそうだ。後部座席には同僚が二人、寒くなってきてホットコーヒーを飲みながらクーラーのつまみを回すと妙な音がする。変だなと思った次の瞬間、曲がり角に黄色いコートの女がいた。その女は丸坊主でIさんの車とすれ違うとぐるりと向きを変えて車と同じ速度で追ってくる。必死で逃げたが追いつかれて、フロントガラスにその女が貼り付いたと思うと、……気づけば朝が来てたんだと」
「……それで終わりか? よくあると言ったら悪いけど、どこかでありそうな話だな」
「俺はこの話を【全く別の場所、別のタイミングで4回聞いてる】と言っても?」
車内に沈黙が走る。Kはもちろん、後輩の一人は首をかしげている。
「細部が全く一緒なんだ。山道、人数、黄色いコートで丸坊主の女。これはもう十分な怪談だろ?」
確かに、と頷いたKは怯えたようにカーナビに指をやり、この先も続く山道を拡大した。そこで俺は気づく。後輩の一人が真っ青な顔になっているのを。
「どうした?」
「あ、あの。今の話っておかしくないですか?」
「どこが?」
「Iさんは車を運転してたんですよね? なら、そんな山道でどうやって【熱いコーヒーを飲みながらクーラーのつまみを回せるんですか】?」
「……あっ」
気づいたと同時に、視界の端に黄色いコートが見える。
「四人だったのか」
運転しているのは、俺だ。
author:Nika_Nayuki
Dr_rrrr_2919, Kuronohanahana, kyougoku08, meshiochislash, nemo111, Nika_Nayuki×3, p51×3
SNSでとある動画が炎上していた。
それは飛び降り自殺の生配信動画で、画面の中の彼女はリスナーに向けて感謝の言葉を述べると、本当に幸せそうな笑顔を浮かべてから静かに後ろを振り向いた。
数秒の沈黙の後に彼女が空に吸い込まれていくと、最後には風の音だけが残っていた──そんな1分程度の短い動画。
友人伝いで知らされた動画の彼女は、中学時代のクラスメイトだった。
けれど私は彼女と会話したこともなかったし、悲しいという感情は湧いてこない。
彼女は昔、クラスの上位カーストの女子から酷い虐めを受けていた。
可哀想だと思ったし、気の毒だなとは思った。誰か助けてあげたらいいのにと思っていた。
けれど誰ひとりそんな人間はおらず、皆見て見ぬふりをしていた。
だって手を差し伸べてしまったら、次の標的は自分になってしまうかもしれないから。
仕方なかったのだ。
そう、仕方のないことなのだ。
私は平穏に生きていたかった。誰もがそう思っているだろう。
だからそれで誰かが損をしたとしても、それは仕方のないことなのだ。
人の顔色を伺い、人に良く同調し、我を出さずに周りに流されて生きていく。目立たなければ打たれることもない。
実際、それで上手くここまでやってこれたから。
「仕方がない」
そうやって全てのことに言い訳をしながら生きていた。
その言葉は呪いなのだと、私は知りもしなかった。
彼女は確かにこの世界で生きていた。
死んでいたのは、私の方だった。
過ぎ行く時の中でひとり、私はまだ教室に取り残されている。
author:meshiochislash
aster_shion×3, Kuronohanahana, meshiochislash×5, nemo111, Nika_Nayuki
流れ星に祈った願いがなんだったのか、今はもう忘れてしまった。覚えているのは、冬空の輪郭を持った明度と、君の持ってきたコーンスープのぬるさ。君の顔は思い出せないか、そもそも見ていない。──スチール缶が冷たくなるほど、僕らは空に夢中だった。
「僕らは何で、あんな不確かな星に祈ってたんだろう」空を見上げて、思う。「馬鹿みたいに、何を信じてたんだろ」
わからない。流れ星を見るには、眠らない街はいささか便利すぎる。人工の灯りに遮られて、小さく空を引っ掻くそれは見つけられない。望遠鏡も、星好きの友人も持たない僕では、流れ星なんて信じられない。
ベランダに出る理由なんて、煙草かゴミ袋の仮置きくらい。それでも、僕は──何故か、空を見る。既知の星は、頼りないオリオンと、小熊の一部分だけ。動かないはずの星たちは、しかしここでは瞬いて。確かなはずの星ですら、常に信用はできないのだと感じる。
指の間で、最後のキャメルが燃え尽きた。灰皿代わりのスチール缶に燃えかすを入れ、ふと缶のラベルを確認する。微糖のコーヒーは安い金色の装飾でで、期待外れに強く光った。その缶を持って、僕は部屋に入る。
明日の帰り、コーンスープを買おうと思う。
author:0v0_0v0
0v0_0v0×2, Kuronohanahana×3, kyougoku08, Nika_Nayuki×3, R-00X, roneatosu
用水路の流れが今日は早かった。いつもなら、水の中を泳ぐ小さな魚の姿までよく見えるほどゆっくりと流れてくるのに、今は魚の生死が不安になるほど濁って流れていた。
「うわ、すっげえこれ、溢れるんちゃう」
友達の賢太が、時々しゃがんで水面に指をつけて、その速さを直に楽しんでいる。
「気をつけんと、ガラスとか流れてきたら指切るかもよ」
「大丈夫やろ、多分。でもすごい思わん?こんな早くなったり遅くなるのってなんでやろなあ」
「お前、登下校の班長らしくちゃんと前歩き」
へいへい、と言いながら小走りで登校班の前に行く賢太の背中を見ながら、僕は眉をひそめていた。
何故今日はここまで流れが速いのか。言われてみれば理由を僕は知らない。ただ「ああ、早くなってるな」としか思わずに、そのままスルーしていた。そう考えると、僕は色々なものを考えずに通り過ぎていたのかもしれない。
どこから風は生まれるのか、電話がどうやって通じるのか。
ただそういうものとして通り過ぎたものが、僕の足跡に平たくくっついて遠ざかっていく気がして、足が止まる。
副班長として班長を注意した僕は、ひょっとして賢太よりずっと考えなしなのかもしれない。止めた足を早めて、前に追いつく。
「賢太、賢太」
「お、どした亮介」
「お前、流れが速いのなんでか知ってるん」
「え、さあ、知ってたらなんでやろなんて言わんやろ」
それもそうだ、としか言えない返答にがっくりと肩を落とす。きっと、賢太にとっても、この謎は過去に置いていくものになるのだろう。
でも今回は、僕は置いていきたくない。だから図書室に行って、この謎を解いてみよう。賢太と一緒に。
author:Fireflyer
aster_shion, Fireflyer×4, Kuronohanahana, NorthPole×3, roneatosu, Tutu-sh
用事のついでに昔住んでいた町を見ていくことにした。実に12年ぶりだった。
今住んでいるところからそこまで遠い場所でもなかったが、なかなか足を運ぶことができなかったなと思う。
ともかく、思い立ったが吉日だという諺に習おうと思い、町へと歩いた。車1台通らない田舎の道を、歩く。道中に立っていた看板は蔦で覆われていて何も読み取れなかった。
短いトンネルを抜けると、町に到着する。最寄りの駅からは23分ほど歩いた。前あったバスもなくなってしまったようだったので仕方がない。
転校する前の小学校の広い校庭。私が住んでいた赤い屋根の家。そして、私が何度も足を運んだ駄菓子屋を通り過ぎていく。身長が伸びたからだろうか、以前の景色とは打って変わってしまったように思える。
物思いに耽りながら歩いていると、私がよく遊んでいた水場のある公園へと着いた。水が止まっていないことに驚く。
人工的な湧水から流れる小川は小学生が水遊びをする程度の小さなものだ。幼い頃、周りを囲む花崗岩でできた石畳に躓いて転んだことを思い出す。
ふと、思い立って笹舟を流すことにした。冷たい水を揺蕩と流れる細い緑色の船は、少しずつ進む。そして、排水溝へ落ちる。心なしか昔より落ちるまでの時間が速い気がした。
日も暮れていたので、私は帰ることにした。トンネルの脇に墓地がある事を知っていたので、公園に生えていた紫苑を生ける。合掌。
帰路の途中、標識の蔦を取るときちんとした文字が見えた。
この先、有毒ガス発生区域により立入禁止
虚構と化したこの町に、噓でできた看板は似合うなと思った。
C グループ
author:R_IIV
Dr_Knotty×2, Hasuma_S, R_IIV×3, SuamaX×2, Tsukajun×2
冷えた世界と、薄い硝子を挟んで、カーテンの隙間から頑張って潜り込んだ朝日が出会って、その花は朝露に濡れる。
ちっぽけで、狭い狭い花瓶の中の、少しだけ残った水に浮かびながら、頭をもたげている。柔らかで枯れてしまいそうな白。
真っ白な狭い病室の中で、真っ白な手が、真っ白なシーツの上で、好奇心の強い朝日に温められている。それでも、ひたすらに冷たそうな白。
緑髪はふわりと散らばって、彼女の寝顔を隠している。
また今日も、誰かが彼女の元へやってくる。
何も変わることは無い。水を変え、花瓶を洗い、ほんの少しだけ茎の先を切って、また、元の場所へ。
指先にかかった朝露の冷たさに起きた彼女の元へも、誰かがやってくる。
何も変わることは無い。肌着を変えて、身体をふいて、2つほどの錠剤を飲ませて、またベットに寝かせる。
今日も、彼女は俯いたまま、何処か遠くの世界を覗いている。未来、それとも過去、あるはずだった今?
レースのカーテンの向こうから、ころころと笑う子供の声がきこえる。純心、無邪気、無垢という罪。
彼女はゆっくりと花瓶を手に取って、彼女が咲いていたはずの花壇をちらりと見た。
涙が一雫、枯れたつぼみの上に。咲くことが叶わなかった、彼女の片割れの上に。
白い花は、重たそうにふらふらと揺れる。彼女の痛みが分かるのだろう。本当に?
彼女の子供は流れてしまった。最後の彼女の希望だったというのに。
病棟に送られる前に、ほんの少し残っていた寂しさが顔を出して、あの白い花を摘んだのだ。
──彼女の担当だった看護師の日誌より
でも本当は、あの花は咲けた。2人で、美しく。彼女が摘んだから、片方が死んだ。
可哀想な話だ、とても。
author:Touyou Funky
eagle-yuki, Touyou Funky×7, Tsukajun
えー、同窓会の挨拶としてはお定まりではございますが時の流れは残酷なものでして、私もすっかりこんなに太りまくったわけですね。覚えてる方もいらっしゃるとは存じますが、いやそう願いたいですね、私は高校時代はむしろ痩せていてしかもテニス部にいてすばしっこく動き回っていたんですが、今となっては歩くのだっていちいち膝をかばわないと歩けない。万物は流転するなんて昔の学者さんが言ってましたが年を重ねるごとにそれが身に沁みて分かってくるんでございます。それにしても皆さんはお変わりのないようで。昨日久しぶりに卒アルをひっくり返して顔と名前を頭に叩き込んでいた訳ですが、一暼した限りでは皆さん写真のとおりで安心しました。この後のパーティーで顔と名前が一致しないなんて事態は起こりそうにない。へへへ。こればっかりが今日の懸念事項だったものでして。なに、ぼくが誰かって。またまたそんな冗談仰る。まあぼくが誰かなんて追々思い出せばいいんですから。ともあれ乾杯といきましょう。皆さんのご多幸を祈りまして、乾杯!
昨日〇〇高校に無断で侵入したとして建造物侵入の疑いで東京都〇〇区の久場盛夫(53)容疑者が逮捕されました。取調べに対し久場容疑者は「若い人とお近づきになりたかった」と述べ容疑を認めているとのことです。警察によりますと、当日は〇〇高校〇〇期生の同窓会が行われており、参加者の一人から通報を受け駆けつけた警察官により建造物侵入の現行犯として逮捕に至りました。またその後の調べで同窓会の複数の参加者から「先週卒業アルバムを買い取りたいという不審な電話があった」との情報提供があり、警察は久場容疑者の余罪を調べています。
author:Dr_Knotty
Dr_Knotty×3, EianSakashiba, Hasuma_S, Nekokuro×3, sanks269×2
地学準備室前の仄暗い廊下、戸棚の隅にひっそりと佇む模型。覗き込むと暗闇の中に浮かぶ白い靄のようなものが見える、それだけの展示。僕は、それを眺めている時間が好きだった。この静かな空間が、あるいは、その中心たる地学準備室の主人が。
「この靄を作る白い点は何だと思う」
いつだったか、先生は模型を眺めている僕にそう問いかけてきた。星じゃないですよね、銀河とかですか。そう答えた時の静かな微笑を僕はよく覚えている。
いい勘だ、でも少しばかり惜しかった。先生はそう言って教えてくれた。白い靄は銀河フィラメントといって、超銀河団が集まって構成されていること。その靄は泡のような構造を取っていて、中心の間隙、途方もない広さの虚空をヴォイドと呼ぶこと。
私達の頭上に広がる天の川がどれほどちっぽけなものか、よく分かるだろう。泡沫の表面の一欠片に過ぎないのさ。
先生がそのときに見据えていた遠大な何か。あのさびしい眼差しが何に向けられていたのか。僕は、それを知りたかった。だから追いかけた。そしていつの間にかここに戻ってきた。
冬の宵闇を、生徒たちが試験に備えて授業内容を唱えながら帰ってゆく。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて……。
揺れる水面は天の光を映さない。あの眼差しが映していたものも、僕には見えないのだろう。結局分からないことばかりだ。それでも一つわかったことはある。数多の恒星の一つに過ぎずとも、人にとって北極星は唯一の存在だ。数多の星の一つに、人は己の進路を見いだせるのだ。
かつての少年は地学準備室を出て帰路につく。明日もまた教壇に立つために。元の水にはあらずとも、河の流れは途絶えない。
author:Popepape
Nekokuro, Popepape×3, sanks269×5, Tsukajun
ねえ、聞いてよ!遅くなっちゃってごめんね?帰り道でさ、お祭りがやってたんだ。お決まりのものばっかりだったし、適当に見てすぐ帰る気だったんだけど。
「いらっしゃい、好きに見ていきな。」
変な夜店が一軒あったの。店員さんはひとりだけ、ぽつんと座ってた。売りものがふしぎでさ、透き通ってカラフルな、八面体?ラミエルみたいなやつ。青とか緑とか紫とか黄色とかがたくさん。わたし最初、キャンディかと思ったんだよね。違うんだって。
「まさか、食べられやしないよ。」
「フローライト、という。」
ど忘れしちゃった、とにかく、歌みたいな響きの綺麗な名前の石。
「由来は無粋だよ。屑鉄と一緒にこの石を溶かすとね、純な鉄ができるんだと。そのとき、融けたこいつがゆっくり流れていく。流れる、は羅甸の言葉でフロウ。フローライト。まったく、西洋には情緒ってものが欠けてる。」
わたしにお話しながらその人ね、たくさん並んでる石をひょいってひとつ手にとって、そのまま火にくべたんだ。そしたらさ、バチバチって音がして、石が紫に光ったの!
「そら、こんなに綺麗なのに。どういう神経なら、これを無視して『流れるもの』なんてつけられると思う?」
ねえ、この石、ひとつだけ買ってきたの。すてきに薄荷色でしょう?もったいないくらいだね。一回燃したらそれで終わり、って店員さん言ってたよ。
なあに、それ?暗くして、変な懐中電灯でなにするの?
へえ、そしたら燃やさなくても光るんだ!燃えてた時より弱いけど、やっぱり綺麗。
ふうん、日本語だとホタルイシ、っていうの。やっぱりキミは物知りだねえ。たしかにこのぼうっとした光、蛍っぽい。
遅くなったけど、いいおみやげだったでしょ?
author:Nekokuro
AAA9879×2, Dr_Knotty, eagle-yuki, Nekokuro×4, R_IIV×2, Syutaro Eji
流体力学は、文字通り、流れる物質(流体)の性質を研究する、物理学の一分野です。
流体とは、例えば水や油・二酸化炭素などの、液体・気体に代表される、自由に形状を変えられるようなものです。
そんな流体の、温度や圧力・速度・エネルギー・応力といった諸性質を理解することで、物理学に留まらず、化学や医学、工学といった幅広い分野に応用が可能です。
特に工学の分野において流体力学は重要な役割を果たし、船舶や飛行機の設計、工場の配管やパイプ内の流れの解析、ダムや水力発電所の設計建築などには、流体力学の知識が不可欠です。
その他、地中の水の様子を解析することで土壌汚染の拡散を推測したり、血液の流れを解析することで病気の治療に関する知見を見つけたりなど、応用先は枚挙にいとまがありません。
流体力学の支配方程式は、流体の質量・運動量・エネルギーの保存法則から導かれます。
特に、流体領域中に取られた微小な流体領域 -そこでは、熱力学的な局所平衡状態が仮定されている- における運動方程式、Navier–Stokes方程式が有名です。
これは、非線形の微分方程式であり、非常に複雑な計算と数学的な解析が必要でした。
近年では計算機が発達しており、数値計算を用いた流体運動の解析が可能です。
実験・理論・計算機による解析。
それぞれの方針を土台にして、流体力学は日夜進歩を遂げているのです。
あなたがこれを読んでいるスマートフォン、あるいはPC画面を構成する液晶もまた、流体力学の応用先です。
如何だったでしょうか。
流体力学、というと、縁遠いような印象をお持ちだったかもしれませんが、意外と様々なところに使われている、身近な学問なのです。
author:SuamaX
EianSakashiba, Hasuma_S×2, k-cal, rokurouru×2, SuamaX×3
子供の頃回転寿司に連れて行ってもらったのは数える程だったと思う。
そんなの家で作ってあげるからもっと魚とか食べなさい、とは母の口癖だ。俺がツナマヨ軍艦を、マヨコーン軍艦を、たまごをレーンから取ろうとする度にそういって制止したのが今も印象に残っている。終ぞ俺は母の握った寿司を食べることは無かったが、その場は渋々了承していくらやサーモンを取るのが常であった。
転機になったのは確か、サークルでの大会終わりに、打ち上げと称して友人3人と回転寿司に行った時だった。お調子者の友人が、席に着くや否やマヨコーン軍艦を6皿も注文した。コーンはいつ食っても旨いんだよ、と言いつつ、3皿目くらいから飽きからか露骨に箸の進みが遅くなっていたのを覚えている。仕方なくと言いつつ1皿貰って食べた。本当は内心興奮していた癖に。
喉から手が出るほど欲していたマヨコーン軍艦の味は、なんのことはない、やはり予想される通りのマヨコーン軍艦の味だった。そんな特別貴重なわけでもないありふれた寿司をここまで期待していた気持ちと、律儀に母の口癖を守って寿司を注文していた事実があまりに馬鹿らしくて、寿司を口に入れたまま笑った。
それ以来、俺は金と腹と時間に余裕があるときにフラッと回転寿司屋に通うようになった。
社会人になってある程度生活が安定してからはますます頻度が増え、今では週二のペースで通っている。同僚に話したら多分呆れられるだろう。
今日もまた、マヨコーン軍艦のシャリを醤油で湿らせて口に運ぶ。マヨコーン軍艦はいつ食っても旨い。
求めていた安っぽさに充足しながら、タッチパネルで次の皿を注文した。
author:Tsukajun
AAA9879, Dr_Knotty, Nekokuro×2, Popepape×2, R_IIV, Tsukajun×2
私がここに引っ越す前の話です。
その地域では灯籠流しの風習がありました。
だいぶ昔の話なので、
灯籠とか船とか、
今はもう作れないんですけど。
私はそれが好きでした。
暗い夜を揺蕩う灯りが水上を飛び交う蛍のようで、とても綺麗で、
ぼうっと眺めていました。
あの時は多分、放された灯籠たちがどこに行くのか気になったんでしょう。
私は下流の方、つまり灯籠が流れる先へ、
ずんずんと歩いていきました。
子供が一人で夜の川道を歩くのは危険、仰る通り。
実際にそうだったんだと思います。
でもほら、
子供が想定する危険なんて、たかが知れてますので。
そうやって、灯籠と並んで歩いていると、
一つ、灯がついてないのが目について。
つけ忘れかな、風で灯が消えたのかな、
そう思ってるうちに、
1つが2つ、2つが4つ、4つが8つ、
どんどんその数が増えていって。
私、そこで漸く、
この闇に自分が一人いることに気づいて、
急に怖くなって、もう灯籠の終点なんか頭から消えて、
明かりのある会場に戻ることにしたんです。
ふりむくと、
会場の光に照らされて、
地べたに座ってる人がいることに気がついて。
その人は、顔も何も見えなかったのですが、
暗い灯籠を川に置いてることだけは分かりました。
「良い子にしてたら、こうならないからね」
後ろも見ずに、そう言ったんです。
私は、外なのにその人と2人で、
一つの押入れにいるような、
顔がその人の息で湿るような、
変な気持ち悪さを感じて、
米粒ほどに小さくなった会場を目掛けて、
走って、逃げました。
その翌年からです、ここに来たのは。
また日が暮れちゃいますね、
ここらは街灯も何もありませんから、
夜だと何も見えなくなるんです。
私が麓までお送りしますよ。
author:sanks269
AAA9879, aaasaan777, Dr_Knotty×2, eagle-yuki, k-cal, rokurouru, Syutaro Eji, Tsukajun×2
離岸流。俺たちの夏は、たったの三文字に狂わされてしまった。
「なあユージ、ちんちんって咥えられっか?」
日焼けでひび割れた身体を捩り、なんとか隣の男を見る。突拍子ない発言は飢えと乾きのせいだと思いたい。
「……下ネタ、救助来た後じゃダメか」
「来ねーってこんな海のど真ん中。漂流二日目だぞ。それに、俺は」
マジで聞いてんだよ。そう呟く声は今にも消え入りそうだ。親友でも気恥ずかしいのか、枯れた喉が引っ付いたか。俺は反駁する気力も無く、ただ彼の吐露を待った。
「……や、スマン。説明不足。俺、小便したいんだわ」
「は?」
「人って、三日飲まないと死ぬらしい。このゴムボート、ペットボトルすら無いからさ」
タクマの瞳が俺を捉える。ヒゲが伸び、痩せこけた頬の上に、目だけが変わらず輝いて見えた。
「お前には生きてて欲しい。嫌かもしれんが、頼む」
いつもこれだ。悪い先生に目を付けられた時も、上級生に絡まれた時も。勝手に一人で思い詰めて、頼んでもないのに助けてくれる。死ぬほど心臓に悪くて、言葉足らずな点が嫌いだった。
でも、その心の内にはいつも、俺を置いてくれている。それだけは心から嬉しかった。だから。
「大丈夫。嫌、とかではない」
俺も応える。最悪の状況で、歪な形ではあるけど。
「良かった。拒否られたら困ってたわ」
「拒否も何も、される側もする側も想像つかんし」
「童貞だもんな」
「うっせ。お前もだろ」
「まあな。陸に戻れたら水に流してくれや」
「ばーか。みんなにバラして、死ぬまでネタにしたるわ」
久しぶりに、声を出して笑い合う。ああ、このまま流れに身を任せて、行き着く所まで行き着いてやろうか。元の所に帰れるかは、俺にも分からないけど。
author:AAA9879
AAA9879×2, Nekokuro, R_IIV×2, Syutaro Eji×2, Touyou Funky, Tsukajun
今朝、想い人が手慣れたように私の親友の髪を結んでいるところを見た。
コップの中の酒が私のひどい顔を映している。
「潤滑油かよ」
「本当に世界をご存じなかったんですね」
生意気な後輩。私には珍しい異性の知り合いだ。生意気にも高い刺身が好みらしい。
「先輩は亀ですから、本当に」
「夜も知らないくせに!」
コップを卓に叩き付けると、思ったより大きく響いた。彼と私は静まりかえる。
「…」
「何だよ、図星か?」
不躾な彼が凍り付いたように固まった。私が多少キレたぐらいでビビるようなやつじゃあなかったろ、お前。
「…ます」
「は?」
「帰り、ます」
「え、刺身は」
その言葉を聞いた彼はみるみるうちに顔を真っ赤にして、5000円札を私に握らせると、さらに顔を真っ赤にして逃げるように店を出ていった。待て、と言う暇もなかった。
「待て待て待って!」
いくらなんでもあんまりじゃないか。靴を履き直してふらつきながら追いかけようとする。店員がこちらを無愛想に眺める。慌ててシワくちゃの5000円札を高校生ぐらいのレジのバイトに押し付け、釣りはいいから、と言い残して私も店を出る。
「歩くのが、はぁ、速いんだよ!」
彼のピアスが街灯できらめく。私が去年にあげたやつだ。それを目印に私は必死に追いかける。しばらくすると、にぎやかな喧騒は消え、いつの間にか私たちは小さな公園のベンチに並んで座っていた。
彼は今まで見たことないぐらい涙をボロボロ流していた。私はハンカチを取り出して拭った。
「一緒に帰るか」
「はい…」
涙の流れた後がひどいが、私の髪もひどいだろう。後で結んでもらうことにする。
author:eagle-yuki
AAA9879×2, aaasaan777, eagle-yuki, EianSakashiba×2, Popepape, Syutaro Eji×2
今日こそは。
私は、ついにヒメを呼び出した。今や自分はクラスの中心にいるからと、私のような日陰者を見下して弄ぶ性悪女。私が手に入れた幸せを、横から奪ってはすぐ捨てるクソビッチ。
分かってる。アイツは、ただ私を苛めたいんだ。苛めて、過去の自分を知る人間の口を閉ざしたいんだ。ならもう、私が私の幸せを守るためには、今度こそ自分から動かなきゃいけない。
あの女の姿が見えた。私は、バッグの中に手を伸ばした。
*
今日こそは。
せめて謝罪しなきゃいけない。幼いころから抱えてきたこの気持ちは、伝えることができなくても。
……マナが誰かとくっつくなんて嫌だった。だから、いつも邪魔をしてしまった。でもこんなのダメだ。本当は、彼女の幸せを祝ってあげなきゃなのに。
この機会に、悪い流れを断ち切ろう。そして、彼女には二度と関わらないようにしよう。そう決意して、私は美術室のドアに手をかけた。
*
今日こそは。
……と思ったのにな。いつになったらヒメが寄ってくんだよ。俺みたいなカースト中位の男が上位女子と付き合うなら、この方法しかないのによ。
マナと付き合ってれば、勝手にヒメからアプローチしてくる……これは、美術部の陰キャ男共から確かに得られた証言だ。マナ程度の女なら、俺なら間違いなく落とせる。落とせた。こっちから上位女子に突っ込んでいく必要はないんだ。
しかし、マナと付き合ってから2週間が経ったものの、ヒメからの接触は一切ない。一体どうしちまったんだ?なんて考えてたら、いつのまにか、教室から俺以外の人間の気配は消えていた。
そろそろ帰るか……荷物をまとめて立ち上がる。
瞬間。少し離れた教室から、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
author:EianSakashiba
aaasaan777×2, eagle-yuki, EianSakashiba, k-cal×2, Nekokuro, sanks269, SuamaX, Tsukajun
私は今、便器に流れる水をじっと見ている。
用を足してはいない、流れているのは紙すら存在しない透明な水だけ。水の動きが止まった後にズボンを下げて便器に座る。
なぜこんなことをするのか答えよう。以前マジギリギリだった際便器の中を見ずに用を足し、水を流した。現代人の尊厳を守った達成感で満ち足りた私に便器の奥からガタガタ!と異音が飛び込んだ。
私は驚愕した、前の使用者が排泄物ではない何かを捨てたのだ。許せない。
トイレの神様は今頃汚らしい捧げものを送り込まれて悲しんでいる。私は怒りと共に深く謝罪し「今度から便器に何か浮かんでいないかチェックしよう」と心に決め、知らん振りしてコンビニから出た。
ある日また私は腹痛ミッシンインポッシボーになりトイレに駆け込んだ。便器を見る。波紋すら存在しない鏡があった。私は安心してイーサンハントよろしく派手にかまし任務の疲労を労わるように尻を拭き水を流した。
異音は聞こえなかった。その代わり「いかないで、奪わないで。」という舌足らずな女の声が便器の奥から、聞こえた。
私は憤慨した。目に見えない透明な女児が便器に捨てられていたのだ。トイレの神様にまたお前らのような穢れを奉納してしまった自分を深く恥じ、そもそも私は何も奪ってないだろとその場を急いで去った。そして私は確認として最初に水だけを流すようになった、神様に失礼がないように。
スーパーのトイレを借りていたある日、有線から無機質なアナウンスが聞こえた。
「██県████市の下水道から携帯電話、成年男性と推測される腐乱死体、薔薇の花束が発見されました。警察は事件の可能性を……」
物騒な話だと他人事に思い、私はトイレの水を流した。
author:k-cal
aaasaan777, Dr_Knotty, Hasuma_S×3, k-cal, SuamaX, Syutaro Eji×3, Touyou Funky
この町の川は美しい。
下水が処理されていないとの噂もあるらしいが、馬鹿馬鹿しい。川は透き通って、この町に似て穏やかだ。穢れや取り締まるべき犯罪などない。
だからこそ、少々の不穏が目立った。土手、下水の排出口。一人の男が蹲って、流れ出る水を熱心に見ている。
この男も噂を聞いて来たのだろう。私は仕方なく何をしているか尋ねた。
「だってお巡りさん」男はにやりと笑う。「万一、そのまま出てきたら、困るから」
要領を得ない。私は呆れて、その場を去った。それが今朝のこと。
そして現在、夕方。男はまだ同じ場所にいた。それどころか人が増えている。私が異様な光景に戸惑っていると、その間にも人は増え続け、やがて川辺を埋める程になった。誰もが一心不乱に、川だけを見つめている。
そこまでして、彼らは何を恐れるのか。何が流れてくると困るというのか。一体、彼らは何を流したのか?
ゴボッ。
突然、流れが止まった。排出口に青白い何かが詰まっている。
それは身を捩り、狭い管から捻り出る。そして、風船のように膨らんでいく。
その姿は、人の上体のよう。だが、赤子のような顔で、口から赤黒い吐瀉物を川に垂れ流している。その中には無数の金魚の死体と、人の指のようなもの。腐りかけた肌には、所々鱗が浮き上がっていた。
人々は一斉にその怪物を見上げる。それに応えるよう、怪物は腕を振るい、彼らを一人残らず捕まえ、飲み込んだ。
それから怪物が再び排出口へと吸い込まれて消えると、また綺麗な水が流れ始めた。赤黒は消え、川は無色透明を取り戻す。私は帽子を深く被り、自転車に跨った。私は何も見ていない。
この町の地下には、悪意が沈殿している。
だから、この町の川は美しい。
author:aaasaan777
aaasaan777, eagle-yuki×3, Hasuma_S, k-cal×2, R_IIV, SuamaX
僕ね、モーニングルーティンってやつがあるんです。別に大したものじゃないんですよ。朝起きて歯ァ磨いて、15分ばかり走ってから、ご飯を食べたらもう一回歯を磨くんです。これだけなら多分結構な数の人間がやってるとは思うんですけどね。ただ、これを意識してるのは他にいないでしょってことがね、一個だけあるんですよ。僕。二回目に歯を磨くときはね、絶対に鏡を見ないようにしてるんです。一回目は別に、みんなと同じ。鏡に向かってごしごしと。なんでだと思います。
確か中学の頃だったかな。当時は吹奏楽部で、トランペットをやってたんです。あそこの部員の中では珍しく打ちこんでて、自分の楽器も持ってたわけですよ。ま、この話は置いといて。当時はね、朝ご飯を食べる前に15分ばかり基礎練をしてたんです。でも楽器を吹くときに口の中が変だといけないから、その前に歯を磨くわけですね。
始めた頃は、ベルの流線形に映って歪んだ自分の顔がやっぱり気になりましたね。怒っているのか笑っているのか、とにかく気味が悪くて。すぐに気に留めなくなりましたが。でもある時、楽器を壁にぶつけちゃってね。ベルがちょっと歪んで、一部分だけ平らになっちゃったんです。すぐ吹いてみたんだけど音はそんなに変わってなくて、焦りはすごかったけど、少しは安心しましたよ。で、次の日もいつも通り朝から練習してたんだけど、少し違和感があって、吹きながらベルに視線をやったんです。そしたらね、前と変わらず顔が流線状に歪んで見えたんです。その日の食後は、怖くて強張って、鏡なんか見れなくて。放課後の合奏ではすっかり元に戻ってたけど。だからその時間だけは、今でも鏡を見たくないんです。
author:rokurouru
EianSakashiba, k-cal, Popepape, rokurouru×4, sanks269×2
4ピリオド、開始5分。バスケは"流れ"のスポーツだ。開幕3ポイントシュートを決められてしまった今、このまま押し切られれば確実に負ける。……でも、ここで負けたくない。それは俺達5人、全員が思っている事だ。まだ勝ち筋はある筈。相手が陣形を固める僅かな間に呼吸を整える。
点差は4。先ずはこの攻めを防ぐ。それからだ。
腰を低くして構える。見極めろ。相手のドリブルの癖。エースがどう動くか。奴の安定択。取り敢えず、で取りがちな行動。視界忙しなく動かせば、味方のディフェンスで相手のエースが少しだけ詰まっているのがちらと見える。奴がドリブルで忙しなく動く手。対照的に止まる足。
一瞬の停滞。──パスが来る。本能的にバッシュを弾かせて飛び出した。突き出した右手にボールは弾かれ、コートの上空へと高く放り出される。
ルーズボール。その瞬間に動いていた。
自陣のゴールに背を向けて全速力で走り出す。バッシュの音が響く。弾かれたボールの行方なんてどうでもいい。誰かがボールを受け取り、俺へと繋ぐ。それだけを信じた速攻。一か八か。だが勝負に出ないと何も始まらないんだ。何も。全ての喧騒が後ろへ取り残されていく。視界をゴールのみに絞る。ボールが敵に渡った場合の莫大なリスク。同胞への信頼。その全てをベットして、俺はゴールへと相対する。
後方からの声。足元の地面に反射する球体。咄嗟に振り向いてキャッチの構えを取る。パスされたボール。時間が止まる様な錯覚。指先の感覚が震える。接触感。確かに受け取った。
確信。今、試合が動く。
author:Hasuma_S
AAA9879, EianSakashiba×3, Hasuma_S×2, k-cal, R_IIV, rokurouru, Touyou Funky
「へ〜赤頭さんってTOOBOE聴くのね」
音楽の間、恐らくそれを見計らって発したのだろう声が耳に届く。ここ──屋上への階段には誰も来ないはずなのに。そう思いながら声のする方へ振り向くと、女の子がすぐ近くに座っていた。
「同じクラスの三原だよ!……わかる?よね?」
私は少し迷った後、ほんのり首を縦に動かした。
「よかったー、私そんなに目立たないからさ」
三原さんはそう言うが、私にとっては全くの嘘だ。彼女はスクールカースト最上位の人気者である。こんな日陰で一人飯するカビとは大違いだ。そんな彼女が私に何の用があるのだろうか。
「ねえ、赤頭さん」
「な、なんです」
三原さんは徐にスマホを取り出し、トントンと軽快なタップを繰り返す。数秒の後、私にその画面を見せた。
「ちょっとだけ、時間貰っていい?」
彼女のスマホには、邦楽のプレイリストが映されていた。目線を彼女の方へ向ける。すると、彼女はキラキラと目を輝かせ、イヤホンの片側を差し出そうとしていた。
「ね、どうだった?」
私はまた曖昧に首を縦に動かす。すると、彼女はそうでしょう!と満面の笑みで喜んだ。ここまで来てようやくわかった。私は勘違いされている。
(私はアニソン聴いて映像脳内再生してたオタクなんです……!)
でも、喜ぶ彼女の姿を見ると、何も言い出すことができなかった。
──♪
「あ、もう時間」
チャイムが鳴り、昼休みは終わりを告げる。すると、彼女は私の手を取る。
「移動教室、別の場所になったの」
彼女は当初の目的を私に伝え、私を引っ張りながら歩き始める。階段を降り、日陰から日向へ跨ぐ。彼女は私に言う。
「また行くね!」
不思議と迷惑とは思わなかった。ああ、逆か。
author:Syutaro Eji
AAA9879, aaasaan777, eagle-yuki, Popepape, rokurouru×2, SuamaX×2, Syutaro Eji, Touyou Funky
「科学至上主義には散々警鐘が鳴らされてるんです。それでも世界はその道を歩み続けている……」
漫然と流していたラジオから聞こえてくる言葉。そんな言葉は今までの「警鐘」と同じく世界には届かないのだろう。
「問題なのは皆さん一人一人の選択……」
「アヤカシ、ラジオを止めてくれ。」
球状のスマートスピーカーに呼びかけ、ラジオの再生を停止する。「一人一人」に呼びかけても、彼等は不快感を募らせるだけだ。何も解決には向かわない。現代の潮流は、大昔のような個人に御せる物ではなくなっている。それが破滅的な独裁者であっても、正義に燃えるハリウッドスターであっても。そもそも、現代において科学技術がどれだけ身の回りに溢れていることか。
「心拍数が上昇しています。」
人差し指のリング型デバイスは、俺の知らない俺の情報を教えてくれる。心拍数の上昇は、ラジオで喋っていた蒙昧なハリウッドスターへの怒りのせいだろうか。それは違うと分かっていた。
テーブル上のスピーカーの横には、価値が高いらしいワインボトルの紫。その奥に見えるクローゼットには、服屋に勧められるまま買った毛皮のコートと、行きたくもないパーティーのためのダブルスーツがぶら下がっている。
「アヤカシ、音楽をかけてくれ。」
アシッドジャズが流れる部屋で、ソファーに寝そべって音楽に浸る。今までの選択によって得た、テレビで見るような理想の生活だ。北欧家具、スマート家電、得体の知れない不満感。
「理想を追い求める再生医療の研究者」から「倫理に反するクローン生産の第一人者」になった俺は、こんな生活のために理想を捨てたのか。
これは誰の「理想」の生活なんだろうか。
目利き部門
総合優勝
SuamaX
(19pt.)
総合2位
Kiygr
(17pt.)
総合3位(同率)
EianSakashiba meshiochislash
(14pt.)
グループA 部門優勝
Kiygr
(8pt.)
グループA 部門2位(同率)
SuamaX EianSakashiba meshiochislash
(7pt.)
グループB 部門優勝
SuamaX
(6pt.)
グループB 部門2位(同率)
GermanesOno DX-abc Fireflyer meshiochislash
(5pt.)
グループC 部門優勝
SuamaX
(6pt.)
グループC 部門2位(同率)
k-cal Kiygr EianSakashiba
(5pt.)
文体部門
グループA 部門優勝
hitsujikaip
(11pt.)
グループA 部門2位
1NAR1
(7pt.)
グループA 部門3位
hallwayman
(5pt.)
グループB 部門優勝
islandsmaster
(6pt.)
グループB 部門2位
meshiochslash
(5pt.)
グループB 部門3位(同率)
aster_shion Dr_rrrr_2919 Fireflyer Kuronohanahana Tutu-sh
(4pt.)
グループC 部門優勝
Touyou Funky
(7pt.)
グループC 部門2位(同率)
Nekokuro rokurouru
(4pt.)
グループC 部門3位(同率)
Dr_Knotty Popepape R_IIV SuamaX
(3pt.)
主催 - Mishary
企画代行 - Ruka_Naruse
技術協力 - Dr_Kudo
原案者 - meshiochislash does not match any existing user name
