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Ruka_Naruseさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, Kuronohanahana, Something_funya2×2, machikawa×2, Fireflyer
「目も当てられねぇな、ええ?」
土埃を払う大柄な軍人が、血を流し座り込む青年を見下ろし、蔑む。青年の瞳は未だ執念に燃えているが、術を編む左手も、銃を握る右手も痺れて動かない。右肩にあった反乱軍の腕章は、とうに焼け焦げていた。
「お前が軍抜けて4年か、随分みっともなくなってよ。そのくせ仕事ばっか増やしやがる」
「抜けた?お前たちが追い出したんだろうが!」
「ああ追い出した。禁術が扱えるのを黙っていたのはお前だし、それがバレるようなことをしたのもお前だがな」
軍人はもはや視線を青年に落とすことすらなく、紙煙草を指先で擦り、咥える。
「なんでだ、なんでお前ごときに負けなきゃならない!そのちっぽけな火を起こせるだけのお前に!」
「ま、装備がいいもんでな」
「ああそうだろうよ、お前は与えられてきた!俺は奪われ続けてきた!どうしてお前みたいな温室野郎に俺が負けなきゃならねぇんだ!」
軍人は、青年の"とんだ勘違い"を目の当たりにして、呆れたように煙を吐き出す。
「爪弾きにされたくらいで強くなれるのか?おめでたい奴だな」
絶句する青年をよそに、軍人は構わず語り続ける。
「馬鹿と雑魚はいつもそうだ、ミジンコみてぇな努力で結果を求め、実らない責任を外に求めやがる。お前は禁術に頼ってろくに腕を磨かなかった、俺はこんなチンケな火種でも大切に育て続けた。それだけの差だろ」
青年は何か言い返そうとして、言葉が出ないのを、流れゆく血のせいにして黙りこくった。
「反論もないか、つくづく救えねぇな。ならそこで一生這い蹲ってろよ、じゃあな」
わざと見逃された。その事実に気付いても尚、自ら死を選ぶプライドすら、その薄い体には残されていなかった。
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Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: Kuronohanahana×6, EianSakashiba
駅のベンチで、俺とあいつは隣に座っていた。酔いが抜けきらないみたいな顔で煙草をくゆらせる横顔を、俺はただ見ていた。
「お前さ、まだ俺のこと好きなわけ?」
唐突に言われた。
鼻で笑ったみたいな声だった。軽くて、投げやりで、でも少しだけ怖がってるようにも聞こえた。
「うん」
俺は正直に答えた。どうせ何を言っても、また笑われるんだ。
「マジで? まだ? 引くわ。高校んときのアレ、引きずってんの?」
アレ、とはどれのことだろう。
手をつないだ放課後? キスした夕方? 抱かれた夜? それとも次の日、間違って俺の制服着たまんま他の女に会いに行ったあの朝か?
「うん。全部」
あいつが舌打ちする。変わらないな。俺の答えに、今も苛立つんだ。
「もう忘れろよ。俺がこんなに腐ってんの、見てらんねえだろ?」
腐ってる? 違う。最初から、そうだったんだ。ただ俺が、それを“好き”だなんて思ってた。きっと腐ってたのは、俺の方だったのかもしれない。
「見てられるよ。多分これからも」
「……キモすぎ」
吐き捨てるくせに、あいつの足はまだ俺の足に触れていた。踏みつけもしないし、離れもしない。その距離が、たぶん俺たちの全部だった。
「じゃ、帰るわ。今の女んとこ」
立ち上がる背中を、俺は目で追う。電車がホームに入るアナウンスが、ひどく喧しく響いた。
愛情の重さは、いつだって偏っている。
あいつは一度だって、俺を見下ろさなかった。
でも俺の隣に立つことも、なかった。
「おやすみ」
誰にも届かない言葉を、煙のあとに紛れさせて呟いた。
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KeiShirosakiさんでした!
予想結果: KeiShirosaki×5, Fireflyer, rokurouru
久しぶり、と君が言う。20年前と同じ姿で。
いや、少しは変わっているのか、と思う。君も船内で1年を過ごしたはずだから。
けれど、私の過ごした20年と比べれば、それは遙かに短い。
元気してた、と聞かれて、ぼちぼちかな、と答える。
20年の間に、体にガタがきはじめた。快調な日の方が少ないし、いつも体のどこかが痛い。それでも大病は患っていないから、ぼちぼちかな、と思う。
対する君は、眩しいほどに元気だ。染みのない肌も、若々しい顔つきも、写真の中の自分が動いているようだった。
物心ついた時、私は「私」ではなく、「私たち」だった。
同じ姿、同じ思考の存在が、常に隣にいた。同じ日に同じ親から生まれた私たちは不可分な存在だった。
家にも学校にも、私たちの席があった。二つの席は、どちらがどちらに座っても、誰も気づきもしなかったし、だから私たちはいつも好きな方に座った。
寂しかった、と聞かれて、まあそりゃね、と答える。
宇宙船が募集した席は、二つでなく一つだけだった。あの日から、私は「私たち」は「私」になった。
半身を欠いた空虚を理解できるのは、20年を共にした家族や友人ではなく、「私たち」だった君だけだろう。
君は時間の圧縮された旅をした。
20年を経て、私は君の未来になり、君は時代遅れになった。けれど、君はその若さで、すぐに時代に追いつくだろう。そしてこの先の時代を見届けられる。
嫉妬がないと言えば、それは嘘になる。
あの定食屋はまだある、と聞かれて、親子丼の味は変わってないよ、と答える。
今日の夕食にしよう、と提案する。そう言おうしたところ、と君が言う。
親と子ほどの年齢差になっても、やっぱり私たちは「私たち」らしい。
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Something_funya2さんでした!
予想結果: Ruka_Naruse×2, machikawa, EianSakashiba×2, DeepBlueUnion, konumatakaki
その歌は心を壊す。魅了の天災、破壊の偶像。彼女の歌に囚われたなら、心は二度と帰らない。崇めて信じて祈る贄の身に、最後まで観続けることなど出来はしない。
「だから、ボクは嬉しいんだ! キミはずっと観客でいてくれる!」
その機構は、観測する。音速を超える。光速を突破する。物理法則の軛など無視して、どこまでも速く飛翔する。観測者の目に歪みはなく、単なる情報を崇めも信じも祈りもしない。
「あなたを視るのは任務にないけど、壊れないように成るのは任務の内だね!」
心壊しの歌と光超えの機構が激突する。だが、状況は偶像に有利だった。歌は既に空間に満ち、音を越えても光を裂いても逃げることはできない。機構にも心はあり、捕捉されればそれで終わる。ライヴの終わりを予見して、破壊の偶像はウインクと投げキッスを機構に送った。魅了させ、心を壊す。最後まで歌わせてくれた感謝を込めて、万感の殺意を込めたファンサービス。
終わりを予見して、機構は思った。困難が楽しい。更に進化できるのが嬉しい。あなたの魅力を追い抜こう。これまで直視を避けてきた偶像を、直視させる衝動を感じた。それに従って機構は偶像を見た。そして、彼女を追い抜きたいという渇望が機構に光を超えさせた。
光の速さに近付いたとき、世界は蒼くなる。その世界の中心で、なお紅に輝く彼女を機構は見た。そして、突破した。
驚いたように、しかし満足そうに散っていく偶像。それを一瞥して、機構は再び空を駆ける。
「~~♪」
機械の彼女には、歌など記号。だから、本来の彼女が歌うことはない。鼻歌さえ。
光速を超えるその機構に、偶像は一つの傷を付けたのだ。
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machikawaさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, Something_funya2, machikawa×2, Fireflyer, rokurouru×2
正眼という構えがある。刀の剣先を目に向ける、最も隙の少ない構えだ。真剣はぎらりとした殺意を相手の眼に伝え、張り詰めた空気を断ち切る時を待ち侘びている。
復讐という動機がある。表面上無為に見えたとしても、他にない熱を持つ行動原理だ。男は無二の友を失い、故にここまでやってきた。対して、目の前に立つ仇は刀すら抜かず薄笑いを浮かべていて。男の手には力が籠る。
袈裟斬りという技がある。向かって右上から左下、斜めに斬り下ろす一撃だ。殺しの技に、僧侶の衣類の名がついていることを皮肉とは、男は思わない。僧侶を好んでいるわけでも、技の名を特別視しているわけでもないのだから。ただ一番強く振れる方法を、仇を殺せる方法を選んでいる。
弱さという罪がある。袈裟斬りの踏み込みで、不用意に間合いに入っていくような不用意だ。振りかぶりに合わせて間合いを詰め、袈裟斬りの前に短刀が首を貫く。
命という物種は既にない。故に、あったはずの全ても失われていく。引き抜いた短刀、噴き出した血がその残滓である。下手人は被った血に顔をしかめ、死体を蹴り飛ばし──少し考えて、その身から着物を剥ぐ。
人斬りという職はない。彼は何も持たない。構えず、動機も無く、技巧も凝らさず、ただ強さによって人を殺す。それで十分であると知っていた。持つべきものなど、一つを除いて何もないと笑っていた。
命という勝者が逃げていく。
後は、何もない。
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EianSakashibaさんでした!
予想結果: EianSakashiba×4, DeepBlueUnion, Burnin_A_GoGo, konumatakaki
「いい。私は置いて行って」
俺の相棒から出るはずのない言葉が出ていた。仕組まれた依頼、ネオンがこびりついた舞台に殺し屋が次々現れ、演者の俺たち2人を埃の被った倉庫に追いやった。
「何言ってんだ!立て、逃げんぞ!」
「もう、私の手を無理に握らなくていいよ」
「…あの日の契約は無効にならねえ、俺がさせねえ!」
「私の歩く速度じゃ、あなたの足手まといになるの分かっていた」
「夜のうちに、早く!」
「こんなカニ1匹!」
相棒が吠えた。俺を諦めると自分に言い聞かすように。
「消えても、あなたは強い人間だから」
相棒はカニだった。リアルなカニだった。成人男性くらいの背丈で、怪我している左ハサミで。泣き出しそうな黒目で路傍に倒れていた。そんな彼女がこの町で食い物にされる前に、俺と来てほしいと思い契約は成された。
「私たち、いいコンビだったよね」
「なんだよ急に」
暗くて見えていなかった、相棒の甲羅の隙間から血が出ている。
「一緒に武器の準備した時間も」
「やめろよ、そんな冗談」
「ぎこちない初デートも、全部嬉しかった」
「もうお前のカニ歩きを遅いなんて言わねえ!」
「私の壊れたハサミを握り返してくれた時ね?」
「そうだ…お前の左手だってもう冗談にしねえから!だから!」
「私の何も切れないハサミが、やっと誰かの役に立ったって思った。こんな非対称でカニの恥だって言われていた手が───」
凶弾が相棒を貫いた。追手がいたことすら気づかず、俺は相棒の今際すら満足に看取れず。
それでも、手だけは握っていた。
「…どけよ」
俺がしてやれたことなんて、それだけなのに。
相棒は、自分がこの世で1番幸せなカニだと言いたげに、笑ってくれた。
「そこをどけえっ!!」
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DeepBlueUnionさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse×2, DeepBlueUnion×2, Burnin_A_GoGo, Fireflyer, konumatakaki
チッ、チッ、と時計の針が鳴る。
前後にも、左右にも、今では上下にすら移動できる人類が唯一自由に移動できないモノ。時間は4次元の中で唯一非対称な存在であり、その法則──熱力学第二法則は今でも僕らを悩ませている。
そんな憎たらしい敵も、今だけは味方だ。眼前で蹲る天才を見下ろしながら、僕は法則の絶対性に感謝していた。
「なあ、違うんだよ。俺、そんなつもりじゃ」
君は天才だった。中学で出会った時からそれを誰もが、そして僕もまた理解していた。君は僕が1年で構築した実績を1月で達成し、1月で出した解に1週で到達し、1週で立てた問いを1日で構築してみせた。その輝きは大学で物理学徒となってからも色褪せず、むしろその輝きを増していくようだった。
周りは僕らを対称な存在だと言う。天才と秀才、孤高と社交、寡黙と饒舌、鏡写しのようだと。けれど僕だけは知っていた。僕達は決して対称ではない。どこに線を引こうとも鏡写しにはならないほどに、君は遠く天上にあった。
だから、僕は君を壊すことにした。君の生活に入り込み、交友関係を破壊した。僕なしでは生活できないように、僕以外の全てを敵と思うように仕向けた。その上で突き放した。君の些細な不満に過剰に反応し怒りを見せた。
「本当に、俺、お前に嫌われたら生きていけないから」
「分かってるよ」
小さく微笑み、抱きしめる。途端に君の顔は綻び、心の底から安堵の声を漏らす。
君は壊れてしまった。熱力学第二法則に従い、壊れたものはもう元には戻らない。今ここに、僕達の間にあった偽りの対称性は完全に破れてしまったのだ。遥か天上にあった君を僕の足元に引きずり下ろすことによって。
チッ。──時計の針が止まる。
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Burnin_A_GoGoさんでした!
予想結果: Ruka_Naruse, Burnin_A_GoGo×4, Fireflyer, konumatakaki
深夜三時に同居者の帰宅を告げる解錠音は程無く足音へ変化し、漂う匂いは押し殺していた空腹感を否応無しに再来させる。上体を起こせば脊椎が軋む様子を錯覚した。
「帰ったよ。大漁だった」
獲物を掴む手から節操無しに血液を溢す彼女の掌を眺め、意味の欠落を知りながら溜め息を漏らす。彼女は僅かに口角を上げ、おそらく頸動脈の破断している子供の体躯を私の眼前へ突き出した。
「お肉。新鮮でしょう」
「本当ですね。しかし 」
夜明け前にその痕跡を処理しなければ、今の棲家を再び棄てねばならないのは明白だった。私の憂鬱感を嘲笑するように響いた破裂音は磨いた床材を汚染し、眉を顰める間もなく上腕部がひとつ差し出される。
「取り敢えず食べてから。君も随分飢えているでしょう」
鉄分と塩分を舌先へ落とす。味蕾を擽るそれは強烈な安心感を齎し、同時に一滴ではあまりに不十分だった。幼い皮膚へ慎重に犬歯を突き立てる。
「 安心したよ」
暫く経って不意に聞こえる語調は遥かに柔らかい。意図を問い返す代わりに視線を向けた。
「君が端正な服装や清潔な住居を構えて、人間の振りなんてはじめてしまったから。必死に食べる様子だけは昔と一緒でいるようで」
田舎の子はあんまり美味しくないね、と呟く言葉はどうにも愉しげに鼓膜を震わせる。
「……痕跡の掃除に行ってきますね。やはり貴方とは物を食べたくありません」
夜明けまでに帰っておいで、と往なされる敗北感も普段と変わらない。数歩進めて見返せば残った肉塊を煌びやかな表情で頬張る彼女が映り、それは私達の本来在るべき様態を否応無しに主張していた。
この作品の作者は
Fireflyerさんでした!
予想結果: Something_funya2×3, machikawa, DeepBlueUnion, Fireflyer, rokurouru
対称的なカレンダーが、嫌いだった。地元は月曜始まりのカレンダーばかりで、嫌悪感を自覚したのはバ先のシフト表が初めてのことであった。
学校も仕事も月曜始まりであるというのに、休日始まりという顔をするカレンダーが気に入らない。第一、土日は連休であるから連続して用事を入れるだろうに、休日を分けて書くのは不便であった。ただ、カレンダー程度で不快感を示すのも癪に障るため、誰かに伝えたことはなかった。
上京すると、大学時代の彼氏と同棲するようになった。彼の実家は飲食店であったため、家でカレンダーを作っていた。無論、そのカレンダーは気持ち悪いものだった。
好意でいただくカレンダーにケチを付けたくなかったので、それに予定を書き込んでいった。私の休みの日に赤、彼の休みの日に青、2人で外出する日には緑で印を付けた。しかし、月を捲る毎に緑色は減り、赤と青は重ならなくなった。今考えると、浮気でもされていたのだろう。
それが露見すると、私は堪忍袋の緒が切れたように怒りを彼にぶつけた。彼は元から誠実とは言い難い性格であったため、咎める点には困らなかった。最終的に、矛先はカレンダーへ向き、大体この気持ちの悪いカレンダーは一体なんだ、と一思いに破いてしまった。
破きどころが良かったのだろう。左端の日曜の部分が綺麗に裂けた。すると、すっと私の怒りも収まった。吹っ切れた、と表現するのが正しいだろうか。
彼と別れて以来、私は対称的なカレンダーばかり買うようになった。感情的になりそうなときに、日曜の部分を裂く。忽ち、冷静になる。以降、私の家にはテープで右側に日曜が張り付けられた綺麗なカレンダーが、私を待つようになったのだ。
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rokurouruさんでした!
予想結果: Something_funya2, machikawa, Burnin_A_GoGo, rokurouru×2, konumatakaki
「父さんは私の事を何も分かってない。もう会わないよ」
そう言って、娘は家を出ていった。1年と少し前の話だ。彼女はもう自立し得る歳だったから、捜索はしなかった。どうやら、妻が亡くなって欠けた片翼を補ってはやれなかったらしい。
薄暗いキッチンに、野菜を刻む音だけが木霊する。今日の夕飯は回鍋肉だ。たれを絡めて軽く炒めたら、簡単に芳しい香りが漂ってくる。
無知で傲慢な娘ではない。若いなりに聡明な子だった。只、私が彼女の理解者になれなかった。出来上がったそれを皿に盛りつけ、献立を並べる。──でも、君だってやはり分かってないさ。小さな間違いが一つだけある。
誰かを拒絶したとして、等しく拒絶が返ってきてくれる訳じゃないんだ。
「いただきます」
野菜と肉を箸で口へと運んでゆく。私の右隣の席には更に一皿の回鍋肉があった。控えめに盛られたご飯と、半分に切ったデザートの小さなフルーツタルト。食べる存在だけが欠けた、もう一組の晩御飯。
あの日からもずっと、欠かさず君の分を用意し続けている。君が、生活が変わってしまっても、私が捧ぐ祈りを変える気だけはないんだ。いつか「ただいま」と気まぐれに扉が開いた時、躊躇わずに「おかえりなさい、今日のご飯は○○だよ」と言葉を返せるように。
誰かの不在で生まれる生活の喪失だって、時間と共にかさぶたの様に埋まっていく。けど、私は空虚を保っておくよ。君がいなくなって生じた食卓の非対称を、歪みとして静かに抱え続けるからさ。
「だから、いつか帰ってきてくれたら嬉しいな」
その言葉の代わりに「ごちそうさま」と手を合わせて、半分だけのフルーツタルト、その乗ったフルーツが少しだけ多い方にラップをした。
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konumatakakiさんでした!
予想結果: KeiShirosaki×2, DeepBlueUnion×2, Fireflyer, konumatakaki×2
僕の子供時代の思い出はおぼろげになっている。
私の昔の記憶は、なかなか思い出したくなるものじゃない。
鼻血のついた手とか、精一杯手を引いて走って逃げた廊下だとか。
息のできない痛みとか、動けなくなるぐらいの苦しさとか。
自分があの時に言ったのは、結局嘘になってしまった。
それでも、あの時にかけられた声は思い出せる。
なんとかできるだなんて幻想で、子供の頃の傲慢だった。
それはきっと、勇気のいることだったのだろう。
今思えば、もっといい方法はあったはずだ。
あの手の暖かさが、私にとっては何よりも救いになった。
おぼろげになるのは、僕が後悔から逃げたいからかもしれない。
傷は心にまだ残っているけれども、それを受け入れて生きている。
最終的に大事になって、転校で別れ別れになってしまった。
先生に伝えてもらったから、私はあそこから逃げることができた。
いきなりの別れだったから、何も言えなかった。
また明日、と言ってくれたのを裏切ってしまった。
どこに行ったかも、子供の頃の僕には知ることができなかった。
どうやって会えばいいかも、当時の私にはわからなかった。
もう何年会っていないんだろう。
何年会っていなくたって、名前を見たら誰だか思い出せた。
そんな相手から、連絡が来た。
そんな相手に、連絡を送った。
待ち合わせ場所は、あの学校の近く。
待ち合わせ場所は、あの良く遊んだ場所の近く。
どうせ人間は、あの時から変われやしないのだ。
きっとあの時から、変わっていないのだろう。
だから僕は、
だから私は、
せめて笑顔でこう言ってやるのさ。
「「久しぶり、元気してた?」」