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NorthPole さんでした!
予想結果: NorthPole×5, Pine_boy
創世記によると神は7日で世界を作った。つまり世界は7日で作れる。そう言い放った先輩はきっかり7日後に姿を消した。空になった部屋にどこにも繋がっていない扉だけを残して。
扉には『戻らないので開けないでください』と印刷されたコピー用紙がマスキングテープで雑に貼り付けられていた。ふざけんなと思いながらとりあえず僕は扉からそっと離れた。
ところでさっき扉だけが残されていたと言ったが、実はこの部屋には椅子もある。何の変哲もない丸スツールだ。それに腰かけて一息つき、扉を見ながら思い返した。
『つまり世界より、神より先に言葉があった。光あれと言ったから神なのであって、言わなきゃただのモブAさ。信じるべきは言葉なんだよ』
『へえ、すごい。いい着眼点ですね』
そんな会話をしたはずだ。そしてそれだけじゃ味気ないのでこう続けた。後知恵だが、我ながら馬鹿な事を言ったものだと思う。
『世界を作る言葉を口にした人が神なら、その人は今どこにいるんでしょう?』
『案外そこら辺に住んでたりするかも?神は君だ!なんちゃって』
そう言って悪戯っぽく笑う彼女に一瞬ドキッとしたのが不味かったのだ。あれで確信させてしまった。だけど、まさか告白の返事を待つ僕を7日も放置して元気に神様していたなんて一体誰が思うというのか。そもそも創世記に倣うなら1日はのんびりできたはずなのだし。
「どうして貴女は大事な事ばかり言葉にしようとしないんですか?」
なんとなく呼びかけてはみたものの、扉は何も答えなかった。こんな逃げ方をしておいて僕がこうすると貴女はどうして信じたんだろう。溜息を吐いてひとつ呟く。
「扉無かれ」
神は言われた。すると扉は無かった。
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AAA9879さんでした!
予想結果: AAA9879×4, Burnin_A_GoGo, Pine_boy
神は死んだ。この手で殺した。
髭ヅラをスーパー・キックで地面に叩き潰し、頸椎をパワーボムでひん曲げ、仕上げにサウス・オブ・ヘブンによって全神経を断ち切ってやった。肺を動かせなくなった神は、酸欠で死んだ。
天使も死んだ。この手で殺した。
光る輪っかをつかみアイアンクローで地面に叩き潰し、マンディブルクローで頭蓋骨を引き裂いた。これを皆殺しにするまで繰り返した。
息子は死んだ。この腕のなかで。
足を滑らせ、電柱に頭をぶつけて死んだ。誰も悪くないと皆言ったが、息子は帰ってこなかった。仕事…リング上での殴り合いでしか気を紛らわさせれなかった。愛想を尽かして妻は出ていった。父母は亡く、寄る辺は幼いころより祈ってきた神しかなかった。
信仰は死んだ。この腕に抱いた妻とともに。
銀行強盗の乱射。道路の向こう側のカフェにいた妻を貫いた。一年ぶりの再会になるはずだった。神は俺に幸せを与え、奪った。不妊治療の末に産まれた息子を、別れた妻との復縁を。
俺は死んだ。この手で殺した。
妻と息子がいない世界に絶望し、神を憎みながら自分の頭を撃ちぬいた。すると悪魔と出会い、魂を代価として神に復讐する力を得た。
復讐は果たされた。悪魔が俺の魂を取り立てて地獄へと堕とすだろう。
だが悪魔も死ぬ。この手で殺す。
スープレックスで背骨を折ってやる。エルボーで顎を砕いてやる。ギロチンで首を断ち切ってやる。
息子と妻はきっと天国にいる。
もう一度だけ2人を抱きしめる。それだけだ。
神は死んだ。
天使も死んだ。
今からお前も死ぬ。この手で殺す。
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Fireflyerさんでした!
予想結果: Fireflyer×2, ocami, DeepBlueUnion, SCPopepape, Burnin_A_GoGo
エンドルフィンは鯨の味がするらしい。私はそのイルカのようなものについて何も知らないし、知ろうとも思わないけれど。
この入れ知恵をした犯人がイルカショーを好む人だったこともイルカと例のものを結び付ける原因になったと思う。彼女はイルカに餌をやる催し事にはいつも参加していたし、イルカも撫でていた。
海豚は脂身の多い鯨のような味らしい。私は食べる気にならず、同伴をお断りした。感想を聞いて、ああ、海に豚と書くだけはあるなと納得したのを覚えている。結局彼女は鯨の方が美味しいから、今度は鯨にしようと言った。
イルカは神社にお参りをするらしい。彼女は私をイルカが参拝する神社なるものに連れていったことがある。信仰の突飛さの割には普通の神社と同じような雰囲気で拍子抜けしたのをよく覚えている。
エンドルフィンの話を聞いたのは彼女が夢遊病になってからだった。面会をした時に、君もそれを食べたほうが良いと言われた。その後、彼女は海に落ちて死んだ。たまたま拘束が外れていたらしく、その隙に外へ出てしまったらしい。
水族館に何度も足を運んだ。イルカショーに彼女の姿はなかった。海豚を何度も口にした。味はわからなかった。それは、鯨を食べても同じだった。残っていたことは、イルカが参拝する神社で彼女を待つことだった。あれだけ好いていたのだから、イルカになっていてもおかしくないだろう。本気で思っていた。神主に力説すると、精神科を勧められた。
エンドルフィンが快楽を引き出すホルモンだと知ったのは私が鬱病になった後のことだった。服用することになった薬はエンドルフィンの味ではなかったが、少しだけ鯨の味がした。
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ocamiさんでした!
予想結果: NorthPole, ocami, Kuronohanahana×2, Burnin_A_GoGo×2
「打ち上げられた海月は死んじゃうんだってね」
木の枝で海月を刺しながら、彼女は愉快そうに呟いた。去年の夏頃のことである。
時間が経てば経つほど、未練という残り香は蒸留されていく。振り払うように歩き回ってもお構い無しに……まるで、私の汗が記憶であるかのように。
そうして、少しでも惜しめば、彼女の代わりに記憶が蘇る。まるで今まさに、彼女を前にしているかのような不安と恍惚感を遺していく。
打ち上げられたあの日の海月と、自分の姿が重なる。
私も、彼女という海から切り離されて、細波の音とともに朽ちていくのだろう。
彼女は恐ろしい人だった。
星の見えない夜空のような目、恐ろしい言葉と甘い言葉が飛び出すパンドラの箱のような口、視線を絡め取る蜘蛛の糸のような髪……彼女の全てが、私の記憶に根を張っている。
五感も、思考すらも彼女に奪われていた。
だから、彼女の訃報には、安堵すら覚えた。
それも、一時の気の迷いだったけれど。
一日、一分、一秒。時間を置くたびに蘇る彼女の記憶は、引いては寄せる波のように、私の心を削っていく。ちっぽけな残りを、屑と断ずるように。
死してなお心を抉り、言葉が拘束力を持つ。
まるで、宗教のようだ。
宗教。
その一単語が自嘲気味に思考を掠め、知らぬ間に契約を結ばされていたような感覚に襲われる。同時に、ようやく居場所を見つけたような感覚にも。
そうだ、私は盲信しているのだ。善悪も道理も忘れて、ただ心の拠り所を得るために、彼女の死蝋で目を覆っている。
気がつけば、いつかの砂浜に着いていた。
辺りは薄暗いが、黄昏時と呼ぶには少し早い。落ちていた木の枝を地面に突き刺し、視線を地面へ向ける。
そこに海月は居なかった。
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DeepBlueUnionさんでした!
予想結果: AAA9879, DeepBlueUnion, terukami, Burnin_A_GoGo, Pine_boy×2
信仰と愛との違いとは──。ステージに上がるのを待つこの時間、無秩序なノイズに包まれていた客席が秩序立った静寂に包まれていくこの時間に、私は考える。
信仰とは何か。宗教信仰。自然信仰。科学信仰。それは自身の判断基準を他者に預ける意思。結果として自身にとって非合理な判断を下すとしても、その基準に従い行動するということ。元来弱い存在である人間が、責任という重圧から自己を守るため生み出した技術。
スタッフが頷く。膨らんだ無音は簡単に破裂してしまうから、合図の声すら許されないことを彼は知っている。それは私という偶像への信仰において守るべき無数の教義の一つ。教義に従った祈りを受けて、セリに一歩を踏み出した。
愛とは何か。家族愛。動物愛。趣味愛。それは自身の判断基準を他者の利益に合わせる意思。結果として自身にとって不利益な判断を下すとしても、その基準に従い行動するということ。元来強い存在である人間が、社会という脆弱な構造を守るため生み出した精神。
頭の先から胸へ、足へ。セリから登場した私に数多の視線が向けられ、歓声が自然に巻き起こる。それは教義に反する行為だと彼らは知っていたが、信仰者とは時に過ちを犯すものだ。彼らは悔い改め、歓声は再度の静寂へと変わった。
人の持つ弱さと強さ、その矛盾が人を苦しめる。人が完全に強い存在ならば、あるいは完全に弱い存在であるならばどれだけ良かったことだろう。家庭で会社で集団で、人は愛することを求められる。では、その弱さはどこで発露すれば良いというのか。
弱さを求める強き信仰者達よ。だから今だけは──私が貴方を愛してみせよう。
置かれたマイクを握りしめ、大きく息を吸い込んだ。
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SCPopepapeさんでした!
予想結果: ocami, SCPopepape×4, Kuronohanahana
柔らかな雨が骨に染みていくような明け方に、眼に痛いような眩さが包み込む昼下がりに、世界が少しずつ閉じていくような夕闇に、あなたは空を眺めていた。姉さん、と呼べば、数瞬をかけてあなたは言葉を咀嚼する。そして振り向く。腰まで優雅に伸ばした髪が、遥かな風に靡いている。
魂は風に乗って帰ってくるのだとあなたは云った。私はそれを信じなかった。眼に見えないものを、この手に抱けないものを、ほんとうだとは思いたくなかった。この世界にはもう父も母も弟も居らず、それは絶対的な事実としてただ君臨していて、存在しないものを信じることは私にはできない。ここにないものを愛することは私にはできない。乾き切った骨の詰まった壺を抱えて蹲ることしか、できない。
「それでも、いつかは壊れてしまうでしょう。」
「壺の中にも水が入り込んで、少しずつ溶けていってしまうでしょう。」
そうですね、存在するものはいつか失われてしまう。そんなことはとうの昔に解っていますとも。あなたの震わせた空気の響き、あなたの指先の弾力、あなたの頬をつついたときの柔らかな凹み。あなたの手のひら。あなたの口角。あなたの眼。あなたの。あなたは。あなたが。あなたも。
「いつかは死んでしまうでしょう。」
ええ、ほんとうに。失われゆくものが氾濫するこの世界で、当然の如くあなたもその一欠片でしかなかったのだと、あなたのいない帰り途、静けさの中に思いが巡った。あなたと駆けた林の奥に、記憶の中の鳥の囀りは聞こえなかった。何もない静寂の中、梢をわたる風の音は、あなたの声によく似ていた。見出してしまうのは厭で、目を瞑った。耳を塞いだ。いまは、まだ。
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Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: DeepBlueUnion, 1NAR1×5
夜ごと、あの子は亡き母に祈っていた。祭壇の代わりに窓辺に並べた空き瓶の中に、毎夜違う花を挿していた。
あの子の母親は、街の男たちの共有物だった。誰の子かも知れぬあの子は、色濃く母親の見目を受け継いで、生き写しのようだった。艶やかな髪、濡れた瞳、震えるまつ毛。微笑みは男を狂わせる、と大人たちは囁き、あの子から目を逸らした。
あの子は学校にも行かず、教会にも通わず、昼に花を摘み、夜に祈った。
ある日、神父があの子に声をかけた。「母を弔いたいなら、正しい神に祈りなさい」と。あの子は黙って神父を見つめた。濡れた瞳に映ったのは、神の言葉を借りて話す、飢えた獣だった。あの子は、微笑んだ。
その夜、あの子は教会の裏口に立ち、神父は何も言わず扉を開けた。それが罪かどうか、もはや誰も裁くものは居なかった。神父の説く神は、いつだって都合よく沈黙する。
朝、あの子は薄汚れた服を着て歩いていた。夜ごとの祈りの名残のように、掌にはまだ萎れきらない花が握られていた。
あの子の家には、毎晩男たちが訪れるようになった。教会に通う善良な市民たちが、夕暮れを待ってやってくる。信仰を語る口で、あの子の柔らかな肌に触れる。あの子は黙って受け入れた。拒まなかった。ただ、誰に心を寄せることもなかった。母のように。
あの子が微笑むたび、男たちは自分の神が何を許したかを知った。信仰は、救いではなく肯定だった。己の醜さを、正しいこととして肯定するための方便だった。
いつの間にか、窓辺の花は無くなっていた。誰もそれについて語らなかった。信仰とは、見ないことだ。知っていて、知らないふりをすることだ。神は今日も黙っている。ちょうど、あの子のように。
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hallwaymanさんでした!
予想結果: ocami, hallwayman×2, terukami×3
むかしむかしあるところに、本ばかり読み、自分のことを頭がよいと思っていたわらべがおりました。
そのわらべはこどものころからまわりの大人たちに文句ばかり言っていました。
となりの家でせんじ薬をのみつつ、神だのみをする病人がおれば、意味がない、とがなり、
豊作をねがうおまつりがあれば、そんなことをやっても米は多くならないとぐちもします。
あげくの果てに、お正月にもとしが明けたり多くなるだけでくだらないと言い出すのです。
ひとり立ちするころには、わざわざ人付き合いしようとする村人はだれもいなくなりました。
あきれたことに、そんなことになってもまだ村人たちの方が頭がわるい、ばかなことを信じていると思っているのです。
そんなわけで、村の中に住める場所がない、かと言って村の外に出ていくのもおっくうだ、となやんでいたところ、だれも住んでいない場所に気づきました。
その空き地は村よりも上の、なだらかな坂の中にある土地で、木もなく見晴らしのよいところでした。
何よりもみずはけがよくてしめり気がなく、たいせつな本がいたまなそうでした。
次からそこに住むと話したおとこに村の人々はあわてて注意をしました。
あそこは不吉な地名がある、
水捌けが良いにも関わらずに畑が無いのには理由がある、
何故林があの場所にだけ無いのか考えろ。
そう言われてもおとこは聞きません。
さらには村人に対して、
お前らはおくれている、
おれは古い物事を疑わず信じているお前らよりもかしこいのだ。
そのまま家を建てた男はじまん気に、村の全てを見下しながら過ごしました。
その年の梅雨。
地滑りが起き、男は大切な本を抱き抱えたまま、そのまま流されて死んでしまいましたとさ。
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terukamiさんでした!
予想結果: Fireflyer, hallwayman×2, terukami×2, Pine_boy
祈りは無意味だ。どれだけ祈ったところで結果は変わらない。俺は賭けに負けて無一文になった。手元には多額の借金だけが残った。結局返済できず、時間だけが過ぎていった。
慈悲なんてない。借金の取り立て屋はこっちの気も知らずに「金を返せ」と言っている。返せるなら既に返している。金なんて一銭も持っていない。許してくれ。怒号が飛んできて、彼らは立ち去った
願ったところで何にもならない。過去を変えようとして必死に願い続けた。ギャンブルに手を染めなければ。あの時社会からドロップアウトしなければ。「れば」の二文字が脳内でリフレインする。
努力を続けれられるのはひと握りの人間だけだ。俺は働き始めた。肉体労働の仕事。でもそこで社員からのいじめが起きて、俺は気を病んでしまった。借金返済が遠のく。俺は仕事に行かなくなった。
神はいない。俺は家を失った。家族との縁を失った。誰とも繋がれてないまま、一方的に搾取されて死んでいくのだろうか。あまりにも辛い結末だと思う。一時の気の間違いが人を狂わせる。
救いなんてない。俺は一人で死ぬばかりだ。
神に見放され、運に見限られた俺に、もう一度チャンスがあるとしたら。自殺による人生リセットしかない。転生により、他の人として生まれる。そして、別の人生を歩む。自殺では天国に行けないと聞くがそこまで考えてる暇はなかった。
ビルの屋上から飛び降りた。落下中に意識を失う。気がつけば地面を這っていた。頭から血が出てる。俺は生きている。運も慈悲も祈りもない。努力を続ける力も願いをささげることもできずにいる。最後の最後、俺は神に向けで言った。
「もう許してください」
不信心者である俺の言葉は、きっと届かない。救急車のサイレンの音に掻き消された。
この作品の作者は
Burnin_A_GoGoさんでした!
予想結果: Fireflyer×2, ocami, SCPopepape, Kuronohanahana, Burnin_A_GoGo
落下していた瞼を開く。遠くに捕捉した爆撃音には最早慣れきっていて、煤けた床面へ腰を下ろす彼女を視認して僅かに安堵した。
「警戒お疲れ様。そろそろ交代しようか」
「また壁が崩れた。本当に酷い建物だね 私の職場と正反対だ」
「この区画に真面な業者が残っている訳がないからね」
無反応。政府機関の中枢、煌びやかな建物で報道を担っていた彼女は呟くように声帯を震わせる。
「ねえ、私の仕事は何だったのかな」
「何も。聖戦とやらを疑いなく受容する手駒の発信は信憑性が増すとでも考えたんじゃないかな」
一昨日、私は唐突に除隊を受けた。原因は指揮能力の大規模な喪失へ起因するらしく、もはや戦線が保たないことは誰の視線にも自明である。実家の在った土地へ引き揚げてもただ瓦礫が拡がるばかりで、幼少期を共にした彼女を拾う以外に何ら収穫は得られなかった。
「だから、早く寝たほうが良い。この場所は比較的安全だし、何より私の機嫌を損ねなくて済むだろうね」
用意された敷布へ身体を横たえる彼女の動作はひとつの音声も起こさず、その焦点は私へ合わせられない。視線は濁っているより脱色されていると形容した方が正鵠を射るだろう。
「この騒乱はもう直ぐに終わるだろうし、君等のプロパガンダも効かなくなってきている。解任されるとき真面な説明は受けたかい」
その文字列へ反応して開きかける口唇を片手で制する。もう少しの辛抱だよ、と告げてやれば彼女は緩やかに鈍化した。
「 解ったよ」
早くお休みなさい、と告げる。友人の表情へ嘗ての彩度が戻ることを願いながら、その視線が途切れるまで傍で見守っていた。
この作品の作者は
Pine_boyさんでした!
予想結果: ocami, DeepBlueUnion, Kuronohanahana×2, hallwayman×2
神に救いを求めたかった。新たな世界に飛び込んだ私の、着水地点は春に見合わぬ厚氷で、挫いたのは脚か心か、上手く立ち上がれずに一週間が経った。何もかも不確かで柔軟に見えたそこは、私が思っていたよりもずっと寒い場所で、彼らはあっという間に繋がり合い、組織となり、結晶化していた。私はただ、揮発するガスになった。誰も私を見ていなかった。
天道様の目も届かない一人部屋で、青白い蛍光灯だけが私を見ていた。人造の冷めた光は私を暖めることもなく、薄暗い窓の外を見えにくくするだけ。そこにあるだけの、何もしてくれない人工物。ここに差し伸べる手は無かった。ただ、跳ね返りに写った私も、私を見ていた。
頭が痒かった。清潔を保っているつもりだったのに、何かが憑いているように感じた。垢か脂か穢れた何か、この世の全てに神が宿るなら、これもまたそうなのか。私という人間から、産まれ落ちる神、神に救われたい私。私を救えるのは私自身?
千切れて落ちた髪を食べた。
この作品の作者は
1NAR1さんでした!
予想結果: AAA9879, Fireflyer, DeepBlueUnion×2, Pine_boy, 1NAR1
無人のスーパーマーケット。
缶詰売り場だった所に、その人は居た。
こんにちは、という、現状にそぐわぬ間の抜けた挨拶。
いささか前髪を短く切り揃えすぎている女性は、ゴム毬のように笑っていた。
新興宗教とも呪術とも、あるいは福音とも呼ばれる超常現象は瞬く間に人類を伝播した。
祈りの方法が容易かったのも、その一因だった。
床に就いたら、大切な人の事を考えながら眠る。
幼少期のおまじないのような、そんなことをするだけで、眠っている最中に「より良い所」へ行ける。
そんなネットロアは、内容の稚拙さに不釣り合いな効果を、行方不明者の増加で示していった。
ひと月前に最後に見たニュースでは人類の人口が既に2割を切ったという予測を報じていた。
大変ですよね、こんな事になって。
バックパックに慣れた様子で保存食を詰めながら、彼女は言う。
様々な質問が渦巻く。
独りで暮らすのは大変じゃないですか。良ければ助け合いませんか。貴方は祈らないのですか。
ぼんやりとした僕の様子を一瞥し、彼女は踵を返す。
最後の質問を、僕はようやく出力した。
貴方の、お名前は、何ですか。
マリって言います。
夕陽が目を刺す。
聖母のような名前の女性は、目を細めながら振り向いた。
背に浴びている、痛いくらい橙色の陽光が、人類の斜陽を謡っていた。
また、缶詰売り場で。
ろうそくの炎の揺らぎが、僕を現実に呼び戻した。
ベッドに寝そべりながら、缶詰の空き缶に置かれた蝋燭に息を吹きかけ、夜闇を召喚する。
黴臭い毛布に包まりながら、彼女の笑顔も、名前も、いささか短すぎる前髪も、思い出さないよう努めた。
また明日、缶詰売り場に行けますように。
僕は流行りの方法とは違うやり方で、小さく祈った。
この作品の作者は
tateitoさんでした!
予想結果: tateito×6
ここは奈良県奈良市、近鉄大和西大寺駅。様々な路線が交わり乗換時に混乱が生じる駅。西大寺、とは駅最寄りの寺院であり真言律宗の総本山、また皇位をも狙ったとされる僧・道鏡の思想的影響も強く見られる。無論その名は東大寺に由来する。
西大寺に向かうには駅の南口からだが今回は北口から降りる。北口から暫く歩けば平城宮跡など観光名所も多いが、私が見に来た場所は暫くも歩かず着く。バスターミナルの街側にある小さな花壇。2022年7月8日、この場所で元首相・安倍晋三が銃撃された。
被告人・山上徹也は旧統一教会の宗教2世であった。彼の家族は宗教により崩壊し、元首相が旧統一教会に与していると考え犯行に及んだらしい。その影響は甚大だった。救われてしまう人が出る程に。
私は宗教2世、という訳ではない。だがあの事件をきっかけに自分の信仰を捨てた。あるいは自分の常識が信仰でしかないと切り捨てたというか。人一人が世界を変える事はできない、という信仰を。
それすらも信仰なのかもしれない。人は自分の信仰を認識しない。皆、各々の常識の中で生きており、だがそれは物理現実によって塗り替えられ得る。そういった事件だったのかもしれない。
私は件の花壇の前にいる。事件の後に作られた花壇。それなりに人通りの多い駅前、何の変哲もない花壇に誰もが目を向けずに通り過ぎる。私は花壇をスマホで撮ろうとした。通行人の一人と目が合った。
数秒後、彼は目を逸らし、そのまま通過していった。地元の人だろう。この花壇を知っているだろう。花壇を撮ろうとする私を見て何を思ったのか。彼はどのような信仰を持っているのか、あるいは持っていないのか。
写真は撮らなかった。