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kata_menさんでした!
予想結果: kata_men×6
球場のスピーカーからゆずの栄光の架橋が流れる。その場に居るファンはひとり、またひとりとその曲を歌い始めた。
2023年9月14日、甲子園球場、読売ジャイアンツ対阪神タイガース。タイガースがここで勝てば18年振りのリーグ優勝という大一番だ。
序盤はお互い点が取れなかったものの、5回裏に大山の犠牲フライで先制。その後は打線が奮起し計4得点となった。投げては才木がホームランを打たれるものの1失点で粘りリードを保ったままここまできた。
そして9回表、ジャイアンツの攻撃。マウンドには守護神岩崎が向かう。ふとその時、登場曲がいつもと違うことに気がついた。この曲は、ああ、忘れるはずがない。横田だ。横田慎太郎の登場曲だ。
―――横田慎太郎のプレーを春の沖縄キャンプで見た時に、私は彼の虜となった。当時の監督の抜擢により高山、横田の一二番のオーダーには夢があった。このままタイガースの黄金期を支えていってくれるんじゃないかと思えるほどだった。
だが、2017年に横田はキャンプから離脱。9月に脳腫瘍であったと報道があった。 復帰に向けて頑張っていたが2019年に引退。その後は癌と戦いながらも2023年7月にこの世を去ったのだ。
ツーアウト3塁、同点のランナーがいる場面。ふと、私はタイガースベンチに横田のユニフォームを持った選手が居るのを見つけた。
ああ、君もそこに居るんだな。
バッターが打ち上げた打球をセカンドが取る。
―――さあ横田、バックホーム!いい球返ってきた!引退ゲーム素晴らしい送球!
選手がマウンドに集まっていく時、ふとセンター方向から一筋の光が見えたような気がした。
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BARIGANEsenshaさんでした!
予想結果: watazakana×2, Fireflyer, ShinoguN, eagle-yuki×2
『永世名人 2期連続の降級』
登山における事故の過半数は下山時に起きる。ふと、そんな話を思い出した。専門メディアでは大層センセーショナルに報じられた一大事も、悲しいかな当人にとっては特段驚くようなものではなかった。むしろ諦念というか、あるいはいっそ、自らの衰えの見立てが正しかったことへの安堵すら感じている有様だった。そんなことを知る由もない人々はまるで私が道に迷っているかのように語るが、そうではない。自分の意思で下り坂を進んでいるのだ。晩節を汚さないことに腐心して。
「最近、なんかもう、戦う顔をしてませんよね」
控え室で弟子は冷徹に吐き捨てる。私の降級を決めた人間にここまで言われるとは本当に落ちぶれたもんだ。だとかそんなこと、本当は半笑いで吐いていいセリフではないのだろうが。そんな虚飾を当然に看破した愛弟子は口撃の手を緩めてくれない。
「登山家ってのは山を下るために登ってるんです。登頂なんてあの人らにとっちゃ道半ばなわけで。それを撤退戦とごちゃ混ぜにするのは、些か失礼ってもんじゃないですか?」
「先生は永世名人取ったらそれで登頂満足はい終わり、なんですか?」
「僕はいくらでも将棋上手くなりたいです。いくらでも上まで登ってやります」
なんかそんなことを昔は言ってた気がする。思い出したよ。最初に老化するのは心なんだと気付いた。嫌だねえ。
「しかしまあ、老体には骨が折れるなあ。来た道戻るだけでも最低2年掛かるんだけど」
「じゃあ登れるだけ登りきったところで野垂れ死んでください。骨くらいは拾いに降りてあげますから」
言ったな?決めた。こいつに骨を拾いに来させる。うんと高いところまで。老人に楽しみが増えた一夜だった。
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watazakanaさんでした!
予想結果: watazakana, Something_funya2×4, konumatakaki
塔の頂点には、王権がある。
永らく空席の玉座は、地上から見上げても見えないほどの高みにある。百年前に在位していた先王は野心と好奇心に満ち、実験場として、あるいは要塞として塔を使い潰した。
さる先王はかく語りき。
「頂点に王権がある。上り詰めた者にはそれが与えられる」
この発言は唐突に国中へ発せられたと思えば、孤独な先王は崩御した。秩序は死に、空の王座があった。
貴族は目の色を変えた。持てる財力と騎士、そして人脈を以て塔を制覇し、従順でない民草を滅ぼそうとした。
賊は欲望のままに塔も王権も奪い、理想郷を作り上げようとした。
庶民は王位に憧れ徒党を組み、これに対抗した。
塔の攻略は簡単な話ではない。挑む者は皆敵同士である上に、未知の疫病、伝染する狂気を孕んだ近衛騎士、死して尚飢える野犬、無数の罠、挙句に寄生虫。そういったものが迷宮と化した塔を蔓延っている。
塔を登れば疫病に倒れ、騎士に斬殺され、野犬の餌となり、運良くそれらを切り抜けた者も、今度は伝染する狂気といつの間にか身体に巣食った寄生虫が心身を蝕む。
先王の遺した知恵と産物にはついぞ誰も敵わず、疲弊した三民は情報、資材、人員を共有した。そのために集積場が生まれ、市が行われ、それも続けば人がより集まった。
いつしか塔に挑む人間よりも商人が多くなり、その縁者が多くなり、塔の麓には一つの都市が生まれた。
そして今、塔は老朽化により崩壊の危機にあることが判明し、都市は調査隊を組織した。王権は伝説となったが、しかし内部の脅威は今日まで伝わっていた。
百年の記録をかき集め、崩落する前に再び塔の頂点を目指し、塔の脅威を殲滅する時代。即ち「第二次攻略期」の始まりである。
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Snowy-Yukinkoさんでした!
予想結果: BARIGANEsensha, Snowy-Yukinko×3, rokurouru×2
突っ立った地面に黒い空。通信機を顔の横にかざす。
「こちら高度8848m。どうぞ」
静寂は返事を待つ。天空で、山壁で、口元で、燦く水蒸気だけが動いていた。通信機が微弱なノイズを発する。その数瞬後に来るであろう返答に全身が構えた。
「こちら南緯90度。どうぞ」
「こちら北緯90度。⋯⋯無事にみんな到達したみたいやね」
スリー・ポール・チャレンジ。冒険家が、エベレスト、南極、北極の三極点に到達する偉業。僕ら3人は、同時に別々の極点を制覇して、3つの頂点上で─無論、通信機を通じてだが─落ちあおうとの計画を立てていたのだ。
そして今その目標は完遂された。間違いなく、ここにいる3人が地球の頂点を握っているのだ。寒さのためではない手の震えが、通信機を揺らした。
「こっちは晴れです、空はまるで宇宙みたいで⋯⋯通信機で見せられないのが惜しいぐらいの絶景です」
「悔しいなあ、北極は今闇の中だよ。ちょっと無理してここまできたのに絶景も何も見えやしないさ。南極は白夜だろう、羨ましいなあ」
「そうやね、こっちはずーっと昼。だから、朝ごはんと夜ご飯の区別がつかんくってさ。そっちは連続の夜ご飯お疲れさん、それより聞いてよもう 」
発信機の向こうでは、天気がどうだの今日の寝起きがどうだの食べ物の味がどうだの、頂点にいるのが信じられないほどどうでもいい話が続いていた。地球の頂点にいる人間がこんなたわいもない話で笑い合っていると知ったら、他の地球人たちはどう感じるだろう。宇宙人たちはどう感じるだろう。奥歯に挟まった携帯食の風味を確かめながら、僕はそんなことを思っていた。
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Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: BARIGANEsensha, Kuronohanahana×4, Fireflyer
自らを称える歌を自らで歌うなんて、エゴイスティックにも程がある。
でも、そのエゴと、そのエゴを持つ本人はこんなにも美しい。
「すごいね、いい歌だったよ」
「無論そうさ! このボクが作詞作曲したのだから!」
胸を張って高らかに笑う彼女の頭に戴っている王冠。スタジオの照明を受けてきらりと輝くそれの眩しさに目を細めつつ、彼女に質問を投げかける。
「でも、オペラで歌うには随分とポップじゃない?」
「ああ、これはオペラ用ではないんだ。如何せん、最近のボクのオペラの観客は固定化されつつあるからね。勿論今までのファンも大切だが、もっと広く、この美しいボクの存在を知らしめなくてはならない! というわけで、新しい方向を開拓してみたわけさ! 流石ボク!」
自己愛と自信の塊。自分の美しさと強さを知らない人々を不幸だと本気で考えている、その傲慢さ。それこそが彼女をここまで高みに押し上げたのだが。
「……じゃあ、次のレースの話だけど」
「うん? それなら前に……」
「大阪杯にしよう」
彼女の瞳が大きく見開かれる。
「ボクの復帰戦は阪神大賞典の予定じゃ?」
「まだ調子が戻っていないように見える。息抜きは充分にできているようだけど」
「まさか。ボクはいつだって最高の状態さ。でも、そうだね。君がそう言うのなら」
傲慢だが、素直。自分の正しさを疑わないが、他人の意見も決して否定しない。
「うん、ありがとう。それじゃあ、トレーニングに行こうか」
頂点に立ち続けることは難しい。だからこそ、去年一年間の無敗記録は燦然と輝いているのだ。その輝きを歌ってみせた彼女に、自分は何処までも魅せられていた。
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Fireflyerさんでした!
予想結果: BARIGANEsensha×2, Fireflyer, sian628, rokurouru, eagle-yuki
あんたは言っていたよな。テッペンから見える景色が綺麗だと感じることができる理由は自身より上にいる存在がいないことの証明だからだと。その景色はどうだったんだ?俺に教えてくれたことはなかっただろ。一回は聞いてみたいと思ってたんだ。
『映画界の巨匠、引退。』だっけか?着飾りやがって。
俺は昔っから根暗なのを隠すために明るく振舞うような人間だった。あの雑誌じゃ、陽気なダークフィルムの撮影者なんて躍らせやがってた。だけどよ、やっぱりあんたの撮ったガツンと胸を打つような燃える映像が恋しかった。俺からしたら蹴落とされた人を魅せるのは嫌いじゃなかったが、それでも人間の輝きは逆境からの逆転劇にあると信じてた。だから、俺はあんたを超えられねえけど、目指さないといけない。そう思ってたんだ。なのに、ライバルの死で引退なんてどうでもいい退き方をしやがって。
今こうして、映画館に足を運んであんたの最後の作品のリバイバル上映を見ている。丁度展開に煮詰まっていたところだった。粋なことをしてくれる館もあるじゃねえか、なんて考えてた。勿論、内容は最高だった。昔から変わんねえ作風は俺に光を当て続ける。
これを見て、ようやくわかったんだ。あんたの心はまだ映画館にいたままだったんだ。あんたは姿を消したわけじゃねえ。
俺は、まだテッペンには立ててねえ。あんたの言ってた景色なんて当分見れねえのかもしれねえ。地べたに這い蹲っているような俺からの景色でも、あんたの背中は山みてえにでっかくて、それでいて、憧憬の的としてまだ頑張っていてくれるらしい。だから、手を伸ばして飛びついて、その上に立ってやるよ。だからそれまでそこに立ってろよ。
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sian628さんでした!
予想結果: sian628×2, konumatakaki×2, eagle-yuki×2
「人間の肉はやはり甘美ね」
銀食器で肉を切り分けつつ女は言う。舌に擦れるミディアムは酸味が強く、自分には特段美味なもののように感じられない。
「そうですか? 少々雑味が強い気が」
「それがいいんでしょう」
切り分けた一口を口腔内へ運ぶ。それを味わうように何度か反芻すると、女は口角に付いたクランベリーソースをナプキンで拭った。
「人間は食物連鎖の頂点だなんて言うけれど傲慢なのよ。生態系を壊すのは彼等だというのに」
女は人間では無かった。開いた唇から覗く尖った牙が、ガーネットのような赤い瞳が、そうであることを仄めかしている。
「俺も人間なんですけどね」
女が自分と手を組んだのは、自らの献身が故だった。俺を喰ってもいい、そう言った割に女が自分に手を出すことはなかった。
「私はただ然るべき者に罰を与えるだけよ」
スパークリングワインを仰ぐ。赤に浮かぶ気泡は星空のように見えて、硝子を通して反射した自分の姿が歪曲する。
「化け物に見えるかしら」
緋い瞳は眼窩の更に奥を貫くようにしてこちらに向いている。蝋燭の火が揺らぐ。
「そうかも、しれません」
「でも貴方だって私の為に殺してくれるじゃない」
事実である。女が喰う肉は自分が調達したものだった。女は口を開く。
「ねえ、私たち共犯よ。今日も世界を美しく保つために、ね」
甘くそう言う。瞳はどこか扇状的に笑っていた。本当に罪な人だ。いつまで自分を焦らすのだろう。
「俺のことはいつ食べてくれるんですか」
「さあ? 好きなものは長く味わいたいじゃない」
女は手を取り、その甲に口付けた。晩餐は続いてゆく。夜が更けるまで。
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tateitoさんでした!
予想結果: tateito, EianSakashiba×5
狭い通路をライフルを抱えて走る男は、落書きだらけの壁や点滅するネオン灯を執拗に確認する。床から白い物質が通り抜けてくる。間一髪避けた。
前方の階段から女が降りてくる。黒縁眼鏡を掛けており、その靴下は左右で色が違う。闇寿司四包丁、オッカム剃刀のエレメンツだ。
「こんなとこまで俺みたいなのを追ってきて、暇なのかな?」
「闇寿司は侮辱を許さない。そして別に深追いでもないわ。サカイなんて入り口じゃないの」
高速回転する白いスシブレードは彼女の周りを壁を無視しながら公転する。超多面体豆腐。高次元の存在であるこの寿司は三次元物質に捉われず、その頂点、つまり角に頭部が触れた生命全ての息の根を止める。
「たしかにPAMWACでネタスレ立てたけどな」
男は隣のドアを蹴破り迷路じみた路地を急ぐ。闇寿司の処刑人は歩きスマホで追う。
「Xでも見てんのか?……ッ!」
豆腐が巨大化しながら天井から襲来、男はマンホールから地下に降りる、いや落ちる。
……豆腐は来ない。ライターで照らす。そこにはサカイ一帯あらゆる場所に繋がる無数のポータル群に埋め尽くされており、上方には高次元実体であるポータルに豆腐が引っ掛かっていた。
そして、一つのポータルの奥の奥にはエレメンツの後頭部があった。
「まさか、な」
男は撃った。弾は女の頭で跳ね返り、男の頭を貫いた。
「面倒くさくなってね、罠に掛けちゃった。そもそも銃弾の握りは元々闇寿司の技術、考えればわかったでしょ」
女は髪を掻きながら豆腐を戻し、そのまま同じ座標に重なった。
「闇寿司の頂点、四包丁の技。楽しんで貰えた?」
豆腐とエレメンツはアウターオーサカから消失し、声だけがその場に響き渡った。
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rokurouruさんでした!
予想結果: Kuronohanahana, sian628×2, rokurouru×3
『君の人生で最も幸福な瞬間は今だって言ったらどうする』
「おい、寂しい事言うなよな」
思わずシーツをそのまま被った様な幽霊に言い返す。唐突に現れた君の突拍子もない言葉を吹っ掛けられた時、僕は全身よれた服装と片手には食べ終えたアイスのゴミという風貌であり、更には曇天の夜だった。そんな事があってたまるか。
「普通の人は絶望すると思う。あとは下り坂だけの人生だ」
『そうかね。これ以上はないという諦めがあるからこそ、もう暖まる事のない平穏を愛していけるかもしれない』
幽霊が生き方を語るなよ、とも思うけど。提示された諦観と安心には不思議と枯れた優しさがあった。それは存在が"未練"の君に言われるからこその説得力かもしれないけれど、どこか都合のいい解釈にも聞こえて。
『……だ、なんてのは死人の戯言に過ぎないけどさ、』
だからこそ。
『君の人生は、まだ暖められると思うんだ。』
僕等の前を踏切越しに、死の鉄塊が通過する。
分かってる。正しさの是非は置いておいて、少なくともその行為が「今では無い」事なんて。僕の幸福の最高到達点は未だ訪れていない。実際はそんな事無いのかもしれないけれど、その悪魔の証明を抱えて足を引き摺って生きていくんだ。とりあえず、明日くらいまでは。
AM2:20、夜風は君をふわりと靡かせ、その存在を次第に夜に透かしていく。地縛霊かもしれない君の抱えた後悔は、これで少しは晴れただろうか。そんな思考を汲むように消えかけの君は言う。人生で最も幸福な瞬間についてだけどさ、
『僕は案外、本当に今だったかもしれない』
おい、寂しい事言うなよな。
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EianSakashibaさんでした!
予想結果: BARIGANEsensha, Snowy-Yukinko, EianSakashiba, ShinoguN×2, konumatakaki
私のラインのトーク履歴にはこだわりがあって、いつもテッペンには亮君の履歴があるようにしている。他からメッセージが来るとその人たちが一番上に繰り上げられちゃうからその度に亮君にメッセージを送り直して頂点に戻す。亮君はオキニの店の男の子で、無理して連絡先交換してもらった。世界一カッコイイし世界一優しいから私にもメッセをくれるんだろうけど、私がいつも亮君を頂点に置いてるみたいに亮君も私を頂点に置いてほしい。指先一つで広がる緑のカーテンをくぐった先に亮君と私の会話履歴が頂上にある。だからなんだというわけじゃなくて、それこそが私の生きている証になる。
ある日さすがにウザがられたのか「ちょっとだけラインの頻度落としてくれると嬉しいな!」と言われた。嫌われたくないから動揺しながらくだらないジンクスのこと赤裸々に話した。そしたら「俺のこと思ってくれてるなら嬉しい笑」「じゃあ提案なんだけど、その自分ルールなら会話じゃなくて一文字だけでもいいよね?」と言われた。亮君から私へのおねだりだと思いこんで、そんなの初めてで嬉しかったから二つ返事でオッケーした。
それから私の中の亮君が頂点から落ちることはなかった。親から嫌な話されても友達と喧嘩しても一文字で気分は絶頂。正直私が亮君の頂点になるなんて無理なことは分かってる。でもこの時間、フリックして送信するその数秒だけは亮君は私のジンクスに従順で私は亮君のピエロだ。亮君だって同じ、お店のテッペンなんて無理だから私で優越感を得ている。意味のない文字、意味のない自分ルール、意味のない頂点。きっと私たちにすら意味はないけど、必要ではあるから今日も亮君を頂点に置く。
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Something_funya2さんでした!
予想結果: watazakana×2, Kuronohanahana, Fireflyer×2, ShinoguN
雲を抜け、高山限界を超え、岩場ばかりの坂道を登り切る。ここは岩の殿堂、劒岳。日本最高峰である富士山には及ばないながら、ほぼ垂直に登る必要がある岩場や切り立った尾根を攻略する必要がある。話に聞いていた通り、日本で最も危険な山と呼ばれるだけのことはあると思った。
「良い景色だね」
同行者の声に反応が遅れる。疲れすぎて、声を出すこともできないのだ。心配そうな手つきで渡されたスポーツドリンクを舐めながら頭を上げる。光が満ちた。富山県は飛騨山脈に属する急峻が視界に広がる。晴天の下で青々と高山植物たちを茂らせる山々を、そして大きく広がる空を見る。毎度のことながら、世界は驚くほどに広いのだと思い知らされる。
「もう死にたくない?」
息が整ってきて、ようやく返事をする余裕が生まれる。体が火照って仕方がない。呼吸を整えながら、心配そうに私を見る彼女へと視線を移す。
「うん、もういいや」
全てが面倒で死のうかどうか悩んでいた頃に登山へと誘われたのが山に挑み始めたきっかけだ。積み重なった日常をこなすのに倦んでいた私には必要なメンタルケアだったと思う。
最初は里山から初めて、徐々に難度の高い山へ彼女と共に登山を続けてきた。その度に、絶望が少しずつ薄れてきた。そして、遂には日本で最も危険な山とされる劒岳に挑戦。一歩足を踏み外せば50mの滑落が待つ死の足場。その恐怖を間近にしてみれば、日常など大したことではないと心底から思えた。リアルな死を乗り越えた後の世界の広さを思えば、日常の面倒さなど大したことではないと分かったからだ。
「よかった」
彼女が、今日初めての笑顔を浮かべる。
「私も、貴女の書いたものを読み続けていたいからね」
この作品の作者は
ShinoguNさんでした!
予想結果: tateito×2, Something_funya2, ShinoguN×2, Tsukajun
苦節十年、エベレストの山頂にたどり着いた私を待ち受けていたのは一脚の椅子だった。
せっかくだから椅子に座った
我が社の株価が大暴落し妻が不治の病と診断され20年推してた女優の不倫スキャンダルが報じられ会社向かいの牛丼チェーンは値上げを発表し中学の時好きだったミュージシャンが覚せい剤で捕まり神は死に同期のアイツが先に管理職に引き上げられ取り出したばかりのおにぎりに蠅が止まりCheshireCheeseは一向に見つからないまま息子は全国大会目前にして脚の故障でドクターストップがかかり地球外に生命は存在せずこの椅子ペンキ塗りたてで大学時代振った女が宝くじで6億当選し私は黒服の男たちに椅子から引きずり降ろされなんか黒一色のヘリに押し込められた
世界中の人間が手を差し伸べてくれたって
もうエベレストの山頂には戻れない
(マリアナ海溝の岸壁に引っ掛かっていた潜水艇の残骸から回収された文書より抜粋)
この作品の作者は
Tsukajunさんでした!
予想結果: tateito, Tsukajun×5
かぼちゃ半額セールを狙ってスーパーに向かってると、こんなチラシを見つけました。
『不幸オリンピック本日開催!』
なんか世界で一番不幸な人を決めるらしいです。面白そう!場所は近くの公民館。早速行ってみようね。
扉を開くと皆がいました。つまり全員!人種バラバラ老若男女、犬に猫まで。ここから一番不幸な人を決めるなんてできるの?
「エントリーナンバー1、前へ」
司会者がそう言った後、金髪の女性が前へ出る。彼女は話す、自分が経験した一番の不幸を。
「私は父親に性的虐待されています。母親はそんな私を見て売女と罵ります」
まってまって、ごっつ重いやん!じゃあナンバー2さんは?
「新婚旅行で夫がテロに巻き込まれました」
ナン3さんは?
「腎臓が破裂して余命半年」
ナ4?
「にゃー」
……
…
全員ちゃんと不幸で仰天!軽い気持ちで来てすみません!
「エントリーナンバー94、前へ」
一斉に皆が私を見る。そうかこれは私の番号か。緊張するね〜。
「えっと、私かぼちゃ苦手なんですけどセールだから仕方なく買いに行きます」
しーん、からのザワザワ。恥ずかし!頬が熟れかけの桃。出場者は私で最後かな。投票からの集計作業に入ってる。
「それでは、不幸オリンピック優勝者を発表します!」
誰だろ〜?
「ナンバー94さんです!」
なんでーーー!?
「理由、一番人を見下せなさそうだったかららしいです」
なるほどよく分からん!あ、なんかメダル貰いました。嘘、メダルじゃなくて首吊り縄でした。
「それじゃ、優勝者は解放します」
足元の床がパカッと開く。バラエティでよく見るやつ!ぐぇ首が締まる〜。
「さようなら〜」
なんか終わるらしいです私!
じゃあね。
あっ!
かぼちゃ買えてないじゃん〜。
この作品の作者は
konumatakakiさんでした!
予想結果: Snowy-Yukinko×2, Fireflyer, konumatakaki×2, eagle-yuki
世界の人口は八十億人だという。その中で頂点に立てるのは、たった一人。
「でも、この計算には裏技があってね」
そう言って、僕にネクタイを整えさせる先輩は笑った。
「まず、ある分野で一位になれるのは一人だとしても、分野の数はいっぱいあるんだよ」
スポーツ、美術、科学、経済。そしてそれぞれの分野に、もっと細かいものがある。
「千の分野があれば、同じ舞台に立つのは八百万人に過ぎない」
それでも十分多いだろう、という僕の考えに先輩は気がついたのだろう。
「さらに条件が絞れるよ。世代がある。環境がある。意思がある。それらを全て満たす人は少ない」
よくある話だ。同時代にもっと上手い人がいたから評価を受けれなかった。家族が支えてくれたから成功できた。意思については、説明するまでもないだろう。
「それらが自分にとって揃う分野に挑めば、一万人に一人の能力が手に入る」
でも、それを探すのも大変なのだ。多くの人は自分がそこそこ勝てる分野で満足してしまう。先輩の場合は、自分が勝てる舞台を見つけた上で、そこで努力を怠らなかった。
残りは八百人。先輩が参加した大会に、世界中から集まった人数はざっくりではあるがそのくらいだ。
「あとは、前提をひっくり返す。別にこの大会では、金メダルは一位じゃなくてももらえるのさ。全体の十二分の一、その中に入りさえすればいい」
それはそうなのだが、この先輩は一位が十分狙えると言われている人だ。ただ、満点が何人か出る可能性があるようなタイプのものなので一位が頂点ではないのが少しだけずるいところだ。
「それじゃあ、行ってくるよ」
先輩は僕に手を振って、二日間の戦いへと足を踏み出した。
この作品の作者は
eagle-yukiさんでした!
予想結果: BARIGANEsensha×2, watazakana, tateito×2, eagle-yuki
剥げたペンキの欠片が指を刺す。錆が手汗と混じり、掌を鳶色に染める。
数日前、世界から人類が消え去った。この僕だけを取り残して。
世界の形はそっくりそのまま。或いは、僕は何かの拍子に”世界のレプリカ”にでも落っこちてしまったのかもしれない。
そんな状況で僕がまず取り掛かったのは、この古びた鉄塔の頂点を目指すことだった。
学校の裏山の頂に、この鉄塔は建っている。その頂点こそがこの一帯における最高地点。ずっと登ってみたかったが、もし誰かに見られたら大目玉を食らうことは間違いない。故に、世界から僕以外の人間が居なくなってくれないと無理だな、なんて漠然と考えていた。本当に、そんな日が来るとは思ってなかったけど。
にしても何故、僕は”そこ”にこんなにも惹かれているのか。馬鹿と煙は何とやらと言う。そういえば、僕の試験結果はいつも下から数えた方が早かった。
人は消えても憎っくき真夏の太陽はそのまんま。この時期の屋外の金属は、日中は一様に肉焼き機と化す。鉄塔へ挑むのは、必然的に夜になった。今夜は風がなく、体の調子も良い。遂に辿り着けるかもしれない。ヘッドライトで手元を照らし、数十センチずつ己の身体を押し上げていく。
一本のポールを掴む。それは、この鉄塔の頂点に位置するもの。
恐る恐る片手を離し、夜空に向かって伸ばしてみた。星々の光は未だ遠く、地上から見るものと何ら変わりない。人の営みによる光源が無い故にその輝きを増した星々は、僕を嘲笑っているようで。悔しくて、視線を少し下げてみる。
「…え?」
かなり低い位置で瞬いた光。それは空のものよりも暗く、小さい。
ヒト?
瞬間、僕の片手は空を切り、肉体は重力の奴隷となって──。