この作品の作者は
EianSakashibaさんでした!
予想結果: EianSakashiba×2, roneatosu×2
僕らの人生が歌詞とかでよく見るような1本の映画に例えられるようなものなら、エンドロールの途中で帰ろう。きっとその方が好きな映画として記憶に残るさ。
ワンルームで1人煙草をふかす。今は殴られた左の頬よりもバイバイの一言で傷ついた心の方が過敏になっている気がして。手持ち無沙汰になりすぎて前になくした鍵を今更探そうとして家中ひっくり返した後だった。何かしていないと下らないことを考えてしまう。ベランダの横に敷かれた線路から総武線が通り過ぎて、探し物は見つからないから進もうぜと言っている気がした。
本当に僕は彼女が好きだったのか。僕は彼女が好きなものに対して嫉妬していたし、彼女が嫌いなものに対して汚らわしいと思っている。だから僕は彼女だけじゃない、僕自身が胸を張って彼女の好きでいられるように服も、顔も、体型も、心も変えて彼女の恋人になった。出来上がったそいつは到底僕とは言えないものなのに。結局のところ彼女の好きに対して嫉妬していたのは、本当の僕はそうなれないからだろう。
「綺麗な終わりが名作の条件なの」彼女はエンドロールが流れる中でそう微笑み次の上映へ向かった。ならば少なくとも、僕の作り出した僕じゃないそいつは好きでいてくれたのかな。また慰めにもならない下らないことを考えてしまった。
ふと左手に違和感を感じ視線を移すと、探していた鍵をいつの間にか握っていた。彼女の合鍵代含めて鍵2個分の支払いは無駄遣いだったかな、探す気になればこんなにあっけなく見つかるのなら。時刻は20時13分、窓を隔てて電車が駅に向かう。
きっと、レイトショーにならまだ間に合う。鍵を持って家を出る、夜の吉祥寺に行方をくらませて。
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AAA9879さんでした!
予想結果: AAA9879×2, roneatosu, Something_funya2
アグネスタキオンは学園から去った。
ある日、トレーニング中にパタリと倒れた。無茶に無茶を重ねて脚を壊したのだ。長らく私に構っていたが、己の脚すら守れない人は嫌だと怒り、別れを切り出した。彼女はひどく取り乱したが納得してくれた。そして、ほどなくして学園を去った。
便りをよこすような殊勝な人ではなかったので、彼女の行方は知る由もなかった。別れの挨拶やお礼……謝罪もできなかった。
連絡が来たのは5年後のことだった。私は母校に呼び出され、グラウンド隅のベンチに座ってぼんやりしていると、キャリーケースを転がしながらアグネスタキオンがやってきて、隣にドカリと座った。「これどうぞ……」余分に買った缶コーヒーを渡す。「気が効くようになったねェ」はにかんで微笑むその姿は、ここ5年で私の心を最も痛めた。
「あの!」
思ったより大きな声が出てしまい、彼女が驚いて見つめてくる。「あの時、すみませんでした……感情的に、言い過ぎました」沈黙が続き、耐えきれず言葉を続けた。「ごめんなさい」勝手に潤んだ目は見られたくなかった。
彼女が席を立ち、キャリーケースを私の足元で広げる。「脚を出してくれるかい?」穏やかな声と共に、私の足に触れる。ためらいがちに伸ばすと、義足のような塊を履かせてくる。「君に怒られてからプランをゼロから再考し、アシストスーツという形に行き着いた。……だが、私の脚じゃ取れないデータがある」取り付け終え、ひざまずく彼女が私の手を祈るように握る。「実験には真摯さが必要。それに気付かせてくれた最も真摯な人がキミだ」
「もう一度、私と共に走ってほしい」
とうに飲み干していた缶コーヒーを、私は握り潰した。
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roneatosuさんでした!
予想結果: roneatosu, meshiochislash, watazakana, Nanasi1074
曲がりくねった深夜の小道には濃い霧が漂っていた。ここには辿る先も目的地を示すシンボルもない、あるのは一定の間隔で道に取り付けられたガス灯だけ。闇夜に溶け込む重厚な金属の中で、淡くも確かな金色の光がガラス越しに見える。
氷よりも冷たい空気。今日も、昨日も、それよりずっと前も彼とかつてここを歩いた日と同じ。唯一違うのはこの道を歩いているのが僕だけということ。どれだけ前のことかの判別はもはやつかない。
ガス灯の一つに顔を近づけ光を見つめる。光の中で彼が僕の下らない冗談にふっと笑った。別の光を見た。彼が僕とコーヒーを飲んで菓子を食むのが見えた。
彼との談笑。彼との旅行。彼との共寝。光の中だけは変わらない。胸を潰すような後悔の痛みも、グロテスクな色に化膿した未練の傷跡もガス灯の中には無い。ずっと、ずうっとあの日々だけを目に焼き付けていたい。
ガス灯のガラスをそっと開ける。光の根源に、火に触れてみるとじんわりとした熱が手の中に籠った。火を取り出し、それを目の辺りまで持ってくる。
「今日で最後にしようと思うんだ」
火をそっと落とす。ジュッという音が地面で数秒だけ鳴り、火は一瞬にして萎んで無くなった。
同じことを別のガス灯で続けていく。光が一つ、また一つ、小道から消えていく。
「ごめん。でも、夢はいつか覚めるものだって君は言ったよね。それが、どんなに良いものだったとしても」
最後の光が最後の闇に吸い込まれていった。黒い空に青の色が混じってくる。微かな光もそこには見えた。
「ありがとう……じゃあね、さようなら」
道の向こう側へ一歩一歩進みだす。夜明けが見えてきた小道に霧は無かった。
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Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: Kuronohanahana×4
ああ、数えてみればもう二十だ。我々は二十回もこの営みを繰り返したらしい。そんな回数を重ねれば、増えた仲間も、消えていった仲間もいる。
我々は幻の栄光を追い求め、時には犯罪に手を染めることさえあった。
黎明の青空の下で本を読み。
白昼に鳴く隼の声に耳を傾け。
夕暮には蛍の飛ぶ水辺の美しさに息を呑み。
深夜になれば篝火を囲む。
見上げた先にある星の光が、我々の道標だった。
二十もの数字を重ねれば、道中に取り零したものもきっとあった。小さなすれ違いから起こってしまった崩壊を、戦いを、我々は何度見てきたのだろう。
それでもいい。飛び立て。失敗したって問題は無い。欠落があったっていい! そんなものは酒で流してしまえ!
未練はあるからこそ良いのだ。
未練の無い人生のなんとつまらないことだろう。
さあ、新たな一歩を踏み出そう。二十という数字に新たな決意を固めて。
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tateitoさんでした!
予想結果: tateito×3, Musibu-wakaru
腹が減った。今は午後3時過ぎ、ランチタイムからは過ぎた時間だが、だからこそ客も少なく待たなくても良い。どこか適当な店で飯を食おう。
そういえば駅前にトルコ料理屋が出来ていたな。少し歩くことになるがそこで食うことにしよう。そう決めた。トルコ料理。世界三大料理でたしかフランス・中国・トルコだった気がする。まあ数合わせ感も否めないが、東西の文化が交錯する地で成立したトルコ料理は両者の長所を兼ね備えているとかなんとか。ともかく楽しみである。
駅まで後5分ぐらいか。なか卯の看板が見えてきた。それを超えて少しすると駅舎が見えて、そこからすぐのところにあったはずだ。
気が付くとなか卯に入っていた。何故だ?私はなか卯を見ると反射的に入ってしまう性質を持っている事を忘れていた。これはどうにもならない反射だが、今日はトルコ料理を食べるつもりだった。
まあ入ったものは仕方がない。なか卯で食べよう。なか卯は言ってしまえば親子丼屋な訳だが、そういえば海鮮アボカド丼も売っていたな。今日はそれを食べることにしよう。食券機を操作する。炭火焼親子丼ご飯ごはん小盛京風つけもの&小うどん付の食券が排出された。
……!
しまった。私はなか卯では反射的に炭火焼親子丼を注文する性質を持っている事を忘れていた。海鮮丼ではなかったのか?激しく自戒するが食券には炭火焼親子丼とある。
もう仕方がない。ここは次の反射に抗う事だけに集中しよう。私はなか卯で親子丼を食べる時はおいてある一味唐辛子をかけるのだが、今回はそれをやめる。
私の番号が呼ばれた。親子丼を受け取りテーブルにつき、一味をかけるウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!
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NorthPole さんでした!
予想結果: tateito, NorthPole, Nekokuro, eagle-yuki
ふと気づくと、日常的に胸がムカムカするようになっていた。時たまふらつき、座っていても眩暈がする。始まりと言えるような出来事は無く、毎日やっている事はと言えば座ること、1Lほど紅茶を飲むことの2つくらいだ。しかしそれらもたっぷり1年は続けていることで、今更何か不都合が起きるのも何か奇妙な気がした。
妙だなと思いつつも良くならないので病院に出向いて診察を受けると、医者は開口一番こう言った。
「お酒をやめてください」
はあ、と僕は呟いた。それ以上の言葉が出てこなかったと言う方が近いかもしれない。酒はほとんど飲んでいないのにとか、問診票に酒が好きだと思われるような事を書いたたっけか、という混乱に頭が支配されてしまった。
「好きなんですよね」
「いやまあ、特段飲まなくてもいいですけど」
「我慢できるんですね」
「我慢というか、どっちでもいいです。3ヶ月に1回も飲んでないですし」
「ではやめてください。次は2ヶ月後にまた来てください」
診察はそれで終わりで、僕は初診料を払って病院を後にした。
狐につままれたような気分だった。僕が得たものと言えば酒は体に良くないというごく当たり前の知見くらいで、体調の悪さは全く改善の目処が立っていなかった。最大限好意的に捉えるならば、料理酒からみりんに至るまで全てのアルコールを生活から排除すれば医者の言うように体調が良くなるのだろう。帰りの車の中で、僕はとりあえずあらゆるアルコールを断ってみようかと考え始めた。
ちなみに体調の悪さは紅茶を我慢したら治った。カフェインの過剰摂取なのかもしれないなと思いつつ、僕はアルコールを断ち続けている。
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rokurouruさんでした!
予想結果: rokurouru×3, konumatakaki
自分の事を臆病者だと思うようになったのは、果たしていつからだったろうか。少なくとも部活終わりの放課後で君と知り合った頃にはそう思ってたし、その前から随分と高尚な決意に身を任せて子供に迫るトラックを前に全身飛び込んじゃうタイプの奴には一切の共感を示せなかった。多分。
「だから僕が決意を固めたとしても、動くのはきっとこれくらいだね」
そう言って指を一本ぶらぶら動かす僕を。
君は只、優しく笑っていた。
さて時が経った現今、僕の思想は全く変わっていない。決意とは即ちある種の愚かさで、それでもそんな疾走感に満ちた愚かさが誰かを救う瞬間も確かにあって。やはり僕は臆病者でしかないと思っている……所で、なんでこんな回想をしてるんだっけか。
痛い。頭から血は垂れ、鼻は多分折れ曲がってる。走馬灯とかいう奴だろうか。散乱した室内、半狂乱で暴れまわる刺青塗れの野郎共、そのうち僕と相対する一人。僕が何故か握っているのは、制服姿にはとても似合わない冷たい凶器。
何でこうなったんだっけ。初めて君と手を繋いだ。君の刺青を見た。それが全ての火種だった。初めて自分の歯を喰らったし、殴られた血は鉄の味がした。もう全ては滅茶苦茶で、僕が出来ることはないと結論付けた。その上で割れた眼鏡の向こうに、
確かに君が泣いていた。
銃把を握る。少し息を吐く。未練は無いなんて言えないけれど、気合で知らない振りをする。僕は結局の所臆病者で、この状況でもやっぱり動かせるのは一本の指だけだ。でも、今はこれでいい。
決意。歯抜けの面で静かに笑って、僕は。
引き金を引く。
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Nekokuroさんでした!
予想結果: Nekokuro×2, eagle-yuki, Fireflyer
夏の日差しが降り注ぐ公園を、私は一人歩いていた。
激務続きの毎日。昼食時くらいは外で過ごしたい。そう思い、この先の喫茶店を目指す。
陽光に目を細め、青い夏空を見上げる。
真白な飛行機雲が伸びていく。
あの先頭、空を切り拓く飛行機に乗って自由にいけたらいいのに。
そんな風に、子供の頃は思っていた。
ふとベンチに目をやると、ノートが置き忘れられている。
誰のものだろう。表紙には、「夏の思い出」と書かれている。
何となく中を見ると、文字通り絵に描いたような夏の記録で溢れていた。
このノートの持ち主だろう、”わたし”が遊ぶ姿。
海に夢中になる姿。
花火大会で歓声を上げる姿。
今の”私”には、もう戻れない時間。
この”わたし”くらいの頃は、毎日が輝いていた。
ふと一枚の写真が目に留まった。
そこには"わたし"と少年が写っていた。
「おとなになって今日をわすれても、
どうか私たちが
いつまでも友だちでいられますように」
ポケットの中で携帯電話が震えた。昼休みも終わりに近づいている。
他人のノートを不躾にも読み耽ってしまった自分を恥じ、元あったように置き直す。
裏表紙に書かれてある名前を見つける。おそらく”わたし”の名前だろうか。
それは見覚えがあるような、初めて見たような、そんな気のする名前だった。
頭上を見上げると、飛行機雲はすっかり消えていた。
それはきっと、なんの暗示でもなく、なんの比喩でもない。当たり前の現象。
同時に、消えた飛行機雲の遙か先
それら全てを置き去りにして、どこまでも進む飛行機を見つけた。
それもきっと、なんの暗示でもなく、なんの比喩でもない。当たり前の現象。
意味もなく勇気をくれる、そんな何でもない、当たり前の現象だった。
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konumatakakiさんでした!
予想結果: konumatakaki×2, Fireflyer, Nanasi1074
「……まず、言い出してくれてありがとう」
脳を埋め尽くそうと湧いてくる負の感情を無理矢理に押しのけて、私はできるだけ理性的に相手に対応をしていく。
私からはずっと何も言い出してこなかった。いつかちゃんともっときちんと言うべきだ、なんてことはわかっていた。そうしなければこういう時が来るってことも。
「……あなたが、もっと嫌がると思っていました」
「嫌だよ。でも、それ以上にここで取り乱す自分のほうが嫌なのさ」
あくまで、私は今までの態度を崩さない。そうだろう、今更考えてみればこの関係が続くことのほうがおかしいんだ。
「……今まで、ありがとう」
「……楽しかったのは、本当です。ただ、このままではきっとどちらも駄目になってしまう」
いつもの私なら、ここで手でも握るか肩でも組んで、一緒に駄目になろうと誘ったりしたのだろう。今はそんな事をする気になれない。
「わかってたよ、うん。君がそれを選ぶなら、私はそれを応援させてもらおうか」
「……いいんですか、あなたはそれで」
「……いいと思う?」
ああくそ、せっかく止めていたのに。余計なことを言いやがって。
「手放したくないわけないだろ。逃さないように縛りたいに決まってるだろ。君がそれをわかってなかったとは言わせないぞ」
たぶん、どっちも現状に甘えていたのだ。それで、向こうはちゃんと決意できた。私はできなかった。それどころか自分の感情も未練なままで、選択も行動も避け続けていた。
「……連絡を絶ってくれ。二度ととまでは言わないけど、しばらく顔を見せないでほしい」
「わかりました。それでは、またいつか。あなたも、それまでお元気で」
そうして、久しぶりで最後の逢引は終わりになった。
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Musibu-wakaruさんでした!
予想結果: Musibu-wakaru×3, Snowy-Yukinko
大学受験、第一志望は不合格だった。精一杯頑張ったかと言われると首を傾げざるを得ない。自分でそう思うのだから、やはり努力は足りていなかったのだろう。ただ、それでも哀しさと悔しさが入り交じったような気持ちが込み上げてくるので、私はなんて都合のいい生き物なのだろうと感心する。
近所にパン屋がある。去年、そこのカレーパンがテレビで紹介され、行列が絶えないことがあった。私はそれまでその店に関心を持ったことすらなかったけれど、下校中に列がやたらと目につくから、ある日遂にカレーパンを買うことに決めた。
結果だけ言うと、私はパンを買えなかった。私の目の前で最後のひとつが買われていった時、私から金輪際ぶんのカレーパンを買いたいという気持ちが消えていくのを感じた。その時の諦めに似た、げんなりとした感覚を覚えている。
似ている。
私にとっての第一志望校は買い逃したカレーパン程度のものだったのだと気づく。だからカレーパンを買った。行列ができていたのは去年のことで、もうあの頃の人気は初めから無かったと錯覚してしまう程の閑散さを見せていた。
家に帰るとおもむろに紙袋からカレーパンを取りだし、かぶりつく。もう一口。
失望のため息が零れそうになったところで閃く。トースターで加熱するんだ。トースターに食べかけを突っ込んで二分待つ。
さっきよりは美味しい。が、行列ができる程だろうか。カレーパンを食べ終えてしまうと、そこに残ったのは指に着いたパン粉と油だけだ。
二月末の冷たくグレーな空気が満ちた部屋の中で、かつての第一志望校がこのカレーパン程度であることを密かに願った。それこそ、意気地のない私の取れるか弱い抵抗の全てだった。
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CRC-601さんでした!
予想結果: CRC-601×3, Dr_Knotty
ダサいところ見られちゃったな。
「お前もひとりぼっちか」
その猫は僕のことが見えているようだった。夜目が利くと有名だけど、人間よりももっと色んなものが普段から見えているのかもしれない。
猫は逃げない。
「幽霊と猫じゃ、どうやっても"2人"とは数えられないよな──ひとりぼっちが2つあるだけ」
僕の指は額をすり抜ける。感触は無いが、ほのかな体温を感じる。死ぬ前は猫に大した感情を抱いたことなんかなかったのに、僕はこの猫が逃げ出したら悲しくなるんだろうな、なんて妄想を巡らせる。
僕は自殺した。
叶わないと分かりきってる願いなんか望んでいられなかった。人と同じ感受性で生きていたい。人と同じ歩幅で歩きたい。薬を頼りたくない。自分を好きになりたい。
それが今後一生覆らないということに、僕は20年生きて知ることができたんだ。だから全てを諦めて、消えてなくなろうとした。
でも僕は幽霊になった。
「誰かと同じように生きるだなんてクソ喰らえ」
口にしたところで何も変わらない。どこかに残ってるらしい未練は体を縛り付けて、僕の体は現世から居なくなってくれない。
猫はいつまでもそこにいた。半透明の僕のことをいつまでも見つめていた。猫は自由だ。首輪に繋がることもなく、身軽なその体でどこまでも行ける。
僕の体は、ついさっき軽くなった。
「……にゃあ」
自分の口から出た身の程知らずな言葉を軽く後悔したけど、どうやらそいつにはしっかり届いたらしい。鳴き声が夜道に小さく広がる。猫はくるりと背を向けて、街灯に照らされてない所までゆっくり進んでいく。
他人のこととか、未練とか、忘れてみようかな。
なぁ、僕が知らないこと教えてくれよ。その目で、その耳で。
この作品の作者は
eagle-yukiさんでした!
予想結果: NorthPole, eagle-yuki×2, meshiochislash
あなたにも、旅立つ時が来たのである。
あなたを抱くのは永遠にも等しく思えた日々。凪のようで、僅かな揺らぎが心地良い毎日。しかし、残酷は不可逆に訪れる。その抱擁を、その甘気を振り払い、前へ征かなければならないのだ。
眼に焼き付いた街並。喧騒が残響する学舎。慈愛と温情が待つ自家。そして、そこであなたが共に歩んだ人々。皆一様に、その先の道には連れて行けないもの。あなたが、別れを告げなければならないもの。
されど、それらが確かに「在った」という事実。それを胸中で反芻し、何物にも呑まれ、穢されぬように掩蔽することはできる。そしてあなたは未練を棄て、涙を拭い、立ち上がることができる。
此処に至るまでの旅路も、それは長かったことだろう。しかし、旅が終われば、また新たな旅が始まるのが節理というもので。幾らかの壁も試練も超克し、その上で選び取った道を、あなたは進まなければならない。
雲を越え、空へ昇るべきあなたが墜ちて、焦がれ、灼け尽きてしまわぬように。あなたの袖を引くこの手は離さなければならないけれど。それでも、幽かな祈りは此処に遺していこう。
……かつて少年だったあなたへ。ありふれた激励になるが、それでもどうかこの言葉を贈らせて欲しい。
──『あなたの道行きが、輝きに溢れたものとなりますように』。
この作品の作者は
SuamaXさんでした!
予想結果: Nekokuro, SuamaX×3
「あ」
妙な手触りを感じて鞄から小さな包装紙を取り出すと、個包装された小さなクッキーが姿を現した。
かつて祖父の家で茶菓子として出された贈答品のクッキーは、鞄の中でくしゃくしゃに潰れていた。
祖父は二か月前に老衰で死んだ。眠るように目を閉じながら死んでいた。本当に眠りながら苦しみなく逝けたのかは分からないけれど、そうであったらいいなと思う。
息を引き取った瞬間を、私は見ていない。「もう先は長くないだろうから顔を行くけど、一緒に行く?」と母に言われた時に断ったから。その日は練習試合があって疲れていたから。祖父の家はそう遠くなかったし、来週の休みにでも行けばいいと思っていたから。
その日の事を悔やんでも悔やみきれないというほどには後悔していない。祖父と言ってもお盆のたびに顔を合わせるくらいの関係だったし、確かに悲しかったけど、でも裏を返せばその程度の感情でしかない。薄情なのかもしれないけれど、どうしても話しておきたかった想いも無かったし。
ただ、時折考える。あの日、まだ辛うじて生きていた祖父の顔を見ていたのなら、もっと別の言葉を、感情を掬い上げることができたのではないか?
きっとそれは、今後の人生の中に祖父の影を見出すたびに付き纏い続ける思考なのかもしれなくて。今でもなお、親に連れられ父方の実家に行くたびに揺らいでいる。
手の中のクッキーもある意味では祖父の遺品、ということになるだろうか。もっとも、こんな状態の消え物に抱く感傷でもない気がするが。
封を切って、砂のようになったクッキーを口の中に放り込む。廉価品でもないようなそれは、口の中に砂糖の甘みとバターの風味と僅かな渇きだけを残して消えていった。
この作品の作者は
hitsujikaipさんでした!
予想結果: hitsujikaip×4
「割り切れない思い?何がいけないんでしょう」
これを聞いた時は話し相手をミスったと確信した。お前みたいに自分の心情を短い言葉に押し込められるほど単純にできていないんだわ。
「いやいや、それ答えになってないです」
眼前の油淋鶏は冷めている。対面の奴は遅れてきた挙句、長いことメニューを眺めようやく青椒肉絲を注文した。
「今はそれの何が不味いかの説明を聞いているんですよ」
油は冷めるとくどくて、言葉からはみ出た情報が欠け落ちるからだ。
「食べてしまえばよかったのに、割り切れない部分が出て来るのは当たり前ではないですかね」
お前が言うのか。そんな単純な関係ではないのに、学生セットの揚げ物は量が多い。
「気持ち悪いから、それを君は言葉で言い表したい?」
確かに、吐き出せば楽になるかもしれない。
「そりゃ無理な話ですよ、全ての心情を固有なものとして扱うdiscreteな区別を言語化するのは」
お前は全ての感情を同一視したtrivialな奴だろう。何でも割り切れるように見える。
「君も私も頭に乗る語彙セットは有限でしょうからね」
人類がバカで悪かったな。何でそんなに嬉しそうなんだ。
「割り算の何が嬉しいかって、そりゃ商を忘れて剰余に注目できることで、法や剰余は未練じゃないです。どちらかというと商への固執が未練ですね」
言い表わせないものはそのままだ。
「言葉は完備じゃないので。言い表せる向きの情報は捨てても良いんですよ」
捨てたところで、人間関係を心情の剰余と整合に保てるか。
「情報を捨てて同一視される二つの心情が同じ所に行き着くなら、割った余りの行き先も誘導されます」
それで何を?
「名前の違いで割って代表元を選び直しませんか」
この作品の作者は
Fireflyerさんでした!
予想結果: rokurouru, konumatakaki, Fireflyer×2
「わかってる。わかってるってば。」
西陽が沈む廃駅社。100mのちっぽけな片側ホーム。踏切の音が明日へと遠のく。
「だけどさ、それでもさ、消えて欲しくないものってあるんだよ。」
ホームの下へと降りるあなたの姿が目に映る。黒いセーラー服。朝焼けでぼんやりと橙が背景に染み付いていく。
しょうもない思い残しと、向けない明日への方角。いいじゃないか、後ろを向いていたっていいじゃんかよ、と線路上の黒い影に叫ぶ。
ツーンと響く耳鳴り。踏切の音は遠い。
「時には諦めも肝心だと思うんだ。その断ち切りが正解かどうかは私には分からないけれど、そういう思いも私は必要だと思ってたよ。」
1年前の様にパッと微笑む。見えないけれど、ハッキリと見える。
「だからさ、もう、忘れちゃいなよ。大丈夫。覚えてくれてるだけで十分だから、ね?」
踏切の音は近づく。
『でも、諦めきれないよ。』
ホームの黄線を蹴る。電車の幻影が左側に映る。僕の体は宙に浮く。
『忘れられないなら、もうずっとこのままでいいんだから。ずっと。』
電車の影と黒い人影がすっと消える。東を向くと朝日がじんわりと暖かかった。
この作品の作者は meshiochislash does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: EianSakashiba, NorthPole, meshiochislash×2
「真面目そうなのに、煙草なんて吸うんだ」
喫煙室で彼は意外そうにして、ちょっと笑う。自分では特段真面目なつもりはないけれど、多分自分の指にタバコは似合っていないのだろう、とも思う。曖昧な相槌を打つ。
「前の男の影響だったり」
そんなんじゃないよ、と、慌てて誤魔化して、そうとも言い切れないかと首を傾げる。
──私は、煙草より先にライターを買った。未練がましく火を求めて、理由のために煙草に口を付けた。それが誰への未練なのかを考えると、あるいは誰達なのかを考えると、それは大いなる影響だ。
けれど。やっぱり、尋ねられていた答え、彼らとの関係、向き合ってきた旅路は──前の男、なんて。そんな答えに収まらないとも思った。ここまで考えてしまうのだから、やっぱり私は真面目なのかもしれない、とも。
全部纏めるように、あるいは散らかすように、笑って──煙から手を離す。
「最初で最後の、共犯者の影響でね」
捨てられた火は、あの日々と違ってすぐに消えるけど。煙は──嫌いになれなかった。
きっと彼らにも、似合ってないと思われているのだろうけど。
この作品の作者は
Something_funya2さんでした!
予想結果: AAA9879, Something_funya2×3
我が愛しい飼い主、もういないあなたへ、せめてさようならと言わせてください。
あなたが与えてくれた全てが、私にとって新鮮でした。あなたが与えてくれた、名のあるものが好きでした。名もないものも好きでした。温かいものも冷たいものも、あなたが与えてくれたものは私の中で熱になりました。
その熱が私をここまで連れてきて、だけどあなたはいなくなってしまった。私の首輪へ繋がるリードの先には、今あなたはいないのです。
かつて、この空虚こそが私でした。寒々しい荒廃の中で、熱なく生きる者こそが私でした。我が愛しい飼い主、あなたが私を見つけるまでは。あなたが私を見出したのは、きっと空虚を友とすることが所以だったのでしょうね。でも、あなたは私に温かさを、冷たさを、熱を与えてくれた。かつての私ならばともかく、今の私にとってはこの空虚は耐え難い。
確かに、私にも友と呼ぶべきものができました。暖かなものができました。羽ばたくための比翼の友ができました。
ですが、あなたがいないのならこの世の全てに意味はないのです。友たちが私に見出したのは、あなたが込めた熱なのですから。私とは、首輪とリードであなたに繋がっているものなのですから。
あなたが居たならば、比翼の友と共に戦うことも選べたかもしれない。けれどあなたが居ない今、あなたの猟犬として再び首輪を嵌める道こそが唯一無二の解答です。
さようなら、我が愛しい飼い主。私には、あなたのくれた首輪が他の何より愛おしい。さようなら、我が比翼の友よ。私はこれから、あなたを殺して星を焼きます。はじめまして、見知らぬ人々。私はこれから、あなた達を火に焚べます。
私は621を選ぶ。レイヴンではなく。
この作品の作者は
Dr_Knottyさんでした!
予想結果: SuamaX, Dr_Knotty×3
私信
歴史にIFはない、という言葉は過去を振り切れない者のためにあるのだ、と思うことが増えました。あの時ああなっていたら空想を重ねて足を止めている者にいい加減にしろ、と言い聞かせる──それは自分自身で行うべき行為なのでしょうが──為にある言葉なのではないかと。
それで尚、度々考えています。君が旅立ちの準備を進めていることに気づかなかった訳ではない。その時に何か言えばよかっただろうか、あるいは言わなくて良かったと考えるべきだろうかと。ですが何度考えてもやはり、言うべきことは既に言ったように思うのです。幾つのIFを重ねても、私も君も同じ選択をしたのではないかと。
そうです。もう私から言うことも、まして教えることなど、殆ど残ってはいません。気づけば君は随分と頼もしい後輩になってしまった。だから、言うことは一つくらいだ。
淡い、本当に淡い緑に見える桜があります。花弁が白く透き通るが故に、萼の色が映って緑に見える桜です。
あれは大島桜というのです。桜餅の葉としても使われる品種です。仮に君が今後桜を見上げる余裕すら失っても、スーパーで安売りの桜餅を見かけるくらいのことはあるでしょう。だから、知らなかったのであれば覚えておきなさい。
居なくなる者に花の名を教えようとする事を、届かない手紙を書くことを君は笑うでしょうか。あんたこういうときは感傷的なクリシェになるんだなと思うのであれば、もう一つだけ言うことを増やします。
覚えておきなさい。これは歴史に学ぶお約束というのです。いつかどこかで積み上がった過去の中に、互いの面影を見出すための約束です。歴史とはきっとそのためにあり、そこにIFは不要なのです。
この作品の作者は
watazakanaさんでした!
予想結果: EianSakashiba, AAA9879, watazakana×2
「あの、幽霊になったんですが」
「みたいっすね」
目の前の女子高生は、随分あっさりとした回答で出迎えた。
幽霊になった、つまりは死。生前何かしらの未練があるということでもある。だが大層な未練など俺にはない。しかし、現状が全てだ。心当たりは無いでもない。
他人からは認識されない、物に干渉できない、持ち物もない、ついでに足もない。ナイナイ尽くしの幽霊が未練を断つ……というのは無理難題だ。せめて物理的な手足が要る。
他人のスマホを伺って霊能力者の居場所を探しまくった。新宿駅で3日費やした。その甲斐はあったようで、霊能占い霊媒除霊……兎に角肩書を積んだ女子高生の居場所を把握した。
で、結果がこれである。
「まずコンビニへついてきてほしい」
「うーっす」
未練、それはコンビニで見たプリンを食べられなかったこと。プリンなんてものに興味はなかったが、流石に3段異なるプリンが一つのカップに詰まっているのを見ると、好奇心が湧いてきたのだ。その好奇心は満たされないままだったが、最悪食レポを聞くだけでも満足だ。
しかし、店内を見てもそんなものは影も形もない。
「期間限定っすね多分」
期間、限定。無い膝から崩れ落ちる。
「このコンビニ毎年そういうのやってるんで、また来年っすね」
女子高生は喋りながらシュークリームを買って、店を出て、そのシュークリームを俺に渡した……正確には、俺の座っている場所に置いた。
「はいこれ。この世参加賞」
「は?」
驚いて女子高生を見ると、屈託のない笑顔だ。
「その様子だと悼む人居ないっぽいんで。新生活のお供えってやつ。じゃ、また来年」
用が済めば風のように去るさっぱりとした彼女に呆然としながら、ただ呟くしかできなかった。
「来年、かあ」
この作品の作者は
Snowy-Yukinkoさんでした!
予想結果: NorthPole, watazakana, Snowy-Yukinko×2
蝋で繋いだ羽を背に戴き、私は大空へと飛びたった。地を這っていた時には想像もつかなかった感覚に震え、全身は青い空気のなかで喜びに踊っていた。
空の中で輝く太陽。子供の頃からずっと、私の憧れであった。太陽と同じ空へ浮かんだのが何よりも嬉しかった。私は、空を突き抜けるように真上に飛んでいった。翼を得た今なら、太陽に追い着けるような気がしたから。
高度を上げていくと辺りが次第に暗くなり、太陽の本当の姿が見えた。地面さえ呑み込むほど大きく、光さえ追いつけないほど遠く、空のはるか上で輝いていた。それは自分とは比べるのも愚かな、光そのものだった。
背中の羽を繋ぐ蝋は、太陽の熱でなすすべなく溶けていく。自分の体は、太陽の光でヒリヒリと焼けていく。自分の慢心に気付いた。自らの高望みを呪った。全身から力が消えて、青黒い大気の中を真っ逆さまに落ちていった。
結局、私は太陽のことについて何も知らなかったのだ。こんなことなら、一生太陽に憧れながら地面に這いつくばっていれば良かったのか。
否、違う違う違う。
自由落下に身を任せる選択肢は、地面から高く打ち上がった時にとうに唾棄したはずだ。太陽を掴むように、垂れかかった手を上に伸ばす。
太陽は全てを平等に照らし尽くす。私がいくら激しく焼かれようと、太陽は目を合わせてくれないだろう。しかし、もとより太陽に憧れたのは決して太陽に追い着こうとしたからではない。太陽がただ美しかったからだ。
皮膚が爛れても構わない。肺が潰れても構わない。羽根が一枚も動かなくなるまで私は上へ飛び続ける。
私が力尽きるまでの間だけでいい。太陽よ、私が貴方を追い続けることをどうかお許しください。
この作品の作者は
Nanasi1074さんでした!
予想結果: CRC-601, Snowy-Yukinko, Nanasi1074×2
自宅の一室で、私は溺れていました。
比喩ではなく、現実として。私の肺を水が満たそうとしています。
呼吸が上手くできない。心臓がどくどくと脈打ち、まだ死にたくはないと叫んでいる。
もがいてもどうにもならないと分かっているのに、それでも足掻く気持ちは消えないまま。
床でばたつきながら、この怪現象の発端となったであろう彼のことを考えます。
彼は黒縁眼鏡がよく似合う、少し童顔な人でした。自身を卑下することが多く、そんな彼を私が支えてあげられたら、どんなに素敵なことだろうと傲慢な考えを抱いていました。
しかし、彼は1人の友人としてしか私を見ていなかった。
「ごめん」と彼が申し訳なさそうに告げた拒絶を、私がどうやって受け止めたのか記憶にはありません。
心ない言葉をかけたかもしれない、ちゃんと取り繕えたかもしれない。どのみち彼のことを傷つけたのは明白でした。
これがつい先日の出来事。私の無思慮さにはほとほと嫌気が差しますが、彼は元気でやっているでしょうか。
私のことなど忘れてほしいのに、永遠にその傷を覚えていてほしいと思う私に反吐が出る。
酸素を失った脳のせいか、視界が一瞬ばちっと光った。このまま、私は死ぬのかな。
どうせなら、私は焼死体になりたかった。恋焦がれて、その恋と共に終わりたかった。
こんな酷く惨めな死に様を、彼に知られたくはなかった。
また、彼のこと。
どこまでいっても、好きでした。大好きだったんです。たとえ成就せずとも、想い死んでいくほどに。
今更しょっぱい気持ちが流れ出して、女々しいなと思いながら。これが私の死因なのかな、なんて。
遅すぎた気づきと一緒に、意識を手放した。