この作品の作者は
Fireflyerさんでした!
予想結果: Fireflyer×2, Ruka_Naruse, Dr_Knotty, watazakana, NorthPole
夢を見ている。草原で、到底場に似合わない格好をした貴女と2人、空に神秘を描く夢。
夢を見ている。手の届かない未来で、ビルの屋上、君と手を繋ぐ夢。
◇◇◇
「珍しいね、日向でうたた寝なんて」
……いつの間に、寝ていたのだろうか。外からは眩しい西陽が木々の隙間から私の膝へと差し込んでいる。椅子に座って寝るのなんて、いつぶりだろうか。
「まだ、眠たいんでしょう?午前中はずっと働き詰めだったろうし、もう少し休んでいたら?」
「い、いえ、そういう訳にも行きません。いざ、任務となった時に私がいつでも動けるようにしておかないと」
時代の逆流に対するセーフハウス。現代と過去の狭間。蜂蜜色のポケットディメンション。災害の最中にこうして一息つける事は、奇跡と呼んで差し支えないだろう。
寝惚けた頭を回していると、暖かい感覚が柔らかく自身の胴体へと掛かる。毛布だった。
「これから寒くなるんだから、暖かくして。風邪なんて引いてしまったら元も子も無いでしょう?」
「あ、ありがとうございます……タイムキーパー……」
陶器の高い音と、珈琲を啜る音を横に聴きながら、目を閉じる。貴女の手は、近づく冬を感じるように冷たい。
◇◇◇
夢を見る。元通りになった世界で、山の中、蛙を捕まえる夢。
夢を見る。逆流しない雨の中、傘を差さずに街を駆け回る夢。
以前の私は、自身が外で燥ぐ姿を想像出来ただろうか?直感に突き動かされる瞬間が最も幸福である事を理解出来たであろうか?
何も終わっていない。夢は夢のまま。災害は過去へと加速する。でも、貴女のように未来を想う事が未来を取り戻す唯一の手段なのかもしれない。そう思った。
この作品の作者は meshiochislash does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: meshiochislash×6, Rivi-era
窓から流れるまばらな蝉の声が、遠い昔からやってきているような気がした。
対ぞ外に出ることのないまま、8月は終わり、冷房の温度も下がっていく。この夏に手に入れたのは新しいパソコンくらいのもので、失ったものは古いパソコンくらい。外に出なければ何も起きることはないのだと、再認識して安堵する。
「ご主人? 窓の外なんて見てどうしたんですか、珍しい」
パソコンから声がする。最近はこの変なウイルスだけが話し相手だ。それを嫌がる自分もいる。……嫌がっていない自分も。
「……なんでもねえよ」
少し、夕日を見ていただけだ。けれどすぐにカーテンを閉めたくなって、そうする。
「この夏も、結局ご主人は一歩も外に出ませんでしたねー」
「勝手だろ」
「あーあ、海とか行きたかったのになー。ご主人は私の水着とか見たくないんですか?」
「お前は着替える必要ないし、俺が水着なんて持ってるわけないだろ! ……持ってても行かないからな!」
スクリーン上に映し出された通販サイトに、慌てて言葉を付け足す。
「ですよね〜」
残念そうに閉じられたウィンドウ。無意味なやりとりだ。海になんて行きたくない。行けるわけがない。
行くことが、許されているような人間でもない。
そこで目が覚める。海沿いを走る列車で、俺はどうやら短い夢を見ていたようだった。
「悪い、ちょっと寝てた」
「体力ないもんね、シンタローは」
「うるせえ」
もうマフラーのない顎下を小突く。まだ潮の香りがする頭を掻いて、ふ、と。スマートフォンを開く。くだらないメッセージに、下手くそな自撮りを返してやる。
夏は幻のように過ぎ去っていくから、残しておこうと思った。
それがどんな無様なものでも。
この作品の作者は
Something_funya2さんでした!
予想結果: Something_funya2×2, CRC-601, konumatakaki×2, Dr_Knotty, NorthPole
亡国の王女が野原を行く。野原とは整備されていない土地であり、地力を十分に吸い上げて太く育った雑草が生い茂るその地は、王女の柔肌を傷付けるには充分であった。
無論、王女は亡国の支配者層である。北方の防衛線が破られ、蛮族が流入し続けるその土地において、王女は逃げ出すべきではなかった。支配者階級が私兵を擁するのは、搾取ではなく防衛のためなのだから。
王女にとって全てが敵だ。農夫も、兵も、蛮族も。ならば育ちが透ける衣服は脱ぎ捨てたほうが良く、王女は全裸になって野原を駆けていた。
向かう先は、より安全な南方ではない。勿論南方に辿り着ければ安全なのだが、王女にはそこまで辿りつく手段がなかった。
ただ、父王が残した図表の示す地に向かって駆けていたのだ。そこに救いがあると信じて。そう、父王はその図表の地に何があるのかを王女には伝えていなかった。
だからこそ、王女がそこに辿り着いて起きたことは必然であった。
その場にいたのは、契約に繋がれた一匹の魔である。魔獣とも魔物とも呼べぬ、形を持たぬもの。ただ魔と呼ぶべきものがそこに滞っていた。
これなるは、旧時代において皇帝の命に応じて王が契約を結んだ魔である。その正体は誰も知らず、ただ権能のみが王から王へ口伝されていた。
捧げ物に相応しい応報をもたらすのだと。
王女は、大切に育てられてきた。他家と婚姻を結ぶためではなく、ただ宝物のように蝶よ花よと育てられてきたのである。その身はしなやかで美しく、肌はきめ細やかで錦糸のよう。
魔にとっては垂涎の捧げ物であった。ひとしきり王女を玩弄した魔は、契約に従うべく防衛線で指揮を執り続ける父王の元へと向かった。
捧げ物の肉を、身に纏って。
この作品の作者は
roneatosuさんでした!
予想結果: roneatosu×3, konumatakaki, Ruka_Naruse, Dr_Knotty, Rivi-era
舞台場面が変わる。ライトは寂れた酒場の詩人と悪魔を月光のように照らす。
「私と君の旅もこれで終わりか……。命ある者の定め、というやつだね」
「最後まで狂ってんな。一回ぐらいはお前から恐怖の声を聞けると期待してたんだがな」
「ははっ、君こそ連れを看取る時に、涙の一粒程度流してくれてもいいじゃないか」
物語はもうじき終わりを迎える。終焉に向けて演劇は続く、滞りなく。
「これも運命か。幸い、気の利いたラストワードなら、選ぶのに困るぐらい浮かんでくる。詩人としての生涯は無駄ではなかったわけだ」
「何とでも言え。墓石に刻んどいてやる。せいぜい、恥ずかしくない言葉を選べ」
「手厳しいね。だが、もう言うことは決まってるんだ」
終幕は必ず訪れる。脚本に支配された領土の掟として。永遠など幻、そんなものは存在しない。だが──
「運命なんて気に入らない。アンタもそうだろ?」
「なっ、は?」
舞台に入る不可視のひび。白昼堂々の脚本への謀反。されども、詩人は反逆者の演説の如く語り続ける。
「驚くなよ。死が二人を分かちました、だなんて嫌だろ? 実に綺麗で気に入らない」
「……何言ってんだ? お前は本当に──」
愛していた、ではなく嘲笑交じりの運命への酷評。こんな言葉の結果など一つ。
「本当に狂ってる! 笑っちまうくらいに!」
「そうこなくちゃ! 私たちで変えちまおう、終わりもこれからも!」
鋭い笑顔が二つ向く。意志を見せつけて。
「この辺りが頃合いかな。機械仕掛けの神ってのは趣味じゃないが、続きの出来に失望はさせないよ」
幕が下りる。新たな道となった舞台と二人を残し。
この作品の作者は
Kuronohanahanaさんでした!
予想結果: Kuronohanahana×6, CRC-601
彼のことを、まさに太陽のような人だと言うのだと思った。
元気溌剌、辺りを照らす夏の太陽。心まで焼け焦がしてしまうほど眩しく、熱い人。
かと思えば、優しく包み込んでくれる穏やかな秋の夕焼け。どこか人間離れしたような、けれど人に寄り添う、柔らかなぬくもりのある人。
夜になって太陽が沈めば、まるで人が変わったかのように、大好きなホラー映画やらホラーゲームやらに熱中して、夜中に大騒ぎする人。
彼は太陽のような人だ。
けれど、どうやら太陽は自らの光を見ることは難しいらしく。彼は、彼がこれまで歩んできた人生で自分がどれ程の人の支えとなってきたのか、気が付いていないらしい。寧ろ、自分に対しては厳しいばかりで。
だから、かつて歌に自信がないと語った彼がステージに立つと決まった時。私はその告知を見て、周りに人が居たのにも関わらず、思わず大声を出してしまった。スマホを握り締めて、すぐさまTwitterに歓喜の声をツイートしたのだった。
2023年12月23日。
彼は、大勢の前で、ステージに立った。昔に比べて本当に上手くなった歌声で、楽しそうに、嬉しそうに、歌っていた。長くて持て余す手足をめいっぱい使って、踊っていた。誰よりも眩しい、その太陽のような笑顔を振り撒いていた。
幻を見ているのだと思った。夢を見ているのだと思った。けれど、幻にしてはやけに視界が揺らぐし、鼻の奥は痛いし、目頭も熱くて、どうやら現実らしかった。太陽を直に見てしまったせいなのかもしれない。
本当に、素敵な時間をありがとう。
この作品の作者は
BARIGANEsenshaさんでした!
予想結果: Something_funya2, roneatosu, BARIGANEsensha×2, mitsuki1729×2, watazakana
「2ダウン。呆気ないものだ、最上。次で終わりだ」
「……終わらねぇよ」シュッ
「何だと?ぐォッ!?」ドサッ
「俺は一人じゃねえ」
「あれは……和志の後ろに……ファイター達の姿が、見える!?」
「山崎、齋藤、そして……父ちゃん!それだけじゃねぇ!今まで俺と戦ってきた全てのファイターが、俺の背中を押してくれてんだ!俺は負けねえ!」
作中でも屈指の人気を誇る激アツの名シーンに友人は一言。
「無いわ。さすがにやり過ぎ」
「いやそこはさ、漫画的な表現って事で看過出来んか?」
「あそこまでされるとなんか冷める。なんで敵だけじゃなくて仲間まで幻覚見てんだよ」
「第1話からして右ストレートで空気砲ぶっ放してゴロツキボコす漫画なのに?」
「それを言われると確かになぁ。でも、なぜか幻覚は何となく許せない」
リアリティラインは結局、人による。恐らく友人を説得することに何も意味など無いのだろうが、それでも説き伏せたくなるのはオタクの性か。
「やっぱりオーラ的なことなんじゃないの?
ほら、この間のライブでもあずっちのソロとかヤバかったじゃん」
「確かに圧巻だった」
論破感によって少しの笑みが出た刹那、続け様に友人がまくし立てる。
「あー、でも幻覚云々で言えば俺はやっぱあのシーンだね。MCであずっちとももりーぬがハグしてたシーン。いや、ただのハグじゃないな。あれは、確実に抱きあってたね。百合の花畑が見えた。前々から噂はあるけど、あの2人はやっぱり付き合ってる」
「それは幻覚じゃなくてお前の妄想だろ」という正論が口を突きそうになったが、説き伏せられたという達成感がそれを飲み込ませた。まあ、「説き伏せられた」のもまた幻覚なのだが。
この作品の作者は
mitsuki1729さんでした!
予想結果: mitsuki1729×4, Rivi-era, Nanasi1074×2
「へぇ、あんたの親父が認知症かい。そりゃ大変だね」
「それがよ、医者が言うにはどこもおかしいところねぇんだってさ。物忘れとかもないって」
「え、じゃあお前なんで認知症って分かるんだよ」
「最近な、毎晩親父が徘徊してんだよ。だから認知症だろうって」
「でもどこもおかしいところはねぇってんだろ?」
「一応薬は出しとくって言われたんだが、確かにそれ以降親父の徘徊がなくなったんだよ」
「へぇ、そりゃまたどうして」
「いやぁ、分からねぇ」
……
「薬出されてたのは俺だったんだってよ」
「は、何の話?」
「認知症の親父の話」
「何でお前に?」
「徘徊してる親父は俺の幻覚だったらしい」
「はぁ、よく分からんな」
「要は俺が親父が徘徊してる幻見てたってわけだ、そりゃ親父に悪いところがあるわけねぇ」
「なんだそりゃ」
この作品の作者は
CRC-601さんでした!
予想結果: Something_funya2, BARIGANEsensha×2, mitsuki1729, CRC-601×2, tateito
「ワンピースの正体が温泉だっていう風説についてどう思う?」
「クソ食らえって思う」
冬の癖してやたら蒸し暑いカードショップの隅の隅で俺たちはワンピの箱を開けている。野郎共の体臭をかき消そうと奮闘する芳香剤が全ての客の鼻に全体火力をぶつけていた。
「でもただの財宝っていうのも気に入らない。ルフィが最後の最後にそれで喜べると思えないからな」
「じゃあお前ワンピースって何だったら嬉しいよ?」
「俺?ワンピース見つからずに終わってほしいと思ってるよ」
「マジでつまんね~~一番つまんねえお前」
物理的に価値のある物の方がいいに決まってる。あの世界で絶対の価値を持つ物、この世の全て。目標の物を見つけた達成感。幻の秘宝ってのはそれに見合うものじゃなきゃいけない。
「俺は過程が大事なの。麦わら海賊団はいくつもの冒険をしてきたろ?その時間を大事にさえできれば宝物はいいんだよ」
「学校の先生みてえなこと言ってんなよ。おっエース出た」
「はァ⁉乗るなエース‼」
机を乗り越えてくるこいつを制止しながら、俺は念願のコミパラをスリーブに入れる。目的を果たした俺たちは店を出た。アキバは8時。季節相応の寒さは汗を凍りつかせるようで、二人して子犬みたいに身震いした。
スカイツリーが赤く夜空に浮かぶ。スカイツリーと客引きのコンカフェ嬢だけじゃなく、道行く連中に交じる赤色の帽子もチラホラ。そいつらは例外なく頬まで色づいている。
「クリスマスかよ。浮かれてんな」
「俺今年もバイトだわ。寂しいよほんと」
「俺は平気だけどな。じゃ、チャリだから」
「はァ?寂しいっつってんだけど?飯行くべ飯」
「何でクリスマスお前となんだよ。寂しさ満たされねえよ」
この作品の作者は
konumatakakiさんでした!
予想結果: Something_funya2, roneatosu, CRC-601, konumatakaki, Dr_Knotty, watazakana, Nanasi1074
雨が降っている。こんな日にこの建物の前を通ると、あの時のピアノの音を思い出す。
昔の話だ。僕が小学生だったころ。まだ綺麗なランドセルを持っていたころ。
もう詳しいことは覚えていない。季節すらおぼろげだ。ただ、そのメロディーだけは覚えている。
暗い中傘もなく、悲しくなりながら、びちゃびちゃになった靴を水たまりに突っ込んでいた。
音が聞こえた。その時はまだ、それがピアノの音だとはわからなかったのかもしれない。でも、その響きが特別なものだということは理解できた。
あの時の感情はもうわからない。でも、どこか火がついたような、それでいて落ち着くことができたような、そんな感覚だけが消えない。
それはこういう日にふっと心のなかに浮かんできて、それをつかもうとすると消えてしまう。
ふと気がつくが、思い出すのも珍しくなってきたのだな。前にこのことを意識したのはいつだっただろう。
そう考えて傘を閉じる。湿った髪はタオルで拭いて、僕は合鍵で扉を開けて部屋に入る。
長靴はいつもの慣れた靴に履き替えて。かじかまないようにつけてきた手袋を脱いで制服のポケットに突っ込み、ドアノブに緊張しながら手をかける。
「……遅いですね」
同い年のはずなのに妙に老成したような、不貞腐れたような目が二つの突上棒越しに僕を刺す。
「すまない先生」
「いいですけどね。準備はできてますか?」
深呼吸を一つ。濡れていないことを確認して、僕の分の楽譜を取り出す。
「大丈夫」
「慣らしは?」
「……要らない」
「なら行きましょうか」
四本の手は、きちんと同じタイミングであの懐かしい、そしてもう嫌というほどやっているメロディーを撫でた。
この作品の作者は
Ruka_Naruseさんでした!
予想結果: meshiochislash, Ruka_Naruse×5, Rivi-era
女々しい初恋が、はす向かいに座っていた。
気付いたら声を掛けていた。真っ先に薬指を検めた自分が我ながら気持ち悪くて仕方ない。
俺を憶えていた彼女は、俺が憶えている素朴な笑顔をそのままに大人になっていた。その笑みを拝めただけでも、同窓会に来てよかったと思えた。
それなのに、欲張ってしまった。
「俺さ、夏希のこと好きだったんだよね」
酒に任せて言ってしまった。濁流が如く語ってしまった。教室に入ってきた蜂に怯えた彼女が、隣の席の俺を盾にしたとき恋慕を抱いたこと。彼女目当てで水泳部に入部したこと。席替えで不正を働いていたこと。女子同士の会話で下世話な話についていけてないのを見て更に好きになったこと……それはそれは、とめどなく話した。
本人に向けて、他人が居る場で話すべき内容じゃなかったと、今なら当然解る。だが、その時は、≪今言わなければ一生言えない≫と、そんな焦燥に支配されていた。
「その話、もっと聞きたいかな。場所、変えようよ」
だから、そんな彼女の誘いにも、おいそれと乗ってしまったのだ。
ぐわんと響くような頭痛を抱える今となっては、≪思い出は思い出だから美しい≫なんて使い古された言葉が金言に聞こえてくる。
飲み比べの勝負に持ち込んだのは憶えている。いや、持ち掛けてきたのは向こうだったか。記憶は極めて混濁としている。だが、少なくとも──≪素朴で純粋な彼女≫は、元より俺の幻想に過ぎなかったのだろう。サイドテーブルに残されたサファイヤ・ブルーの空き瓶が、それを物語っていた。俺が買った赤封蠟のボトルには、瓶の半ばに水面がある。
チェイサーの口紅に香るジュニパーを飲み下す朝、独りのベッド。
ひとつ、くしゃみが出た。
この作品の作者は
tateitoさんでした!
予想結果: Fireflyer, Something_funya2, roneatosu, konumatakaki, tateito, NorthPole×2
火星植民事業は未だ黎明期、宇宙飛行士達は後に来る移民の生活の基盤となる極地方基地の建設、の各種実証実験を現地で行っていた。火星用重機の試用や火星鉱物の効率的利用法の確立、そういった事を手探りで行っていた。
一度に火星に滞在する人数は多い時で20人程度。狭い宇宙船を寝床にして船外活動では窮屈な宇宙服。選び抜かれた宇宙飛行士達ですら極限のストレスに苛まれ続け精神がまいってしまう事があった。
そんな彼らの中で一つ、おかしな話が口にされるようになった。
「火星人がいた!」
火星人、余りにもナンセンス。非科学的にもほどがある。それも外見は地球人とほぼ変わらず、宇宙服も着ずに火星を歩き、こちらに気が付くと微笑み、手を振って姿を消す、とか。
理屈付けるならば集団幻覚と考える他ない。それを見たという者は噂に影響されて自分の記憶を書き換えた。そんなところだろう。
火星人を見た宇宙飛行士は全員地球に送り返された。おかげで作業は更に遅々として進まず、苛立ちは増す一方だ。俺も早く火星人を見て地球に帰りたい、そんな事ばかり思う日々。
そして遂にその時は来た。探査車を一人運転し宇宙船から離れた場所の調査を行っていた時、岩の上に座り佇む金髪の女を目にしてしまった。ついに俺もイカれたか。
ならばイカれついでだ。幸いこちらには気が付いていない。探査車を止め、背後から近づき、羽交い締めにした。実体があるように感じた。暴れている。締め落とす。
俺の脳はもう駄目なのか。それとも本当に地球外知的生命体の捕獲に成功したのか。探査車に乗せ帰路に就く。
谷を越え、丘を越え、戻った先には宇宙船や建設資材、宇宙飛行士達が幻のように消えていた。
この作品の作者は
Dr_Knottyさんでした!
予想結果: BARIGANEsensha, CRC-601, tateito, Dr_Knotty, Nanasi1074×3
机に頭をぶつけたら、娘の声が僕を呼んだ。
その声を聴きたくて、さらに強く頭を打つ。灼ける様な痛みと一緒に幼い娘のイメージがくっきりと像を結ぶ。昼下がりに一緒に飲んだオレンジジュースの名残が口の中に戻ってきて、暖かくて懐かしい部屋の匂いを感じる。娘が呼ぶ声に答えたくてもう一打ち。声が少し近づいた。
──パパ、えほんよんで。「マッチうりのしょうじょ」!
そうだった。娘はいつだってこれを読ませたがる。読み終わると何度ももう一回とせがむ。そうして、いつも同じ事を尋ねるんだ。その声を、膝の上に座る小さなあたたかさを感じたくて、床に吐いたものを舐める。
──パパ。なんで、この子はホントはないってわかってるのにもやしつづけたの?
僕はいつも何と答えていたんだっけ。あの時もっとよく考えていたら、こんな事にならなくてよかったんだろうか。
何でって、それはね。娘に答えようとした瞬間には、昔のイメージはもう消えていた。瞬きをすれば目に飛び込んでくるのは無機質な防音室の床。さっき頭を打ち付けた机にこびりついた自分の血。血以外にも飛び散ってるのは自分のどこの破片なのだろう。見つめたら少しだけ気分がよくなったから、きっとろくでもない部分なんだろうな。
あの家に帰りたい。娘が待っているあの部屋をもう一度。ふらつく頭を持ち上げる。娘が待っている。もう、これしか、僕には。そうだ。あのね。もうそれしか残ってない、という事もあるんだよ。
ざりっと擦れて、熱い赤。
──パパ、おかえり!
ただいま! パパだよ!
娘が僕を抱きしめる。やさしい眼差しが僕を包んでいる。
最後に見るにしてはなんと幸せな夢だろう。
マッチの首が折れる音。
この作品の作者は
Rivi-eraさんでした!
予想結果: roneatosu, Dr_Knotty, Rivi-era×3, watazakana, NorthPole
ビル街に落ちる空気は酷く、重い。排煙と人の苦しみで為される窓灯と、誰かの溜息とが一斉に降下する。摩擦と配管で焼かれたアスファルトは拒むことを知らず。
人の波はその下に澱む闇を稚拙に隠し、満ちては闇を生み引いては闇を降ろす。そして、それは目を覚ます。
魚影は寝静まる事のないスクランブル交差点の中央より浮上し海へ向かう。
クラクションと目の前のブレーキランプ、手元の携帯電話と明日への絶望に執心な彼らは下を悠と抜ける影を知らず。足元が暗くなり、空を見上げ、首を捻る。そこで気分が少し晴れていることに気がつくだろう。それが大口を開けて飲み込んで行ったことなど梅雨知らず。
家出をしてきた童一人が何かを見つけ、肩をぶつけ、足を踏み、人混みに嫌悪感を残しながら駆けてゆく。さあ、海は目の前にある。
そして魚影は海へと至る。影は更に深い闇へと潜り、童はその色が怖くなる。
水が音を飲み、砂のみが応える。静謐に鯨の声がする。
重く、低く響くそれは、海を渡り、都市を揺らし、やがて山の頂まで届く。
刹那、海面が競り上がり、一匹の鯨の腹が見える。ビルよりも高く、美くしく立ち上がったそれは、紺碧の瞳で唯一の観客を一瞥し、笑い、倒れ込んだ。
あらゆる闇を飲み込んだ重みは海を叩き、山をも呑む大波を起こす。全ては、闇に内包される。
全ては一夜にして起きた話。誰も信じることのない、都が消えた昔話。幻の海底の都の御伽話。
この作品の作者は
watazakanaさんでした!
予想結果: Something_funya2, BARIGANEsensha, Dr_Knotty, watazakana×3, EianSakashiba
夜。ぽっと家に火が付いた。真っ暗闇なスラムの中で灯るそれは、ケーキに灯る蝋燭に少しばかり似ていた。
しかし、呑気に祝福の歌を歌う余裕などありはしない。冬の関東平野の空気は乾いている。たかが一軒、家一軒の小火から始まったとしても……否、小火から始まったからこそ、からっ風はそこにつけ入り、火を大きくする。
一軒、一軒、また一軒。ボロボロのあばら家が炎に飲まれていく。燃えていく。人々は家から飛び出し、井戸から水を汲んで火消しに走った。何故そうなったのか?疑問は皆抱いた。しかし、誰も考えなかった。火元の家主は焼け死んだからだ。
どうせうっかりだ。しかし、うっかりであわや大災害、というのは珍しくない。
この火事は数日で鎮火した。最初は数週間かかると思われていたが、関東大震災により学習した帝都下町の住人は、道を延焼遮断帯として街区を囲み、燃える範囲を限定していた。その弊害として、この火事の顛末や真相にまつわる噂も、その街区から出ることはなかった。唯一、「火の手の中で聞こえる敦盛」という噂のみが知られていた。
───さて、火事からしばらくして、新たな噂が流れ始めた。「敦盛」を歌った男が現れたらしい。その男は幻のようで、姿を現したかと思えば影も形もなくなっている、ということもままある。
我々はそれを……幻の敦盛を追う。帝都郊外で捜索活動だ。おい!嫌な顔するな!ほら、仕事なんだから駄々こねるな!行くぞ!!
この作品の作者は
Nanasi1074さんでした!
予想結果: Fireflyer×3, Kuronohanahana, CRC-601, Nanasi1074, NorthPole
「お前ってイマジナリーフレンドだよな」
六畳一間の一室。俺は目の前の友人に問いかける。
『急にそんなこと聞いて、何?』
心底怠そうな声。ふあと欠伸をした友人は、こちらに目を向けて応える。
「いやさ、そろそろお前の正体を知りたいなって」
友人は子供の頃から大学生になった今までずっと隣にいた。
俺と友人が一緒にいる時、母親はそこに1人しかいないように振る舞っていた。そこで友人は俺だけにしか見えない存在なのだと察した。
『……ま、その通りだよ。俺はお前の空想だ』
「聞いてなんだけど、自覚あるんだ」
『そりゃあね。証明することだってできるよ。例えば、そうだなぁ。俺の胸を触ってみなよ』
「……こう?」
友人の身体は仄かに温かく、心臓がトクトクと脈を打っている。
『そしたら目を閉じて、俺がここにいないと考えて』
言われた通り、友人を思考から消す。段々と温かさも、脈も感じなくなる。綺麗さっぱりと、痕跡が消えていく。
「……ッ!」
まずいと思って目を開けたとき、もう友人はいなかった。がらんとした空間。辺りを見回しても、見つからない。何もない。真っ暗だ。
暫く呆然として、俺は孤独なのだと理解する。沸々と恐怖が顔を覗かせる。すると、聞き馴染んだ声が聞こえた。
『ほら、そう慌てるなよ』
声の方向を向いて、勢いよく抱きしめる。その感触は確かに存在していた。友人は実在しない。それでもこの温かさは真実だ。独りは怖い、とても怖いよ。
『本当に、可愛いなぁ』
困臥した友人の頭を撫でる。室温とまったく同じ体温、空を切る感触。やがて、友人が消える。これで何回目だろう。いつまで実在を気取ってるつもりなのか。
『所詮は俺の空想のくせにね』
この作品の作者は
EianSakashibaさんでした!
予想結果: Fireflyer, EianSakashiba×6
ピンと張ったダダリオを手汗と共に握り直しながらステージに立つ。見上げている魑魅魍魎どもは、私の音楽を聴きに来ているという事実を突きつけてくる。
緊張と高揚と、僅かな虚しさを濁り気味のEメジャーに乗せる。ベースとドラムの音色が、本番の舞台でも未だスランプを引きずる私のギターを支えるように飛び出していく。2人とも世界からこの街に放り捨てられた私を拾ってくれた恩人で、自分達が世界1だと感じたギタボを羽ばたかせてやりたい一心でこのライブに出てくれた。なら私は?恩人に報いるため?私自身のため?まだ見つけられない、ギターを聞かせたい誰かのため?曇ったバッキングの音は自問自答の出口をさらに塞ぎ、そんな私を叱咤するようにリードギターのソロパートが夜の熱気を切り裂いた。前を見ろ。そう叫ぶリズムに頬を張り倒され、客席に顔を向ける。
お姉ちゃんの、幻がいた。人混みを避けるように最後尾。ピンクの髪で、青い顔をしていて、愛想笑いの意味も知らないで、笑うしかないといった困り眉をして、
ふたり頑張れ、ふたり頑張れ。と、2回聞こえた。
これは幻だ。お姉ちゃんがここに来れるはずがない、わかっていても、ああ。
幻よ、欺いておくれ。私がこの街で1歩踏み出す為に、背中を押してくれ。
気付けば演奏は終わっていた。周囲の反応を見るに大成功らしい。観客の中にもう、あの日の私に音の色を教えてくれた師匠の幻はいなくて。
「アンコール!アンコール!」
そう言えばこれも教わったな。「どんなに人前が嫌でもアンコールの声は裏切れない」だっけ?大丈夫、2歩目は自分達で踏み出せる気がするから。消えたアウターオーサカの幻に、紫と桃色の音で答えた。
この作品の作者は
NorthPole さんでした!
予想結果: BARIGANEsensha, konumatakaki, tateito×4, NorthPole
「もしかしてこれは幻覚なのでは?ボブは訝しんだ」
「『ボブ』エルフの剣士は光った」
「エルフのせんし」
「はい。『ボブ』エルフのせんしは光った」
長谷川はそこで言葉に詰まった。次の言葉はエルフのせんしの台詞。だが内容が思い出せない。
困って台本に目を落としたところで中川のため息が聞こえた。
「長谷川くん。顔を上げるのは確かに大事よ。声を届けるという意味でも、自信を感じさせるという意味でもやるべき事。でもね、そのせいで台詞を間違えたり言葉が澱んだりするのは本末転倒。そうなるくらいなら台本に齧り付いて話す方がずっと良いわ」
「はい」
「アッハイ」
「……アッハイ。『ボブ』エルフのせんしは光った。『そんなことはない。いいね?』」
「アッハイ。これは幻覚ではありません」
今のは返事だったんだけどな。長谷川はそう思いながら朗読に戻った。『幻とボブとエルフのせんし』はボブシリーズでも最長で、台本はまだ数十ページも先があった。長谷川は目の前に座るメガネワンレングスお淑やか美少女先輩の中川とペアを組み、夏の高文連に向けて23ヶ月間この台本で練習している。
だが何かおかしい。長谷川は気付く。ここは男子校のはずだ。
「先輩。先輩は美少女ですか?」
「……?そうだけど」
中川は実際美少女だった。やはりおかしい。普段の中川なら朗読を止めた事を真っ先に咎めてくるはずだ。もしかしてこれは幻覚なのでは?長谷川は訝しんだ。
「長谷川くん」
中川は光った。
「そんなことはない。いいね?」
「アッハイ。これは幻覚ではありません」
そう言って台本に目を落とす長谷川を見て中川は満足げに微笑んだ。