第14シャッフル、
テーマは
【星の光】
| テーマ発表(予定) | 8月11日(金) 21時 |
|---|---|
| 投稿期間(予定) | 8月11日(金) 21時 ~ 8月14日(月) 22時 |
| 予想期間(予定) | 8月15日(火) 8時 ~ 8月18日(金) 8時 |
| 結果発表(予定) | 8月18日(金) 21時 |
【参加方法】
以下のGoogleフォームに必要事項および下記レギュレーションに沿った作品を入力して送信してください。
【レギュレーション】
示したテーマの要素を含み、300文字以上700文字以内(空白・改行含まず)、参加者自身の手による未公開小説作品であること。R18作品は禁止。
※ レギュレーション違反の作品は公開されないか、公開後に気づいた場合は非公開になります。事前連絡は基本できません。暴れるときは空気を読んで自分の責任で!
※ 企画の主旨に反する、何らかの社会性が無いと表現ないし判断できるようなものはレギュレーションを満たしていないと判断します。
※ 文字装飾はWikidot構文で可能です。jstyles導入環境なので、ルビ等は適宜使ってください。ただし、良識の範囲内でお願いします。
Q and A
Q.文体シャッフルって?
A.みんなで匿名で文書いて、それを誰が書いたか当てる企画です!だから何書いたかと誰が書いたと思うとか言うなよ!
Q.過去作は?
A.下記リンクから文体シャッフルハブに飛べます!
Q.構文は?
A.by ukwhatn。偉大なる御大に感謝。
主催 - Nanigashi Sato
原案者 - meshiochislash does not match any existing user name
計47作品が集まりました。ご参加ありがとうございます!
A グループ
2MeterScale
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著者ページ
Dr_Kasugai does not match any existing user name
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著者ページ
eagle-yuki
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著者ページ
Kuronohanahana
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著者ページ
momiji_CoC
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著者ページ
SCPopepape
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著者ページ
Touyou Funky
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著作
watazakana
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著者ページ
ざり、とブーツが砂丘のてっぺんを踏みしめる。夜の砂漠は馬鹿みたいに凍えていた。暑くはないけれど、喉は渇く。水をちびちび舐めながら、ぼくは目の前を歩く男についていく。ついていくだけだ。それ以外はできない。風が吹く。砂がぼくの顔に当たる。空に月はない。星だけだ。ぼくは足を動かす。精一杯に。じゃないと、砂に攫われてしまいそうだった。
「いいか、坊主。星がおれたちを導くんだ」
「なら、なにが星を導くんでしょうか」
目の前の男が足を止める。彼は振り返った。フードが風に煽られて、彼の顔は見えない。しかし、星あかりの下でもかろうじて前髪の一房が垂れ下がって目を隠しているのは見えた。彼のトレードマークだ。
「おまえ、神を信じるか」
「いいえ」
「だろうな。おれもだ」
男は前を向き、歩き始める。一歩一歩、力強く。男のなにもかもがぼくと違った。体格、声、目つき、そして報復心。きっと、彼の中では星が輝いているのだろうと、ぼくは思った。
「どうすればいいかなんて、悩むな。そいつはおれたちの魂が知っている」
「魂、ですか」
「信じるか」
歩きながら、ぼくは考える。信じるもなにも、ぼくは魂が身に宿る瞬間を知っている。
「まあ、どっちでもいい。大事なのは、魂と星が同じってことだ。いちど爆ぜた者の欠片を集めて火をつけたって何にもならん」
「はい」
星あかりは、思ったよりも明るい。無限にも思える砂漠の、はるか彼方まで見えるくらいには。でも、目の前の男だけは夜の闇に溶けていきそうだった。
「坊主、惑わされるなよ」
「それ、見たんだ」
陽が傾き、一面橙色に染まった美術室。ルミは私が手に持つスケッチブックを指差し、そう言った。
ここに来るまで、私はずっと一番だった。部屋に飾られたいくつもの賞状。それは幼い私を世界が認めてくれた証拠。私はこの証が永遠だと思っていた。なのに。
ルミの絵は私と違った。私の目に見えているものと違う。草木が青くて、空が澄んでいて。匂いも音もあって。そこに世界があった。何度も絵の秘密を聞いたが、彼女は微笑むだけだった。他の人もきっと知らない。いつ見ても彼女は一人だったから。ならばと側に居続けた。何かを掴めると信じて。
でも、もし目の前に答えがあったら。だから、珍しい忘れ物を届ける前に、秘密がないか少しだけ。だったのに。心臓の音がうるさい。陽が彼女に遮られ、私に陰が落ちる。揺れる長髪から仄かに金木犀の香りがした。
「それ、どう思った?」
「……本当に貴女の絵?」
「本当だよ」
ルミは私からそっとスケッチブックを取り、ページをパラパラとめくる。そのどれもが同じ状態だった。
「だって全部真っ黒だから」
めくる手が止まる。それも一面黒鉛で塗りつぶされていた。
「これは私」
ぽつりと呟く。
「どんなに世界の色がわかっても変わらない。黒のまま」
少し震えた声。彼女の感情、動揺を初めて見た。
「でもね」
めくる、めくる。新たに開かれた黒い紙の中心には白い点があった。
「今は貴女がいる。私の輪郭に触れてくれる貴女が」
やっと言えた。ルミは安堵したようだった。そこでようやく、私は彼女のことを何も知らなかったことに気づいた。
貴女の目に私の色が映るには。私が貴女の景色を知るには。私はルミの陰から抜け、同じ橙に染まった。
「悪い星の下に生まれちゃったんだよ」
洋楽の題を直訳したような言い訳をする。そんな風に済ませていいのか。お前が全ての元凶なのに、あたかも見えない力に操られたみたいに言って。死んでいった皆が納得すると思うのか。
嫌でも思い出す。磔にされた優人、錐で腹を抉られた美也子、沼で溺れ死んだ葵。一連の凶行に及んだ理由が星座の巡り合わせが悪かったから?そんなの認められるわけがない。
「理由を求めすぎなんだよ君は。例えば君は階段を昇るために両足のどちらかを踏み出した時、どうしてその足を最初に出したかいちいち考えたりする?ぼくが皆を殺した理由なんてそんなもんだよ」
善悪以前に気取り過ぎだと思う。歴史上の猟奇殺人者共と張り合っているつもりだろうか。理由を聞いた俺が馬鹿だったのかもしれない。なおも無駄口を叩こうとする奴の口と震える喉元を手で思いきり圧迫した。
やがて動かなくなった彼の身体を見下ろしながら他ならぬ俺自身が為したことに気付いた次の瞬間、俺は駆け出していた。足をもつれさせながら人気の絶えた山荘を出る。半径1km以内で生きている人間は俺だけだろう。逃げよう。いや、逃げたところで何になる?皆殺しの山荘から抜け出して来た生者に対して下される評価は目に見えている。しかし最早元素の寄せ集めに成り果てた友人達の所に戻る勇気も持ち合わせていない。俺はどうしたらいい?
あれからどのくらいの時間が流れただろうか?為す術もなく立ち尽くしていた俺はふと天を振り仰いだ。この山奥だから光源は星の輝きに頼るしかない。満点の星空の中、どれがそうかは検討がつかない。俺は今、彼と同じ星の光を浴びているのだろうか。
冬のコロラド砂漠の夜、凍てつく寒空には月は無く、星々だけが極の玉座の周りを行進する。砂漠というと砂で覆われたそれを思い浮かべるかもしれないが、最も一般的な砂漠は風化が進み岩盤が露出した岩石砂漠だ。人間活動による光害もないこの地の夜闇の中、俺達は殺しあっていた。
風の音だけが大きく響き、死んだ砂漠には岩ばかりある。光源は星の光だけ。そんな中では先に大きく動いて音を出した方が、あるいは迂闊にライフルを撃った方が場所を感知され死に近づく。
無論、今、ゴーグルとして付けている暗視装置がないという前提下での話であるが。サーモグラフィーを無効化するスーツに身を纏っていても、星のほのかな光の反射で十二分に姿がわかる。
問題は相手も同じような装備であることだ。それ故二人とも岩の後ろに隠れ潜んで相手が動くのを待っている。あるいはこのままでは日が昇り、また夜が来て、どちらかが飢え渇き死ぬまでここで待つ羽目になるかもしれない。糧食や水の用意も少しはあるが……
殺し合いの時間は長い。それも何もない時間ばかりの殺し合いなんてものはもう時間感覚が完全に狂う。夜明けまではあと5時間ぐらいか?
音と光に気を付けてはいるものの、命のやり取りだというのに、集中が続かない。星を眺める。冬の星座が美しい。暗視装置が星の光を何百倍にも倍増し、輝く星々のマーチが心を緩ませる。特にオリオン座の印象的な形と言ったら……
突然、暗視装置の視界が白く染まる。悲鳴が聞こえる。暗視装置を捨て、悲鳴が聞こえた方に撃つ。当たった。
「……スタングレネードか?」
「いや……」
オリオン座を見る。ベテルギウスが半月ほどの明るさになっている。
「超新星爆発だ」
大腸街の星々は乳酸菌のメタ・コロニーである。人々は父なる大腸の生き物を体内に取り込むことによって、父に健康を管理されていた。
足山混沌太郎は大腸街のバイオテック便所で糞便をしていた。トイレの壁が蠕動している。そして足山の中にある大腸も蠕動していた。糞便を運ぶことによって、目的を叶えようとしている。
糞のレポートが画面に表示された。クソみたいな、という意味ではない。そもそもクソのという意味の言葉だ。糞便に何が含まれているのか、お前は果たして健康なのかということを詳らかにしていく。
足山の閉塞感は決して大腸の閉塞感に根ざしたものではなかった。糞が詰まっているからというわけではなくて、自分たちが糞なのだ。
足山の住んでいる街は大腸街の一部である。しかし、それは不安定な土台の上に成り立っている。糞の中でも育つことのできるサルスベリの木が根本から折れてしまう。大腸の持ち主がこの街も、糞にしようとしている! 足山の糞はどうなのか、画面を見た。これは悪い。連日の酒が祟っているのだ。
この街もまるで足山の糞みたいだ。酒浸りで悪くして、まるで上手くいかない。とはいえ一縷の希望がないでもなかった。
星の光が空から降ってきて、すなわち大腸の一部が上から降りてきて、足山の街を分解し始めた。そうすることで、大腸の悪玉菌を処理する。
「ガーッハッハッハッ」
足山は糞の中で絶叫した。大腸の神が腹を下しているのだ。同時に、足山の大腸も変調した。二つの大腸がどぼどぼと下痢を漏らしていた。大地には夜空の星のように、ゲロが輝いていた。
午前3時半、ボンデンドン港の澄んだ夜空では光が瞬いていた。優美な箱に詰められた無数のジュエルのように……上空のサファイアが降下し、蒼の流れが刻まれた。
「……星が綺麗ですね。流れ星が軌跡を描いて……」
「流星は星ではないよ。大気圏に突入した宇宙塵や惑星の破片が加熱され燃え尽き、あたかも星のように見えているだけさ」
博識な彼女の指摘に"そうなんですか"と返す。吐息はフリスランドの冷気のせいか、もやで包まれていた。流れは消え、既に極小へと還元されている。
「けれど、君の抱いた感情は間違いじゃない。その心のゆらぎは本物だ」
「あなたもそんなこと言うんですね……少し意外に思ったもので」
彼女は固い表情を浮かべる。しかめるのとは違う……本の親猫が子猫を諭す時に出るような顔。
「少し心外だね。私は誰よりも、精神という可能性の源を愛していると自負しているのだけれど。むしろ君がそんなことを言う方が意外だ。深淵の精神を持つ君がそれを覗こうとする者の内を認識すらしないとは」
視線が私に向く。鏡みたいな、よどみなき瞳。
「……ごめんなさい……私あなたの気持ちに気づけなくて」
「なんだいそれは! 別にそんな……風なつもりで言ったのでは……」
僅かだが長い沈黙。寒気に満ちているはずなのにどこか暑い。唐突に出航5分前を知らす汽笛が鳴った。無言が遮られ、彼女は逃げるように話を転換する。
「出発だね! さあ行こう、虫漁が間近に見れるだなんて幻島広しといえども極めて珍しい! 君はちゃんと記録を残しておいておくれよ」
足早に船へと向かう彼女を追いかける。頭上で再び、塵と宝石がちらついた。
星が落ちてきた。カランという音と共に、空を眺めていた子供の足元に転がった。
子供が星を摘み上げる。星は青白く冷たい光と甘い匂いを放っている。子供は星の色を暫く楽しんだ後、口に放り込んだ。ソーダ味だ。
「おーい、そっちはどう?」
木の向こうから子供がもう1人出てきた。その手には虫網が握られており、様々な色の星が網の中で輝いていた。
「あ!ずるーい!」
「ダメって言われてないからいーじゃん別に」
「でもそれ使ったらたくさん食べれるじゃん!ズルいズルい!」
口の中で星を転がしながら子供は抗議する。虫網の子供はやれやれといった表情で星を持ってきた瓶に移し、虫網を子供に渡した。
「ほら、使っていいからやっておいで」
「ほんと?ありがとう!」
子供はそうお礼を言い、原っぱを駆けて星を捕まえに行った。そんな子供を眺めながら、虫網の子供は黄色く光る星を口に入れた。レモン味だ。
家に帰る時間が近づくと、網いっぱいに星を捕まえた子供が息を切らしながら戻って来た。しかしその途中子供は小石に躓き、その拍子で網の中の星が地面に散らばってしまった。カランコロンと音を立てながら、星々は地面をライトアップしていった。
虫網の子供が駆け寄ると、子供は輝く地面を見つめながら座り込んでいた。目にいっぱいの涙をため、今にも泣きそうになっている。そんな様子を見た虫網の子供は、瓶から白く光る星を2つ取り出し、片方を差し出した。
「これあげるから帰ろ。家で半分分けてあげるから」
「…本当?」
「うん、だからほら」
「…うん!」
子供が星を受け取ると、2人並んで家路についた。道中白い星を2人で舐めたが、どちらも渋い顔をした。ハッカ味だった。
雪が、風が、私の体力を奪っていく。視界はひ真っ白。陽の光がかろうじて届く程度だ。それでも、一歩一歩進んでいく。目を凝らし、見える地形をメモ帳に描き写し、進む。重い荷物を背負って、進む。雪と氷、そしてまばらにある岩の世界を踏みしだいて、ひたすら北へ進む。
未踏領域「無尽の雪原」……雪と氷だけの極寒の地を、私は進んでいる。北の最果てとも呼ばれるこの場所は、本当の果てを人々に教えてくれるほど親切ではなかった。これまで多くの探検家が断腸の思いで最果てを断念した。より多くの探検家が最果ての道半ばで身体を雪に埋めた。最後の未踏領域に、胸を高鳴らせながら。
そう、ここは最後の未踏領域。極寒環境で視界が悪いうえに方位がわからないことが所以だ。ここは方位磁針が役に立たない。強力な磁性を持つ岩が多く、強すぎる磁場に惑わされるから。
方位磁針なしで方角を把握するには、星空を使うことが有効とされている。北には北極星があるからだ。確かに星明かりは頼りになる。だが、常に吹雪く此処においてはそれが通じない。
では、どうするのか。「この地点にはこれがあった」、これを北極星の代わりとする。これまで無数の探検家が遺した風景のスケッチを全て頭に叩き込んで、地図を作り、その外へ。探検とは、その繰り返しでできている。この雪原がどこまで続いているかは誰も知らない。おそらく私が一生かけてもこの雪原は踏破できないだろう。
でも、進む。
私が描いた風景は、私が人類で初めて至った場所の風景であり、次の探検家の北極星だ。10mでも、20mでも、地図の外を内にする。「初めて至った」が続いていけば、人は必ず最果てに至れる。
その営みに胸が高鳴ったからこそ、私は歩き続ける。北へ、北へ進み続けるのだ。
どうにも今年の夏は暑い。でも人の家で半裸でいるわけにもいかない。普段着るものよりも大きいTシャツに腕を通し、ウエストにかなりの余裕がある下着に足を通す。昔はあいつよりおれの方が大きかったというのに、その差はいつしか逆転していた。尾てい骨のあたりがスースーとする。
風呂出たよ。おう。
そんな短い会話をして、あいつは部屋を出て行った。昔は2人でこの部屋でゲームをしたり、漫画を読んだりしたものだ。風鈴がチリンと鳴って、柔らかな風がおれの頬を撫でる。
布団にそのまま倒れこんでみる。あいつと取っ組み合いになった時によく嗅いだ芳香剤の匂い。何もあの頃から変わらない。
電気消すぞ。うん。おやすみ。おやすみ。
言葉を小さく交わして、目を閉じる。なんだかこのまま寝てしまうのも勿体無くて、何か話を切り出そうかと考える。村のみんなのこと。旅館のこと。部活のこと。す、好きな人のこと?
あのさ。
言いかけたものを閉まって、言葉を譲る。少しの沈黙の後に、あいつは口を開いた。
都会だと、星、見えないんだろ、星の光が街の光でかき消されちまうから。夏の大三角形ぐらいは見えるけど。
想定していない返事をしてしまったようで、あいつは口籠る。いつもであればヘッドロックでも決めてきそうなものだが、さすがに床につけばそうともいかないらしい。
とにかく、あんな風には見えないんだろ。まぁそうだね、綺麗だと思う。だから、また来年の夏も帰ってこいよ。
別に星が見えなくたって、来年の夏も帰ってくるよ。そんなことを言おうとして、隣から聞こえる寝息に気付いた。おれも寝ようと思い、目を閉じる。瞼の裏側に映るのは、星の光ではなく、みんなとお前の笑顔だった。
とっくに消えた星が、未だに此処から見えている。
この畦道の帰り道、自販機も売店も街灯も無い。空に散らかった硝子みたいな光だけが稲穂を淡く照らしている。蝉が悲鳴のように鳴いていて、影が水面のように揺らめいている。いつもになった唯の夏が終わるはずで、今もそうなはずだったのに。
「ね、星でも見ない?」
「……帰ってきてたんだ」
今日はどうやらそうじゃなかった。知っている顔が月明かりに彩られている。十数年一緒に星を見ていたのに、数年前にいきなり遠くに行った顔がそこに居た。
「何年ぶり?」
「多分5年」
「そんな?」
「そ、てか何で帰ってきたん」
誰も通らない道で、わざわざ声をかけてきた懐かしい顔。もうそれが他人になりかけているなんて分かりつつ、何となく聞いてしまって。
「うん、結婚したら来れなくなるかなって」
「あぁ、そういう?」
まぁ、そういう事だと薄々は感づいていた。昔は付き合っていたのに、今や随分遠くになって、手が届かない相手になった事を知って、意味の無い質問を重ねる。
「ここで過ごすってのは?」
「ここは好きだけど、でも難しいな」
まぁ、無理なんて知っている。
だって、君は五年前に轢かれて壊れて、そのまま帰らぬ人になった。
そういや、昔した結婚の約束なんかも今年だった。
「まぁ、幸せならそれで良いよ」
君はきっと光だった。もう声は返らない。
とっくに消えた星が、未だに此処から見えていた。
真昼の青空に星は見えない、なんて云う人を、僕は決して信用しない。眩しすぎる陽光に溶け込んでしまった遠くの輝きを、僕たちはただ見失ってしまっているだけなのにね。夜はあんなに明るく照らす月だって、白昼の天球上に在っては病んでいるみたいに青白い。太陽が暴力的なまでに空を光で塗り潰して、あの永遠みたいと錯覚させるような空の青色の向こう、それでも確かに星空は広がってる。
そんな風に云ってみせるとかれは困ったように笑って、それからこんな話を僕に聞かせた。
「夜空に浮かぶ、蛇の心臓を知っている?うみへび座α星。固有名をアルファルド。アラブの言葉で、”孤独なもの”。そいつは寂しいやつなんだ。さして明るくもない、2等級の橙色。だけども周りにはもっと暗いやつしかいないものだからさ。うみへびの心臓部で脈打ちながら、たったひとりで輝いてる。見つけやすい星なんだよ、夜空では」
なんて語って、それから沈黙。何が言いたいのか理解できるくらいには僕はかれと親しいつもりだ。けれど。
孤独な星が他と平等に塗り潰される自らを良しとしたとして、観測者がその意見に賛同する必要は必ずしもないわけで。青空の下でたったひとつ、埋もれてしまった愛しい橙色の輝きをもう一度探し求めることを止める権利は誰にもないはず、でしょう?静かなところへ、空気の綺麗な場所へ行って、望遠鏡でも何でも使って。天の孤独な光だって、僕が青色からすくい上げて、存在を見つめて、手を伸ばすよ。
「エゴイスト」
「駄目?」
「いいよ、もう。好きにすればいい。君の心のままにね」
「それは肯定?」
「違うよ、ただの許容」
静寂が支配する放課後の教室で、僕たちは二人きりだった。
多良鳥栖虎(たら とすこ)は24の時、内定を蹴りD進した。モラトリアムを満喫し、論文を書かなかった。だが、ついに漠然とした将来への不安が起こり、ある夜、外で星々に語りかけた。
「大いなる星々よ。その光に導かれた私や、私のラバーダックがなければ、あなた方は自らの光に飽きていただろう。
(中略)
見ていてください。論文は執筆される。私は社会に出ようとしている」
かくして多良鳥栖虎の卒業は始まった。
研究室に戻る間、 誰にも会わなかった。深夜3時だからである。
しかしラボにはD5の学生がいた。彼は聖なる仮眠を終え、進捗を探している所だった。
彼は語りかけた。「社会に出て何をするのか」
多良鳥栖虎は答えた。「私は研究を愛しているのです」
「ほう」と彼は言った。
「では、なぜ私は深夜までいるのだろう。それは、研究を愛しすぎたからではなかったか。
私が今愛しているのは、進捗だ。研究を愛すれば私は滅びる。
(中略)
大学に留まることだ。なぜ私のように学生であろうとしないのか」
「あなたはここで何をしているのですか」多良鳥栖虎は尋ねた。
「私はTwitterを開いては時間を潰す。Twitterをするとき、笑い、泣き、呟く。
そして、いつか来る進捗を星々の光の下で讃えるのだ」
こうして多良鳥栖虎と学生は、学部生のように笑い、PCに向かった。
だが、多良鳥栖虎は作業に入ると、心の中でこう言った。
「いったいこれはどうしたことだろう。彼は研究室に住んでいて、まだ何もわかっていないのだ。
“進捗は死んだ”ということを(※1)」
※1 : 彼の研究テーマはSNSのビックデータ解析であり、X(旧Twitter)のAPI仕様変更によって既存の解析手法は全て陳腐化した。
──50になって初めて、「星の光」というものを見ている。
愚かしくも賢しいヒトの手によって、この惑星の地表総てには夜を知らぬ都市ばかりが屹立するようになった。一等星の光すら呑むこの惑星で、真の星の光を知るものは「ソラ」に行くことができる金持ち共ぐらいだった。
少年時代、私は猛烈に星に惹かれていた。星に関する本を読み漁り、星空を観測する方法がないか友人達と日々議論を重ね、無駄だと識ってなお毎夜頭上を見上げていた。純黒に浮かぶ無数の光を、この目に映したかったのだ。
一度、天象儀という物を作ってみた。完成品は私自身の不器用も相まって粗悪なもので、方々から光が漏れ、拘った星図も紙の縒れで滅茶苦茶。それでも友人や家族は皆、称賛してくれた。
「これはきっと、真の星空に最も近い景色だよ」
「ああ。しかし、機械が映す星空でさえこんなにも感動するんだ。本物の星の光を見ることができた日には、どうなってしまうのだろうね」
──それから30余年。ヒトはその貪欲さに溺れ、争いによる種の自壊の真っ最中だ。そして今日、ついに自分の都市も戦禍を被り、運良く生き残った私は一人で虚栄の残骸を歩いている。
闇を払う物が何一つ無くなったこの夜に、私は初めて真の星空と対面できた。夢見た光景が眼前にあるというのに私の胸中に愉悦は無く、ただ寂しさばかりが募り続ける。
『地表に届く星の光は何年も昔のもので、今この時、その光源は消滅している可能性もある』……本で得た知識だ。今、私を照らす光は全て過去のものなのだ。
「あの天象儀の光の方が、余程煌びやかに見えたよ」
家族も友人も聞いちゃいないだろうに、そんな言葉が零れていた。
夜空を見に行こうと君が言った。
大方、先月とったばかりの免許と新車を僕に自慢したいのだろう。まぁたまには乗ってやるかと思って、僕は頷いて了承する。
で、今。キャンプ場に来て、僕らは二人で空を眺めている。少しばかり肌寒くて、手を擦り合わせる。夏はとっくに過ぎ去ってしまったのだと今更実感させられる。あまり外に出ないものだから、どうも四季に関して鈍くなってしまっているようだ。
「カイロあるよ」
君はそう言って、使い捨てのカイロを僕に渡す。こういうとき、手を繋ぐきっかけにすりゃいいのに。ヘタレだから言い出せなかったのか、そもそもそんな発想も無かったのか。とりあえず、君が女の子にモテない理由は多分そこら辺にあるんだろうな。
僕はもらったカイロを君に押し返して、多少無理矢理に手を繋いでやる。
「うえっ!?」
「うっさ。でかい声出すなよ」
「いや、だって! そっちから、なんて」
しどろもどろする君がなんだか面白くて、僕は思わず吹き出してしまう。君は不機嫌そうな表情をして、けれど繋いだ手は離さなかった。また夜空を見上げて、君は少し黙る。何度か逡巡した後、ぽつりと一言。
「月が綺麗ですね」
絶対言うと思った。ヘタレな癖にロマンチストなんだよな、君は。けど僕も大概ロマンチストだから、きちんと返してやる。
「死んでもいいわ」
「んぇ」
間抜けな声が返ってきて、こいつ、絶対意味わかってねぇなと思った。けどまあ、いいか。意味がわかってなくたって。
「あっ流れ星!」
君がまた大きな声で叫び、流れ星を指差す。その拍子に繋いでいた手を離されて、そういうところだぞ、と僕は小さく溜息を吐いた。
でも結局、僕は君の"そういうところ"が好きだった。
体育館は湧いていた。熱狂と、不可視の蛆虫で。文化祭は今、地獄と化している。
顔が溶け、手脚が絡みあい、融合しつつある群衆。彼らはかつて学園の生徒、教師、ないしは親族や近隣住民であった。唯一人型を保つ「Θ」めは、舞台の上に立つ一人の少女。
ギラつくスパンコールがびしりと並ぶ服が、その薄く細い体形を象る。手にはマイクを握りしめ、口元には微笑みを。ピンクの瞳には星が浮かび、パステルグリーンの髪はツインテールに結われ。そして頭上には、巨大な星=GoIヘイローが廻っている。
彼女はマイクを持ち上げ、口元にそっと近づけると、囁くかのように喋りだす。
「みんな、この世界は間違っていると思う? YESの人、挙手してね」
一斉にウミユリめいた器官が上がるのを見て、少女は次の句を紡ぐ。
「それは何で?」
返答=絶叫。
「四次元存在の、苦痛!」
負けじと少女も声を張り上げて。
「苦痛! いたいね。くるしいね。全部トバしちゃえ。携挙で以てオサラバだ」
5つのスポットライトが彼女を照らす。一番星はここにある。
「痛いの痛いのFLY AWAY。銀河の禊で削ぎ落とせ。そして歌うよキミとボクとで!」
マイクを握りしめて──ふと、群衆の中に見覚えのあるヘイロー。 予想通りの三ツ矢の盾!
「発見! ざいだんちゃあああん!!!!!」
相手の目は怒りに燃えている。
「第五ぉおお!!!」
返してやるのは歪な笑み。
「もう止められないよ! そこで銀河の誕生を見てて!」
肉塊が一斉に煙を吐く。ウミユリたちが蠢いて、グルービーなイントロが鳴り響く。
「救済すくうよ! 連れてくよ、みんな! 星の瞬く第五世界ぱらいそへ!」
戦闘開始。
思えば、歌うのを止めたのは丁度1年前の今日だった。
ファンが嫌いだったからとか、声が出なくなったとか、そういう訳ではない。ただ、私の歌よりも他人の歌の方が上手く聞こえるようになったから止めた。
銀マットに横になってぼんやりと星を見上げながら最後のライブを思い出す。そうここはステージの上で、観客の目で反射するライトの明かりは星のようで、私はバラードで締めて。
障害物の無い草原の広がる丘からは、流星群が綺麗に望める。もちろん、叶えて欲しい願いなんて無いけど。
「あれ?アルまだここにいたの?」
未だに現役時代の名前で呼ぶ貴女が別荘の中から出てくる。
「その名前で呼ぶとビビるからやめて」
「いーじゃないの。ほらそんなピリピリせずに休みな」
気遣いが痛い。何を考えているか分かっているのだろう。
「ねえさ。どうせここ、私とあんたしか居ないんだから死ぬ気で1回歌ってみたら」
「……なんでさ」
「なんかわかるかもしんないでしょ。ほら掛けるよ」
そういうと貴女はポケットに入るサイズのスピーカーを取り出し、曲を流す。夏の夜は音を一切反響させず、染み渡るように広がる。
歌う。Aメロ。Bメロ。サビ。貴女の顔は見えないけど。Aメロ。Bメロ。サビ。丘をステージに見立てて。Cメロ。ラスサビ。最後まで一心不乱に。
歌い終わった後の息切れでブランクを感じる。意外と、来る。
「どう?なんかわかった?」
見えないだろうけれど、笑って答える。
「うーん。貴女が笑ってくれたらもう歌なんか歌えなくていいかもなって」
「キザな告白だな」
見えないけれど、それでも笑ってくれていると分かった。ステージに戻るには時間が掛かるかもしれない。ただ、それもいいなと思えた。
| No. | 提出者 | 著者予想 |
|---|---|---|
| 1 | 2MeterScale, carbon13, santou, Kuronohanahana | |
| 2 | Hasuma_S, watazakana, eagle-yuki×2 | |
| 3 | Touyou Funky×2, roneatosu, Ryu JP | |
| 4 | tateito, momiji_CoC, watazakana×2 | |
| 5 | 2MeterScale×2, carbon13 | |
| 6 | 2MeterScale, roneatosu×2, santou | |
| 7 | Hasuma_S, momiji_CoC×3 | |
| 8 | tateito, watazakana, Ryu JP, Fireflyer | |
| 9 | Touyou Funky×2, santou, SCPopepape | |
| 10 | tateito×2, Ryu JP, Dr_Kasugai | |
| 11 | SCPopepape×3, eagle-yuki | |
| 12 | Ryu JP, nekokuro×3 | |
| 13 | eagle-yuki×2, Dr_Kasugai, Fireflyer | |
| 14 | nekokuro, Kuronohanahana×3 | |
| 15 | Dr_Kasugai does not match any existing user name | tateito, carbon13, Dr_Kasugai×2 |
| 16 | Hasuma_S, roneatosu, Fireflyer×2 |
B グループ
命がある所には光がある。
異星で文明を見つける為の絶対条件だ。
「カメラ、ハマってるみたいだな」
「あぁ。ただ景色を記録することがこんなにも楽しいなんて思わなかった」
「そりゃ良かった。お前も大人になったってことだよ」
"地球"に調査に来てから、ここの時間で3ヶ月。新たな資源を求めた故郷より、私は下見に派遣させられていた。
「この1枚に、幾つの命が詰まってるんだろうな」
「これか?いい写真撮れてんじゃん。やっぱここの屋上見晴らし良いよな」
私はこの街の夜景に魅了されていた。高層の建造物に灯る灯り、交通網に添えられた街灯、住民達を呼び寄せる看板。手のひらに収まるような大きさのそれが、私には船の外に浮かぶ星々のように見えた。
「よく言われてる話だけどな?夜景ってのは残業してる人達が居るおかげで綺麗なんだぜ」
「そうか。彼らも、安らかになれる時間が来ればいいな」
「なぁ、お前って宇宙人なのか?」
私はカメラを握り直した。
「俺達は長い間親友だったと思うんだけど、どうやって知り合ったのか思い出せないんだよな。夢だったかも知んないけど、お前が光の中から現れる所を見たような気がして」
「……なぁ。こっち向いてくれ」
私は地球で見つけたカメラと、故郷から持ってきた記憶処理機を向けた。
「しょうがねぇな。この風景をバックにモデルみたいに撮ってくれよ」
彼が指を2本出すのと同時に、私はシャッターを切る。
閃光を浴びて硬直した彼の事の前で目を伏せ、私はワープで帰還する。
3ヶ月は長居し過ぎたな。
東京。私の好きな響きの名前だ。私は調査を記録しながら、偶然降りて親友と宝物を手に入れただけの小さな街について、同じ場所に綴っていた。
木漏れ陽に夕映え、星辰、夜半の月。
天の光は、すべてわたくし!
ごきげんよう。たった今、君に観測されし私は大いなる萌芽の女。佐保姫、Thallo、Persephonēとは私の名、つまり目覚めの女神原型。人獣の知性が夢見た太母、それが五体と臓腑の組成。
正真正銘、私は「春」。春を起源とし春を内包し春と同期する意識。君が繁茂の季節に見出す全てが、この私。
……ちょっと仰々しかったかな。ごめんね。驚かせたかったわけじゃないの。
星降る窓辺で君はスケッチブックに「春」の姿を描いた、ただそれだけのこと。花々と若草を、春雷と叢雲を、そして三精の光を、君の絵筆は少女の姿に託した。
つまり君は私の新たな端末を創造したんだ。ちゃんとお礼が言いたくて、目の前に現れたってわけ。深く感謝を捧げましょう、こんなに軽やかな姿を君は与えてくれた。
伝えたかったのはそれだけじゃない。
君は随分思い詰めているようだ。若葉が芽吹き大気が甘く輝くほど、君の心は澱む。よく耐えてきたね。刺すような孤独の中で、それでも私を美しく描いてくれた、優しい子。
小さな生命よ、どうか覚えていて。
君は決してひとりではない。「春」は、君を、愛している。
君の踏む大地に咲く花は、私の接吻。
君の肌を撫でる薫風は、私の抱擁。
君の頬を濡らす霧雨は、私の落涙。
君を照らす数多の星の光は、私の慈悲。
やがてこの地から春が去っても、また巡って必ず会いに来る。何度でも、星が公転を続ける限り天地が愛を証明しよう。せめてこの季節だけでも、笑顔でいてほしい。きっと明日は天気になるよ、私の歓喜こそが晴天そのものなのだから。
美しい明日に、挨拶を。
優しい君に、高らかに祝福を!
むかしむかし、身寄りのない女の子がいました。
生まれってどうしようもないじゃん。親はハナから頼れないし。頭も悪いし。
女の子はとても貧しかったので、住む部屋も眠るベッドもなくなり、持ち物は親切な人がくれたパンと今着ている服しかありません。
だから使えるのはこの体だけ。女に生まれてよかったってこれほど思ったことなかった。女の子は皆生まれながらに知ってる。自分の魅力とその売り方を。
そのパンもとても貧しい男にあげてしまい、服も欲しがっている人にほとんどあげてしまいました。
育ちの悪さを香水で隠して体の中身を全部売って。純潔と人権を捧げてあたしは大きな組織の一員になった。
とうとうシャツもあげてしまって、女の子はただ立ち尽くしていました。すると、
でもやっぱりあたしは頭が悪くて、やろうとしてることが全部裏目に出た。
組織の敵の一人があたしの純潔のお得意様だった。あたしの存在がくすぶってた関係の火種になって、引火した。
全面抗争が始まった。
天から星が落ちてきました。
ばらばらと銃弾の雨。逃げて逃げて辿り着いた屋上にも降ってくる。金色の星。都会の夜に轟音が音と光であたしを貫く。
痛みを感じないくらいに逃げ疲れてあたしは倒れ込む。薄れてく視界にネオンが眩しい。星のない夜の偽物の星。あたしみたい。
寒い。露出過多なけばけばしいドレスが血に染まってあたしの死に装束。
あたし、どこで間違えたのかな。
あたしはただ、
その星は銀貨でした。いつの間にか、女の子は上等なシャツを着ていました。
しあわせになりたかっただけなのにな。
そうして女の子は、その銀貨で一生しあわせに暮らしました。めでたしめでたし。
川せみは、実にうつくしい鳥です。
はねは空のようにあおく、おなかは陽をクレヨンで描いたように橙。するりとしたくちばしは黒曜石のようです。
川せみは、その美しいからだでびゅんと勢いよく川に飛び込み、お魚を食べて暮らしていました。
しかしこの頃、川せみは川へとひとつも飛んでいません。兄のよだかがいなくなったからです。
よだかは、実にみにくい鳥でした。まわりの鳥たちも一目みればやれ口が裂けていてきもちがわるいだの、やれよぼよぼした足が気に食わないだのひそひそいいました。
それでも、よだかは川せみの兄でした。川せみがなんの話をしても静かにうなずきながらうれしそうに聞く、そんな兄でした。
しかしよだかは別れの挨拶をしていなくなりました。川せみは泣くよだかをもちろん追いました。しかし空をかけるのはよだかのほうが得意でしたから、川せみは途中で追うのがつらくなってとうとうやめてしまいました。
川せみは、この時に追いかけ続けなかったことをずっと後悔しています。
それから川せみは毎日よだかを探しましたが、何をやっても見つかりません。おしゃべりな鳥たちからはよだかが名前を変えなかったから鷹が殺してしまっただとか、姿を見なくなってせいせいしただとか、そんなことばかりが見つかりました。皆、よだかの話など嫌がって、そんなことよりと川せみの話ばかりするのです。川せみにしか興味がなく、よだかの行方などだれも興味がなかったのです。
川せみは疲れて、ずっと木のうろの中にいました。不思議と腹も減らず、ぼんやりと夜空を眺めていました。
カシオピア座のすぐ隣の星は、そんなことを知ることはありません。
ベッドの横の窓を開けて、浮力のままに外へと泳いで。AM1:00の宵闇に1人泡を吐きながら、もう踏みしめない歩道橋を見下ろす。住宅街の向こうに聳えた街灯の光は、今も懸命に夜の底を照らしている物だから。それが何故か淋しくなって、ぼやついた光に触れようと緩やかに泳いでいる。
そうして彼女と出会った。
「考えていたんだ。星の届かぬ暗闇は、随分と寂しい物だとね」
こういう世界になってしまった以上、それは仕方の無い事だと思っている。受け入れながらぼけっと浮かぶ僕の様な人種は、そこそこ珍しい様だけども。
「だから自分が星になろうと思った。夜を照らしたかった」
その垂らした君の灯りを街灯と見間違えたのは謝るさ。けどそれで君が自信を失わないでおくれよ。星になるなんて大それた事言ってんだ、君自身くらいは胸でも張るべきだと思うけどね。
「でも、それは確かに驕りなんだ。誰もその代わりにはなれないさ」
「だからこそ。今宵、私は星を堕とそうと思うよ」
───視界に溢れた泡に目を瞑る。尾びれのついた巨大な影が、僕の横を通り過ぎて昇っていく。静かに泳ぐその巨体は徐々に夜へと溶けていって、遂に柔らかな灯りだけがそこにはある。いつしか水の底に沈んだ生活。全てが静まった冷たい宵闇。それら全てを包むが如く、星の光が住宅街を照らしていた。
どうやら彼女は選んだらしい。かつて見た誰も届かない星の光を穢して、それでも夜を照らす事を。
1人泡を吐く。その傲慢に、僕は敬意を示したいと思う。
「みんなで戦いをやめないのなら…!」
一瞬、広域通信に子どもの声が乗った気がした。この声は、アイーダ様のご友人らしい。G-セルフとかいう化け物じみたMSに乗っているのがこんな子ども……世も末だ。
カシーバ・ミコシを巡る戦争は佳境を迎える。それを止める?どうやって……いや、そもそも戦争って止まる、ものなのか?じゃあ、俺たちはこの後どうなるんだ?偉い人たちは分かってやっているんだろうか?カーヒル大尉は死んじまった。
目の前に浮かぶカシーバ・ミコシを見た瞬間、すさまじい怖気がキュピン、と走った。ぞわり、と吸い込まれるようにモニター内のG-セルフを拡大する。宙返りをして、背中を戦場に向けていた。
すると、輝かしい光の粒が大量に放たれた。
チャフか?目眩し?
……違う。違う!
カシーバ・ミコシの影へ飛ぶ。同僚のMSの腕を掴んで無理やり引っ張る。
悲鳴が、脳にこだまする。モニター内の味方の信号が消えていく。
爆発もしない。消えた、ただ消えた。光が降った場所にいた奴らは、敵も味方も、爆発すらせず、消え去った。
「おかしいですよ!」「後続部隊が全部消えた!」「消えた??」
通信全てが混乱する。これが、戦争なのか?光を残すことすら許されない、星にすらなれないのかっ??
ズビュゥッ、と敵のビームが掠める。
これでも、戦争は止まらないってのか?G-セルフの暴力でも止まらないってんなら、どうすりゃ戦争は終わるんだ?
光すら残さず存在を消された者たちの悲鳴が、脳をこだましている。
俺は同僚と共に、敵に向かって引き金を引く。
ビームに貫かれた敵機が爆発し、まばゆい光で宇宙を照らす。
「ニヘイさん」
異星体の触腕がヘルメットを突っつく。遮光板を外して振り返った。
「何か」
「丁度僕らが出会った日ですって」
直上を指さす異星体を横目にスーツ内ディスプレイで日付を確認する。どの暦基準でも外れていた。
「……?」
「プパで出会った日の恒星光が、たった今ここに到達したようです」
「あ!」
毎度の事ながら言葉足らずが過ぎる。採掘用ドリルの電源を切って直上を仰いだ。
恒星タツカ。第4文明人の生まれ故郷。それなりに遠いせいか数年前の光が今になってこの恒星系に到達したらしい。
「地球単位換算で何光年離れてんだっけ」
「凡そ6光年ですねぇ」
光速を何回も越えているせいでイマイチピンとこないが。「……そういうことなら」と、それとなく恒星の座標を送信する。
「俺らの太陽。1500光年くらい先」
「1500年前の光!文明とかできてるのかなぁ」
「一応母国の基盤みたいなのは出来てるはず」
「まだニヘイさんは生まれてないんだ」
1500年前の故郷の光と6年前の光を同時に浴びている。文字に起こせば尚更馬鹿っぽさが増すが、あの光の中に1500年前の名も知らぬ先祖と、6年前の俺が確かに存在していた。馬鹿とロマンスはどの文明どの時代においても紙一重の関係にあり、宇宙はどこまで行ってもその2つが通じる世界である。
異星体は急に日本式の合掌を始めた。大方6年前の俺たちの武運でも祈っているのだろう。その祈りは光速どころか時の流れすら越えねばならないわけだが。
この祈りがいずれ本当に通じる馬鹿話、或いは壮大なロマンスであることを緩めに信じ、俺もまたそれに倣った。
追いかける。追いかける。
心臓貫く視線をくぐり
逢瀬導く翼をくぐり
駆け回る犾の双眸
頭と尾境を渦巻く霞
█を取り戻すためにここまで来た。足跡を追い迷い込んだ先は、どうにも█にはそぐわないと思える場所だった。一つ目の災難は毒使い。█が餌食になっていないかと心配するも、やはり姿は見つからない。すでにこの地を離れてしまったようだ。
迷いなく直進する鷲に嫉妬を覚えながらも、手掛かりを基に進んだ先には二匹の獣。█の姿は見当たらない。先に進もうとするも、二つ目の災難に襲われる。どうにも不運は連続するらしい。
勇猛に響く唄の下
露はひそかに霜をおろす
覆う雲は広大に
大きく開く巨魚の口
助けてくれた狩人に礼を言う。二匹の獣は彼の猟犬だったようだ。彼の数倍はあろうかという体躯の蛇は、彼を一目見るや否や逃げ出してしまった。ここを発つなら早いほうが良いという助言を受け、冬が来る前に先に進む。
空遥かを覆う雲が口を開け、█の姿が目に映った。
██████
██████
██████
「うちの子がどうもごめんなさいね」
大きな体とは裏腹に、やさしい声。
生まれたばかりのこのこぐまが、█を捕まえようとして、覆い隠してしまったという話らしい。
ずっとそこにあったというのはにわかに信じがたいことだが、どうにもばかげた話があったものだ。
商店街のパブのネオンも少し孤独感を覚えて、引っ込み思案な青信号を待つ車のライトが鳴りを潜める夜。まだ踏面の綺麗な階段の先で、白粉のような肌の蛾が、息も出来ない四畳半の空の星に紛れて、蛍光灯と舞踏をする。鉛と過去を引きずった身体を部屋に押し込むまでの道は、今日も変わりなく煩わしい。
揃えられた事のない靴を尻目に、なんとかベットに倒れ込む。見渡せば、脱ぎ散らかされ皺になった服と、半分だけビニール袋に入れられたペットボトルの街、開けっぱなしの段ボールがいくつか、受け入れるべき現実の視界の端の、カーテンの隙間の夜光がやけに明るいので、今日もそっちを相手することにする。
都会の人間関係のような湿度と、人の怠慢を凝縮したような部屋には冷房を、右手には冷えた小麦色の倦怠感を握って、彗星が来ると喧々轟々のSNSを眺める。DMの新規メッセージ、たった一回の不手際で2度と会話をする事も無くなった元恋人のようなもの、が乗っ取られたスパムURL。ほんの少しの期待を抱いた自分が馬鹿らしい。そういえば、彼も天体観測が好きだったっけ、部屋の片隅の追いやった、彼のために買った星のイヤリングと、彼に贈ったアンティークの。ネックレスのことを思い出す。スイッチが入れば、もう止まらない。どうして彼のことを好きになってしまって、あんなに夢中になってしまったのか。自分の落ち度を認められなくて、最後まで諍いで離れてしまったこと。孤独感と罪悪感と、かつての私への少しの恨みが重なって、息が苦しくなる。
視界の端には彗星が。あの尾の先が地球の酸素を持っていくからこんなに苦しいんだと。美しいその光が涙に溶けて、私は──
少し疲れたので、作業の手を止めて、ふと窓の向こうを見上げた。
暗い空を流れるのは天の河。
煌めく星々の流れは、日々姿を変えながらも、絶え間無く続いている。
その中に、いつも気になる星が一つあった。
チカ、、チカ、、チカ、、と、周期的に力強い輝きを放つのだ。まるで、観測者たる私に対して何かを訴える様な特異な脈動。私は応えなければならないと焦燥に駆られる。
チカ、、チカ、、チカ、、と星は矢継ぎ早に主張を続ける。私は何と応えたら良いのだろうかと途方に暮れる。
少し前、相談に乗ってもらった人から聞いた話によると、星の光とは遥か彼方で、果てしない過去に、星が瞬いた名残に過ぎないそうだ。だから、現在の私が気にすることは無いと。その方は続けて言った。あの星は既に寿命が尽きている。だから、いつか光は届かなくなる、心配は要らないと。
私は、いにしえからの呼び声から目を逸らして作業に戻った。私には見知らぬ誰かに構っている余裕は殆ど無いのだ。まだ予定の半分も織り上がっていないのだから。
悪い、ちょっと小便だ。いや、いいだろ立ちションくれぇよ。出るもんは出るんだ。あ、お前もか。おーい、ちょっと炭火の番頼むわ!あの、アレだ、雉に放水をな!
オラ、雉出てこい、ぶっかけてやるからよ…っと。しかし、星が綺麗だねぇ。他意はねぇよボケ。あ、星で思い出した。小学校の頃なんだけどな。俺めっちゃビビりでよ、暗いとことか全部ダメだったんだよ。おまけに通学路は人通りのない田舎道で、ついでに墓地の前通るとかいうね。冬の帰りとか真っ暗で怖くて怖くてさ。
そんな時、どうやって帰ってたと思う?図書館で星座とギリシャ神話の本を借りるんだよ。で、帰り道歩きながらずーっと読む。下向いてな。どんだけ怖くても本読んでれば周りは見えないし、星の話読んでると、上から星が見てて守ってくれてる気がしてよ。…うっせ、東小じゃロマンチストで通ってたんだよ。月が出てなくてな、どんだけ真っ暗で怖い日でも、本読みながら街灯の明かりを5つ数えたら家に着く。ずっと後で聞いたんだけどな、通学路の御近所さんから二宮さんとか呼ばれてたんだとよ。ウケる。
いや、その後だよ。高校入るとさ、帰り夜8時くらいとかになることあるじゃん。もうその頃は大して怖いもんでもなかったから気にしてなかったんだけど。卒業する頃にそん時のこと思い出してさ、帰り道で。バーッとチャリ走らせてて気づいたんだよ。
街灯、4個しか無くね?って。
誰に聞いても、街灯増えたり減ったりしてないって言うんだよ。田舎だから庭広くて家の明かりも道まで届かねぇし。
お前、どっちだと思う?
通学路に、下向いて歩いてる俺を同じところで見てる何かがいたか、
星が俺だけを照らしてくれたのか。
醜さというものは何処にでも見出す事が出来る。
僕が寝そべっているキングサイズのベッド、それ自体は綺麗に整えられ、床のフローリングは未だに光沢を残しているが、先ほどシャワーを浴びた時、浴槽の塗装が剥がれているのに気づいたし、部屋に辿り着くまでの間に目にした廊下の壁紙は黄ばんでいた。
「気持ちいい?」
僕の両足の間に顔を埋めている女に対し、僕はいつも通り嘘を吐く。
幾度となく褥を共にしていながら、それを心地よいと思ったのは最初の一回だけ。
彼女は、毎度吐くその台詞と、その回答に酔っているだけなのだと思う。
「もういいや、疲れちゃった」
二重の意味を重ねても、この愚かな女がそれに気づく事には期待していない。
義務的に腕を伸ばすと、彼女はそれに黙って頭を預け、目を閉じた。
その女の数少ない長所である美しい髪を指で漉き、頬骨のラインを撫でながら、肌を通じて伝わる感覚を邪魔に感じながら、僕自身も目を閉じる。
それからどの程度時間が経ったかは分からない。
交わりの際、彼女はいつも言われるがままであり、自分から求めてくる事は無かった彼女が、僕の腰に跨っていた。
相手をする億劫さから、僕は目を閉じる事を躊躇った。
硬い異物が、自分の胸に押し入ってくる。愛液でも汗でもない、妙にひんやりと濡れた感覚が後に続く。
暖かい液体が胸に落ちるのを肌に感じ、その嗚咽を聞く。
朱く濡れた彼女の顔を、僕は初めて心の底から魅力的に感じた。最初に彼女を抱いたときの興奮など比較にならなかった。
僕はそうやって、初めて自分自身を理解した。
彼女を殺した理由は、その一言で済む話だった。
あるOBは言った。「打席では応援歌など聞こえていない」と。
プロ野球史上初、同時期に同一リーグで複数球団が2ケタ連敗。その一方は常勝を期待されていた球団Hであり、ここまでの大型連敗はメディアにも驚きをもって伝えられた。一方で、私の贔屓の球団Fは連敗がさも当然の如くに扱われており、それが非常に悔しかった。しかし、応援は無力だ。いくら声を出しても状況が好転することはなかった。
他人の足を引っ張るのは日本人の悪い癖、とよく言われる。しかし、どうせ何も変わらないなら足を引っ張ることもない。その日、Fの試合はなく、Hが負ければFに並ぶ12連敗というシーン。私は暇つぶしにHの試合を見ながら、こっそり相手チームを応援していた。
しかしその思いとは裏腹に、Hの1点リードで迎えた9回裏。マウンドにはHの絶対的守護神が上がり、2アウト1塁まで持ち込まれた。
解説は言った。「角中が繋げば、まだわからないですからね」
違う。確かに角中はアベレージヒッターのイメージが強いが、今年もうFは2本ホームランを打たれている。私の中には淡い期待があった。
1球目。インハイの直球をカットしてファウル。バットを短く構える独特のフォーム、いつも内角を捌かれていた。いける。もう一球同じ球がきたら、あとは芯に当てるだけだ。私の淡い期待は確信に変わり、気づけば応援歌を口ずさんでいた。
さあ戦え、角中、勝利へ導け。栄光の時を目指してーー
そして2球目。守護神の投じた直球は、捕手の指示とは真反対にインハイへ。これを振り抜いた瞬間。
Hの勝ち星は、一筋のアーチを描いて幕張の夜空へ消えていった。初めて応援が実を結んだと思った。
そこは大部分が黒、というよりも「何も無い」で塗りつぶされた世界である。
冷たいという言葉でさえ当てはまることのない、熱量を持てない世界である。
そこに僅かな光と彩りは確かにある。それらはただ「在る」ことだけを許されているかの様に己だけを焼いては失せる。
それは「何も無い」と同じものであった。「在る」ことも許されない、塗りつぶしのどこかでしかなかった。
微かな光だ。
それは「何も無い」となった。「在る」ことは許されないとして消えた。
僅かな光と彩りは、己しか知らず己にしか知られない自己満足。微かな光も、結局は己にしか届かない自己満足。
だからこれは、私が私に問いかけているだけで。
「このイレギュラーは意味のあるものでしたか?奇跡は起こっていたのですか?」
ここでは私の産声は誰にも聞こえない。小さな一歩は歩みとは言えない。
そこは「何も無い」で塗りつぶされた世界である。
それが永遠に続くのか。
あなたには聞こえないだろう。
あるいは、消えない光が生まれるのか。
あなたが見ることはない。
「私は青かった」
私だけが知っている。
花火を見ていた。大輪だ。とは言っても長岡や墨田みたいな大々的なものじゃない。お客さんはせいぜい周り数カ所の村人くらいなもんで、花火師は新年とかでたまに見る親戚のおじさんたち。それくらい小さな規模の、それでもこの辺りじゃ一番本格的な夏祭りの花火だった。横にはいつも浴衣姿の君がいて、屋台で買ったリンゴ飴片手に、黒目に花火を揺らしている。
「秋には東京に越すんだ」
放課後、君はなんでも無い顔でそう言った。突然のことで、何が正解かも分からずにただ「そうなんだ」と返すしかなかった。
ずっと、同じだと思っていた。地元で騒がしく新しい年を迎えて、夏はクラスの友人に揶揄われながら、仲がいいからという理由でなんとなく一緒に屋台を巡って花火を見て、また夏休みの課題を頭下げて見させてもらうんだ、と。でも所詮は都合のいい夢だったらしい。
土曜の夜、いつもと同じ時間、同じ場所。今年もしっかりと盛況なようで、屋台の橙色の灯りが立ち並び、多くの人が夜を見上げている。
何気なくラインを開く。やりとりはあの日から止まっている。お互いが、なんとなく連絡を避けていた。向こうから安否の短文が数日きて、それで終わり。既読だって今付けた。それでも毎年、花火の日だけは連絡がなくても、いつの間にか一緒だったのだ。
だから、少し期待していた。
一際大きな火が、ひゅう、と上がる。
周りの花火よりひとつ抜きん出たその尾を目で追う。
ぱぁっと開いた最後の花は、ひとつ星が抜けていた。
───26日未明、未知の恒星が観測されました。この恒星は地球から1光年以内の至近距離に位置すると見られ、既存の惑星が何らかの原因で突如として恒星に変化したと推定されています。詳細は現在調査中であり───
「あっ、これってアパテのことじゃない?」
「地球から見えたってことは、もうななこちゃんが見つけてから3ヶ月も経ったのね」
君と出逢って、もう3ヶ月か。カケラを捕まえにいくための遥か0.25光年の孤独な旅路。その果てで見つけた、名前の無い惑星。でも、私が名前を付けた。そして今その輝きは遠く離れた地球人の目にもはっきりと映った。君はもうひとりじゃない。
だが、思う。君はこれを望んだのだろうか?今までどうせ光の当たることのない孤独な惑星だった。ならば、誰かの目に留まることに君は意味を見い出せるのだろうか?かつての私のような考えが心の底に蘇ってきた。
「でも、アパテってどうやって生まれたことになるんだろう?」
「まさか『謎の魔法少女達が宇宙船のエンジンのカケラをガス惑星の中に突っ込ませて恒星に変えた』なんて、そんな結論に辿り着けるわきゃないわな」
「じゃあやっぱり、それは私達だけの秘密に出来るわね」
「そうだな。謎の恒星誕生の真相を私達だけが知ってるなんて、ちょっとロマンチックかも」
そうか、そうだな。私達だけが知っている秘密、私達だけが見た景色。そんなものをもっと皆と一緒に見つけたい。もっと、皆と一緒にいたい。それで十分だ。
結局誰だって皆ひとり、かもしれない。それでも今は、皆と一緒にいられることが幸せだ。私がこう思えたのなら、きっとアパテにもそう思える日が来るだろう。
「うん!」
私は心からそう言った。
| No. | 提出者 | 著者予想 |
|---|---|---|
| 1 | CRC-601×2, BARIGANEsensha | |
| 2 | koikoi_Rainy4L, shionome4ono, aster_shion | |
| 3 | seda87ne×2, tazen | |
| 4 | koikoi_Rainy4L×2, shionome4ono | |
| 5 | rokurouru×2, kihaku | |
| 6 | AAA9879×3 | |
| 7 | rokurouru, v vetman×2 | |
| 8 | shionome4ono, aster_shion, tazen | |
| 9 | seda87ne, Rivi-era, harvester_blandish | |
| 10 | aster_shion, Rivi-era, tazen | |
| 11 | kskhorn×2, harvester_blandish | |
| 12 | kskhorn, harvester_blandish, Gokipo | |
| 13 | Gokipo×2, BARIGANEsensha | |
| 14 | ShinoguN×3 | |
| 15 | CRC-601, Rivi-era, kihaku | |
| 16 | v vetman, kihaku, BARIGANEsensha |
C グループ
EianSakashiba
---
著者ページ
GermanesOno
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著者ページ
hallwayman
---
著作
HITODE_chan does not match any existing user name
---
著作
Hoojiro_san
---
著者ページ
konumatakaki
---
著者ページ
kyougoku08
---
著者ページ
MtKani_666
---
著者ページ
Nanigashi Sato
---
著者ページ
月が昇らなくなってから1年が経った。潮汐周期がどうのとか公転軌道がどうのとか、そういう問題は何故か起こらず、月が昇らない事以外何も変わらない日常がずっとずっと続いていた。
「あれは私がやったんだよ」
校庭にテントを設営している時、先輩は唐突にそう言った。いいかげんな事ばかり言う人だった。買い出しの時、誰かがコーヒーのLを頼めば『コーヒーのL5杯ですか?』なんて横から言う。けれど信じそうになったら冗談だよと慌てるような。僕は先輩も、先輩の虚言に付き合うのも嫌いではなかった。
へえと返すと会話が止まった。いつも真面目くさった顔でホラを吹く先輩はそんな気分ではないらしく、全然会話が無くなった。二の句が無い事に驚いたのに僕は口を開かなかった。結局のところ背中を押されて動き出した自転車を漕ぎ出していくような居心地の良さに僕はのめり込みたいだけで、止まった物を動かすつもりは少しも無かった。これと言って雑談も無いまま僕たちはテントの設営を終えた。
「聞いてくれないの?なんで月を消したんですかーって」
夜空に星が瞬き始め、いよいよ星を見ようという時、望遠鏡のピント合わせをする僕の隣で先輩はそんな事を言った。
「じゃあなんでですか」
先輩が望遠鏡を合わせた先に僕が知っている星は無かった。それっぽい星が綺麗に見えるようにのんびりとダイヤルを回す。
「月の後ろの星は綺麗かと思って」
それきり先輩は黙り込んだ。居心地の悪さを感じた僕はピント合わせを切り上げて、言葉を探しながら場所を譲った。
「良いんじゃないすか。ピカピカ光ってて綺麗ですよ」
絞り出された頭の悪い答えにただ『そう』とだけ返して、先輩は望遠鏡を覗き込んだ。
試行1564。138億光年内で観測された恒星・惑星・衛星は0。ここには星の光がない。
分かり切った結果に溜息を吐く。遥か彼方の星を仰ぐ瞳は、とうの昔に存在意義を失っていた。たった1人の天文台に別れを告げて自転車に跨る。涼しい夏の夜風だけが私の背中を押してくれる。
太陽と月と星が我らの視界から消えた日、人類は地球に住まう生命の根絶を確信した。だが人は思ったよりしぶとかった。
決して少なくない代償を払い地球を覆ったアトラス擬きの天蓋ヴェールに、今日も『月』はたった1人で歩み続けている。
『太陽』と『月』を突貫工事で創造している時も、『星』のスケジュールはズルズルと延びていた。2年前倒しで空に日月が飾られても、星辰はいつまで経っても来なかった。
コンパスを片手に北天の暗澹を見上げる。父が指差した北極星ポラリスは、もうどこにもいなかった。
前翅の三眼紋より滂沱あり、その漿は清し。
酸甜たる臭気を帯びた嗅ぎタバコの空箱より慎重に、クチクラ質の光沢を引き抜く。重鈍たる赤樫の扉を一覕し、男は先の句を吟する。赤樫が、この島嶼に生育しない樹木であることは、無関係でない。艦隊、奇械化された兵站が頂くのは、貯蓄の象徴、椎の実の樫の葉。ロス・ジャルディンに備蓄されていた数ダース分は、掌上の使用済みの一箱を残して同島嶼固有の等脚類に咀嚼され、今は襤褸のようになって倉庫の隅に溜まっている。煙幕を引く真昼の流星が、蛇目の複葉機を貫く。男は肺葉に不安の靄が掛るのを感じた。像は鮮烈、しかし色調は麦角菌を齧ったかのような極彩色である。
<丁葉T-Leaf>は葉は矩形、幹には気根を生じて時間軸を這い上がる。そして何より、その葉は絵葉書に似る。切り離された葉の裏側に滲んだ図像が、基底時流から孤立した広大無辺の閉鎖空間ならば、表側の文面は、こちらの数刻たる永劫の、愿朴たる形容である。
南方の<無名島Isla>からの頼り、そこに閃光弾の一群が輝燿したのを、彼女の蜻蛉義眼が無央数に増幅した信号が捉えられている。
「精霊蜻蛉」は洋上に潰墜し、遺物の葉に示現す。
同盟の受遺贈者は、葉こそ見出せど、散逸した枝を、幹を見出せずにいる。彼は蜻蜓女の星空の行方を求め、東南亜を探訪する。なおもザミーフルール作戦は継続せり。
1908年、シベリア帝国。
イギリスの湿った寒さとは違う、体表から水分と温度を同時に奪う茨のような寒気を、時計塔の魔術師達は各々の手段で回避していた。
時間です。定刻を告げながら少年が群衆の前に出る。
平衡と流動。虚数魔術の極北にあるエントロピーの操作。時計塔始まって以来の第五元素の神童と呼ばれるロイという少年は、人類史始まって以来の人類存続の危機への先鋒であった。
天蓋方向から人類の天敵が具現する。下らない銀幕の予告の如き予言は、全世界の魔術師の間を2日で駆け抜けた。予言したのは南米のシャーマンだった。その有用さ故、封印指定を受けながらも協会からの保護を目溢しされている「滝の頂を歩む者」。彼は人類の危機を予言し、直後に死んだ。
ロイ少年は手の中の瓶から純水を永久凍土に撒く。呼気すら瞬時に凍る寒さの中、水滴はしかし液体のまま、氷上を踊って陣を描いた。
「告げる」
少年は103本の魔術回路を開放しつつ召喚の呪文を声帯で掴み、
瞬間、白原は黄金に染まった。
「な――」
何が、という声で呪文が中断された事を誰が責められよう。黄金の光の中から現れたその王族の装いの「異種」が、本来召喚するはずだった人類の抑止力ではなく、星の触覚――ガイアの抑止力の使者だという事は、その場にいた魔術師全員に理解できていたのだから。
1908年 6月30日 7時2分。
小惑星の爆発によるものと一般的には言われている事件の、これが顛末である。
その場に居合わせた魔術師の大半が真祖の行使した空想具現化に巻き込まれ死亡ないし行方不明となっており、わずかに残った生存者は口々に「星の光を見た」と証言したという。
██県の誇る米の超新星、星の光。従来の稲作高度限界を大きく更新する宇宙に最も近い落綺羅(おちきら)の田んぼでは、月や星も稲穂を育む養分となります。平安は陰陽の時代から連綿と品種改良を重ねた、技術の粋をご堪能下さい。
①深く、甘い。
他のお米と比べたときの大きな違いとして、甘みが強く、噛んでいられる時間が大幅に長いことが挙げられます。日光だけではない、味わいの深さがわかります。
②夜専用の米。
その名の通り、夜専用の米として生産されています。味蕾の働きが強い夜に食べることで、このお米を隅々まで味わうことが出来ます。
③渋川春海の愛した土地。
落綺羅は江戸の天文学者、渋川春海が作った二つの天文台のうち一つの跡地です。日本で最も綺麗に星を見れるこの場所で星の光はすくすくと育ちました。
生産者の声:
爺様の田んぼを手伝うようになってからようわかったよ。夜も昼と同じように明るうて、この稲は夜に育つんよ。ほれ。あれが見えるか?あそこの星と星をこう見て、目のように、眼差しが見えるじゃろ。あー、見えんか。まぁ九等星じゃしな。ここで生きれば……星の光を飲めば、見えるようになるよ。あんたらには暗い空でも、儂らには昼より明るい空なんじゃ。どこに稲が育たん道理がある?あんたらも見たじゃろ、蒼い蒼い稲を……星屑のような米の一粒一粒を……。噛めば星の、命の素の味がするよ。そしてもうすぐ、眼差しがこちらを見つめて、真っ暗な口を開いて儂らを……米の一粒一粒を……ああ、きっとそこに行きますわい。きっと行きます。
目を開けると視界には黒が広がっていた。
長い時間眠っていたみたいだ。体を起き上がらせようとすると手足の感覚がないことに気づく。体から意識だけが切り離されて隔絶されたような感覚。
なるほど。どうやら俺は死んだらしい。
そういえばそうだった。確かあの日、俺は首を吊って死んだのだ。もう無いはずの首に、心なしか締め付けられるような痛みを感じる。どうして死のうとしたのか思い出そうとしたが、記憶が朧げで思い出せなかった。
ここはどこだろうか。単調に黒だけを映し出す景色を見つめる。すると、ふと白い光のようなものが目の前を横切った。子供の頃に図鑑で見たことがある、彗星だった。ということはここは宇宙だろうか。ああ、なるほど。
俺は星になったのだ。
死んだら星になる、確か彼女がそんなことを言っていた気がする。そうだ、彼女。俺は彼女と心中しようとしたのだ。意識が遠のく中、彼女の縄が切れたのをうっすらと覚えている。
ということは彼女は今頃生きているのだろうか。「ふたりで星になろう」なんて言ったのに1人だけ勝手に星になってしまった訳だ。罪悪感が胸を締めた。
俺は彼女と会うことはもうできない。でも、星の光で彼女を照らせたなら。それで少しでも彼女の光になれたなら。
『そうなれたらいいな』
心の中でそう呟き、俺は目を閉じた。
「僕と一緒に線香花火をしてくれませんか」
傷心旅行で知らない街の夏祭りをフラフラしていたらナンパに会った。驚愕と共に声の方へ振り返ると明らかに小学生の男の子でさらに驚いた。
「えっと…親御さんは?」
「お姉さんと線香花火をしたら帰ります」
物腰こそ柔らかだが言う事を聞かず、しょうがなく付き合った。神社の境内で祭りの喧騒とは遠い、静かな明かりが2つ。
「お姉さんは連れの人いないんですか?」
「いたんだけどね」
「振られたんですか、僕なら放っておかないのに」
「君が言っても説得力無いよ」
非日常な空間でらしくないニヒルな顔をする。
「この後でかい花火やるらしいよ、こんな小さな光で満足していいの?」
「その時間には雨なので」
「噓、天気予報で言ってたっけ」
「わかるんです。だから降る前にお姉さんとしたかった」
「私と花火すると何になるのさ」
「こうしておけば、今日を思い出す時に雨粒も星に変えられます」
とりとめのない話。手元の星はゆっくりその身を焦がして光に変える。
「長く続いてたんだけど、どこで間違ったのかな」
「お姉さんは悪くありません」
「見てきたみたいに言うね」
「誓いますよ」
「何に?」
境内の石段にぽつり、と黒い染みができる。
「2人だけの小さな星空に。君は間違いなく、僕の1番大切な人です」
星明かりが同時に消えて、男の子は雨の中に消えた。追いかける事も雨宿りする事もせず、濡れた顔で笑う。見た目もアルバムで見たことのある、さよならも言えず事故に遭ったあいつそのままだった。そして何より、
「ナンパの第一声があの時のプロポーズと一語一句同じって、そりゃ1発でわかるよバカ」
しばらくしゃがんで、そこにあった星空の跡を眺めていた。
「えっ、自分の誕生日の星座って、誕生日の日のその夜には見れねーんだってよ」
『勉強会』と称した『お喋り会』が始まって1時間半。級友はいつの間にか人様の部屋を勝手に漁り始めていたらしい。授業で耳が痛くなるほど聞いたはずの事象だが、どうやらアイツの耳には痛覚がなかったようだ。
「はは、『黄道十二星座』なんだから、その月の誕生日の星座は太陽の登ってる昼間に見えるに決まってんだろ」
「へェ、相変わらず賢いねぇ。拓人クン」
「俺が賢いんじゃなくてお前がバカなんだよ、バカ。そのプリントよく見ろよ。中学3年生が塾でやるような問題だぞ。俺たちよりひとつ年下の代だよ」
ぱすぱすと人差し指で叩いたプリントには、俺が昨年まで通っていた塾のガスガスなロゴが印刷されている。有名な進学塾を出た俺が、こんなバカと同じクラスに押し込められているということは、学力なんて本当はお察しの通りだが。
「つまりお前の星座……えっと、しし座は今は全く見えないけど、4月の下旬辺りによく見える。俺のふたご座は2月だ」
「じゃあ春休みには、俺のしし座は見れたのか。なんか悔しいなぁ、よく見ときゃよかった。つまりは……拓人はちょうど受験があったくらいじゃねえか?」
受験、という言葉を聞いた身体がぴくりと反応した。日々こつこつと組み立てた蝋の羽が、憧れの太陽に容赦なく溶かされたあの日。太陽からの陽の光を浴びて輝く星など、とても見上げられる心は無かった。
「去年は受験で忙しかったもんなぁ。そうだ、拓人!去年見れなかった分、今年は俺と見ようぜ。俺とお前の星座!」
地に落ちた先で見上げた……声を張り上げた目の前の光は、陽の光か、星の光か。
夜空で一番明るい星が更新された。シリウスよりも金星よりも、さらには月よりも輝くその新しい星は、夜街に影を落とすほどのものだった。
「だからさ、これ自体が恒星の進化における未知の因子の存在を強く示唆するわけ」
同級生が話すのを聞きつつぼんやりと夕方の空を見る。話題になっている星が見えるまではまだ時間がある。
「天文学者にとってはなにか面白いことなのかもしれないけど、少なくとも僕にとっては寝る時に眩しいなって思う程度だよ」
色々なメディアが一瞬盛り上がって、そして徐々に光が落ちていく星と同じように冷めていった。
「あの星は確かにそろそろ来そうだって言われてはいたんだけど、既存のモデルだとあと数十万年は爆発しないはずだったんだ」
「ニュースで見たから大体は知ってるよ」
「ほとんどの人が知らなかった星なの、一気に知名度が上がったのは面白いけど、これで天文系の予算が付けばな……」
赤い眼鏡の彼女は親がそういう趣味の人だったらしく、星とかにかなり詳しかった。だからあの日からしばらくクラスの中でも引っ張りだこになった。もちろんそれは一瞬だったが。
「派手じゃなくてもこつこつ光っている星だっているのに」
僕は振り返ってて呟く。
「あの星が出る前まで太陽を除く恒星で二番目で明るかった星の名前すら知らないくせに」
「カノープス」
「何で知ってるの?」
意外そうな視線を向けられるが、そりゃ何回か名前ぐらい出てきたから覚えてるよ。
「……そういう星が、好きだから」
「南半球に行けば?沈まないよ?」
「たまに見えるぐらいがちょうどいいんだよ」
一度だけ、見た記憶がある。夜明け前、冬の寒さの中で水平線の少しだけ上に見えた赤い星だった。
「夜空の星をヒトデの形に表すなんてことあるじゃない?漢字でも「海星」て書くしさ」
「あれってさすっごく歴史が長いんだよ」
寝起きに思い出したのが何故だからは分からぬがあの娘との会話なのはどうしてだろう。
時計の針が真夜中を教えてくれているが二度寝をする気にはなれない。
なれないので外をふらついてみるがどうも落ち着きやしない。
「確かね古代エジプトの壁画にはもう描かれてたんだってよ?凄くない?」
「海のヒトデがさ、空の星と一緒だって思った人は何を思ってだんだろうね?」
「多分その人も今の私たちみたいな場所で同じことしてたのかな」
思い出した。
あの頃、俺はあの娘と一緒にあの浜辺に行って星を見に行ってたんだ。
8月の熱が籠って仕方のない、まさにこんな夜だった筈だ。
「じゃあさ、星がヒトデなら太陽とか月は何なんだろうね?」
「私はね、金星は珊瑚で太陽は漁り火だと思うの」
「魚とかじゃないの?」
「ううん、それで月はね───」
ふと見上げると。
そこはあの夏の海とは違う、深海。
だが慰めてくれるように、まるで月のような灯台の灯り。
濡れて冷えた体だった。
彼女の体表の色は死体の白色に似て、目は汚濁の熱でギラギラ明滅している。ドブ川に浮く油膜の光沢のほうが幾許か清廉に見える色だ。彼女はあたかもそれを隠しきれているように振る舞う。ベルベット質の口紅の歪みに気づかない。
「分からないなら教えてあげるね。顔が怖いぜ相棒。何かあった?」
彼女はぽたぽたと水滴を垂らすシャツを緩慢な動作で脱ぎだした。
「……ここ公共機関だけど。露出狂?」
「私たち以外に誰か見える?」
「いいえ。でも心の準備がだね」
「一糸纏わぬ私ならテメエは昨日も見てるだろうが」
「心のチンポの準備だよ」
「カスがよ」
軽口の最中でさえ眼球の熱は萎まない。水晶の中の火を彷彿とさせる。彼女は上下とも下着姿になった。
「で、どうして君も此処に?」
「すぐ分かるぜ」
そう言うと、胸元に素早く手を伸ばしてくる。襟首を掴まれ、彼女の動作に無理やり合わせる形で立ち上がる。彼女は隙なく片手でガラス窓を開放すると、そのまま背中から向こうへ落ちた。勿論、重さに巻き込まれてこの体も車内から放り出される―宇宙へ。
「何!?何で宇宙に重力があるの!?」
「ブラックホールの真上を通過するタイミングを狙ったもんでね。あの列車は特殊仕様で引き付けられないみたいだが」
目を合わせると、彼女の瞳の炎は弾けて消えた。
「ずっと嫉妬してたんだ。テメエが他人のために死んだってのが気に食わなくてさ。銀河の鉄道に揺られて星明かりになっちまうと思うと気が狂った。だから一緒に地獄へ行こうや」
双眸を濡らしていたのは嫉妬の光だったのだ。私が嬉しくて笑うと、エゴイストは真っ赤になって言った。
「貴女が好きだ」
誂えたような私たちの終わり。
その人は自分にとってあまりに眩い孤高の存在だったから、目の前の光景は到底信じられなかった。
饐えた臭いの染みついたベッドの片隅。丸まって震える背中を看護師があやすように擦るのが、扉の外から見える全て。「お客さんが来てますよ」と呼ぶ声にも応答はなく、ただ啜り泣くような音が病室に響くだけ。かつてずっと見上げていた姿の面影はどこにも見つからなかった。逆風のさなか、凛と背を伸ばして前を見据えていたあの姿は。戦いを重ねるうちに、もうどうしようもないほどその人は壊れてしまっていた。
何も言えないうちに面会時間は終わりだと追い出され、暗い廊下をとぼとぼ歩く。視線を向けた窓の先に、見落としそうなほど暗い星々。今地球に届いているのは、はるか昔に放たれた過去の光だ。
昔から目標にしていた人だった。逆境にあってなお最善を尽くして戦い続ける姿に憧れて、自分もあのように在りたいと願って戦い続けて来た。いつしか遠く別の場所で戦う事になっても、あの人もきっとどこか同じ空の下で戦っているのだと信じていた。それでも星には寿命があって、信念には限界がある。自分が目を逸らしていただけだ。
病院を出て、空を見上げる。都会のオリオン座は暗い。あの赤い星は今もまだ輝いているのだろうか。それとももう燃え尽きて、暗闇の中に沈んでしまっただろうか。地上の自分にはわからない。ただ、今なお届く光を見上げるだけだ。昨日までの自分のように。
過去の光のおかげで、自分はこれまで戦ってこられた。かつて見た輝きはまだ瞼の裏に焼き付いている。これからも同じように進み続ける事になるのだろう。現在の姿がどうであれ。
いつか自分も過去の光になるのだろうか。
時は平安、女御らの牛車争いに端を発した「枇榔院戦争」は時代を超え、令和の世に「ヒロイン戦争」として少女らの間に根付いていた。ルールは単純、己が身に秘めたヒロインの概念、それを高らかに宣言し、双方の「ヒロイン能力」を以って魂をぶつけ合う。
東に立つは王者、侍蟻 女王蜂(さむらいあり じょおうばち)。西に立つは挑戦者、広井 姫(ひろい ひめ)。名乗りを上げるはまず王者から。トラテープを両手一杯に広げ、女王蜂は高らかに宣言する。
「わたくしの能力は断要禁死デンジャーゾーン! ヒロインとは、奪い、捕らえるものと見つけたり!!!」
コンマ数秒で展開する黄色と黒の排除結界、これまで999のヒロインが結界に阻まれ、あるいは絡め取られ彼女の僕となった。だがしかし、相対する挑戦者の目は輝いている。奪われた大切なものを取り戻すために。
そして何より、己の中に煌めくヒロインとしての矜持、少女としての誇りのために。
「私はアナタを否定します! 奪い、捕らえることで分かり合うことはできない!!!」
息を大きく吸い、脚に力を籠める。彼女にできることはただ一つ。
「私の能力は星刷夜奪スターシーカー!!!」
加速する、加速する、加速する、弾丸のように、砲弾のように、いや、流星のように。
「Putain (バカな)!?」
「ヒロインとは───! 自らの力であろうと、誰かの反射であろうとも、今ここで、星の如く輝かんとするものと見つけたり!!!」
祖父が帰宅する。一年ぶりのことだ。
盛大な見送りなどいらないと言っていた祖父は唯一、車だけは華やかなものをと頼んでいたらしい。私の記憶の中では見る影もなかったが、どうやら昔は相当な車道楽だったようだ。
それでも、ひさびさの帰宅に両親が選んだのはやはり馬だった。部屋に飾ってある車の模型を見て、こっちの方がいいじゃんと妹が口を尖らせたが、ドアも開かない模型よりは背が広々と空いた馬の方が乗りやすかろうというのが両親の言だ。
糸が切れたような別れの記憶はもう遠い。ただ、「おじいちゃんはお星様になった」と目を赤くして言う母の言葉を信じるほど子供でなかったことは確かだ。
「明日は多分、星がいっぱい消えるんだろうね」
「なんで」
「だってみんな宙から戻ってくるじゃん」
家族のとこにね。換気のため窓を開け放しながら、妹が呟く。
「やっぱりさあ、馬なんかより車がいいよ。だってそっちの方が絶対早いし」
視線の先で光っていた星の光が不意に揺らめく。雲が動いたのだろう。それでも私には、祖父が妹の言葉を肯定したようにしか思えなかった。そういえば、あの模型は祖父の愛車を模したものだ。
生ぬるい風に顔をしかめた妹が去っていく。私は少し躊躇った後、窓枠から思いきり身を乗り出した。街灯はあれど高層建築などない中途半端な田舎では、それなりの数の星が見える。
この光の数だけ、家族のもとに帰れない死者がいるのだ。
「やっぱり、好きな車で帰る?」
誰に聞かせるまでもなく、空に向かって呟いてみる。星の輝きは何の反応も示さない。それが逆に生々しくて、何となく嬉しくて、私は少しだけ明るくなった気持ちとともにカーテンを閉めた。
強く、強く、光を放つ。そんな星に強く惹かれるのは人の性というものだろう。夜に瞬くは遥か、人の手では届きようもない。愚かしくも熱心に手を伸ばし続ける者は絶えず、その多くが道半ばで果てていく。
「どうして、塔の星を摘めば望みが叶うとフローラは思ったのかな」
「それは……そう伝わっていただとか、噂があっただとか」
女神たちに試練を与えられ、導かれた末にようやく触れることができる、塔の頂の星。人々がそれを望むのには、相応の理由があるということなのだろう。
「でも、塔に入るのは掟で禁じられているんだよね。誰が言い出したんだろう」
「単なる作り話じゃないかしら」
しかし、禁を破り塔を登ったフローラたちはその強欲に罰を与えられることになる。それが、二人の物語。
「星の眩しい光を見た人々が、そうだったらいいなって創り出した、幻……」
「酷い話よね。試練を潜り抜けた先にあるものが罠なんて」
女神たちが塔にいるのは、罪ゆえに幽閉されているから。彼女たちはかつて星を求め、星に最も近い場所で星光を眺め続けるという罰を与えられたのだ。
「そもそも星を求めてはいけない、ということなのかしらね」
「そんなのおかしいよ」
星は確かにそこで光っているのに。
「フローラの望みは叶った。けれど、二人は罰により引き裂かれてしまった」
「でも、叶ったのは星を手に入れたからじゃない。試練で培われた絆が、そうさせてくれたんだよ」
星は一つではない。そして、塔が星に最も近い場所であることは間違いないのだ。
「なら、求めるべき星をフローラたちは間違えたってことになるのかしら」
「……うーん、何か違う気がする」
「私も」
星を求めて進む二人を、星はただ照らしていた。
| No. | 提出者 | 著者予想 |
|---|---|---|
| 1 | NorthPole, Dr_Knotty, Taga49 | |
| 2 | Hoojiro_san×3 | |
| 3 | GermanesOno×3 | |
| 4 | 1NAR1×2, sian628 | |
| 5 | izhaya, hallwayman, kyougoku08 | |
| 6 | izhaya, sian628, HITODE_chan | |
| 7 | sian628, EianSakashiba, kyougoku08 | |
| 8 | HITODE_chan does not match any existing user name | 1NAR1, HITODE_chan, konumatakaki |
| 9 | NorthPole, konumatakaki×2 | |
| 10 | EianSakashiba, HITODE_chan, hallwayman | |
| 11 | izhaya, Mtkani_666×2 | |
| 12 | NorthPole, hallwayman, Dr_Knotty | |
| 13 | EianSakashiba, Mtkani_666, kyougoku08 | |
| 14 | Dr_Knotty, Taga49×2 | |
| 15 | Nanigashi Sato×3 |
