この作品の作者は
kihakuさんでした!
予想結果: kihaku, R_IIV, AAA9879×2, 1NAR1×3
「飛ぶってことを実現した人間ってすごいよな。飛行機しかりヘリコプターしかり、昔から多くの人が挑戦して、今や普通の技術にまでなって」
操縦席の男は楽しそうに叫んだ。
オンボロのレシプロは男の声と競うようにうるさく唸る。
「人間はそれだけじゃ飛べないから道具を使う訳だけどさぁ、だんだん複雑になるにつれて資格やら技術やらがある人に依存するんだよな」
目の前で目まぐるしく変化する計器の針やメーターを捌きながら男は笑う。
「その技術は今や戦争の花形で、俺たちはそれを扱える貴重な人間だぜ。キャンプに居りゃみんなから羨望の的だ」
男の胸には幾つもの徽章が煌めいている。
「家内も喜んでくれたよ。お前さんとこの娘さん幾つだっけ? 七つ? いいねぇそれじゃあ生きて帰らなきゃなぁ」
曳光弾が追い縋る。銃座を回す。ペダルを小刻みに踏む。敵機に光筋を寄せていく。煙を吹いた。
「やるねぇ。残弾は?」
「三機分」
「そんなに撃たせねえよ」
「信じてる」
自機の背後に二機、左に一機。先ほどからやたらめったら撃ち込んでくる。そんなに情報を持って帰られるのが嫌なのか。一機で三機を取っ替え引っ替え踊るのは、少々私には勿体無い。私らなんかに構わないで、もっと別のお相手でも探せと助言してやりたいが、こうも私たちにゾッコンなら仕方ない。これも偵察の宿命だ。
「軍規だか性能限界だか知らねえが、守らせたいなら全部機械にやらせるべきだと俺ぁ思うね!」
男は酒を煽り、操縦桿に手をかける。私は先ほどから敵機に照準を合わせている。
「舌噛むなよ」
「了解だ」
全身に乗る心地よい重力。天地が裏返る。火を吹く機銃座。錐揉む敵機。頭上に大海原が広がった。
翼を得た人ならば、空は楽しむもんだ。
この作品の作者は R_IIV does not match any existing user nameさんでした!
予想結果: R_IIV×3, meshiochislash, ShicolorkiNaN×2, NorthPole
無限にも続く瑠璃色の世界を駆ける。
下に滲む底無しの紺を、上に白き玻璃の天井を眺め、掛かる圧力の儘に全てを後方へ。
ただ一心に、木霊する音を頼りに、駆ける。遥か遠くで今も変わらぬ同郷の者の声を懐かしく聴くように響くあの音を求めて。
並ぶ同胞の問は答える必要も無く、これが本能だと叫ぶこの心こそが真であると。
鼓動は荒く、滾る血潮が全身を巡り、加速度の上昇を幇助する。
ただ彼に会うために、この簡単に破れ血の滲む肌を鋼鉄にも変えて。
加速、誰よりも速く。
私の声が届くことは決してない
一瞬の下降、広がる闇へ投げキスを。
だけど、貴方が、私の姿を覚えていてくれるから
垂直に急上昇、連なる波紋を揺蕩えた硝子を全て突き破って
飛ぶ。
水面に飛沫の花火が咲いて、ただほんの刹那この身を晒す。貴方がくれたアクセサリーに、初夏の日差しが光る。
私は、貴方に逢いに来た。
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予想結果: R_IIV, meshiochislash×4, aster_shion
夕景。白い蛾の背に乗って飛び立った彼を見て、ふと疑問を覚えた。自ら飛べないのなら、彼の背中にある綺麗な翅は、どんな意味を持つのだろう。
もちろん、妖精が飛ぶ、なんてのはオレの勝手なイメージだ。此処で会ってきた妖精達は、どちらかといえば翅がない方が多数派だった。
その実例、隣に立っている、羽を持たない彼女の方を向く。少女は先程までの自分と同じように、蛾が飛び立った空の向こうを見ていた。
視線が空から移り、こちらに向けられる。見られているのに気付いたらしい。
「わたしの顔に、何か付いてましたか?」
照れ隠しのような台詞に首を振り、どこを見てるのか気になっただけだ、と伝える。彼女は少し考えてから、オレを見るでもなく、独り言のように話し始める。
「──ヒトは、いつか空を飛んで、宇宙にも行くんですよね」
頷く。ライト兄弟が1903年、アポロ11号が1969年、そして……きっと。これから先も、人類史の果てなき旅は続く、はず。
「それは、わたしには──」
空を、あるいはもっと遠くを見て、彼女は目を細めて、そして、口を噤む。
「──いや、やっぱりなんでもない」
彼女は目を瞑り、強く首を振った。首を傾げる。何を言いかけたのか察するのは難しい早さの、否定、あるいは拒絶。
「さ、みんなの所に戻りましょう。そろそろご飯ですよ、きっと」
釈然としないままだが、こうなったらきっと彼女は頑固だ。またの機会に聞いてみることにして、今日のところは頷いた。
暗くなった空には、星灯りが眩しい。
妖精でも、人間でも。空を仰ぐ理由なんて、焦がれるような美しさだけでいいと──少なくとも、この瞬間だけ、思う。
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ShicolorkiNaNさんでした!
予想結果: ShicolorkiNaN, AAA9879×2, Tutu-sh×2, ShinoguN
……飛行可能魔法の使用時に発生している事故の中で最も件数が多いのは落下であったが、過去に落下事故を体験した被害者への対談において約七割の対象(*1)が急激に高度を上昇した際に身体的な異常を発生させていた事が明らかになった。一定以上の高度上での呼吸は即座に意識を失う危険性を有しており(*2)、太陽の直視による瞬間的な視力の低下、雲海や濃霧内部に突入した際の上下感覚の喪失等が要因となり、落下事故を間接的に引き起こしていた事が予想される。これらの影響は術者に対して直接的であり、飛行可能魔法の種類に因らない。箒や鍋等の付加された魔法道具の操作・部分的変身魔法によって生成した翼の操作等に等しく影響を及ぼし、魔法の種類によっては落下しない場合においても重篤な被害(*3)を発生させる。今記録において大魔導士フルクトーニ・ガリリエウルスは「今や我々は蝋翼で空を飛び高く飛び過ぎれば陽光に熔け落ち、低く飛び過ぎれば海の湿気に崩れる時代ではない。私自身の経験から言えば空が青ではなく黒色に見え始めたならば今すぐ高度を下げるべきだ」と答えている。
*1 アプラレムア大病院他三箇所の病院内で確認された死者を除く五十二名中三十八名
*2 中艇級飛竜の最大上昇高度を上回っている場合においての呼吸は確実に意識を失う
*3 翼だけでなく両目を鷹に変質させた状態での太陽の直視による永久的な失明・持参していた魔法植物の過成長に伴う毒化した種子の散布等
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aster_shionさんでした!
予想結果: kihaku×2, R_IIV, aster_shion×2, NorthPole
きっと、どこへでも行けると思うんだ。終点がないからさ。背中から生える歪なヒレを不器用に動かしながら、そうつぶやいた彼の息遣いは、今でも僕の耳に残っている。
ずっと、ずっと昔。世界の外を駈けた者がいた。そこにどんな素晴らしい光景が広がっていたのかは、すぐに世界中に広まった。その後十数年の世界滅亡の危機は、魔女の厄災と呼ばれている。
魔女の厄災を実際に経験したものはもういない。魔女の薬の作成、所持が禁止されて今年で100年になるそうだ。僕たちの世代──薬や道具を使わずとも、世界の外で呼吸ができる世代──が現れ始めてから、大人たちは厄災時代の遺産と世界の外への規制を強め始めた。
そんなことをしなくても、よっぽどの数奇者でなければ、世界の外に興味は持たないだろうに。世界の外で生きるのは僕たちの世代であっても苦しいもので、隣の世界への移動だって、まともな仕事にありつけなかった人が命を懸けてやるようなものだ。
でも、彼は違った。厄災世代の遺産に魅せられ、世界の外へあこがれた。世界の壁から続くリクどころか、ソラへ行く方法があるはずだと、封鎖された様々な遺跡を巡って情報を集めていた。自分で全く新しい魔女の薬を作って試すほどに。
苦しそうな息遣いとは裏腹に楽しそうなその姿は、正直うらやましかった。
流されるように生き、仕事にありつけなかった僕は、あの日一緒に飲もうと渡された薬を、今、飲もうとしている。
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AAA9879さんでした!
予想結果: kihaku, AAA9879, Hasuma_S×3, 1NAR1
“3…2…1…We have a lift off!”
荒野に響き渡るアナウンスとともに、彼女は地面と水平に発射された。巻き上がる粉塵と爆炎のおかげで、遠方の観覧席からでもその瞬間がはっきりと見てとれる。
常人よりも諸々優れているウマ娘の目を凝らすと、全身をすっぽり覆う分厚いパワードスーツを着込む彼女は超高速の中、地を駆けていた。本当に呆れた。
手元のドリンク会社によるパンフレットに目をやる。ひとつの簡素なハガキと共に届いたこのパンフレットには無謀な挑戦が示されており、『地上最速!』と記されていた。
かつて、足を壊して隠しきれない失意と共に学園から去っていたはずの彼女が、今こうして異国の炎天下の下で大いなる記録を打ち立てようとしている。
賑やかしの速度計はついに4桁に突入した。
更に彼女はぐんぐんと加速し、会場のボルテージは最高潮になる。実況が喉を張り裂かんばかりに吠えている。足が一歩踏み出すたびに速くなる。その寄せ付けない走りは間違いなく彼女そのものだった。
瞬間、空気の壁が突き破られた。
爆発音が遅れてやってくる。たまらず耳をたたむ。一拍遅れて会場が歓喜で揺れる。だが彼女は止まらず、加速し続けてしまた。
だから、ほんのわずか足元が狂った一瞬で、吹き飛んだ。
気がつくと、私は誰よりも速く彼女の側に駆け寄ってスーツをこじ開けようとしていた。力にモノを言わせてヘルメットを引っぺがすと、汗を垂らしながら憎たらしく笑う彼女と目があった。
「やっぱり暑いねぇ!カフェ!」
今度こそ本当に呆れ果てた私をよそに、『プランC』とだけ書かれたハガキは荒野の風に包まれて、ポケットから大空へと飛んでいった。
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hallwaymanさんでした!
予想結果: hallwayman×5, renerd
「薬、違法@2ch掲示板」より抜粋、閲覧しやすいように改変済
最近、何キメてもピンとこなかったんだよな
野菜もChillもねぇしマンチーも腹に溜まってこなくなったしよ
紙、アイスにアンパン、キャンディにクラック
今にゃクソほどもトびやしねぇ
んで、日頃から一番キツめのもん売ってくれるヤツ探してたんだ
一昨日まではな
シモキタの裏路地で前にあった売人と落ち合おうとしたんだ
ソイツ本人はドジっちまって堀の中らしいんだが本題はそこにゃねぇ
結構奥、十字路で声をかけられたんだ
ライトのすぐ下にクールビズのスーツ外人だったからスッゲー目立つのよ
お前ら売人は全身まっくろくろすけ、なんてダセェ思い込みしてねぇよな?
俺が知ってんのはこういう小綺麗なのが多いんだ
でソイツが差し出してきたのがモンエナのパチモンなのよ
ふざけんなって思って胸ぐら掴んだがどこ吹く風で、腹立って飲み干した後に腹に一発と考えたのよ
ありゃサイコーなんて言葉じゃ言えんわ
マジで飛べたぜ
あ、例えじゃねぇよ
スッゲー昔の飛行機になっただぜ?
赤い星付きの
いやラリってねぇよ?
マジなんだぜ?
まあさ、外人にも言われたがな
今までキメてたやつよりもMOONSTAR ENERGYの方がはるかにいいぞ
下にアイツに会える方法書くからな
以上がSCP-1939-JP、並びにSCP-1939-JP-1の最初の報告例です。
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renerdさんでした!
予想結果: kihaku, R_IIV, ShicolorkiNaN, hallwayman, renerd×2
あぁ、えー、ぅん。
では、皆さんにふたことみこと。
北米大陸東岸、コロンビアの一角にある航空宇宙博物館。その本館エントラスには、翼の無い古ぼけた飛行機が展示されています。
翼の無い、という表現は来館者の耳目を惹くために使われているもの。正確ではありません より実情に沿って描写するならば「翼のうち、五十平方センチメートル程度の張り布と、その部分のみを支える僅かな骨組みだけが残存している」飛行機が展示されている、となるでしょうか。
飛行機の名前は、ライトフライヤー号。
そして皆さんの使命は、博物館にコレクションを手放させること。かの飛行機に最後まで付き従った翼を、主の元から取り去ることです。
ぅん? いえいえ。はい。
「ライトフライヤー号の翼」はマイルストーンです。
一九六九年。アポロ11号の着陸船・イーグルと共に、月面の静かの海、静かの基地へ。
二〇二一年。ヘリコプターのインジェニュイティと共に、火星の大シルチス台地、ジェゼロ・クレーターへ。
二〇三六年。オリオン宇宙船の乗員モジュール・オーロラと共に、月軌道プラットフォームゲートウェイへ。
DSTビークル旗艦・ライジェルの中に。シャクルトン月面基地・ワイルド宇宙港へ。ブルー・キャンドル探査機と共に海王星を。カリスト・ヴァルハラ基地管制塔に。
二百年以上前にキルデビルヒルズの空を駆けた飛行機は今や、太陽系中にその両翼を広げています。
最後に残された一片は、太陽圏外に。皆さんと共に。
以上です。
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Hasuma_Sさんでした!
予想結果: kihaku, ShicolorkiNaN, aster_shion×2, Hasuma_S, Tutu-sh
小さな籠の小さな止まり木の上。それがぼくの世界の全てだった。その外には大きな生き物がいた。彼らはぼくの身体よりもずうっと大きい。だからここへ来た時、ぼくは食べられてしまうんだろうと思っていた。
でも、違った。彼らは毎日食べ物をくれた。目と目が合うたびに話しかけてくれた。ぼくにはみんなの言葉がわからない。でも、ぼくは声の色がわかった。だから、それが太陽の色なのか、雨の色なのか聞き分けられる。それに真似だって得意だ。ぼくが太陽の色の言葉で返すと、みんなはわははと笑った。
ぼくはこの世界に満足していた。食べ物もある、嬉しいもある。でも、籠の世界は少しだけ、ほんの少しだけ退屈だった。毎日が同じだったから。だから、今日は籠の扉も大きくて透明な壁も開いていたことに気がついた。
ぼくの羽が大きく広がる。小さな身体が空を舞う。風が気持ちいい。空は高くてそのてっぺんには届きそうもない。地面は綺麗な四角い岩が並んでいて、ぼくがいた世界もそのうちの一つだった。空から見たそれは小さかった。
ぼくは風と空を手に入れた。きっとぼくはどこまでも遠くへ行ける。自由に旅ができるようになったんだ。でも、何かが足りなかった。世界にはたくさんの音があった。葉っぱが擦れる音、風が流れる音、鉄の塊が走る音。でも、どれもぼくが欲しいものではなかった。ああ、そうか。ぼくはようやく気づく。それはきっと、小さな世界だからこそ溢れていた色だったんだ。
小さな籠の小さな止まり木の上。何食わぬ顔でそこに戻ると、大きな生き物たちが慌ててこちらに近づく。僕は繰り返す、太陽の言葉を。
「タダイマ!」
みんなはぼくを抱きしめた。その声は天気雨の色だった。
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Tutu-shさんでした!
予想結果: AAA9879, renerd×2, Tutu-sh×3
成層圏に達した鳴動に掻き消されながら、天井から響くアナウンスは到着を告げていた。今回ダークツーリズムの目的地、アスカリス星系第二惑星グリーンワールド。人類の故郷の1つにして、義務教育でも名を聞く史跡である。
「ここではお互いよそ者ですね、か」
かつて足元で交わされた挨拶を虚空に向かって口ずさみ、小洒落た気分に浸りながら、スミスは人類故郷の門を叩いていた。崩落した建造物の写真は歴史の教科書で目にしたことがある。水を口の中で転がして、スミスは窓枠に体を預けた。眼下に広がるのは累々たる屍の山か、滝のような血河かと思われた。荒廃した文明の残滓が大口を開けて待つ様を思い浮かべる。
「おや」
そこに広がるは赤々とした大森林であった。1秒に数マイルを進む魚雷のような金属の下に、膨大な色素を湛えた樹林が流れ去る。かつて煤煙を生んだ爆撃や大地を舐めた毒ガスを微塵も気にしないかのように、生命が雲を目指して立っている。人類が益を見出せずに捨て去った雑多な植物は、1万年の歳月の中で進化と繁栄を続けたらしい。
外の影がスミスの思考の糸を切った。1対の翅を持つ何かが機体と並んで飛んでいる。皮膜に包まれた3対の支柱を持つ生物は、大気の流れに乗るようにしてぱたぱたと羽ばたいた。それはスミスに視線を送りながらしばらくの間並んでいたが、やがて興味を失ったか、あるいは体力が尽きたようにして、次第に後ろへ離れていった。
金属のフレームに手を伸ばす。
「生き延びて、乗り越えて、空まで登りつめたのか」
濃密な空気のうねりを機体越しに感じながら、スミスは次の目的地に期待を寄せた。人類がよそ者でなかった宇宙で唯一の地、太陽系第三惑星に。
この作品の作者は
ShinoguNさんでした!
予想結果: ShicolorkiNaN, ShinoguN×5
「楊貴妃が非業の死を遂げたとされるこの場所では―」
「髑髏だ」
「そんな野ざらしがさすがに楊貴妃なワケないだろ」
「一応埋めとくよ」
「誰だ?」
「フェイ」
「妃フェイ?」
「まさか本当に―」
[絶叫]
「橋を切り落としやがった」
「助けは来ないってこと!?」
「あんな曲がりくねった矛―当時の技術じゃあり得ない」
「大の男が何を溜息ついている!」
[絶叫]
「俺とお前は生きた時代は違う―だが」
「死ぬ時は今 同時にだ」
[[>]]
近日公開
[[/>]]
この作品の作者は
NorthPole さんでした!
予想結果: kihaku, renerd, NorthPole×4
宇宙ステーションは飛んでいないという話がある。ボールを投げればボールは地面に落ちていく。速く投げればその分ボールは遠くに落ちる。もっともっと速く投げれば落ちる高さは地球の丸みより小さくなる。そうなればボールは地面にぶつかる事はない。宇宙ステーションがやっているのはまさにそれで、ただ落ちているだけなのだという。
踏み切りの回転に捻りを加えて青空を見上げ、天球を横切るISSを眺めながら僕はそんな事を思い出した。海、空、宇宙。夢に満ちたフロンティアは次々と人に開拓され、その度に更新されてきた。きっと宇宙が既知となった時にはまた新しい未知が目の前に聳え立っているのだろう。今飛び越えた高跳びのバーが跳んでも跳んでも高くなるばかりであるように。
必要なのは十分な高さ。落下時間は当然最短。だからこそ僕は思うのだ。この一瞬が永遠となる時、果たしてどんな浮遊感が僕を待ち受けているのだろうか。軌道上を落ちるのはどんな感覚なのだろう。遮る物も抵抗も無く、身一つでひたすら落ちていくのはどんな気分なのだろう。思う間に僕は地面に墜落する。いつもと同じ、五秒にも満たない対空時間。
僕が落ちるマットは固く、柔らかい。立ち上がれば踏み抜いてしまいそうに思えるほどにスカスカで、着地の一瞬、自分で落ちたと分かっているのに—あるいは体が止まったからこそ—まだ落ちているように錯覚する。そうして一時僕の精神は空を飛ぶ。だから僕は高跳びが好きだ。実際より長い飛翔が見せる遥か遠い夢のよすが。
マットに沈みながら見上げれば、国際宇宙ステーションはまだ視界の中を飛んでいる。青空の中、それは悠々とバーの上を落ちていった。
この作品の作者は
1NAR1さんでした!
予想結果: meshiochislash, Hasuma_S×2, 1NAR1×3
「じゃあもう出禁って事で。つーか俺もロックやってたから言うんだけどさ、聴く側に対するリスペクト無いの、どうかと思うよ」
ライブハウスの管理者は勝手口に入って行く。幸いなことに手には空になったバス・ペールエールの瓶が握られていたのだけれど、殴打か投擲、どちらにも移行できる腕の動きは連れのベーシストに停止させられた。扉が閉まる。
傷害行為が妨害された当然の権利として、自分のバンドのベーシストを空いた手で殴打する。殴打を浴びたベーシストは、その倍の威力で鳩尾を殴ってきた。私が望んだ通りに。今の私に相応しい、鼻を突く匂いの胃液が口と鼻穴から吹き出す。
地面にうずくまると、背負っていたケース伝いにギターの重みが私にのしかかる。私はこいつのかつての奏者たちに相応しいギタリストじゃない。背骨を伝って5弦あたりが共鳴しているのを感じる。実音A。オーケストラのチューニング音を幻聴しつつ、立ち上がる。路地裏のライブハウスの裏手。ゴミと、酒の空き缶と、吸い殻の吹き溜まりと、私達がいた。
「何でお客さんを殴ったの」
ベーシストが問う。
「ダイブした私を客どもが受け止めた。気に入らなかった。私は一人でも飛べるから」
まだひりひりと痛む拳で口の端を伝う反吐を拭う。
「あんたが一人で飛べるのを、私は、私たちは知ってる。それじゃ不服? 秀才ギタリストさん」
ベース弾きの差し出すハンカチを乱暴に受け取り、これ見よがしに鼻をかんでやる。ハンカチの持ち主が私の尻を蹴ってきたが、もう殴り返さなかった。借り一つだ。くそったれ。
ボーカルとドラムスがこちらを心配そうに見ている。ふたりは路地裏を抜け、仲間へと手を振った。