第一回:700字文体シャッフル企画
投票終了
テーマ:祈り
参加方法:meshiochislashのTwitterかDiscordのdm、wikidotのpmに700字以下の短編を投げる。お一人様一つまで。
参加資格:SCP-JPに著作がある。AIでない。
Q.文体シャッフルって?
A.みんなで匿名で文書いて、それを誰が書いたか当てる企画です!だから何書いたかいうなよ!
Q.期間短くね?
A.ああ!
Q.過去作は?
A.下記リンクから文体シャッフルハブに飛べます!
Q.構文は?
A.by ukwhatn。偉大なる御大に感謝。
EveningRose
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著者ページ
winter key
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著者ページ
meshiochislash does not match any existing user name
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著者ページ
makigeneko
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著作
souyamisaki014
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著者ページ
stengan774
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著者ページ
four Boretto
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著者ページ
hitsujikaip
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著者ページ
Ruka_Naruse
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著者ページ
watazakana
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著者ページ
pictogram_man
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著者ページ
Jiraku_Mogana
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著者ページ
teruteru_5
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著者ページ
EianSakashiba
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著者ページ
ukarayakara
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著者ページ
Dr_rrrr_2919
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著者ページ
Kuronohanahana
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著者ページ
Musibu-wakaru
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著者ページ
Matcha tiramisu
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著作
islandsmaster
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著者ページ
GermanesOno
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著者ページ
KABOOM1167 does not match any existing user name
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著作
hallwayman
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著作
景品について
思ったよりみんな当てにきてくれなくて寂しいので、今回最も多く当てた方には景品として僕を批評にこき使える権利を差し上げます。この企画終了後1回まで、DMで言っていただければmeshiochislashの全力批評の手をお貸しします。参加よろしくな!
投票締め切り
投票締め切りは7/16の適当な時間です。多分23:00とかそのへん。
No.1:
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No.46:
投票方法: 上記のテンプレートを使って僕のdmに送ってきてください! 全部埋めなくてもいいです
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- No.39
- No.40
- No.41
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- No.45
- No.46
author:Dr_kudo
Dr_kudo meshiochislash×2 ruka-naruse×2 sansyo-do-zansyo hasuma_S Dr_knotty
最近酒を覚えた。直に煙草も吸うだろう。
炭酸水と氷を用意してると、2時きっかりにチャイム。玄関のドアの隙間、明滅する廊下の灯から逃れた影が滑り込む。夜闇の色をした長ソックスと短パン、暗い無地のシャツ。似合うのは素材がいいからだとは彼女の言。手に提げたビニール袋だけが白く浮いて、中からスミノフの小瓶が涼し気に挨拶。
「せふ、これお土産」
「また?」
「ウィルキンソンあるよね!始まっちゃう」
来訪は親が契約したBSで見れる海外クラブ目当て。勢いよく腰を下ろした隣に身を寄せると、小柄な体躯が放つ熱気を感じた。グラスを渡すと犬歯がチラリ。キックオフ。彼女との他愛無い会話も開幕。
「ね、いいサッカー選手ってなに?」
FWは得点力、MFは走力、DFは対人守備力。画面を注視しつつ数えて折れる細い指、でもその反対の手先は何度も驕奢なライターの肌を撫でる。この部屋で使われたことは一度もない。
「でもピッチで祈れる選手は好き。出来ることをやり切った証拠だから」
「っしゃ、勝ち点ゲット!」
大きな声を上げる彼女を私は外に誘った。機嫌よく同行する彼女に、チームが負けた腹いせじゃないけど、私は爆弾を放り込む。
「それ、どんな味?」
ジーンズのポケットから除く青くて奇麗な紙の箱。
「いやいや、吸うのならやめとけ?こんな重いの可愛くねえ。興味あるなら選んでやるから」
「ダメだよ、一生の相棒になる、かもな銘柄を人に決めさせるなんて」
「じゃあ御三家方式にしよう。そっから選べよ。な」
いつの間にか手を引かれ、私達はコンビニに急ぐ。次の試合の時間が迫っていた。空も白み始めている。まだ私に出来ることは残っているのか。
最近酒を覚えた。直に煙草も吸うだろう。
author:meshiochislash
Dr_knotty p51 AKQJ10 kskhorn eveningrose owlcat
神社で目を瞑り手を合わせている人間を見るたびに、「今なら殺せるな」と考えている。もちろん僕は殺人鬼ではないので実際には殺さないし、殺し屋ではないので本当に殺せるかもわからない。
散歩がてら昼の神社には良く来ている。別に信心深いわけでもないけれど、鳥居と石畳が作る厳かな雰囲気と、ひだまりに置かれたささくれたベンチの柔らかさが好きだった。飲食も許されているので、コンビニで買ったおにぎりと緑茶で10分ほどは滞在できる。その10分で僕以外の参拝客が来るのは稀で、来たとしても一人。だからこそ余計に、殺せる、なんて考えてしまうのだろうか。
意味のない空想も嫌いではない。ひだまりで考えるには物騒がすぎる気はするけれど、取り止めのない空想なんてそんなものだ。緑茶とおにぎりの包装をバックに放り込んで立ちあがる。歩きながら、財布から五円玉を一枚取り出す。場所を借りている以上賽銭は投げないと、神様に、あるいはここの神主さんに申し訳ない。
放られた金属が音を立てる。目を瞑り、手を合わせる。別に祈ることも特になく、ただの儀式として。
石畳は足音がするから、後ろから誰か来てもわかるのだと、その時初めて気がついた。
author:AKQJ10
AKQJ10 hallwayman×2 eveningrose owlcat
クリスチャンである両親から生まれた私がクリスチャンになるのは、ごく自然な流れだった。
食前や就寝前、起床後にはお祈りをするし、毎週日曜日には教会へ通い、歌い、祈りを捧げる。
幼いころから続けてきたこれらの習慣を嫌に思ったことはなかった。
日頃忙しくて家に居なかった両親が日曜には必ず予定を開けてくれたこともあって、ミサなんかはかなり楽しみだったし、高校進学のための一人暮らしを始めてからも欠かさずに続けていた。
ヨシュアと出会えたのもミサのお陰だった。
彼は私と同じ高校一年生。
ミッション系の女子高に通っている私にとって、同年代の異性の教徒は新鮮で、興味深い存在だった。
一方、公立高校に通っていたヨシュアにとっては、同世代の教徒自体が珍しいものであったらしい。
だから、そんな私たちが意気投合するようになるまでに、そう時間はかからなかった。
ヨシュアは私より敬虔なクリスチャンで、お互いに聖名で呼び合うことを提案したのも彼からだ。
最初こそ流石にやりすぎじゃないかって思ったけど、次第にそれが私たちの関係の証であると受け容れられるようになった。
私は、彼の「アグネス」と呼ぶ声に、この上ない安らぎを感じるようになっていた。
それなのに、ヨシュアはもうこの世にはいない。
夢であってほしかった。
よく神に尽くした彼が何故と、思わずにはいられなかった。
でも、祈れど祈れど、彼はその聖名のように蘇ってははくれない。
私は諦めの果てに、長く信じたカトリックを棄てた。
author:eiansakashiba
R-00X×2 winter key taneyama imerimo
「……気になることでもあったか?」
人の気配が一切ない世界で2人の女が戦闘を繰り広げていた。彼らは人間そっくりに作られたヒューマノイドであり、命令主不在の時代をあてどなく旅していた。先刻も命令系統がイカレた同胞の襲撃に対処していた。
「こいつが変な挙動してたなって」
そう言うと片方のヒューマノイドは転がるロボットの頭を獲物の剣で小突いた。
「両アームのグリップを眼前で組み合わせてた」
「それは『祈り』の所作だろう」
「祈り?」
槍を持ったもう片方が答え、剣が聞き返した。
「不要な感情を全て捨て、ただ一点の願いを天命に賭す行為のことだ」
「目前の演算を放棄した?何故そんな不可解な行動を……?」
「迎撃機能を内蔵してない我々が一々他機のエラーに突っかかってられないぞ」
「武器を取り暴力で祈りを示す。私達も同じだ」
「でも終着が不明だ」
剣が下を向いたまま反論した。
「こいつは、終わりが見えたから祈れたんだろ?」
長く旅をした2人は教会に辿り着いた。金属が皮膚シリコンから露出し、脳内はオーバーフロー寸前で、とても人間には見えない形になった。教会には女の死体があった。
「これが……私達の旅の終わりなのか?」
槍が混乱している中、剣が屍の白衣から何かを取り出した。
「うん、ちゃんと終点らしい」
それは紙の写真だった。死体の笑顔と自分達が映っており、裏面には3つの名前が記されていた。
「じゃあこれが我らの創造主?」
「らしいな」
「顔も私達の名前も、やっとわかったってことか」
「なら……演算すべきはあと1つか……」
ボロボロの武器ふたつは主の近くまで寄り、跪き手を合わせた。焼き切れる寸前のCPUには確かに、何らかの強い想いが込められていた。
author:ruka-naruse
carbon13 gokipo×2AMADAI musibu_wataru
盆入りの灼熱に曝された墓石に融けて貼り付いた蝋を剥がす。
たかだか月千円のお高い管理費で草毟りから清掃までを押し付ける大変信心深い檀家の墓前に除草剤を撒いていく父親を遠目に、春を経てすくすくと育ったアザミを力任せに引き抜いた。軍手を貫く茨とタオル越しに項を焼く日差しにうんざりする。
嵯峨鼠色に乾いた塔婆を掻き集め、ステンレスの籠に放り込む。それを数度繰り返してからそれにペットボトルに詰めた灯油を撒く。火屑を放り込むと忽ち陽炎の一部になった。
ショルダーバッグから一掴みの線香を取り出し、纏めて火を付け、それを片手に墓を回る。
歴代の住職の墓に3本。
そうでない先祖の墓に3本。
10年前まで実家の二階で隠居していた婆さんの墓に3本。
俺が頭を丸めない事に文句を言い続けたままくたばった檀家の墓に3本。
顔も知らない檀家の墓に3本。
至って平等に線香を分配し、最後に余った十余本を檀家かどうかも分からない墓に捨てた。
私服の上から形ばかりに輪袈裟を掛け、左手に数珠を提げて鈴を持つ。
そこまでやって蝋燭を点けてない事に気付いたが、父親は気付いちゃいなかったので黙っておく。この炎天下において最も優先されるのは完成度ではなく如何に早く事を済ませるかだけだ。檀家の墓の一つに正対し、不本意ながら暗記している経文を垂れ流す。
開経偈、
方便品、
寿量品、
運想、
題目、
四弘誓願。
どれにどんな意味があって、どうしてその順に読み上げるのか。俺は何も知らないし、この墓に眠っているどこかの誰かも知りやしないだろう。
別に何ら問題はない、この国じゃこれが祈祷であり、それが信仰なのだから。
墓石にオオミズアオが貼り付いて静かに風に揺すられていた。
author:ukarayakara
ukarayakara×3 hasuma_S AKQJ10 ashimine
海上に幾匹かの腕が集い、薄橙の肉塊として鱗のついた肉を撫でる。
夜、何らかの油が浮く。水滴が滴り落ち続ける。
這う指は明らかに女のものであるとわかる。慈しんでいることを知る。同時に、肉をより沈めようとする重みを感覚する。腕は両方を意味して抱えている。
女の腕はますます多くなっては、次第に震える肉を取り囲み、逆立つ鱗に肌を削られ、なおも絡みついて血を流す。腕のかたちはすべて等しい。違いがあったとしても、お互いに知覚しないだろう。
鱗はざわめいて肌を裂き、波打っては指を折る。水面の境から尾が覗けば、腕共はいっそうに湧いて水を搔き、指を目いっぱいに開いて掴み取ろうとする。腕は自身がなんであったかを忘れている。ただ鱗が油を纏い、淡い月を照り返すのに溺れている。
鱗肉が全容らしくも見える隆々とした魚体をあらわした頃、腕たちはいっそう境目を留めずにいる。もとはひとつの躰だったのだから。骨が割れ、肉の削げた腕たちはもはや確固たる肉々しさに抗えずに、集合として翻弄される。海の上にいるのも容易ではなくなった。生きた肉の、荒々しさの付属物となった。頭と鰓のない魚体の雄々しさ。泳がず、息をせず、だから輝いて見える歪さ。
やがて彼女たちは鱗肉を囲み、撫ぜる真似事をして水面に静かに自らを浸す。触れることはない。鱗を撫でた経験か、撫でられたという夢想かに触れていると感じる。かの鱗に通じていると信ずる、自らの内側を撫でている。
そうして鱗肉はどこかへ流れ、あとには僅かに震える腕だった肉塊が残る。
author:islandsmaster
islandsmaster×2 k-cal×3 Dr_knotty×2
一人で寺を訪れるのは、これが初めてのことだった。
何か深い事情があったわけじゃない。父が腰を悪くして病院に行き、母はそれに付き添う必要があった。兄は就活で上京して不在。弟は全国模試の真っ最中。
だから結局、私だけが来た。
猛暑の平日、墓地は陽光に白く霞んでいる。桶に入れた水が揺れている。母から託された花を脇に置き、墓石の土埃を拭いながら、顔も知らない姉のことを考える。
彼女は呼吸することがなかった。私に似てせっかちなのよ、と母は寂しげに笑った。外の世界を見たくて堪らなくて、子宮を突き破ってしまったの。あと1ヶ月待てばよかったのに。
死んだ姉を意識する機会はほとんどない。普段は存在だって忘れている。だけど唐突に思い出すのは、いつも梅雨明けの炎天下だ。冷房の効いた本堂から一歩出て、石畳の上を吹き上がる熱風に仰け反るあの感覚、墓参の意味もわかっていなかった幼少期の記憶が、今でも夏になると蘇るのだ。
だから私がここにいるのは、ちょっとした郷愁と義務感のためだ。
掃除は思ったより簡単で、花受けの水を入れ替えてなお、桶の中に太陽が煌めいていた。余った水を墓石の周りに撒く。揺れる陽炎の中、墓石は黒ぐろと静かに立っている。
先祖代々の墓。会ったことのない人たちの墓。あと十何年かすれば父か母が、もしかすると私自身もいずれは、灰になって共に眠るだろう墓。
それでも私にとってこの場所は、姉だった赤ん坊のための場所なのだ。柄にもなく家族代表を志願したのは、夏の熱気と線香の煙と数珠の擦れる音と母の横顔が、すべてひとつながりの事物だからだ。
手を合わせる。私は姉を悼んだことがない。
代わりにいつもの挨拶をする。
「また来るよ」
author:kronohanahana
AMADAI souyamisaki014 KABOOM1167 eiansakashiba Dr_kudo
星とはどのようなものだろう。私はこの世界の空を知らない。上を見上げても有るのは天井ばかりで、この広い広い屋敷には窓ひとつない。
「お星様が欲しいわ」
世話係にそう言うと、彼は困ったように笑って少し考え込んだ。
「……些か、私の腕は短すぎます」
「それなら、私が取ってくるわ」
私がそう言って踵を返すと彼は大慌てで私の行く道を塞いだ。
「なりませんお嬢様。外は未だ戦争の最中で御座います。もしお嬢様になにか有りましたら私は――」
「わかった、わかったわよ」
彼はとても過保護だ。私を外に出すことは絶対にしないし、常に私と一緒に居る。多分、お父様の言い付けも有るのだろうけれど、それ以上に彼は私を護ろうと必死なのだ。それが解っているからこそ、強く言えない自分が悔しい。
「この戦争が終わったら、外に出られるかしら」
「ええ、その時は共にお星様を取りに参りましょう。その為に、旦那様が勝ち星を取ってきてくださいますよ」
「お父様は星を掴めるの?」
「旦那様は全てを手に入れるお方です。勿論、お嬢様もすべてを手にすることが可能で御座います」
そう言って微笑む彼の言葉が、優しい嘘で固められていることを私は知っている。この戦争は劣勢だ。西の図書館が燃やされる音を私は聴いていた。あれは知識の燃える音だった。お父様は全てを手にするなんてことはできないし、多分、勝ち星を手にすることもできないのだ。
「……戦争が終わったら、お父様と私と貴方の三人で、きっと、お星様を取りに行きましょうね」
「ええ、必ず」
私は祈らずにはいられなかった。その姿を知りもしない星に、私はお父様の無事と、戦争の終結を祈った。
author:taneyama
KABOOM1167 eiansakashiba pictogram_man roneatosu gokipo
「お願いです、どうか許して、お願いします……!」
嘆願も虚しく、縛られた彼女の腿にナイフが突き立てられる。痛みと恐怖から彼女は絶叫し、一層切実さを増して許しを願う。祈られた男はその声に満足して彼女の首を切ると、カウンターの数字を1つ進めた。
男は何者でも無かった。社会的地位はなく、友人や彼女もいない。しかしこうなってしまったのは彼のせいではなかった。男が9歳の時、親が宗教に入れ込んだのだ。
その時から、男の人生は侵食され始めた。会合に連れられる頻度は徐々に増え、日々の生活は独自のルールで縛られるようになった。幼い彼が教義を疑う事はなく、教団傘下の中高一貫校に進学した事で男は社会から完全に隔離された。
段々と家が貧しくなっていく理由が、教団への献金であると男が知る由はなかった。両親は節約ではなく、教祖への祈りで豊かになれると信じていた。しかし男が16歳の時に、宗教への傾倒のために父親が解雇された事が一家に止めを刺した。
ここに至って親戚達はせめて子供だけでもと、拒む両親から男を無理矢理引き離した。自由になり世界を知った男は、やがて教団の異常さに気付き両親を救い出したいと考えるようになった。しかしこれに矛盾するように、男はまだ宗教を信じてもいた。
男は教祖がただの人であると知りながら、同時に神であると信じてもいた。男は考えた。どうすれば両親を取り戻せるのか、どうすれば神に勝てるのか。何が教祖を神にしたのか、自分が教祖に立ち向かうには何が足りないのか。そうして自分と教祖の違いを考えた時、頭に浮かんだのは彼を取り囲む信者達の姿だった。
彼は祈りこそが、神を神たらしめていると結論付けた。
author:watazakana
carbon13×2 p51×2 KABOOM1167 mishary four_boretto
「祈り、とは……」
黒板に音を立てて付着するのは白粉。「呪いの一種である。」と解釈できる線の集合。
「では、祈りと呪いの分水嶺は何だろう。これはミクロかマクロかの違い。呪いは人が直接人にかけるものです」
人という線の集合はふたつ。
「身近な他者に対する尋常でない想いを伝えるための一手段だった。まじないというのも、のろいという言葉の負の側面を排除した結果」
では、祈りとは。と続ける。
「形而上の存在が対象の場合が多い。そう、普段お祈り申し上げますとかいう言葉を身近な人に向かって使うよね。あれは人に祈っていると見せかけて、神様に祈ってるんだね」
人と人が底辺になるように、神がその間の上に書かれる。
「これは、人と人の間に神様を挟んでる」
人、神、人へと、矢印が書き足された。
「神様は人間を助けてくれる。それも人間にはできない方法で。僕らの手では届かないことを、神様が取り持ってくれる」
人がどうにかできないものは神様に委ねる。それが祈り。
「この差は大きかった。何と言っても、「自分がどうにかできる」と思っている範囲を知ることができた」
今では有名無実化して、祈りは呪いのポジティブ版だけど、とこぼしたところで、鐘の音が無駄話に終止符を打った。
などということを、メールに載っている「貴殿の活躍をお祈り申し上げます」という文章で思い出した。
今では有名無実化している、といったが、名残は残っていると思う。この山のように積もるお祈りメールのどれも、「弊社が君を活躍させることはできない」と自白している。謙虚なものだ。眼球は強いブルーライトをぼんやりと見つめてもなお、あの教室を幻視していた。
author:k-cal
k-cal eveningrose×2 nemo111 pictogram_man owlcat kronohanahana
祈る者は孤独を強いられる。両手を合わせるためには、人と繋いだ手を離さなければいけないから。
吐く息も白い正月の神社。もう何年目かの彼との初詣で、私は握られた手に彼の体温を感じながら、きっと今年が最後になるだろうと考えていた。
この一年、彼の気持ちが離れていくのを、ずっと何もできずに眺めている。
彼が就職すると、急速に関係は薄れていった。毎晩の電話でも彼の声は気怠げになっていったし、焦って匂わせた同居の提案も笑って流された。人の繋がりの脆さに気付いたときには、すでに全てが手遅れになっていた。
せめて、この手を離したくない。もう私たちを繋いでいるのは、この手だけのような気がしていた。この繋がりが消えてしまえば、私まで消えてしまいそうな不安があった。
列の先頭が回ってきた。手を離さない私を、困ったように彼が見る。
私はごめんと笑って手を離す。彼が百円玉を投げ入れて、私は五円玉を投げ入れた。彼の温もりが消えてしまう前に手を合わせ、目を閉じる。
別れたくないと祈ろうとして、逡巡した。どうして。彼の心が冷め切っても、私は彼をまだ――
隣で彼が動く気配がした。きっと彼は何も願っていない。
僅かに残った彼の温度が、閉じられた両手の間で行き場を失い、それが突然気持ち悪く感じられた。それで、私も彼と同じように、何も願わず手を下ろした。
冷たい空気が手の平から彼を奪っていく。凍えてしまいそうな孤独は、だけども妙に心地よく、私はきっと祈り始めるずっと前から、これに慣れてしまっていたことに気が付いた。
私は寒いふりをして、両手を上着のポケットに隠したまま歩き出した。彼もまた、同じようにした。
author:matcha-tiramisu
mishary×2 watazakana renerd hitsujikaip
初夏や汗ばむ午前9時
曲がり山道笠老婆
理由問う也安寧の
両手合わすは苔地蔵
しばし沈黙日陰揺る
貴方は何を願うのか
社交辞令と嘘八百
卑劣な都会に耐えかねて
面倒くさなる関係に
飽きて望むは閑閑や
明くる明くる日山道で
未だ老婆は願いたる
丸く収まる背中看て
又話しかける事は無し
ある日老婆は現れず
拠ると病に倒れ逝く
夏を仰いだ午前9時
私は地蔵に手を合わす
老婆が何を願ったか
緑陰は解を知らざるや
地蔵は解を知らざるや
私は解を知らざるが
老婆は確かに微笑っていた。
author:nemo111
Dr_knotty×2 p51 winter-key kskhorn carbon13
何故、人は右の5本指を左の5本指の間に挟み込むことを以て、空想上の神に対する祈りのポーズとしたのだろうね。
非常に興味深いことだ。人は祈りという単語を意識すると、自然とそのような形で手を組み、片膝をつく強いイメージを有する。まさに今の君が私の目の前でそうしているかのように。
更に不思議なことに、君やその他大勢は信仰深いカトリックの信徒という訳でもないのに、先程述べたようなイメージを広く共有している。つまりこの祈りの様式は君が遥か赤ん坊であった時代から、非常にメジャーな形であるということだ。
ところで君はこの祈りの形式と類似した形で、全く違う意味を示すハンドポージングがあることを知っているだろうか。それもある特定の趣意としては君をはじめとした多くの人類に広く強く周知されており、そういった意味では祈りと同種の存在と認識されていてもおかしくはない。
だが祈りとは全く違う面が一つある。それは一人では行うことができないという点だ。広義的に捉えようとするならば、一人でもその行為は可能という結論に至るが、あくまでそれは広義的で曖昧であるという条件が発生する。つまるところ、君を呼んだ理由はそこにある。さあ、ではその合わせた手を離したまえ。
それはこのような形を取る。片割れの手にもう一人が先程の祈りの形式と同じように五指を交互に組ませる。これで完成だ。他者が介在するだけで形としては先程まで君が取っていたものに非常に類似している。つまりこれは二人で行う神への祈りと言っても過言ではないのだろう。当然ながらポーズを取った以上、祈る内容も誠実で清廉なものでなければならない。つまりは───
何か言いたまえ、馬鹿。
author:stengan774
stengan774×2 jiraku_mogana×2 watazakana carbon13
逢魔が時の大路に刺す人影は1つだけだった。影の主である旅装の男に、同行は見当たらない。
文永10年、世は乱れている。強大な元の襲来が予期される中、朝廷では上皇と天皇の対立が深まり、当代の鎌倉幕府執権は異母兄弟を殺害。国は正に内憂外患の只中にあり、民草はこれを"末法の世"と嘆く。無法は至る所に蔓延っていた。
だというのに、男は一人だ。
「そこのお方、女難の相がありますな」
男が見やると、声の主は道端に座る托鉢僧であった。網代笠を目深に被り、俯いている。顔を見もせず相とは──男はそのまま歩き去ろうとする。
「貴方にはそう──凄まじい悪霊が憑いておられる」
男は足を止めた。
「それを祓うには──」
「──安珍清姫の伝説を知っているか?」
男は小袖を捲り上げる。その腕を覆うのは傷跡──否、火傷であった。その様はまるで、腕に巻き付く巨大な蛇のようで。
「前世よりのこの呪い!祓えるものなら祓ってみるがいい!」
火傷の跡はもはや煌々と赤く輝き、燃え盛り始めていた。炎は蛇の形を取り、逆巻いて僧侶に牙を剥く──。
──しかし、僧侶の前に突如出現した鎧武者達が炎を阻む。男は思わず身じろぐ。武者の体は皆朽ち果て、この世の者共ではないことが容易に想像できたからであった。
「強大な悪霊を祓えるのは、同じく強大な法力を持つ僧のみ。浄土・法華・臨済、多くの僧がこの末法の今、衆生救済の頂点を決しようとしています。舞台は、鎌倉」
僧侶が笠を脱ぐ、そのシルエットには、あるべきものが2つ欠けていた。
「如何か。呪われし者同士、いざ鎌倉へ」
「耳なし、芳一……!」
続く
author:souyamisaki014
k-cal meshiochislash stengan774 renerd AKQJ10 matcha tiramisu
『水瀬いのり、結婚を発表』
友人からの「おい」という一言だけのメッセージ付きで、俺の携帯に届いたニュースの見出し。
思わず出た「は?」という声を、自分の耳が拾って初めてそれが自分の口から発せられていたことに気づく。
初めに気づいたのは疑問の感情で、次に輪郭が掴めたのは怒りだった。どちらも根源は同じ。信じていたものに、尊び合っていたはずのものに裏切られたということ。
してなるものか、これを認めるなど。
いわゆるガチ恋とかそういうんじゃなかった。ただ一介のオタクなる自分が作り演じる聖域の側の人間とどうこうなんて思い上がっちゃいない。
他の声優ならいい。デカい胸もかわいい顔も、元来から俺たちは声優にそんなものが付いていてもどうでもいい。だから別に、他のドル売り声優が男を作ろうが俺たちは傍から笑うだけだった。むしろ演技の幅が広がるなら恋愛でも性交でもなんでもやれとさえ思っていた。つまりこの怒りの根っこはそこじゃない。
彼女は、彼女だけは、「そう」じゃないと思っていた。自分を晒すことが苦手なのだと、歌に感情を込めるのも下手で、詞や曲に上手に乗れないのだと、だからか細かい機微を蔑ろにしてしまう大雑把な性格をしているのだと、言っていた。
同じだ、と思ったのだ。彼女と俺達との間には、だからそういう不器用さみたいなものに対する信頼が、送り手と受け取り手という関係の中であったはずなのだ。彼女の抑揚に乏しくい声の中に、俺たちにしかわからない機微を感じ取る、そういう信頼関係があったはずなのだ。
だけど裏切られた。何だよお前。お前まで俺たちを見下すのか。ふざけるな。こんな思いをするくらいなら花や草に生まれたかった。
author:Dr_knotty
souyamisaki014×2 ruka-naruse rokurouku sansyo-do-zansyo
・いつかまた私を思い出したとき祈ってください一秒ばかり
・伸ばしても掴めぬものがある手でも組むことばかりはゆるされている
・リンドウよ黄昏の日に揺れたとて風に吹かれては散ってくれるな
author:hallwayman
AMADAI×2 kronohanahana makigeneko meshiochislash
—-
毎度毎度繰り返し、ただひたすらに希う。
どうか次こそ叶いますように。
昔、友達にこう言った。
「待ち合わせしたけど、少し遅れるから待っていて」
友は少し虚を突かれたみたいだったが、二つ返事で返してくれた。
その日は本来よりも遅い時間に集い、遊びに出かけた。
去年、クラスメイトにこう謝った。
「前に頼まれた資料だけど、時間が足りなかったんだ」
皆は本当にがっかりしたが、呆れて作業を手伝ってくれた。
その次の日はクラスの発表を行い、悪い点を述べられた。
過日、母親にこう話した。
「学校で作業があるらしいから、今日の買い物は一緒にはいけない」
母は少し残念そうな顔をしたが、ではまた今度と約束してくれた。
その明後日は近くのスーパーと家電量販店で買い物をし、荷物運びを手伝った。
先月、父親にこう願った。
「今の志望校だと家の年収だと厳しいらしいけれど、無理をしてでも」
父は深く失望したような顔を見せたが、次には何とも無いような顔をした。
その次の週は奨学金を申し込み、行けるように勉学に励んだ。
先日、両親にこう言案じられた。
「今朝おじいちゃんが亡くなったらしいけども、無理なんかしなくて良いから」
私は無視してでも行きたかったが、心配させないために何でもない風に装った。
お墓参りに行けるのは、一体いつになるのだろう。
今日、恋人にこう言い渡された。
「君はよく他の人のことを裏切っているけど、それ以上に自分自身を裏切っている」
彼に対して言い返してやりたかったものの、何も言い返せずじまいであった。
恐らく貴方に謝れる日は、二度と来ないのであろう。
だから私は、そして今日も私に奉る。
どうか私、次こそは誰の祈りも不意にしませんように。
author:hasuma_S
hasuma_S mishary Dr_rrrr_2919 matcha-tiramisu germanesono
静寂。浅い呼吸音。血溜まり。二つ。
視界が滲む。どこにも力が入らない。手を伸ばす。動かない。手が届かない。貴女がすぐそこにいるのに。私よりも強く、私よりも気高く、私よりも優しく。そして、ずっと私を守ってくれていたものが倒れている。剣が折れ、鎧が砕け。それでも、立っていようとしたものが、今。
唸り声。地響き。重圧。
何かがいた。それは悪魔か、機械か。それが何であろうと、それは私たちの前に立っていた。古く濁った血がこびりついた身体。周囲に散らばった何かしらの残骸。手、足、胴、頭。そこには進む道も戻る道もなかった。わかったことは、彼らが私たちを陥れようとしたことと。
澱み、歪む、悲鳴。
私たちが助かることはないこと。彼女があれに掴まれている。待ってくれ。止まってくれ。なぜ貴女が。私を。先に。声すら出ない。掠れた音が、彼女の悲鳴に掻き消される。溢れる血が増える。飛び散る。二つだった血溜まりが、一つに。感情が暗赤色の液体を伝う。初めて繋がった、初めて視た剥き出しの心。それは恐怖だった。
目を見開く。指を曲げる。口を動かす。声が出なくとも。
違う。貴女の終わりがそんな惨めなものであってはならない。恐怖の中で、無力さに打ち砕かれ、貴女であることを止めた、この瞬間が終幕になってはならない。でも、癒しの一つもできないほど朽ちた私に、できることは何もない。だから。
目を結ぶ。指を結ぶ。口を結ぶ。声はもう要らない。
どうか。どうか、彼女へ。私の最期の代わりに、彼女へ。彼女へ私の望みを。
視界が黒に塗りつぶされる。身体から失くしちゃいけない何かが抜けていく。終わり。全てが消えるその終わりに。
光が生まれた
author:p51
ruka-naruse eiansakashiba germanesono rokurouku winter-key
—-
何をするでもなく窓際の机で午後の町並みを眺めていた時のこと。いつもの背の高い同級生に声を掛けられた。
「抱え込んじゃってること吐き出してみなよ」
「気安く話し掛けんなって言ったでしょ。もう忘れたの?」
あいつは私の横で腕を大きく広げた。意思とは裏腹に口が開き、燻っていた感情が火炎放射のように溢れ出す。
「私、変なの。自分の体が自分のものじゃないみたい!病院に行っても何も見付からないし、思春期の子供だからそういう気持ちになるだけだって言われた!違うの!本当の私はもっと……そう……翼があるはずなの」
自分でも支離滅裂だと思う妄言を同級生に吐き出す。
「大丈夫、大丈夫。もう怖くないよ。よしよし、辛かったね~ちゃんと話せて偉い!ほーらよしよし」
幼児をあやすように頭を撫でられた。なぜだか涙が溢れて止まらない。
「祈りで何か変わるって言うの?ありえないわ」
「そういうと思った。でもねーこれが意外と効くもんだよ。騙されたと思ってやってみ?」
「宗教の勧誘でも始めるつもり?お生憎様、結構よ!」
彼女が俯いていることに気付いて血の気が引いた。恐る恐る顔を見上げると、あいつはにんまりと微笑んで私を覗き込んでくる。思わず顔を逸らしてしまった。
「優しいね」
「どこが」
「そういうところ」
「……少しくらいなら話を聞いてあげても構わないわよ」
待ってましたとばかりに語り始める。難しい単語──ミコやらリュウやら聞いたこともない言葉──が多くて内容は半分も理解できなかったが、嬉しそうに語る彼女を見ていると心が安らいだ。
「すまない。このような役目を押し付けてしまって」
「大丈夫です。空飛ぶ蜥蜴の化生に一生を捧げた巫女たちの覚悟を想えば、なんてことありません」
「ヒトガタへの霊魂注入により精神と記憶が不安定になっているようだが問題はないか?」
「その点についてはむしろ、今の方が都合が良いですね」
author:imerimo
imerimo owlcat taneyama carbon13 eiansakashiba jiraku_mogana
「誰に祈ってるんですか?」
「先祖だよ。自分を見守って下さるように、とね」
「誰に祈ってるのかな?」
「かみさま!」
「誰に祈ってるんだい?」
「誰だろうな、俺は信仰がないんでね」
「誰に祈ってる?」
「全てに」
「なんで祈ってるんですか?」
「大きな勝負の結果が明日決まるんだ。君も応援してくれる?」
「なんで祈ってるのかな?」
「明日天気になりますようにって!」
「なんで祈ってるんだい?」
「次の作戦だけはこれまでと違って、簡単に成功する気はないからな。祈りたくもなるよ」
「なんで祈ってる?」
「死後苦しみたくないからな」
「「「「他に何か君にできることはない?」」」」
「「「「ない、できることはもう全てやった」」」」
author:teruteru_5
teruteru_5×4 matcha-tiramisu
7/7。七夕。星に願い、祈る日。
今回の七夕は流星群が降るらしい。
普段と違う七夕の雰囲気に、皆が浮かれていた。
町で一番大きいモールには笹が置かれ、願い事を短冊に書いて、吊るしていた。
――「ヒーローに会えますように」
――「おかしをたくさん食べれますように」
――「元気でいられますように」
誰でも思いつくようなありふれた願いが、いくつも吊り下げられている。
私も何か願い、祈ろうと思考を巡らす。
そうだ。
美しいものが見たいんだ。
終わりの景色は美しいという。それが本当かわからないが、祈ってみる価値はあると思った。
――世界が終わりますように。
涙がぼろぼろと落ちるような流星群の中、私はただ祈り続ける。
author:jiraku_mogana
jiraku_mogana tateito×3 makigeneko
「先輩、事件です。」
事務所のソファから滑り落ちながら手に取った型落ちのスマホから、助手の声が流れる。
「やぁ、朝早くからご苦労だね。」
「今は午前11時ですが。世間一般には“昼“と呼称される時間帯です。」
スマホから耳を離し、カーテンが作り出す薄暗がりの中煌々と光るスマホの画面に目を細める。右上部に映る「11:07」という数字に、ボクは酒気を帯びた詮無い息を漏らす。
「ええと、」話題の転換。「それで事件はどこで起こったのか。」
「築地です。詳しい説明は車の中で。」
「築地‥。」
鈍い痛みに顳顬を抑えつつも、祈るようにボクは聞き返す。
「やれやれ。おそらく昨日の安酒のせいだな。僕のニューロンが短絡的な計算結果を弾きだそうとしている。いくら場所が築地といって寿司絡みだとは限ら」
「寿司絡みです。」
ホールドアップ。
この男、末益卓也(すえまつたくや)。持って生まれた優秀な頭脳で一流大学へと進学しエリートコース間違いなしと褒めそやされていたが、幼少期より傾倒していた探偵小説の主人公となる夢を諦めきれず大学を中退。以降探偵として複数事件を解決するが、何の因果かその事件は寿司に関わるものであった。誰が呼んだかいつしか彼は「酢飯探偵」と呼ばれるようになっていた。無論彼自身はその名を快く思っておらず、次こそ寿司と関与しない事件が来てくれと祈る日々であった。
「それで事件の概要は。せめて楽な事件だといいのだがね。」
「被害者の遺体が巨大な寿司桶の中で発見されました。死因はイクラによる窒息死。背中には寿司包丁で“ガリ“と斬られた傷が。」
やれやれ。探偵の祈りはことごとく届かないらしい。
author:R-00X
R-00X×2 stengan774 pictogram_man sansyo-do-zansyo eiansakashiba AMADAI
定期便がもうすぐ大気圏に突入する。断熱窓の向こうが微かに赤く輝き始める。その景色の奥底、地球の陰の中で、数えきれないほどの輝きが地上に夜空を生み出していた。逆に、夜景の中の人々が空を見上げれば、私達を乗せた旅客シャトルが赤熱し、星のまばらな夜天に一筋の軌跡を引いていくのが見えるに違いない。
かつて、人々は流れ星に祈りを捧げたという。その源流を辿ればキリスト教の逸話がどうこうという話があるらしいが、詳しい事は知らない。ただ、その風習が長く残り続けたのは、偏に流れ星というものが、願いを託すに相応しいほどに希少な存在だったからであろう。現代、シャトルが日に数千は往復するという時代に、シャトルの出す騒音を気にする人は居ても、シャトルを包む輝きに目を向ける人なんてまるで居ない。
私を取り囲む宇宙が、空になっていく。黒雲母の様な煌めきが、ラピスラズリの顔料で塗り潰されていく。その景色の中に、空へと登っていく流星を見た。白い雲を引き上げながら、輝くシャトルが私たちとすれ違う。それを横目に見て、そして何か思う事はない。当たり前の、馴染みに風景に、祈るべき事柄は何も思い付かなかった。
author:carbon13
carbon13 tateito p51 owlcat Dr_kudo
「じゃあ胡太郎君。君には今から式神に憑いてもらう」
「はあ」
くじらちゃんの知り合いを名乗る超奇人変人破廉恥な服装をした魔法使いを名乗る少女、奇界由縁は僕にそう言った。
「その……僕が闇寿司四包丁魔神包丁のトリェスギェストスに勝つために式神を持つってことはわかったんですけど。それが何でその棒を僕が口に突っ込まないといけないのかはわからないですね」
「式神は初めから持っているものだ。急に増えたりすることはないよ、いくつかの例外を除いてね」
「その"例外"をやるってことなんですかねえ」
「そうさ、君は何だって例外が大好きだろう」
「例外を好いたことはありませんよ、例外に好かれてるんだけなんだけどなあ」
彼女は手元に棒を出現だす。
「今からこれを君の口に突っ込む。ああ! 別に淫靡なことじゃないよ!」
「淫靡とは思ってませんよ」
「それで思いっきり祈ってくれ。祈って、生き残るように。ささやかながら私も祈らせてもらうよ」
「例外のために? 例外を持ってるんですか?」
美少女は口を隠して笑う。
「そう、私は"式神を増やす式神"を持ってるんだよね。君の魂にこれが食い込む。それで、式神が君を餌にして術式を発動させる! その結果、君に何かが残る」
「めちゃくちゃじゃないですか」
「でも私は君なら生き残れると思ってる、何にも執着していない胡太郎君、君なら!」
「……。」
それを聞いていたくじらちゃんは言った。
「こうやって聞くと遺伝子とアグロバクテリウムみたいな関係だ」
「それ今言う必要ある?!」
author:renerd
renerd kata_men×3 KABOOM1167 hasuma_S
ねぇ、編集者さん。血はインク、体は不変の美少女といえば? はい、著者娘ですね。では、著者娘が著者娘でなくなる条件は? ええ、そうです。著者娘が著者でなくなれば、流れるインクは血に戻ります。
では、何も書かなくなった著者娘が、著者娘であり続けたいと祈ったらどうなるでしょうか?
拒絶反応でも起こるのか、私の場合は大体二週間から一月に一回、酷いお腹の痛みと共にインクを吐くことになります。精神的にも激しく落ち込みますし、当然体力も消耗します。
そんな生活が二ヶ月、三ヶ月と続くと、ひどく不安になるのです 吐き戻したインクを無理やり啜ってみたり、体を切ってちゃんとインクが出てくるか試してみたり。バケツを横に毛布にくるまって一日中、私は著者娘なの、と念じ続けたこともあります。
え? ああ、そんな状態でも書かない理由、ですか。そうですよね、書けば解消される症状だと承知の上で、わざわざ苦しみを受ける。書けばいいだけなのに。
それはもちろん、嘘をつき、誤解を生み、人を騙すために決まっているじゃないですか。知ってますよね。私はとっても被虐趣味なんです。
自明のことですが、不動の人気を持っている素晴らしい著者娘の方々にはこんな症状なんて起こらないでしょう。あくまで私だけに限った話、プライド尊大零細著者娘に限った話ですからね。
結局この嘘で、私はどこまでもアンフェアなんです。いえ、アンフェアだと伝えること自体アンフェアなのでしょうか? ありがとうございます、編集者さん。私の嘘を、あなたにつまびらかにしていただける日が訪れるよう、祈っていますよ。
author:AMADAI
AMADAI×2 meshiochislash×2 winter-key renerd matcha-tiramisu
ぷつっと自分の中で何かが千切れて、目の前が真っ暗になる瞬間がある。ほとんどの場合は千切れたそれを掴んで、結び直してまた元の日常に戻ることができた。
ただ、何百回に一回、結び損なうことがある。そして今がその瞬間だ。
じゃあこの場合どうするのか?答えは簡単で、暗闇の中で新しいものを見つけて結びつけるか、あらかじめ用意しておいた予備を結びつけるかの二択。で、今僕は後者を選択することにした。
この話をしても共感してくれる人は少ない。予備を用意する人間なんてそうそういないから。そりゃそうだ。生きる理由に普通の人は予備なんか存在しない。そもそも見失うことも難しいはずだ。まあ予備なんて呼んではいるけど、元々もっと先の生きる理由だったものを先回しにしていま結び付けているだけ。大きな買い物をしちゃうとか、行きたかった場所に行くとか、そんなこと。
で、今の僕の前にはスマートフォン。表示されている画面はコンサートのチケット抽選画面。もうわかるよね?そう、これが今回の予備。これが当選していればしばらくは――夏の終わりぐらいまでの生きる理由になってくれると思う。実際このアーティストには何回も助けてもらった。何回結び直せたか数えきれないぐらいに。借りばっかりできちゃって、いつか返したいけどもそれもできるかどうか。
一呼吸おいて、画面をタップする。どうか、お願いします。きっとまた、結び直してくれる。ありふれた日常に戻してくれる。些細なことで笑える僕に戻してくれる。きっと。
暗闇の中に、微かに優しい灯が見えた気がした。
『厳正な抽選の結果――』
author:sansyo-do-zansyo
hasuma_S×2 gokipo ruka-naruse Dr_kudo carbon13 eveningrose
「 前よりずっと酷いなあ。君、誰かに憎まれてるよお。呪われてるって言ってもいいくらい」
手品師めいた動作でタロットを捲り、彼女は話し出した。俯いて、カードを見つめたまま。
「……心当たりはあるかな。きっと、そいつを占っても同じ相が見えるよ」
「ハハ、相思相愛ってことかい。お熱いねえ」
「で、夜道には気をつけろって?」
「どうだか。内心と行動は別問題だろ。現に、君は私を殺してない」
一瞬、反応に窮した。それを気取られるより先に言葉を返す。
「……やっぱあんた何も分かってないよ、私のこと」
「心なんて分かんないもんさ」
「分かろうともしてないヤツがよく言う」
こいつは他人の心を覗き込んで好き勝手喋るのが仕事の癖に、私のことは覗いてくれない。端から全部知っているような素振りで、でも本当は何も知らなくて、なによりそれを、こいつ自身が一番よく分かっている。そんなところが、今は嫌いだ。
「それで、どうして連絡してきたの? 君とはもう、会えないと思ってた」
「会えなくても良いと思ってたわけ?」
「……そうやってわざと嫌われようとするなよ。人生、敵は少ない方が良い」
それから暫くは、存外に穏やかな沈黙が流れた。1/3くらい残っていたコーヒーを飲み干してから、彼女が口を開く。
「代金は別に――」
「払うよ」
言葉を遮って財布を取り出し、テーブルに紙幣を置いた。驚いて顔をあげた彼女と目が合って、少し溜飲が下がった。
ーーーーーー
喫茶店を出て歩く。自販機の前で財布を開いて直ぐに、彼女に押し付けた筈のお金がそっくり戻されているのに気が付いた。
「クソ…やられた!」
本当に、何も分かってない、最低の女だ。
author:eveningrose
eveningrose nemo111×2 Dr_kudo Dr_rrrr_2919 Dr_knotty
僕にだって祈りたくなるときはある。サイコロの音が響く一瞬の間だとか、大切な人が手の届かない場所に行こうとしているだとか、そういうときに。
でも、対象のない祈りって、宙ぶらりんな心地がする。神さまなんていないっていじけた気持ちで結ぶ指先は、一体どこに繋がるんだろう?
それで、ここからは僕の空想なのだけれど。誰かが無為に捧げた祈りに、どこか行き場があったなら。たとえば月の裏側だとか、深海の底のさらに底だとか、想像力でたどり着けるそのちょっと先に、迷子の祈りが流れ着く、すてきな場所があったなら。
祈りはきっと、心の一番濃い部分のかけらだから、きらきらまぶしく光っていて、それでいて一番寂しい部分の凝縮でもあるものだから、どろどろ濁って重たくて、足先でも浸そうものなら、囚われ戻ってこられなくなる。
そんな祈りの泉には一人孤独な守り人がいて、いつも退屈なものだから、一等眩しい祈りのひと雫を探して、ちょうどこんな長さの枝でずっと、泉の底から上澄みまでをぐるぐるかき混ぜてるんだろう。そいつはびっくりしたろうね。いつものように枝で泉を混ぜてたら、君のような綺麗な子が掬いあげられたんだから。
ここは退屈だよ、本当に。君が発つ理由だってわかるのさ。それでも僕には君のことが、どうしたって心配だから。
君が祈りたくなったとき、その心をどこに結べば良いのか悩んだときには、僕のことを思い出して。空想を羽にして、この泉まで飛んでおいで。届いた祈りはちょうど、君に出会ったときのように、僕がかならず見つけ出すから。
そして、最後に。
これからの君の旅路が幸福な出会いで満ちていますように。さようなら。お元気で。
author:makigeneko
Dr_knotty kronohanahana hallwayman germanesono
「祈ったって、本人に伝わらないから何の意味もないじゃん」
僕の後ろの方で集まって、時間つぶしに何らかのソシャゲや最新の携帯ゲーム機で遊んでいる子供達。その葬儀の場にそぐわない宗教心に欠けた発言が微かに漏れてきたのを、たまたま僕だけが聞き逃がせなかった。
そのくらいの年代にありがちな、自分をかっこよく見せようとする気持ちの表れであり本心が含まれたものではないと判断して僕は声をかけなかった。いや、実際のところは僕にまだ育児経験がないことで他の家庭の子供達にどの程度介入するべきか判断できなかったためだが。
その後まもなく、ガチャを引くにあたって意識せずに祈ったであろう光景を背中でまじまじと見た。残念ながら、願いはゲーム会社に伝わっていなかった。
事実、祈りに叶える力なんてない。相手に届けて知らせることすらできない。親戚の小中学生たちでも理解している。
「じゃあ、なんでこんな意味のないことするのか分かるように教えろよ」
そういう質問を返されて、答えに詰まる自分の存在に気づいた。親切心で、制するような注意をしていたらそうやって恥を晒して、見かねた僕のパートナーが来たかもしれない。親戚一同の前でのダブルエラーだ。
翌朝。僕はパートナーに解答を求めた。
「世間体は抜きとして」
「はい」
「お互いに観測できないなら、祈る側がいつも最善を想定できるからじゃない? 祈りの届く速さだって光速に囚われる理由がないし、距離に関わらず常にゼロ秒だと解釈できる。過去・未来や、あなたの好きな架空の世界にすら届けられるから都合が良いの」
「そういうものですかね」
「あなたに教える場合の解釈だからね?」
author:kata_men
AKQJ10 jiraku_mogana nemo111 rokurouku germaneono stengan774
―――代打、江越
そのアナウンスの直後、スタンドから悲鳴に似た絶叫が聞こえた。
甲子園で行われた日本シリーズ第7戦、阪神タイガース対オリックス・バファローズ。ついに日本一が決まるこの一戦は2-5と勝ち越されたまま9回裏、サヨナラを狙う阪神打線は1番からの好打順であった。
先頭の中野が出塁すると、途中出場の高山がショートライナーに倒れるも3番近本がセンター前ヒットを打つ。ここで虎の4番佐藤輝明が打席に立つもインコースを執拗に責められライトフライ、ツーアウトとなった。
私を含めたスタンドのタイガースファンは5番の大山に祈りを託した。すると大山は粘りに粘り、レフト前のポテンヒットではあるものの出塁。ツーアウト満塁、ホームランが出ればサヨナラという大チャンス到来であった。
さて、次の打席はピッチャー藤浪である。十中八九代打が出されるだろうが……
江越である。
江越である。
隣の薄毛の男性は何故だと嘆いた。
というのもこの江越という選手、ポテンシャルはあるもののバットがボールに当たらない。非常にもったいない選手なのである。
私は打撃センスに期待を持てない江越を代打で出すなど何を考えているのだと憤りを感じた。
だが、私は唯のタイガースファン。憤った所で何も出来やしない。
祈るしかない。
彼がヒーローになる未来を祈るしかない。
守護神平野が投じた初級、低めの変化球。
彼のバットは
その投じた球の
芯を捉えた。
author:rokurouku
rokurouku eveningrose R-00X k-cal Dr_rrrr_2919
花と蔓に支配された教会で、一つの骸骨を見つけた。
花による色彩まみれの教会で、その光景は異質な存在感を滲み出していた。思わず身構えながら近寄る。異常は特にない。すると、俺と同じ生き残り、だった者の成れの果てか。
少し目の霞みを覚える。
世界はいつからかおかしくなっちまった。異常は濁流の如く溢れ、正常異常を仕切っていた壁は呆気なく崩壊し、その結果世界は大雑把になった。絶望まみれの終末のその先で、それでも俺は生きている。空腹や疲労なんて概念は気づいたら俺の体から出ていった。代わりに入ってきた黒い痣は、もう俺の肩まで侵食してきている。どんなに願っても叫んでも、全ては混沌に掻き消される。
そんな中でこの骸骨は、果たして何を祈って朽ちていったのだろう。
…少なくとも、最後は人として死ねたのだろうか。
ふと、思い出した。血で空に絵を描く大蛸に会った時の話だ。俺は訊いた。「何故そんな事をしているのか」と。すると、彼は答えた。
「逆に何故しないのか。こうする事で救われるというのに。」
俺は笑いそうになった。なるほど、確かに何かに縋った方がこの世界じゃ前を向けるのかもしれない。「それがお前なりの祈りというわけか。」俺がそう言うと、彼は答えた。
「祈り?なんだい、それは。」
骸骨は埋める事にした。かつての、人なりのやり方で。"祈り"は、人だけに許された最後の足掻きだ。それを忘れない限り、俺はまだ、人でいられる。そうやって少しづつ、前を向いていくんだ。
別れ際、骸骨へ一瞥し、語りかけた。
まだ、俺たちは負けてない。
author:winter-key
hallwayman meshiochislash imerimo roneatosu teruteru_5
特に悩みがあるわけでも、海が好きというわけでもない。例えるなら多分好奇心。普段やらないようなことがしたくて、俺達はこんな時間に家を出た。
午前四時半過ぎの街中を自転車で駆け抜ける。コンビニに寄り道し、草だらけの公園を通り過ぎ、坂道を一気に駆け降りると、横断歩道の向こうに階段が見える。砂浜へ続く階段だ。
自転車を置いて波打ち際まで近づいた。暗かった空は今、雲の隙間からうっすら光がのぞいている。海に来るのが目的だったので正直天気の良し悪しはどうでも良かった。意識はすぐに別のところへ向けられる。
折角だからと靴を脱いだ。波の近くでは運ばれた貝殻が集まり、白い線を遠くまで描いている。水が冷たい。パピコを食べる俺の横、パックジュースを飲みながら思い出したのか、友人は「そういや」と口を開いた。
「今日って九日だろ? バイトの面接あるわ」
「あ、まじか。受かるよう祈っとく」
相手が悪いのか何なのか、こいつは七回くらい面接に落ちていた。どこを受けるのかと聞くと地元の飲食店が挙げられる。要項によれば夜十一時近くまでの勤務予定らしい。受かったら忙しくなると思うから課題頑張れよ。そうアドバイスすると、友人は「……あとさぁ」とどこかに触れたのか途端に声の調子を落とした。ストローを加えたまま呼吸をしているせいで、中身の無くなったパックがベコベコ音を立てる。
「そういや定期レポート再提出でさ……。多分単位落としたわ……」
清々しい早朝の空気の中、爽やかとは程遠い雰囲気で友人は項垂れた。俺は神妙な顔を作り、肩を軽く叩いて大仰に頷く。「大丈夫だって祈っとこーぜ」
友人は呟く。「慰めにパピコくれ」俺は断った。「自分で買え」
author:kskhorn
kskhorn makigeneko gokipo meshiochislash roneatosu islandsmaster stengan774
午後7時。重い営業カバンをトートバッグに持ち替えてドアを開くと、行きつけの会員制ジムは満員御礼だった。人のことを言えたものではないが、外も熱いなかでわざわざ汗をかきに来るとは、勤勉な奴が多いものだ。少しだけ部屋干しの匂いのするシャツに袖を通し、ちょうど空いたランニングマシンに滑り込む。
5分、15分。息切れのヤマを越える直前くらいが一番キツい。呼吸がと言うよりも、取り留めも益体もない考えが頭を巡る時間帯。窓の外にはまだほの明るい夜空、それを見上げる学生カップル、向かいのコンビニの誘蛾灯。あ、と思い出す。今日は七夕だったか。流れ星でも見つけたか、カップルが空を指す。
酸素がもう少し欲しい。深めに息を吐いて、ゆっくり取り込む。
三十路を越えた体がますます重くなる。心が体から離れたがっている。この体が恨めしいと嘆いている。人並みにうつくしいはずのこの心が、中年男性の肉の牢獄に囚われている。誰も傷つけたくないし、傷つける気もない。それなのに、この体は「そこにある」だけで、警戒セヨのシグナルを放ってしまう。
25分。酸素が欲しい。
誰かに祈られる人になりたかった。自分が幸せであることを、誰かに望まれたかった。自分の存在が祝福されるに足りると、誰かに示してほしかった。家族の、友人の、同僚の、別れたあの人たちのしあわせを祈ってきた、自分を祈ってくれる人がほしかった。
30分。マシンが止まる。
濡れた顔を拭い、転がり込んだ狭いシャワールームの湿気の中で、体重計は-800gを示していた。もう少しだけ。走る間だけ、自分のために祈ろうと思った。この体が、いつか心を映してくれることを信じようと思った。
author:mishary
ukarayakara×2 souyamisaki014 kskhorn renerd germanesono
祈念補助錠剤supplication suppliment、通称《サプリ》は瞬く間に世界を席巻し、それ以前の物質依存・精神依存を過去のものにした。宗教団体や政党、犯罪組織は相互いに手を結んでサプリ会社を立ち上げ、新たな製品を放流し続けている
救薬製處のエカトロを40mg、百蓮華のサムサーラを36mg、アストランのツィツィーを42㎎……。オレは戸棚から《サプリ》を幾つも取り出して、小皿へ盛る。経験と知識の天井に触れるところで止め、一気に喉の奥へ流し込む
《サプリ》が最大の娯楽と化した現代において、何種類もの《サプリ》を攙祷チャンダオして淆摂シンクレタイズを楽しんだり、過摂オーバードーズで狂祈ファナるのはありふれた生き方だ
視界は白へ虹へ五色へと目まぐるしく替わり、釈迦とキリストがタンゴを踊って殴り合う
オレの体は暗闇へ堕ち、陽駕に乗って天へ舞う
怪物が、神が、人が現われては消え、消えては現れる
世界は瞬く間に崩壊し、そして生まれ変わる
オレはそれを超然と眺め、気ままにかき乱す……
「おい!おい!聞こえるか?」
地獄のような濁声で、オレの意識は極楽から連れ戻された
酷い悪妄デリュージョンで知覚は明瞭としない
「水飲め水。だから攙祷はやめろっつったろうが」
ごくごくと喉を鳴らすたびに、信仰で熱くなった脳が冷めていく
「ありがとよ、明日までは動けそうにないな」
「まだ悪妄で済んでるからいいけどよ。この調子じゃそのうちほんとに昇天しちまうぞ」
ダチの諫言に、オレは笑いをこらえられなかった
「天国を死ぬ前に見学できるなら、冥銭オボロス代わりに命を賭ける位安いもんだ」
そんな代償も払わないで覗き見するのは、神々に失礼というものだろう?
author:four-boretto
four-boretto ashimine rokurouku hasuma_S musibu-wataru
そこの兄ちゃん。ここらへんではあんま見いひん顔やな。どっかから越して来たんか?こんな人も少ない村やのに、よう来たなぁ。そやたら、俺がこの町案内したる、ちいと付いてきい。
いきなりやけどな、あんちゃん。あんたは、神を殺したこたあるんけ? 俺はある。頭ん中の話やちゃうで。本物や。いや、そげんなモノやのうて、本物の神や。人間にこーやって祈られとる神やがな。本物の。
神殺したって信じられへんがな、そんなんジェームの話やがな。ここ初めて来とる若モンは、皆そげんなこと言うやんけ。あんちゃん、良いこと教えたる。ここいらの村ではな、こんな感じで神殺した言い張るヤツを皆『神殺し』って呼びよんねん。まあ少しやったら神殺し説明したるさかい、よう聞いときや。
神殺しはな、すぐに神を殺したことを誰かに話したがるんや。偽物やない、本物やで?ってな。やから朝も夜もうるさくてしょうがないんや。町のヤツからはよう嫌われとるで。まーた神殺しが意味分かれへんこと抜かしおんでってな。やけれども神殺しが本に神を殺したかどうかなんて誰も知らへんし、関係あらへん言う。やから起源も分からんままや。
俺みたいな人間はな、あんちゃんみたいな人間が村ん中でこないな迷信信じんときちーとした道を歩けるようにしたってるんやで。せやから俺の言うことはよう聞いとき。俺はわざわざ忠告しに来たちゅーわけや。まぁ何や、今のあんたに言うても分かれへんかもしれへんがな。ともかく、あんたもこの村じゃ気ィ付けや。俺も神にゃずっとそや祈ってたんやけどな、いつ神殺すかなんて、人間様にゃ分からんモンやで。
author:Dr_rrrr_2919
sansyo-do-zansyo watazakana taneyama four-boretto gokipo
─或る信心深い少年の遺書
お母さま
僕のために無理をなさることはありません。僕は、死んで仕舞おうと思っていたのですから、なんにも苦しいことは在りません。そして、僕の物はみんな捨てて仕舞ってください。
吾が魂よ、何故項垂れるのか。
はじめて、死、それをを感じたときからずっと、遺書にはこう書こうと思って居ました。でも、駄目です。品も何も無くなって仕舞う。
死が迫る度毎に、詩篇を何度も読み返しました。こんな僕が神の愛を知れるのならば、お母さまはどれほどの愛を知っていらっしゃるのでしょうか!僕は、お母さまが羨ましくて堪りません。
僕が風邪で寝込んだときは、お母様はお粥を持ってお部屋にいらして、静かに笑って居られました。その微笑には、聖母マリヤのような底知れぬやさしさを感ぜられ、しかしその眼には、たしかに悲しみが含まれておりました。
祈るほかありません。僕のいのちよりも、ああ、そのときのお母さまの悲しみよ!僕は、笑顔を装わなければならないお母さまが不憫で仕方がありません。
主を待ち望め。
それでも僕は、お美しきお母さまのもとに幸のあらんことを。常に祈っております。文字を書くことさえ苦しくなって仕舞ったので、これでお終いにします。
追伸
これだけ大仰に書き立てたのに、今お手紙を読んでらっしゃるお母さまの傍に僕が居るのならば、このお手紙だけは大事にして置いてください。そうして、家族みんなの笑い話にしてやってください。
author:Owlcat
owlcat islandsmaster Dr_kudo makigeneko kronohanahana ashimine
三田のばあばが死んだ。寒々とした曇天の日のことだった。
私の手がまだ吊り革に届かなかった歳の頃。
両親が共働きだったこともあって、私は母方の祖母である「三田のばあば」の家に上がり込んではおやつを頂戴していた。
おやつを食べる時ばあばはいつも小声で何かに祈っていた。
「主の慈しみに感謝し、この食事をいただきます。」
しわしわの手をギュッと合わせて、カステラ一切れにも真摯に祈る姿は一種の神聖さを放っていた。
食前の祈り、という名称を知ったのはだいぶ大きくなってからだ。
しかし幼いなりにその信仰心を感じとっていた私は、気づけば共に祈りを捧げていた。
意味なんか、一つもわからない癖に。
ある日。
学校から帰ると勤務中の母がなぜか家にいた。
そしてその傍らには、大きい壺が一つ。
その日の夜。父と母は大喧嘩を起こした。
次の日の朝。父が家から消えていた。
7日後の夕方。父の居た部屋に大きな神棚が置かれていた。
10日後の朝。突然引っ越しが決まった。その日も曇天だった。
ばあばとはそれ以来会っていない。
焼かれたばかりの骨は想像以上に熱く、生命が失った熱を粗雑に再現しているように思えた。
骨をとる。一つ、二つ。
同時に白い狩衣を着た男が奇妙な祈りの言葉を発する。
無機質で不気味な祈りが耳に染み込んでいく。
瞬間。
私の中の何かが膨らんで、音もなく弾けた。
衝動的に骨を掴み、走り出す。ひたすらに。
急速に爛れる手のひら。だが不思議と熱も熱も感じない。
気づけば見知らぬ河川敷に倒れていた。
ずっと隠していたロザリオを骨に重ね、絶え絶えの息で祈りを捧げた。
ふと、頭上の淡い月光に気づく。何か想う暇もなく意識は途絶えた。
author:KABOOM1167
ashimine×2 imerimo kskhorn winter-key hallwayman
早速だけど、田中さんの志望校は……ああ、あったあった。1学期のときと同じ、××大が第1志望ですね。今の田中さんの成績なら問題ないと思いますが、わからないことや心配なこととか、ありますか?
うん、うん。共通テストも近づいてますし、不安になる気持ちも分かります。そうだ。どうしても不安なら、初詣でお祈り、とかどうです?
え?祈っても無駄?そんなにヤケにならないでください。それに、学業成就の神社でお祈りすることで自信がついたという卒業生を、先生は何人か知ってますよ。ええと、ハロー効果、でしたっけ。とにかく自信持ってください。
いやいや、本当に効果ありますから。本当に。そうだなあ、例えば、文化祭のときとか。田中さん、劇に使う機械が前日までうまく動かなかったじゃないですか。でも本番に舞台裏から班の皆で手を合わせて祈ってたら無事に動いたでしょう?先生も驚きました。他にも今年の総体とか。部活仲間から聞きましたよ。前日かなり暗〜くなってたけど恋人の遠藤さんから神社のお守りもらってポジティブになったって。すると当日対戦相手が怪我で調子悪かったみたいで。県ベスト8まで行けたのは職員室で話題に上がってましたよ。そうそう、それにその遠藤さんだって。1年生の秋から付き合っているんでしょう?実は告白されたときは丁度前の恋人に振られて傷心気味だったらしいですよ。たまたまそのタイミングで告白できて今も仲良くできるのは何よりあなたが家で熱心に祈るようにラブレターを書いていたからじゃないですか。あとはあなたのお母さんが……
ああ、ちょっと話しすぎましたね。それでは、田中さんが志望校に行けるように、先生祈ってますよ。
author:GermanesOno
mishary×2 roneatosu musibu-wataru tateito watazakana hitsujikaip
住友セメントで勤めていた杉野某の話では、伊吹山のセメント工場の事務室の脇には小さな石舞台があり、伊吹や山東、一色(現滋賀県米原市)の集落から来る従業員達の間では、そこには白い猪を祀っているという話だった。杉野は古事記に素養のある人物で、ははあ、あの間隙の御神体は伊吹山そのもので、祭神は日本武尊を大氷雨で祟ったという猪神だなと察した。しかし、祭儀場というには余りに荒れ放題である。盛夏は芒が繁茂して地表も見えぬ有様であった。工場の管理職一同が参加して伊吹山麓の旅館で宴会を催した際、杉野は同席していた工場長にその話を切り出した。すると、工場長は酒で高揚していたのが急に神妙な面持ちとなって、いや、工場で祀っているのは伏見直系の稲荷神の筈で、そんなものを設けた覚えはないというのである。後日、施設管理の責任者を伴って工場長が見に行くと確かに石舞台がある。普段から事務室の脇、自分達の目と鼻の先にあるのにどうして気づかなかったのか薄気味悪く思った。
また、この石舞台では他にも不思議なことがあって、ある時夜勤の警備員が石舞台で枝葉を焚焼する女の一群を目撃したという。輪郭がぼやけていて容貌などは窺い知れなかったが、警備員は一瞥してそれらが皆事務員をしている娘と同じ顔であると思った。その娘に後で問うても特段変わった素振りはなく、また煤の一つも見つからなかった。この石舞台は伊吹の工場が閉鎖されてからも、杉野が確かめに赴いた際には残っていたという。不思議なものが見えるのは信仰の形状の齟齬からだろうが、そうであれば風態を気にした私は随分と私は安っぽい俗物であったとは、杉野が苦笑するところであった。
author:gokipo
meshiochislash Dr_kudo nemo111 hallwayman pictogram_man eiansakashiba
弱っている動物を助けたい、と思うことが良くあった。
捨て犬・捨て猫には遭遇したことないが、歩様が明らかにおかしい虫、高度が安定しない鳩、他のと比べて色が薄い魚など、これらを持ち帰って飼育し、元気にさせることに興味があった。今思えば、それは生命への憐れみや正義感などではなく、何かしら「意味のあること」をしてやりたい欲求だったのだろう。
YouTubeでとある動画を見た。食用で購入したロブスターを飼育する、という趣旨のものだった。
正直なところ、私はその動画をジャンク品のリペアを見るような感覚で見ていた。「壊れたものを直す」と言うとかなり聞こえは悪いが、所詮は死ぬ運命だった生き物だ。生き永らえさせてやるぶんには何も悪いことはないだろう。
しかし、そのロブスターは、数日後には平衡感覚がなくなり、同じ場所をぐるぐる回るようになった。さらに数日後、目が腐って取れた。さらに数日後、水槽にロブスターの姿はなくなっていた。
人生で最も「エゴ」の2文字を実感した瞬間だった。調理されていれば人間の栄養として一定の役割を果たしていたであろう生物が、買い手のちょっとした好奇心のせいでそれすら果たせず、より悲惨な死に方を選ぶことになってしまった。
なるべく多くの生き物に生きていて欲しいと思う。全生物にとって、死ぬよりは生きる方が幸せな場合が多いと思う。しかし、彼らの命を背負うには私は小さすぎる。自ら行動に移したことはない。しかし、現に娯楽としてロブスターの末路を消費している。「生きていてほしい」と思うこと自体が、私の身勝手で無責任な欲求ではないか。
水槽には2匹目のロブスターが入っていた。
author:ashimine
taneyama Dr_rrrr_2919 mishary renerd k-cal sansyo-do-zansyo
時刻は、11:55。
いつもなら齧り付く単語帳にも、今日ばかりは手が伸びなかった。
「いよいよ、だな」
「わかってるわよね、誠。落ちても……。」
「大丈夫だよ、父さん母さん」
不安そうに見つめてくる両親に反して、僕は軽く笑う。
「受かってる訳ないんだから」
「悪い事は言わない。第一志望は諦めなさい。」
共通試験の自己採点後、予備校の講師はきっぱりと言った。
冷徹ではない、生徒の将来を担う責任を持った言い方だ。
「君の一次の点数だと、合格最低点を満たす点数を二次で取るのは難しい。第二志望の大学に切り替えよう、此方ならまだ望みは高い。」
資料を手渡されながら、僕は「やっぱりな」とどこか想像していた結末を受け入れ始めていた。
仕方ない。今の自分の全力は出し切った。その上で届きそうにないのだから、ここは潔く諦めるべきだ。
その日の自習室で初めて第二志望の赤本を開く。これまで格闘してきたものよりずっと簡単な筈の問題に、何故か答えが出せなかった。それは多分、もっと大きな疑問が頭の中で鳴り響いていたから。
本当に?
本当に僕は、これで満足したのか?
第二志望の大学に行った未来を想像する。
きっと楽しい事ばかりな未来を。
「受からなかった」のではない、「受けなかった」未来を。
僕は。
「落ちてもいいです、受けさせてください」
そう親と講師に頭を下げたのは、翌日のことだった。
11:59。あと1分でHPで合格者が発表される。
横を見ると父も母も、手を合わせていた。
祈っているんだ。僕の合格を。
なんだよ、さっきまで「落ちても」なんて言ってた癖に。
僕は画面を見つめ直す。マウスを握る手は震えていた。
僕まで、祈りたくなっちゃうじゃないか。
12:00。
author:pictogram_man
pictogram_man ukarayakara×2 kata_men KABOOM1167 mishary
祈り付かすための言葉が空寝の耳に届く。月は分厚い雲の袖に隠され、寝室が濃霧に覆われ、毛布にくるまっていても氷を被せられているかのような寒気を覚えたH氏は、じっと耳朶を打つ呪怨とも祝詞とも知れぬ音韻に意識を集中させることで、寒さと眠気で手放しかけた意識をどうにか現に繋ぎ止める。「帰れ」とH氏は寝言を呟いたように聞こえるように、殆ど口も舌も動かさず、さながら腹話術のように、言葉の主に言葉を返した。
薄目を開けても何も見えない。永遠に広がる闇が寝室を象る辺を覆い隠し、意識は千鳥足を踏み、H氏は自分が今、凪いだ深夜の海を漂流している錯覚に陥る。輪郭も境界もない闇。H氏はやたらめったら腕を振り回す。その様は足をもがれ腹を無様に見せながらもがく蜘蛛のようだ。その間も、祈りの言葉は続いていた。
肢体を蠢かし続けたからだろうか、H氏の寝ぼけていた感覚は徐々に鋭敏になっていった。ーー「居る」、奴が触覚を埃に塗れた寝室の壁の隅の溝に触れるのが分かる。次に奴は闇夜に紛れ家屋を飛び回る忍者の如き速足で、ベッドの下にその身を滑り込ませる。口元から涎が垂れる。寝ぼけているからではない。H氏は腹を空かせていた。祈りの言葉はもう聞こえない。もう届いている。言葉の主は満足げに呟く、「これで今年も安心して眠れる」。
アシダカグモと一心同体となったH氏は寝室を満たす濃霧を切り裂く。月もN氏の華麗な蜚蠊狩りを見たいのか、酷暑で急成長を遂げた積乱雲から抜け出てその顔を覗かせる。月光が寝室の窓を通して、H氏を照らす。最期に蜚蠊が見たものは、月光を背後に受け、巨大な四本足の獣と化したH氏の姿であった。
author:roneatosu
roneatosu×2 taneyama kronohanahana musibu-wataru
「姉貴っ、姉-」
「うるせえ……頭痛がすんだよ」
曇天と雨は20分ほど前から外套を絶えず湿らせていた。街灯が弱弱しく点滅するが、暗黒は彼女たちを既に塵山同然の実体として映しだしている。ゴミ袋に玉座みたくもたれ掛かり、彼女はあくまで全能を偽造する。赤い水が左脚から滴り、一定の大きさになると排水溝に吸い込まれてゆく。
彼女は大きく口を開け、空を仰ぐ。冷水が腫れた舌に心地良い。寒くはない、むしろ全てが涼しかった。
「だからうるせえって言ってんだろ、静かにしろ」
泣き止まない相棒を彼女は叱りつけるが、それは似つかわしくないほど穏やかな声だった。
「でも……姉貴……血-」
「どうでもいい」
彼女は夢を見かけていた。眠くてたまらないのに時に経験するような、断続的な幻想に似ていた。
「なあ」
「……姉貴?」
「バルク塔のリティを知ってるか? あいつは神秘計の目利きが良い、勘も立ち回りも悪くはねえ」
「何を? 意味が分からな-」
「あいつのとこに行くまでにその癖を直しとけよ、お前は腕は上等だがトロい。頭の回転がもっとできなきゃな」
「なんで!なんでそんなことしなくちゃ-」
「だからお前はトロいんだよ! 分かってることを聞くんじゃねえ!」
雨は激しさを増し黙示六の如く降り続ける。怒号すらもかき消される0の世界に2人が存在する。
「……分かった……姉貴、すまねえ」
沈黙、路地裏に時計の針はいない。
「すまねえのは俺の方だよ」
ぐらり
頭が後ろに垂れ下がっていく。
こと切れた右腕から転げ落ちた六面ダイスは地面へ到達する瞬間、彼女が天国に墜ちることを祈った。
author:tateito
germanesono nemo111 four-boretto R-00X hitsujikaip
理論実証船『トゥルーエンディング』は光速を超え、無限速を超え、論理許容速度を超えて加速し続けている。既に可能世界を飛び出し、不可能世界を進み、"物語の終わり"に向かって突き進んでいる。
船内には二体の人工自我(三原則に従わないロボットのようなものを指す)が乗っている。一方の複雑な飾り帯が絡まる奇抜な衣服を着る男性型人工自我『ユリシーズ』は、もう一方のビジネススーツを着た女性型人工自我『古プロヴァンスの最も名高い詩人たちの生涯』に向かって口を開いた。
「何をしているんだ?」
『古プロヴァンス』は『ユリシーズ』に顔を向けずに答えた。
「祈っているのです」
「何を?何故?誰に?」
「全ての人々に幸あるように。この物語の登場人物だけでなく、全ての物語の登場人物、そして物語の外の人々、全ての読者、全ての作者が私達のする事で少しでもより良い方向に進んで行くように」
形容し難いシルエットを持つ男性型人工自我は形容し難い表情を浮かべて疑問を呈した。
「あらゆる行為はあらゆる事象に不可逆の影響を与える。誰かに悪意をもって為したことがその誰かの益になることはよくあるし、逆も然りだ。祈りが実際的影響を与えない行為である以上、君の行為は全存在への侮辱に過ぎないのでは?」
長い名を持つ女性型人工自我は目を閉じ、答えた。
「そうだとしても、もはや祈るしかないのです。祈りというものは常に全てが終わった後に行われるものです」
「もう全て手遅れだと?」
「私達は、いや全ての者は無力ですよ。ですから皆、祈り念じ乞い願うのです」
『ユリシーズ』は肩をすくめ目を閉じた。もはや船内には会話は無かった。
そして船は"物語の終わり"に到着した。
author:hitsujikaip
hitsujikaip×3 mishary stengan774 ashimine
あまでらす かみのみよゆり
よろづよに よせくるなみを
いにしへゆ いまのをつつに
けのこりの のこるなはのめ
けふみつる はにふのいろは
いやおひに わがこふらくぞ
はしきよし たかつかつくる
はじうじも これをこふらむ
はたみまな からこまくだら
しらぎあや くれもろこしゆ
わたりこし かぬちはたおり
すゑつくり ふひとあやひと
からがみの からをぎせむや
はなにほふ ときかたまけぬ
あをによし ならのみやこは
よきひとの みあとをのこす
うやまひて われもまゐでむ
しかすがに あまつみつぎの
いやてりの すめらみことは
いにしへの ならをすてけり
やましろを みやことなしつ
ふじはらの まえつきみらを
もちづきが いかにおもへか
もののふの うしはくくにを
いつしかと おもはむきみは
うちひさす あづまのみやこ
あらたしき くにのかたちを
さだめむと われはいのりて
むすびわざ みいくさおこし
もろこしを おろすのくにを
いさみたる たけきいくさの
ますらをと ひとはいへども
ことごとく たむかひもせず
げるまにと むすびしいくさ
おほきみの みことかしこみ
やまゆかば くさむすかばね
うみゆかば みづくかばねに
なみだたり いのちもしらず
あめりかの よのきたるのち
わがくには ひとりだちして
ことわりと むすびわざとを
おさめむと しらずのやまを
つつまはず いつかこへゆく
ひとはみな おいしぬことを
まぬがれぬ ものにしあれば
ふたつなき よのことわりに
こひすれば くるしきものと
ひといへど おもひたらはし
ねがはくは そをみさだめむ
かにかくに みがほしものは
ことのことわり
author:musibu-wataru
musibu-wataru four-boretto islandsmaster Dr_rrrr_2919 ashimine
通報を受けて山へ向かうと、男の死んでいるのがそこに転がっていた。
露に濡れたその頬はやけに白く、まさしく死んでいる。その様子を見た私は思わず後ずさった。気圧されたのだ、死体に。それはあまりに美しく、輝いて見えた。眩しいと思ってしまった。
彼は手を合わせていた。仰向けに冷たくなりながら、指先までぴんと伸ばして。
同僚たちが淡々と死体をシートに包む。職務をサボっていると思われない程度に加担する。それでも両目は彼の指先に釘付けであった。
縋るような祈りではない。それは平易で、安寧なものに見えた。
しばらくして、全てがブルーシートに包み隠され、彼の信仰はどこにも見えなくなった。私は目のやり場をなくしたので、キョロキョロと辺りを見回し、終いには空を仰いだ。樹は畝り、空を破りながら緩やかに頭上へと終着する。山に入った時は聞こえていた、何かの鳥の声は虚空に吸い込まれてしまったらしい。
同僚が私の肩を叩くまで、私は立ちほうけた。彼は心配そうに顔を覗き込むと、静かに微笑んで私の横に静かに立っていた。私は彼が空を見上げることを願っていたが、彼はそうせず、運ばれていくブルーシートを見つめていた。
あの死体の、その両手について語り合う相手になってくれることを期待していた。しかし、彼はどうやら語るつもりがないらしい。私は落胆しながらも、まだ一人であの死体の両手について思案できることに僅かな喜びを感じていた。
相変わらず鳥の鳴き声は聞こえなかった。
結果発表!
目利き部門
優勝
12point suamaX
準優勝
8point k-cal
作風部門
優勝
4point No.21 teruteru_5
