500 or 700字文体シャッフル: 無差別温故知新回!
テーマ: 以下の中から選択(自由テーマも可)
500字テーマ:祈り、火、A、映画、変身、黄昏、流れ、前進/停滞、辺りはもうすっかり暗い(フレーズ指定)、自身の文体、失敗、飛、戦い、星の光、罪咎、幻、仲間、未練/決意
700字テーマ:アラームを止め、起床する。(フレーズ指定)、食事シーン、夜、青、死神、短歌、煙草
投稿期間: 5月1日 ~ 5月7日
更新期間: 5月4日以降0時更新
結果発表: 5月8日0時
参加資格: サイトメンバーであること
参加方法: 以下のグーグルフォームに必要事項を入力して送信してください
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScuGlZKq2RhnL_YcTXQxLpwclI-snEplWqVwCXcXab8KchAcg/viewform
レギュレーション: ①概ね指定文字数以内 ②今まで世に出していない ③複数作投稿可 ④当てはなし ⑤社会性がある ⑥AI作でない ⑦読解可能な文章である
※ レギュレーション違反の作品は公開されないか、公開後に気づいた場合は非公開になります。事前連絡は基本できません。暴れるときは空気を読んで自分の責任で!
Q and A
Q.文体シャッフルって?
A.みんなで匿名で文書いて、それを誰が書いたか当てる企画です!だから何書いたかいうなよ!
……なんだけど、今回は参加資格を緩めてサイトメンバー誰でも参加可にした特別回!トーナメントの裏で暴れたりない人々、一度出てみたい人、カモン!
Q.過去作は?
A.今回からリンクを新しくしました!文体シャッフルハブをこれまで管理運営して下さったHasuma_S氏に心より感謝を!
Q.構文は?
A.by ukwhatn。偉大なる御大に感謝。
Q.お題が複数あるけど、どう扱えばいいの?
A.どのお題を選んでも、複数をテーマに組み込んでもOKです。対応文字数にはご注意ください。
また、テーマ選択で作品が区別されることはありません。
- No.1
- No.2
- No.3
- No.4
- No.5
- No.6
- No.7
- No.8
- No.9
- No.10
- No.11
- No.12
- No.13
- No.14
- No.15
- No.16
- No.17
- No.18
- No.19
- No.20
- No.21
- No.22
- No.23
- No.24
- No.25
- No.26
- No.27
- No.28
- No.29
- No.30
- No.31
- No.32
テーマ:辺りはもうすっかり暗い(フレーズ指定)
author: SuamaX
オフ会が解散し、一人電車に揺られる途中。辺りはもうすっかり暗く、乗客も疎ら。
やることといえばさっき別れたフォロワーのTwitterを確認する程度で。
表垢の集合写真を見て、裏垢を覗く。まだ今日は希死念慮を表出していないようで、少し肩を撫でおろす。
彼は創作で人の死を軽く扱うことに人一倍憤っていて、そして人一倍死にたがっていた。
それを結ぶ接続詞が「のに」なのか「から」なのかはわからないけれど。
彼から、いつかふわりと消えてしまいそうな予感を嗅ぎ取ってしまうのは、考えすぎではないだろう。
だから私は、彼を約束で縛る。彼がふっと希死念慮に身を任せないように。まだ心残りがあると、飛ぶ直前に少しでも思い直してくれるように。
その楔が今日また一つ外れてしまったから、また新しく楔を打ち込まねば。
少し考えて、検索ボックスにワードを打ち込む。
『#いいねxリツイート分痛ツイートをする』
投稿を見て、スマホの画面を2回タップする。これで彼が死ぬまで、3か月程の猶予にはなるだろう。
どこまで約束を守るかは分からないけれど、もしこれが、少しでもあなたの死を引き留める楔になってくれるのなら。
数秒願って、スマホの電源を落とした。
テーマ:戦い
author: Something_funya2
戦いたくない。戦いだけが機能の全てだった私が、初めて抱いた祈りはそれだった。
殺したくない。銃声の度に命を摘み、その度に金を積んできた私が、初めて抱いた祈りだった。
この船、ザイレムを墜とす。星と人をこの手で守る。恩人は既に手にかけた。どうしても友人を殺したくなかったから、それ以外の全てを裏切ったのだ。どうせ私の飼い主は死んだ、独り立ちしなければならない時だ。私を選んでくれた飼い主よりも、いま側にいる友人を守るべきだと思った。だからそうしたのに。
焼け爛れた肉の色をした機体が、同じ色の熱線を放った。それは確かに私を狙っていて、不意打ちで命を狙う一撃だった。そして、この場でそれを放てる人物には一人しか心当たりがない。
「俺は、621……お前を、消さなければならない」
通信から飼い主の声が聞こえる。取り戻した機能が戦いたくないと叫んでいる。だが、戦わなければならない。私の選択の結果ならば、その責任を負わなければならない。責任を背負ってくれる飼い主は、私の目の前にいるのだから。
壁を越え、海を越え、成層圏を越えてここまで来た。最後に私は、飼い主を──父を超える。
メインシステム、戦闘モード起動。
テーマ:アラームを止め、起床する。(フレーズ指定)
author: Something_funya2
アラームを止め、起床する。寝るのは怖い事だがアラームは好きだ。夢を見ない私にとって眠りと死に境はなく、毎夜怯えながら床に就いているから。アラームは好きだ。それは生の宣告だから。
朝の準備を始める。夢を見るということについて思いを馳せながら。小説やドラマでは夢を基軸にした話がたまにある。胡蝶の夢、ひらひらと飛んでいる蝶だった”私”は目覚めて人となったが、果たして自分は蝶となった夢を見ていたのか、それとも夢で見た蝶こそが本当の自分であり、今の自分こそが蝶の見る夢なのか。思えば、寝るのが怖くなったのは胡蝶の夢がきっかけだった。
自我の亡失、意識の混濁。それは私の連続性を毀損するという意味で死と大差がない。死ぬのは夢見ると同等に怖い私は、きっと死恐怖症でもあるのだろう。
それに、自分ではない何かに主観を委ねて物語を楽しむのはエンターテインメントの本道だ。夢を見ず、眠りを恐れるのが私という視座を堅守するため、なんて私はきっと臆病者。エンタメに入り込んで楽しむことさえ覚束ないほどに。
時々、蝶のようにひらりとどこかに飛んでいきたくなることがある。日常という苦行こそが私にとっての命綱。意識の連続性こそが私のよすが。それを放り投げて、蝶のようにどこかにと。苦痛でしかない私という存在の連続性を投げ捨ててしまいたいと思うことがある。
ホットサンドを口に咥えて、手をひらひらとはためかせる。この手が私の全てならよかった。蝶のように物理法則だけに縛られる存在であればよかった。最初から自我が無ければ恐怖もなかった。
出勤時間を告げるアラームが鳴る。ため息を吐く。夢想から意識を戻し、現実へと起きて行く。生きねば。
テーマ:短歌
author: Ruka_Naruse
私信
秋雨に紛れ流るる百日紅
散らぬ花など無いと識れども
あなたは物事を、とりわけあなた自身を美化して語る事をたいそう嫌っていましたね。そんなあなたに贈るものが花の歌になってしまい、申し訳ありません。ですからせめても、季節外れの歌にさせていただきました。桜に喩えようものなら、あなたにきっとなじられてしまいますからね。
この便せんを手にしたあなたは、余白だらけのこれを、さぞかし不格好に感じたかと思います。ですが、ながったらしい送辞など、あなたが好むとは思えませんでした。ですからかわりに、わたしは残りをあなたに埋めてもらいたいのです。
きっかり半分、残させていただきました。もしこれがあなたに届いたのならば、どうかこの手紙をわたしに折り返してください。急く事はありません。気長に待たせていただきますね。
テーマ:A
author: Kuronohanahana
Q. 俺らってどういう関係?
互いに都合がいいからとシェアハウスを始めた。奴は数年付き合った彼女に振られて家を持て余していたし、俺は転職で引っ越しを考えていた。だから、シェアハウスという案は良かった。気心知れた仲だし、快適な暮らしだ。
「セックスしよ」
「は?」
その日、奴は随分と酔っていた。俺も酒は飲んでいたが、奴は俺の五倍は酔っていた。
「水のめ、水」
「やだ。セックスしよ」
「しねえよ」
聞けば元カノに数年かけて開発されたらしい。可哀想に……と思いつつ、やはり俺も酔っていた。
で、抱いた。別に奴を好きだった訳では無い。好き嫌いで言えば好きだったが、それは友人としてであって、シたいかと言われればノーだった。けど奴の蕩けた顔を見ていたら、まあ良いかと思えた。男相手は初めてだったが、奴はそこらのソープ嬢よりも可愛かったと思う。
その後も、どうやら相性が良さそうだという理由で、なんとなくそれは続いていた。
「俺らってどういう関係?」
「女々しいこと言うね」
「女役はお前だろ」
「うるさ」
奴は俺に手を伸ばして、ぐっと顔を寄せた。奴の睫毛が思ったより長いことを知る。
「セフレ以上、恋人未満……友達?」
A. 友達、らしい。
テーマ:短歌
author: Kuronohanahana
君と結婚する夢を見た
幸せな夢だった
最悪の目覚め
テーマ:アラームを止め、起床する。(フレーズ指定)
author: KeiShirosaki
アラームを止め、起床する。あの日の夢を見るのは何ヶ月ぶりだろう。まだ瞼の裏に、雪の残像が瞬いている気がした。
あの夜はちらちらと、雪が降っていた。
暗い空から舞い落ちる雪は、どこからか照らされているのか、暖かな光を帯びて見えていた。
息を吸うと、ほのかにお酒の香りがした。酔った時の父の息の匂い。苦手なはずのその香りが、今は不思議と不快ではなかった。
遠くに灯りが見えていた。あそこまで行けば、帰れるんじゃないか。暖かなどこかに。そう思って、ずっと、雪の中を歩いていた。
「──ちょっと、キミ」
背後からかけられた声に、驚いて立ち止まる。
「名前は?」
振り向くと、雪の色の髪をした女の人が立っていた。赤いメガネとスカートが、雪と闇の世界でひどく鮮やかに見えた。
「えっ……と、」
知っているはずのそれが、なぜか、喉につかえて止まる。知らないはずがないのに。
「お父さんとお母さんは?」
母はいない。お父さん。朧げな顔が浮かぶ。そう、お酒。お酒の匂いがする時の父が苦手だから、家を出た、はずだ。父の輪郭がどんどんとぼやけていく。父の酒の匂いが、この雪に混じる酒の香りに塗りつぶされていく。
「大丈夫。ちゃんと、家まで連れてってあげるから」
差し出された手を前に、首を振る。家は嫌だ。それだけは、まだ、覚えている。逃げて、逃げて、ここに来たのだから。
『お姉さん』は困ったような笑みを浮かべた。
「……じゃあ、お姉さんの会社に行こう。ここほど穏やかではないけど、正しい人のいるところだよ」
もう、顔も声も覚えていないけれど、握った手の温かさだけは、今も鮮明に覚えている。
テーマ:煙草
author: KeiShirosaki
残念ながら僕は、幽霊を見たことがないし、心霊写真を撮ったこともない。
でも、不思議な体験なら、心当たりがある。それを話そうか。
今はもうやめたんだが、三年前まではヘビースモーカーだったんだ。禁煙したと言ったら、友人たちが口を揃えて「冗談だろう」と言うほどの。
あれは秋ごろ、ちょうど外で吸うのが肌寒くなってきた頃だった。いつものようにベランダで──ほら、うちの妻や娘が嫌がるから──煙草を吸っていたんだ。ぼんやりと鰯雲を見上げていて、夕飯は魚がいいな、なんて考えていた。
いきなり、煙草が吸えなくなったんだ。ジュって、火の消える音と共に。同時に、幻聴まで聞こえた。
「健診、ちゃんと行ってね」
って。
驚いて口から離して、火のついているはずの片側を見たら、完全に濡れてしまっていた。確かにこれでは吸えなくなるのも当然だ。でも、雨粒ひとつ降っていなかったのに、この水はどこから来たんだろうな?
この話はまだ続きがある。ちょうど一週間あたりが経ったあと、会社の健診があったんだ。そこで異常が見つかった。精密検査に回されて、肺がんが発見された。早期の発見だったから、見ての通り完治して、今はピンピンしているが。
でもまあ、こんな経験をするとな、煙草を吸う気にはなれなくなる。それで辞めたったいうわけだ。
これでこの話は終いなんだが──別件で、もうひとつ、変なことがあったな。
うちは娘が一人だけなんだが、何故か、子供部屋にあるのは二段ベッドなんだ。明らかに娘の趣味じゃない真っ赤なスカートやフリル付きのブラウスが、いつの間にか増えたりしている。
貰い物でもないのに、変な話だろ?
テーマ:映画
author: ocami
照明を落とし、リモコンを操作する。3秒丁度のブザーのあと、若干音割れした拍手.mp3が控えめに鳴った。
動員数1名の上映会が、今始まった。
スクリーンに映し出されたのは、産声を上げる赤ん坊だった。優しそうな母親に抱かれ、醜悪な顔を晒している。カレンダーの日付は4月2日であった。
主人公は、大した使命も出来事も無いまま、赤ん坊から少年に、そして青年となった。
やがて、ニュースの画面が映った。東京タワーがねじれ、電車は空を走り始めた。後に名付けられる無名の現象群が次々に映し出されるのを見て、青年は家を飛び出す。
青年が辿り着いたのは映画館だった。料金も支払わずにゲートをくぐり、スクリーンが最も見やすい特等席へ。
赤ん坊が生まれるシーンを過ぎ、スクリーンの中のスクリーンの青年が映画館に入った瞬間、目の前の青年が振り向いた。
本能の警鐘に逆らうようにつられて振り返って、最初に目に入ったのは白い長方形。どこまでも続く長方形の中には、見覚えのある顔と座り心地の良さそうな映画館の椅子があった。
上映の度に層を増やす長方形は、ついに1mmの変化も無いまま人の分解能を超えてしまった。
上映はまだ終了しそうにない。
テーマ:アラームを止め、起床する。(フレーズ指定)
author: YukuNene
夢を見ている。いわゆる明晰夢というやつだ。
夢の中の私は学校の教室で授業を受けている。授業内容は……数学か。周囲の人たちは全員机に突っ伏している。酷い生徒たちだ。先生も呆れているのか、こちらを一瞥もせずに黒板に数式を書き続けている。教科書を写しているのだろう。
さて、ここで問題。
私は教科書の内容を全て理解している。私以外誰も授業を聞いていない。先生は教科書の範囲からはみ出した授業をする気がない。このとき、この教室が存在する意味は?
解なし。
私はノートのページをぐしゃりと握りつぶす。それに合わせて教室がひしゃげ、消滅する。
夢の中の私はまた教室で授業を受けている。今度は国語。級友たちは登場人物の気持ちについて話し合いをさせられているが、私はどれひとつとして聞き取れない。
「あなたはどう思う?」と聞かれる。答えなど思いついていないのに、なぜかすらすらと私の口から意見が出てくる。話し合いに加担してしまったことに小さな罪悪感を覚える。
ワークシートを握りつぶそうとして、
チャイムの音がする。
時計の針は6時59分を指す。どうやら夢は終わりのようだ。
アラームを止め、起床する。
握りつぶせない教室へ向かう。
テーマ:流れ
author: teruteru_5
日本国某県某所にある電話ボックス。そこには幽霊が出るという噂があった。その噂によると「電話ボックスの中に幽霊が現れ、電話をかけた後に消える」らしい。誰に宛てて電話をかけているのか、なんのために電話をかけているのかは分からない。ただ、その奇怪な内容は人を引き寄せるには十分すぎるものだった。
噂が流れて数ヶ月。その電話ボックスを目的に某所にやってくる人が散見されるようになった。その中にはカメラやレコーダーを持ってきている人もいた。恐らくは、幽霊の痕跡を記録しようとしていたのだろう。幽霊はそんなことなど気にも留めずに電話を掛けていた。訪れた人々は、それを見て存分に恐怖した。
それから数十年が経った。今や、電話ボックスには幽霊は出なくなってしまっている。それが何故かは分からない。電話ボックスの使い方を知らない霊が増えたのかもしれないし、別のところへと移ったのかもしれない。それは誰にも分からない。もちろん、気に留める人などいない。今や、その噂は廃れて忘れ去られてしまっているのだから。
時代と共に、人も霊も噂も移り変わっていく。
テーマ:辺りはもうすっかり暗い(フレーズ指定)
author: Kajikimaguro
最近、注血神とか言う存在が巷に出没しているそうだ。名前的に吸血鬼の対義語みたいなやつだが血は何か反対のものに出来なかったのだろうか、肉?肉を注射するのか、それはそれでなんか怖いな…
さて、噂によるとこの存在、流水の上はOKだが溜め水はNGらしく、ニンニクはOKだがニンニク以外が食えないらしい、何この存在?終わってない?むしろ滅んだ方が幸せなのではないだろうか。
しばらく思い悩んでいるとヨボヨボのお爺さんが目の前へやって来た。
献血は如何かい?
ここまで直接的な個人勧誘初めてかもしれない。
まあまあ、そう言わず、4万でいいから
金取るのかよ、しかも高いし何なんだこのジジイ。
金を恵んでくれ
とうとうぶっちゃけたぞコイツ、プライドないのか?
そうこうしている内に話は弾み…弾み?気がついたら辺りはもうすっかり暗い、そろそろ帰らなければとジジイに告げると、ジジイは途端に苦しみ出した。
グワアアア!!!
あ、コイツかぁ…いや待ってグロいグロい、灰になるんじゃなくて肉が変形して…えっ今メキョとか聞こえ…あっなんか生えてきた?!いやてか昼夜の概念は個人の認識次第なの!?
テーマ:煙草
author: Kajikimaguro
むかし、おばあちゃんちの線香を焚いて、雲のように漂う煙に紛れるほのかな香りがすきだった。むかし、誕生日にキラキアと輝いて揺らめくひを ふぅといきを吹いてやってのこる、蝋燭の匂いがすきだった。ひがともって、そのあとにくすぶる余韻がどれもすきだった。
あるひ、通学路をぎゃくそうしてると、あのひが消えたときの独特のいい匂いがはなを刺激した。近所のどこかで線香か何かでも燃やしたのかなと家の方角へしせんをやると、その場所はぽっかりとあいて、なぜだか黒曜石みたいに光を反射する黒にそまっていた。そのまわりには、鮮血みたいに真っ赤なくるまと、忙しなくはしる人たちがいた。
ぼうぜんとそのばに立ち尽くした。なんどやってもあたまにあるフィルムの光景と、そのばの景色が釣り合わない。
そうしてきづいた。ぼくは親が燃え死ぬ臭いだときづくまで、それをいい匂いだとおもってたんだって、そのひからぼくは、焼ける臭い、芳ばしい臭い、好きだった匂いのすべてが吐き気をもよおす悪臭になった。
たばこの不始末、それがひもとだってすぐに分かった。でもそのはんにんはいつまでたってもつかまらなかった。
あのひから何年もたった。きょう、ぼくの家を燃やしたはんにんを縛り付けた。ちょっとだけがんばって田舎にあったかれの家族といっしょに燃やしてあげた。はんにんを匿うなんて、だめだよね?
かれらのひに悶えるこえがたくさん響いたのは、ひとけがすくないにしてもちょっとひやひやしたけど、それ以上に心地よくて、なんだかぼくは今、ひのくすぶる匂いが、前よりちょっとすきになった。
テーマ:星の光
author: eagle-yuki
『貴女を我々の星にご招待します、お嬢さん』
真夜中、窓辺に訪れた王子様。彼に手を引かれ、光の階段を上っていく。
白金色の舟に乗り、私たちは夜闇へ消える。地上の星々と別れを告げ、恒星の灯りが煌めく宙へ。
オランジェットに似た月とすれ違ったのも、もう遠い昔のよう。光を追い越して進む私たちは、ヒトの目が届かぬ場所にいる。
ミルク瓶の中のような船内で、私は王子様と手を取り踊る。滑らかな薄緑の肌に触れる度、心の臓が飛び跳ねてしまう。4回目のターンを終え、私は赤面して彼に問いかけた。
「踊りが下手でごめんなさい。お上品な芸事とは、無縁な人生だったから」
『大丈夫です。それに辿々しくステップを踏む貴女の姿は、とても可愛らしい』
彼が紡ぐ言葉の音は、とても綺麗な未知の音。それでも、その意思は心に直接届く。
「どうして、こんな私の所に来てくださったのですか」
『何を仰っているのか。私は、貴女の声に応えたまでですよ』
ベントラー、ベントラー。毎夜唱えた不思議な呪文。
誰からも見放された孤独な人生の中にも、確かに意味はあったんだ──。
「あの部屋のオカルト婆、夜逃げしたってマジ?」
「ああ、なんかそのまま行方不明なんだって」
テーマ:アラームを止め、起床する。(フレーズ指定)
author: tateito
アラームを止め、起床する。コールドスリープ明けの頭は重い。体を起こし、外界の様子を調べる。管理用AIによるとコールドスリープ棟の周囲約200kmはジャングルとなっており、文明は破壊され、人類は退化し小さなナメクジのような生物になってしまったらしい。そういえばジャングルの植物の色は紫色だ。
少しばかり寝すぎたらしい。なんだか嫌になってきた。コールドスリープ前に一緒に冷凍しておいたカレーを解凍して食べる。ちょっとまずくなってる気がするのは冷凍しすぎたが故の経年劣化か、それとも起き立てであるが故に舌が麻痺してる部分があるのか、単純に気分が悪いが故そう感じてしまっているのか。
なんにせよ出社しなければならない。遅刻の報告を会社にする。案の定繋がらない。メールを確認する。文明崩壊後もしょうもないダイレクトメールは定期的に送られてきているのがわかった。インターネットは動いているのか?正義は滅び悪は生き残る。そういうことか。
ともかく会社に向かう。車庫に行く。車は凍結保存していたがどうにも調子が悪い。やはり寝すぎたらしい。いくら疲れて眠たいからってアラームを20億年後にしたのは間違いだったかもしれない。しかたがないので歩いていく。
ジャングルを歩く。人類の成れの果てと思われるナメクジが足元にまとわりつく。踏みつぶしながら歩き続ける。幸いにして会社の物理的位置は近い。ほらもう着いた。
そこにはウツボカズラめいた巨大な食虫植物が生えていた。仕方なしに入る。捕虫器の内部には強酸性の液体で満たされているようだ。
私は完全に分解されて、栄養となり、植物の種となって撒き散らされた。
テーマ:星の光
author: Kiygr
まばゆく光る白鳥の尾、デネブはすぐに見つかった。暗黒の海のただなかで煌々と燃える灯をしるべに、矯めつ眇めつ星々を繋いであやふやな輪郭を手繰っていく。目当ての星は、はくちょう座を構成する十字の終端に浮かんでいた。
辺りに散らばる星屑に比べれば大きいけれど、これといって際立った特徴も持たない白い光。はくちょう座ベータ星、アルビレオ。見失わないよう気を付けながら望遠鏡を覗き込むと、刹那、白鳥のくちばしが鮮やかに滲んだ。
「これが、アルビレオ……」
二重星、というらしい。肉眼ではひとつに見えていたけれど、望遠鏡で見るとふたつの星がぴたりと寄り添っているのがわかる。大きな金色の星と、小さな青色の星。二色の光は絡み合い、幻想的にソラを照らしていた。
『実際には二つの星は遠く離れていて、互いに何の関係もありません。地球から見る角度では重なっているかのように観測される、というだけのことです』
きみの声を思い出す。神秘性を一蹴するかのように冷たく断じて、きみは説明を締め括った。
けれど、あの時。
『それって、奇跡みたいな話だね』
『……ええ。あれは、美しい星です』
夜空を仰いだきみの顔には、確かに笑みが浮かんでいたんだ。
テーマ:食事シーン
author: SuamaX
地下室の重い扉を閉めると、そこは外界から完全に隔絶された。
外からの光も音もない空間。自分以外から発せられる音といえば、湿った天井から滴り落ちる水の音程度で。
そんな雑音が、寂しさを紛らわせるのには丁度良かった。
保存食の封を開け、胃の中に流し込む。節約して使えば、2か月は生きられるだろうか。
……2か月の間に、地上は生存可能な環境に戻るのだろうか。
前々から、王国の外周部が魔物に侵攻されているという噂は聞いていた。
ただ、心のどこかでは、安寧が脅かされることはないと思っていて。
そうして何も行動を取らなかったツケが回ってきただけのこと。
外に取り残された妻と娘はどうなっただろうか。
生存は望めない。人らしく死ねたかも怪しいだろう。ならばせめて、苦しまずに逝けただろうか。
いつか、外に出て遺骸を回収できる日は来るだろうか。
都合のいい妄想だとは思う。何かが残っている保証はないし、そもそも地上に戻れるとも限らない。
外部の様子が一切窺えない地下室では、この扉を開けてよいのかの判断すら付けようもない。
それでも、今は生きなければ。
生きて、いつか地上に出る。そうして初めて、妻と娘への贖罪ができるのだから。
結論を出し、保存食の包装紙を捨てようとして、違和感に遅れて気付いた。
水の音が消えている。
いや、水そのものは相変わらず滴り落ちている。ならば、液体の粘度が変わったのだ。
恐る恐る光源を水溜りに向けると、薄桃色の粘性のある液体が見えた。
悲鳴を上げて後ずさる。間違いなく、これは街を沈めたスライムと同種の物で。であれば、この場所は。
やけに煩い自分の動悸に紛れて微かに、「わんっ♡」という甘ったるい嬌声が聞こえた気がした。
テーマ:死神
author: Kuronohanahana
「颯が死んだら俺、火葬の前に颯のこと盗み出すんだ」
「え、なに急に。こわ」
ピロートークに似つかわしくない話題。賢者タイムの戯言にしてもちょっと変だ。けれど龍樹は構わず続けた。
「俺、颯が腐っても好きなまんまだと思うの。イザナギみたいに逃げ出したりしないよ」
「マジで何の話?」
聞き返しても龍樹は布団の中に潜ってしまって、返事はくれなかった。
「じゃあ、次いつ会える?」
「来週木曜なら」
「空けとくわ」
龍樹は如何にも寝不足という顔をして、助手席から降りていく。昨日ぐっすり寝てた癖に、まだ寝足りないらしい。家に帰ったらまた寝るんだろう。こいつ、どうやって生活してるんだろう。
「じゃあまた連絡する」
「うい」
ゆっくりアクセルを踏んで、龍樹のアパートから発進する。バックミラーで様子を見ると、龍樹はもうとっくに居なかった。
「気付いたんだよ。盗み出すとか面倒な事せずに、直接俺が颯を殺したらいいって」
龍樹との恋人ごっこは上手くいっていない。龍樹のくれる気持ちを、こちらから返すことは中々難しい。
「俺は颯が腐っても、蛆が湧いても好きだよ。だから俺に殺されてよ」
龍樹は俺の首に手をかけ、緩い笑顔を浮かべてそう言った。情事の時とだいたい同じ顔だ。緩い笑顔だけど、目はギラついてる。
「普通に嫌だけど」
「そう」
俺の返事を龍樹は予想していたらしい。さして気落ちした様子もなく、するりと手を離した。
「じゃ、普通にヤろ」
死神の鎌は、頸動脈にあてがわれている。その刃がいつ振り下ろされて、俺の命を刈り取るのか。
「はいよ」
俺はただ死神の気まぐれを、のらりくらり躱している。
テーマ:飛、罪咎、仲間
author: BARIGANEsensha
結束バンドの文化祭ライブですよ……もう、凄かったよね。今回は初ライブよりも4人で自信を持って出来たっていうのが。まずそこよね。ぼっちちゃんもハプニングで挫けない強さを見せて、最後までやりきるっていう。4人が培ってきたものが着実に実を結んでるな、って。4人の未来は明るいなって感じましたね。
ただですね
2曲目終わって、コメントを求められたぼっちちゃんが……客席に飛び込む、という奇行に走りまして。のしかかられたら怪我をするということが簡単に予見できるわけで。
まあ、暴行罪、ですよね。
皆避けて誰も怪我したりとかはなかったんですが、暴行って危害を加えようとした時点で成立するんで。だからダイブして誰にも当たらなくても暴行になるわけです。それで明確に自分の意思で飛び込んでるわけですから故意も認められるでしょう。なので、まあぼっちちゃんは暴行罪ということで。
まあね、前途洋々な若者達の道を断ってしまうのは心苦しいんですけども、ちょっと結束バンドとしての活動にも…………
「すみませんすみません。仲間に迷惑をかける私のようなミジンコは一生檻の中で臭い飯と共に静かに罪を償いますので……」
「真に受けなくていいから!」
テーマ:A
author: Nanasi1074
恋の正体は本能で、お化けの正体は枯れ尾花。
幻想は年月に解剖されていってしまって、今じゃ残滓が日常の隅に漂っているだけ。それが私は嫌だった。
自室を見渡すと、昔と比べて随分シンプルになったと思う。机に貼られたキラキラのシールは剥がしたし、当時ハマっていた魔法少女のフィギュアは押し入れにしまってそのまま。
なぜそうしたのか、上手く言い表せない。飽きたから、恥ずかしいから、色々考えてみたもののどれも異なる気がした。
答えを知る度に私は雁字搦めになっていくように感じてしまう。子どもの頃に抱いた純粋は、いつの間にか煤けていて。そっと口づけをしてみると、酷く苦い香りがする。それは例えるならブラックコーヒーのような、大人の象徴的なものだった。
いつか、私がこの香りに苦味以上の何かを見出してしまった時。それが恐ろしくて、私は押し入れからフィギュアを探して取り出した。
少し傷がついてしまっているが、それでも思い出の品だ。顔に近づけると、ふわっと甘い香りがする。押し入れにはそんな香料など入れてないのに、何故?
ただの思い込み、錯覚だろう。そんな考えを振り払い、徐にフィギュアをぎゅっと抱える。
今はまだ、この答えを知りたくない。
テーマ:兎角人間は自分のモチーフを指定したがる。自分にピッタリの四文字、自分にピッタリの曲、自分にピッタリのテーマ。それらは自身が「人間」という存在として希釈されることを恐れた上の防御反応として、何もおかしなことはない。しかし、それらの分化したパート分けに落ち着いたとしても、結局はそれらが示す存在として希釈される運命なのではないだろうか。いつかはそれらの四文字、曲、テーマに囚われず、自分の決めた自分だけの人生を歩みたいものである。 だが、自分だけの人生とはいつ決める?もしそれが過去であれば、過去の自分の決めたテーマに従って生きていくのが自分らしい人生なのか?もしそれが未来であれば、それが決まるまでは「人間」として希釈される恐怖に耐え続けなければならないのだろうか?もしくは、過去の自分と今の自分を比べ、間違い探しのように自分らしい人生を更新しなければならないのだろうか? 過去の自分が目の前に見える。未来の自分もおそらく後ろにいるだろう。僕らは目下同じことで悩んでいるようだった。声をかけるのはやめておいた。(フレーズ指定)
author: Snowy-Yukinko
兎角人間は自分のモチーフを指定したがる。自分にピッタリの四文字、自分にピッタリの曲、自分にピッタリのテーマ。それらは自身が「人間」という存在として希釈されることを恐れた上の防御反応として、何もおかしなことはない。しかし、それらの分化したパート分けに落ち着いたとしても、結局はそれらが示す存在として希釈される運命なのではないだろうか。いつかはそれらの四文字、曲、テーマに囚われず、自分の決めた自分だけの人生を歩みたいものである。
だが、自分だけの人生とはいつ決める?もしそれが過去であれば、過去の自分の決めたテーマに従って生きていくのが自分らしい人生なのか?もしそれが未来であれば、それが決まるまでは「人間」として希釈される恐怖に耐え続けなければならないのだろうか?もしくは、過去の自分と今の自分を比べ、間違い探しのように自分らしい人生を更新しなければならないのだろうか?
過去の自分が目の前に見える。未来の自分もおそらく後ろにいるだろう。僕らは目下同じことで悩んでいるようだった。声をかけるのはやめておいた。
テーマ:短歌
author: EianSakashiba
「白炎の 灰は灰へと 帰・巡・塵」
「彫れぬ仏よ 我が子のようだと」
幻想体との戦闘でボロボロに負傷した囚人が、ふと何かを呟いた。
<えっと、良秀?安全に傷を戻せる所まで移動するから…>
「短歌と言ってな、俺の住んでいた所の芸術だ」
戦闘に参加しなかった囚人が千切れていない方の腕を持ち良秀の体を引きずる。彼女は喋るのをやめなかった。
…何かあったんだろうか。
「限られた字数の中で己の心を詠む。感じたことや情景は人が言葉を尽くさずとも事足りる」
<うーん、でも説明は多い方が普通伝わらない?>
良秀が引きずられる歩幅に合わせ聞き返す。
「E.G.Oに侵食されて、幻覚を見ちまったんだ」
<…それに感化されたってこと?>
「薄暗い洞穴で木を彫っていた。なぜ彫っているのか、何を彫っているのかは忘れたが…きっと俺のことだ、炎に包まれた仏像だろうな」
<分かるんだね、自分が彫りたいものが>
「ん」
「ダンテ。真に美しい芸術はな、己で創り出さない。元々そこにあるんだ。カンバスに、木の中に、人間の中に、炎の中に」
「そこにあるものを取り出すだけ。その行為が出来る人間こそ芸術家足りうる。大層な言葉も工程も要らないから、短歌は美しい。大半の人間はそこにある芸術が認識できないが…」
<あなたは出来ると?>
「俺は見えるが、取り出せない。手を伸ばす勇気がなかったら。」
良秀は戦闘で千切れた腕の残骸を見る。
「炎の中に仏がいるのがわかっていても手を伸ばせなかった。芸術家として、母としての罪だな」
<母?>
「今のはそういう短歌だ」
<どういう事!?>
「ど・あ・ほ。教養を身に着けることだな、時計頭」
…私が彼女のことを管理人として深く知るのは、
まだ先になりそうだ。
テーマ:アラームを止め、起床する。(フレーズ指定)
author: EianSakashiba
アラームを止め、起床する。シャワーを浴びて会社支給のシャツとネクタイ、制服を身に着け髪を整える。今日の業務も次の目的地に到着するまでバス待機だろう。ねじれ部署から緊急の依頼が来るかもしれない。変わらぬ1日の予感を感じ廊下に出ると、同じタイミングで自室のドアを開けた囚人と鉢合わせた。
「…オゥ」
「おはようヒースクリフ。余裕のある時間だが」
変わらずに挨拶をしたが私は内心驚いていた。彼は管理人の業務開始合図にギリギリで到着する囚人のはずだ。
「聞きてえことあんだよ、ワザリング・ハイツでお前が言ったこと…」
「ヒースクリフの安全を確保するため、黄金の枝入手を放棄する提案をしたことか」
「何でそんなこと言ったんだ?お前ってマニュアル人間みたいな印象だったからさ」
「…話す価値のある理由ではない」
「オレがモヤモヤすんだよ」
「幼少期にハイツの住人たちから疎まれたこと、リンバスカンパニーに入社して直面した苦難、あの邸宅に戻りワイルドハントに囲まれたあの状況。君は何度も数多の視線に締め付けられても、その他人の鎖から逃れようともがいた。その姿を見て同じ部署の仲間として傷ついてほしくないと思ったからだ」
「…ふーん」
ヒースクリフは曖昧な返事の後に「ありがとな」と呟いた。
「私からも質問するが、君はなぜ早く起きれた?」
「寝ずに待ってた。良くも悪くも時計の音に敏感になっちまって起きるのは簡単だからさ」
「…アラーム機能を使うと良い」
「セットの仕方分かんねえよ」
「私が教えてもいいが、時計のことは管理人様に聞いたほうが詳しいか…どうした?」
「…お前、そんな冗談言えるんだ」
意外か。そう言いながら私達はバスの座席へと向かった。
テーマ:短歌
author: Kuronohanahana
梅はこぼれると教えてくれた君へ
今年の桜は散っていったよ
テーマ:短歌
author: Hoojiro_san
幻想は現実に耐え切れない、千切れて吹き飛ぶ前に保護する必要がある。
驚異の小部屋と化した作業場でも必要な物はすぐ見つかる。あった。『銀河の青い残り香』『結晶化した望郷の念』『黒洞真珠の貝殻粉末』。
手元の蝶はそれでも空を目指そうとボロボロの青い羽を必死で羽搏かせる。幽霊鯨の骨で作った虫ピンで刺せば、修理するまでは飛び立てまい。
大方小学生程度の子供の妄想から君は産まれたのだろう。想像の世界から飛び立つまで成長できても、もうその子は別の物に夢中で見放されアスファルトの上で凍えていた。 残り香は霧吹きで羽全体に吹きかけ、結晶は触角の形に削り出して代用に、粉末は鱗粉が少ない所に粉ふるいで振りかけて完成。
もう飛べないと思っていた反動か蝶は作業机の上で悠々自適に青羽を伸ばして飛び回る。
今も世界中で多くの幻想が消え失せて忘れ去られる、誰が悪いという話ではない。時間は平等に過ぎ去るもの。
だからこそ、一つでも多くの幻想を保護したい。心意気を片手にまた現実への扉を開けた。
テーマ:変身
author: SuamaX
「先輩みたいになりたいです」
「なに、急に」
居酒屋でふと漏らした独り言に、当の本人は酒を呷りながらにへらと笑った。
彼女は極端な人間だ。勤怠表は目も当てられないが、ブレストで出すキャッチコピー案はピカイチ。自身の視座をエモーショナルな短文に乗せることに関しては、彼女は誰よりもストイックだった。
この業界ではセンスなんてただの言い訳で。直向きにより良い表現を探す彼女は、この仕事を始めてからずっと憧れの人だった。
「まぁ、そう思い悩むのも人生だよね」
ーーだからこそ、こんな軽薄な言葉を彼女に吐かせてしまったことを心底後悔した。
処世術だと聞いている。場の雰囲気が変になりそうな時は適当なエモで流すのだと。確かに、今の言葉はそれくらい突拍子もない発言ではあったのだけれど。
でも、本当にそうなんですか。「自分は天才じゃなくて凡人だから」と必死に身を削って、僕からすれば充分な出来の文章を自己嫌悪しながら必死に描いては消していたじゃないですか。
もし本当にどうでもいいのなら、なんでそんな苦しそうな目をしながら話すんですか。
そんな疑問は、当たり障りのない短文に出力されるまでの過程で、他の話題に流されていった。
テーマ:短歌
author: Kuronohanahana
君が風邪をひいたと言うから、看病してやろうと思った。
いつもより大袈裟に上下する胸を見つめて、何が欲しいか尋ねたら、君、バニラアイスが食べたいなんて言うから。冷凍庫見ても入ってないし、これは買って来いってことかぁと、とりあえずコンビニに向かった。
3月に入って、日中でも、まだ外は寒い。
君が好きなのって抹茶じゃないの、って聞いたら、今日はバニラがいいの、なんて文句を言われた。昔、風邪をひいた君に、母親がバニラアイスを買ってきてくれたらしい。それがおいしかったから、今でも体調を崩すと、バニラアイスを食べたくなるのだという。
コンビニのアイスケースから、バニラと抹茶をひとつずつ取り出す。抹茶の方はこっそり冷凍庫に入れといてやろう。店員さんからお釣りを受け取って、袋を揺らしながら、早足で君の家へ戻る。
その道中で雪が降ってきて、上着に積もる。
外で雪が降ってること、君は知ってるのだろうか。ちょっと捻くれてる君は、僕が言っても信じてくれないかも。3月に雪が降るわけないって言いそうだ。でも、3月にも雪はちょいちょい降るもんだよ。
ただいま。アイス買ってきたよ。それからゼリーと、プリンと、スポーツドリンク。あと、レトルトのお粥。咳き込みながらも、ありがとう、と君は小さく笑う。
あーあ、雪で上着濡れちゃったや、とぼやくと、君は少し目を見開いて、雪? と聞き返してくる。
うん、帰り際に降ってきた。もう春なのにね。
君は、そっか、雪か、と呟いて、微妙な顔をする。ニヤけるのを抑えるような、変な顔。
何? なんか面白いことでもあった?
尋ねると、君は何故か照れ笑いをして、少し迷ってから、百人一首の15番を教えてくれた。
テーマ:短歌
author: Fireflyer
秋の暮 入るファミレス 一人席
アクリル板奥 顔は見えない
テーマ:全部
author: 96CAT_tyomu
燃えている、崩れていく。私の小さな失敗で、理想が夢幻の如く。
神に何度も祈りを捧げたはずが、私の下に現れたのは死神だった。
私は赦されたかった。青い空に目を灼かれ、暖かな仲間と共に歩んで行きたかった。
私の罪咎が許されるはずなど無かった。私は仄暗い星の光の元、怨念と未練の目線を向けられるしか無かった。
こんなはずじゃなかったのに、と今日の光景が走馬燈のように流れていく──
朝、アラームを止め起床する。ここまでは良かった。普通の日だ。
昼、この辺りからどうも調子が可怪しかったんだ。どうにも思考が纏まらず、どうにも意識が宙へ飛び……旨い筈の飯を食ってても上の空。
黄昏時にはもう手遅れで、ライターを取り出す事すら覚束無い。
そして夜、今に至って、それで。私は答えを求め、停滞する脳を必死に回す。
映画のフィルムと違って、いくら回しても終わりは来ないのに。
それこそ、戦隊モノの映画の様な展開なら良かった。それならどんな悲劇も、ヒーローに変身した何某かが怪人と戦い、勝って全てが一件落着だ。
その間に生まれた損害なんて、全部カメラの外へ追い遣れる、なんて。ライターはどこに仕舞ったか、そうだ、床だった……
──巫山戯た事を考えていたら辺りはもうすっかり暗い死の気配に包まれた。つまりは、とても明るいここが人生の終着点なのだろう。
もはや、染み付いた煙で頭が回らない。それなら、それなら最期だけはかの武将のように言葉で飾ろうではないか。
…然様なら、煙に塗れたこの心。私は疾うに、""灰燼だった。""{煙草に犯されたこの体について私に聞くことには、どうやら私は人でなしの怪人らしい。そういうことなら(死んでも仕方がないのだろう)。}
テーマ:短歌
author: Kuronohanahana
呼吸が止まってから、医者が死亡確認するまでのシュレーディンガー
テーマ:星の光
author: SuamaX
コンコン、と扉を叩く。
中に誰もいないことは分かっている。それでも、不在の主への礼儀として。
著者娘は、突然思い至ったかのように、ふっと存在を止めることがある。別に珍しい話でもない。この学園で個人に贈られる画廊の大多数は、既に主を無くして記念碑として残っている。
そんな画廊の一つに「失礼します」と呟いて入る。中に入って真っ先に目につくのは「入ったら掃除!」と書かれた掃除用具入れ。部屋を見渡すと、彼女が打ち立てた幾つもの新規概念、その数倍の著作、手作りの数本の旗、風紀委員の張り紙、銅の盃が一つ。
そして、机に山積みされた彼女へのメッセージ。
今となっては、そのメッセージのほとんどは聖地巡礼記念か概念借用の表明だろう。掘り返せば彼女の欠落を惜しむ言葉が見つかるかもしれないが、そんな無粋な真似はしたくなかった。
先駆者に倣って「今月も文体企画、開催させていただきます」と一筆し、手を合わせる。
憧れていた者として。
消失の衝撃で、再び筆を執った者として。
そして、いつしかあなたよりも長く生きて、それでも尚あなたの輝きには届かない者として。
5秒、6秒想って目を開ける。瞼の裏で、彼女は「重いよ」と困った顔で笑った。
テーマ:青
author: readmaster
昔々あるところに、一人のカミがいました。
ある日、カミはひとつの恋をしました。忘れられた草原に儚く咲く、青く透き通った花に。
カミはその美しい花に「ソラ」と名付けました。
カミは鎌を振るい、周りの取るに足らない草たちを根こそぎ刈りました。ソラに全ての恵みが届くようにです。
やがて、ソラはすくすくと育ち、カミの背丈を越しました。しかし、それきりでした。
育ちすぎたソラは、土の恵みをすべて吸い尽くしてしまったのです。
困ったカミは、平原の近くに奇妙な生き物を見つけました。
その生き物はカミの似姿を持ち、死ぬときには種々の花が捧げられるのです。
カミはこの生き物をたいそう気に入り、「ヒト」という名を与え、誓いを交わしました。
それは、「カミが叡智を捧げる代わりに、散らす命をソラが貰い受ける」というものでした。
カミの叡智を受けたヒトはたいそう発展しました。
しかし、それはカミの罠でもありました。知恵を持ったヒトは、より多くの恵みを得ようと、同族の間で多くの血が流れ、命が散りました。
多くのヒトが祈りました。多くのヒトが泣きました。
天を覆い尽くすまでに大きくなったソラは、その惨状に涙しました。
幾日も幾日も泣きました。
それを見たカミの似姿はこう呟きました。
「カミの恵みじゃ、恵みの雨じゃ」
地上では稲穂がつややかに輝き、大きな争いが繰り広げられた原野も静まりかえっています。
ソラの涙が、争いを鎮めたのです。
それからです。世界が平和になる度に死に神がやってくるようになったのは。
私たちに悲しいことが起きる度に、空も一緒に泣いてくれるようになったのは。
主催 - Dr_Kudo
原案者 - meshiochislash does not match any existing user name
